貴使「どうも、神山貴使です。剣道か……まあ、習い事ならいつから始めても良いわけだし、時間に余裕を見つけてからなら始めてみても良いんじゃないか?」
政実「そうだね。そして、もし本当にやるようになったら、出来るところまで頑張ってみるつもりだよ」
貴使「ああ、頑張れ。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・貴使「それでは、第8話をどうぞ」
神社の掃除も終わり、学校へ行く準備をしに行った
「……さて、どうやったら恋野先輩の恋を成就させてあげられるかな……」
「どうやったらも大切だけど、そのお相手がどんなの子なのかが分からないと、対策の立てようがないんじゃないかしら?」
「あ、言われてみれば……」
「その恋野という人間曰く、その想い人とやらは自分とは正反対な性質で、甘い物や可愛らしい物が苦手だという事だが、それだけではどうにもならないからな」
「たしかにそうですね……その恋野君という子が、どのような子なのかもまだしっかりとはわかっていませんし、そこも祝玖君や詩織から訊く必要がありますね……」
「そうですね……」
可愛らしい物や甘い物が苦手だという情報や恋野先輩とは真逆の性質を持つという点を踏まえて、今朝見た恋野先輩の姿や人となりから想い人がどんな人なのかを考えるなら、恐らく運動部に所属している自分にも他人にもとても厳しい人なのかもしれない。けれど、道雄さんの言うようにまだ恋野先輩が正確にはどんな人なのは分からないわけだから、断定する事は出来ないよな……。
恋野先輩の想い人がどんな人なのかあれこれと考えていたその時、「そういえば……」と道雄さんは何かを思い出したように声を上げたかと思うと、ニコニコと笑いながら俺達の話し合いを聞いていた
「天乃実豊尊様、その恋野君とお話しになっていた時、心の中を視てはいませんか?」
「はい、視ていましたよ。彼、恋野君は話をしている時に長い黒髪を一本に束ねた剣道着姿のとてもお綺麗な色白の女の子の姿を想起していました」
「剣道着姿……という事は、恋野先輩の想い人は女子剣道部の生徒って事になるのか。天乃実豊尊様、剣道着の垂名札には何て書いてありましたか?」
「『
「愛染……それじゃあ後で祝玖達には剣道部の愛染という生徒について調べてもらう事にすれば良さそうかな」
「そうですね。後は想いを告げる機会をどうやって作るかですが……」
「それに関しては、二人の情報が集まってからでも良いんじゃない? どういう状況が一番良いのかは個人個人によって違うのだから、現時点で決めようとしたってあまり意味は無いでしょ?」
「う……それもそうですね……」
「では、それについては祝玖君達に情報を集めてもらってからにして、とりあえず今は祝玖君達待ちという事にしましょうか」
『はい』
全員で揃って返事をした後、皆はそれぞれ自分のやるべき事をするために居間を次々と出ていった。
さて……俺は何しようか。せっかくだから、
そんな事を考えながら自分の部屋へ向かおうとしたその時、「あ、あの……」と
「どうしたんですか?」
「今、拝殿の前にどなたかいらっしゃるみたいなんですが……その方、何やら悩み事があるようなんです」
「悩み事……ですか?」
「はい。あ、でも……! もしかしたら私の勘違いかもしれませんし、何かご用事があるようでしたら、私だけで見てきますよ!」
「いえ、今のところ用事なんて特に無いですし、もしかしたらまた別の依頼人候補かもしれませんから、俺も一緒に見に行きますよ」
「貴使君……ありがとうございます!」
「どういたしまして。さあ、それじゃあ行きましょうか」
「はい!」
嬉しそうに返事をする秋兎さんに対してコクリと頷いた後、俺達は外へ向けて歩き始めた。そして姿を隠した状態で外へ出てみると、そこには俺が通っていた学校の女子用の制服姿の長い黒髪を一本に束ねた一人の女の子が立っており、秋兎さんが聴き取った通り、何か悩み事がある様子で小さく唸り声を上げていた。
「どうやら本当に悩み事があるみたいですけど……って、あれ? 貴使君、この方の容姿……天乃実豊尊様が仰っていた方とそっくりじゃないですか?」
「言われてみれば……それじゃあもしかしたらこの人が、恋野先輩の想い人なのかもしれませんね」
