セシリアと鈴が、豚の角煮とビールで優勝する話です。 作:パプリカ男爵
原作:インフィニット・ストラトス
タグ:R-15 インフィニット・ストラトス キャラ崩壊 セシリア・オルコット 凰鈴音 料理 ギャグ ハッカ杯
オルコッ党、セカン党の皆様すいませんでした。
「料理がしたいですわ」
少女の一言は周囲を騒然とさせた。
言葉だけ取れば別段不思議な発言ではなかっただろう。
しかし発言主がその少女だというのがなにより問題だった。
少女の名はセシリア・オルコット。イギリス代表候補生である。
「ちょ、ちょちょちょっと待ちなさいセシリア! 今なんて言ったアンタ!?」
机を手で叩きながら声をあげた少女。
少女は凰鈴音。中国代表候補生にしてセシリアの友人である。
彼女に詰め寄られたセシリアは胸に手を当て自信に満ち溢れた顔をする。
「料理がしたい、と言ったのですわ。思い返せば、わたくしの料理はどれもこれも簡単なものばかりでした」
そこから彼女はつらつらと、鈴からしてみればベラベラと喋り出す。
「sandwichにhashed beef......振り返ればどれも簡単に出来てしまうお手軽料理ですわ」
「(そのお手軽料理ですら兵器にしてくれやがったのはどこの誰なのよ!?)」
「ここはひとつ、手の込んだ料理を一品作ってみるのも一興だと思い立ったのです」
「あーそう。それはよかったわね。で? 何作る気なのよ」
最早何も言うまいと鈴はぐったりした顔で尋ねる。
「料理人として、前菜やデザートに逃げるのはご法度。作るのは勿論主菜。メインディッシュですわ」
「(どうして自分から地雷に突っ込んでいくのよコイツは......)」
「そしてわたくしも勉強いたしました。絶品のメインディッシュを作り上げるために、あるものを導入したのです」
「あるもの」
鸚鵡返しする鈴にセシリアは詳しい話をした。
「そう、personal computer。パソコンですわ」
「はい?」
「何でも昨今ではインターネットで料理のレシピがごまんと出てくるというのをチェルシーから聞いたのです。既に誰かが作った料理のレシピを真似るというのはわたくしとしては些か不本意ですが、まぁそこは実際に作る際にアレンジを加えればいい話ですわ」
「(でたアレンジ! 料理下手な奴が一番やっちゃいけないやつ!)」
「チェルシーが言うにはグー●ル先生がなんでも教えてくださるそうなので、早速調べてみたのです」
「まぁ大抵のことはグーグ●先生に聞けば解決するからね。それで、結局作るのは何に決めたの」
「調べてみたところ、最近とある殿方が作る料理動画が人気らしいのです。わたくしも拝見してみましたが、どうやら手の込んだ一品とビールで優勝するというコンセプトのようですわ」
「ゴメン、何言ってるか全く分からないんだけど」
「百聞は一見にしかずですわ。ひとまずこれをご覧くださいまし」
セシリアは持ってきていたノートパソコンを机に置くと、画面に表示しておいた動画を再生した。
『今日は豚の角煮を大量に作っていくわ』
『15分ほど下茹でが終わったら醤油、みりん、料理酒を同量、鍋の中に潜☆影☆蛇☆手』
『最後に白髪葱を盛りつけたら完成!』
『そしてデンッ!!! 一番のヤツ!!』
『美味いッ! 美味すぎる! 美味すぎて......?』
『ウマになったわね』
『そしてあっという間に完食!』
『はい、エドテン!』
一般男性が手を合わせてごちそうさまをしたところで動画は終わった。
「とまぁこんな動画ですわ」
「うん、なんかもう色々とつっこみたいところがあるけど、とにかくクセがすごい!!」
件の動画は料理こそ手の込んだものであるが、料理している男性が個性的すぎてどうにもネタ色が強い。
料理の参考動画というよりは、この男性のネタを楽しむための動画なのではないだろうか。
「この殿方は実にユーモアに溢れた方ですわ。今のご時世、男性が料理をするのは珍しいことではございません。しかしこの殿方はただ料理をするところを撮っているのではなく、観ているわたくしたちを楽しませるためのエンターテイメントを提供しているのです。つまりこの殿方は料理人でありながらエンターテイナーでもあるのですわ!」
「そりゃ確かにこの人はエンターテイナーでしょうけども、今アンタが参考にするのは料理でしょうが!」