「そうですね。でも……一体何をお悩みになっているんでしょうか?」
「そこまでは何とも……とりあえず話を聞いてみましょうか。ただ……」
「……あ、貴使君はそのままで大丈夫ですよ。私が姿を現して訊いてみるので」
「……すみません。それではお願いします」
「はい、任せて下さい!」
ポンと胸を叩きながら言う秋兎さんの姿に俺が頼もしさを感じる中、秋兎さんは拝殿の陰へと移動して、ゆっくりと姿を現した。そして、ゆっくりと女の子へ近づくと、静かに声を掛けた。
「あの、すみません……」
「……ひゃい!?」
「お、驚かせてしまってすみません。何だか難しい顔をなさっていたので、どうしたのかなと思って声を掛けさせて頂いたんです」
「……あ、そうだったのですね。すみません……初対面の方にそこまで心配をお掛けしてしまって……」
「いえいえ。それで、何かお悩みですか? もし、私でよければお話を聞きますが……」
「え、よろしいのですか?」
「はい。私もこの神薙神社の職員ですから、参拝客の方が何かお困りならお話を聞くのが務めですので」
「職員の方……それなら、少しお話を聞いてもらっても良いですか?」
「はい、どうぞどうぞ。あ、せっかくなのでこちらにどうぞ」
そう言いながら秋兎さんが賽銭箱の下の階段を指し示すと、女の子はコクリと頷いてから静かに座った。そして、隣に座ってから和やかな笑みを浮かべながら秋兎さんが話を促すと、女の子は少しだけ安心した様子で静かに話を始めた。
「……私、この近くの高校に通っている高校三年生で、
「わあ……それは素敵ですね。その方はどんな方なんですか?」
「その方は家庭科部に所属している同じ三年生で、その料理や裁縫の才能──特にお菓子作りの才能が評価されて、周囲からは『スイーツ王子』なんて言われているの です」
「ほうほう……」
「それで、どうして私のその方をお慕いするようになったかなのですが、あれは私が中学一年生の頃、剣道部の練習の休憩中にふと被服室の近くを通った時の事でした。その時、その方が偶然可愛らしい小物を作っているのを見かけて、何を作っているのかが気になってこっそりと見ていたのですが、作っている時の姿や作品を作り終えた時の笑顔に心を惹かれてしまい、それ以来ずっと片想いをし続けているのです」
「なるほど……でも、美姫さんも素敵な方ですし、告白してしまえばそのお相手さんも喜んで受けてくれ──」
「こ、告白なんて……! そんなの……恥ずかしくて出来ませんよ……。それに、その方はとても女子生徒からの人気が高い方ですし、私とは何の繋がりもありませんから、いきなり私なんかが告白をしても迷惑かもしれません」
「そんな事は無いと思いますよ。それに、繋がりが無いというなら、今からでも何か繋がりになる物を見つけるなり作ってしまうなりしてしまえば良いと思います。例えば……美姫さん、可愛らしい物や甘い物はお好きですか?」
「え? あ、はい……実は周囲には隠しているのですが、私も結構そういう物が好きで、部屋にはぬいぐるみを飾っていたり、休日になるとレシピ本を片手に甘い物を作ってみたりしているのです」
「そうなんですね。でも、どうして隠しているんですか?」
「それは……私には似合わないからです」
「似合わない……ですか?」
「はい……なので、周囲にはそういう物はあまり好きじゃないという風に言ったり、友達を部屋に呼ぶ時にはその時だけ押し入れに隠したり、と色々な事をしているのです。そして、好きだと言えない弱い自分をどうにか鍛えるためにひたすら剣道の腕を磨く内に、いつしか『麗しの剣姫』などという異名までついて、もっと言い出せなくなってしまったのです……」
「そうだったんですね」
「ですが……その方は、甘い物はもちろん、可愛らしい物も好きだという事なので、今のままでは告白どころか話をする事すら出来ません……」
「美姫さん……」
シュンとしながら
「……大丈夫ですよ、美姫さん。貴女の想いはきっとその方に届きますから」
「そう……でしょうか……」
「はい。以前、私の尊敬する方が仰っていたんです。想いというのはその人の声や所作にしっかりと表れる物で、その想いを持ち続けていれば、伝えたい相手にいつかは絶対に伝わる物なのだ、と」
「…………」
「たしかに、今はその方との繋がりはあまり無いかもしれませんが、同じ学校だというのなら、接する機会は幾らでもあるはずです。なので、その機会を上手く利用して何か話題を見つけて、少しずつ距離を縮めていけばきっと想いは伝わりますよ」
「距離を……少しずつ縮める……」
「はい。美姫さん、私も応援しますから一緒に頑張ってみましょう」
「は、はい……! ありがとうございます、えっと……」
「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私の名前は
「秋月兎さんですね。えっと……それじゃあ改めてありがとうございます、兎さん。私、あの方に想いを告げられるように頑張ってみますね」
「はい、その意気です! あ、そうだ……せっかくなので、お参りをしていきませんか? この神薙神社の神様である天乃実豊尊様は、縁結びの神様でもありますし、参拝客の方の願いを叶える手助けをしてくれる不思議な存在もいるのでオススメですよ」
「不思議な存在……剣道部の後輩がこの神社のお話をしていて興味を持ったので来てみたのですが、その存在については初めて聞きました」
「まあ、知っているのも私達職員を除けば、数人程度ですから、それは仕方ありませんよ。けれど、願いをこめながら参拝をすると、その不思議な存在が天乃実豊尊様と共に願いを叶えるために手助けをしてくれるらしいとの事ですよ」
優しく笑いながら秋兎さんが言うと、「そうなのですね……」と愛染先輩は納得した様子を見せた。そしてスクッと立ち上がると、そのまま賽銭箱の前に立ち、参拝を始めた。
「愛染さん……」
「……想い人との縁に悩む私が、縁結びの神様の話を聞いた事や貴女と出会えた事も何かの縁ですから。それに、神様やその存在にも味方をして頂けた方が私も気持ちが楽ですしね」
「ふふ、そうかもしれませんね」
「はい」
そう言って秋兎さんと愛染先輩が仲良く笑い合っていたその時、祝玖と詩織が石段を登ってくるのが見え、俺は姿を隠したままで祝玖達へと近付いて声を掛けた。
「祝玖、詩織」
「……ん? 貴使か?」
「姿を隠したまま話し掛けてくるなんて珍しいけど……何かあったの?」
「ああ、今参拝客──それも恋野先輩の想い人がいらしてたからな」
「え、マジか!?」
「ああ、マジだ。それでなんだけど──」
俺は先程の愛染先輩と秋月兎さんこと秋兎さんの会話を祝玖達に話した。そして話し終えると、詩織は顎に軽く手を当てながら「なるほどね」と呟いた。
「恋野先輩と愛染先輩は両想い。けれど、お互いに相手にとって自分は興味が無いか繋がりが無いと思っている、と……」
「これはかなりもどかしいよな……恋野先輩と愛染先輩にさっさと気持ちを伝え合ってもらえば解決する話ではあるけど、そう簡単にはいかないわけだし」
「そうだな。だから、ちょっとお前達に手伝ってもらいたい事があるんだ」
「うん、何?」
「遠慮無く言ってくれ、貴使」
「ああ、ありがとうな」
祝玖達に心からの感謝を伝えてから、俺は愛染先輩と秋兎さんが話している時に考えていたアイデアを祝玖達に話した。そして祝玖達が喜んでそれを受けてくれた後、俺達は揃って愛染先輩と秋兎さんへと近付いた。
「うーさぎさん♪」
「……あっ、詩織さんに祝玖君。さっきぶりですね」
「はい、さっきぶりです」
祝玖と詩織はニコニコと笑いながら秋兎さんに話し掛けた後、少し驚いた様子で自分達を見る愛染先輩に顔を向け、笑みを浮かべながら自己紹介を始めた。
さて……これで第一段階はオッケーだ。ここからどう転ぶかは分からないけど、今回も依頼達成のために頑張らないとだな。
楽しそうに話をする祝玖達やそれに笑みを浮かべながら答える愛染先輩達の姿を見ながら俺は依頼の達成へ向けてやる気を静かに高めた。
政実「第8話、いかがでしたでしょうか」
貴使「次で今回の話も終わりだけど、本当に終われそうなのか?」
政実「うん、そのつもりで進めてるよ」
貴使「分かった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととてと嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
貴使「ああ」
政実・貴使「それでは、また次回」