「ハァ〜......全く、鈴さんは分かっていませんわね。実に小さい御方ですわ」
「ンだとコラァ!? 誰が貧乳よ! その乳引き千切るわよ!」
血走った目で息を荒げながら鈴はセシリアに詰め寄る。
「ステイステイ、落ち着きなさいませ。確かに鈴さんは慎ましい御方ですが、わたくしにとっては大切な友人なのですよ」
「慎ましいって言うなコラ。なんのフォローにもなってないんだっつの!」
「とにかく、この動画を観てわたくしは痛感したのです。今までわたくしは料理というものに固定観念を持っていたのではないかと」
「はい?」
「料理とはそれ即ち人の作るもの。つまり作り手の個性が表れてこその料理なのですわ。わたくしは今まで見た目や工程に囚われすぎて、料理中はジョークの一つも言えませんでした」
「アンタがジョーク挟みながら今までの料理を作ってたら、アタシはとっくにブチ切れてるわよ」
これまでセシリアが作ってきた料理と言う名の化学兵器を思い浮かべて眉間に皺を寄せる鈴。
「というわけで今回、わたくしたちはこの殿方に倣ってエンターテイメントに富んだ料理を作るのです!」
「ちょっと待てぇっ! ”たち”って何よ”たち”って! なんでアタシも参加することになってんのよ!」
「何をおっしゃいますやら。わたくしの話に興味津々でいらしたではないですか」
「アンタの世迷い言を聞いてあげてただけだわ! 料理したいとは一言も言ってないっての!」
「とにかく、わたくしたちは絶品の料理を作って優勝するのです! いいですわね!」
「もう勝手にしなさいよ......」
最早自分に拒否権はないのだと悟ったのか、鈴は降参したように両手を挙げた。
「では早速調理室に向かいますわよ! 既に使用許可は取っていますわ!」
「行動が早いなオイ!」
「ということで今回は例に倣って豚の角煮で優勝していくことにいたしますわ」
「ダミ声やめろ! アンタのファンが泣くわよ!」
調理室にやってきたセシリアと鈴。
二人はそんなやりとりを挟みつつエプロンと帽子を被り、早速調理に取り掛かった。
「まずは圧力鍋に水を入れて沸騰させますわ」
「豚肉の下茹でね」
調理室にあった圧力鍋を手に取り、そこに水道水を入れて火にかけた。
「お湯が沸騰する間に豚ブロック肉を食べやすい大きさに切りますわ」
「ちょっと大きめの方が食べ応えあるしあまり細かく切らなくてもいいわよ」
事前に調達しておいた豚ブロックを包丁で切っていく。
「もう一つまな板もあるし大根も切っておく?」
「そうですわね。お願いします」
セシリアが肉を切っている間、鈴もまたもう一つまな板を出してきて大根を切っていった。
「さぁ、お肉投入ですわ」
肉を切り終えると、それを入れたボウルを持って鍋のもとへ向かうセシリア。
もう何がやりたいのか察している鈴は白い目で見ている。
案の定セシリアはボウルから肉を取り出さずにそのまま傾けて鍋へ......
「あ゛っ゛っ゛つ゛い゛!!」
「やると思ったわ......」
予想通りの展開に苦笑いしつつ、鈴は輪切りにした大根の桂剥きをしていった。
セシリアは鍋に投入した豚肉を見ており、適宜灰汁を取り除いていた。
「アンタ灰汁取りなんて出来たのね」
「フフン、わたくしは常に進化しているのですわ」
「もうそのダミ声にはつっこまないからね」
ボケをスルーしつつ、鈴は今度は青梗菜を切っていった。
「セシリア、小鍋にお湯は」
「既に湧かせてありますわ」
「ありがと」
鈴は切り終えた青梗菜をお湯を張った小鍋に放り込んだ。
ものの数分で青梗菜が茹で終わるとそれをザルに取って避難させておく。
「そのまま茹で卵を作りますわ」
「面倒臭いからそのまま茹でちゃおー」
「鈴さん......」
ダミ声を出す鈴をセシリアは可哀想なものを見るような目で見ていた。
「な、なによ! アンタがやったから乗っかってやったんでしょうが!」
「そろそろ豚肉もいい感じですわね。それでは......」
セシリアは大根の入ったボウルを手に取ると中身を鍋の中へ......
「「潜影蛇手」」
何故かハモった二人である。
「さて、茹で卵もそろそろ出来るわよ」
「では殻を剥いていきますわ」
二人は茹で卵の入ったザルを持って流しに行くと蛇口を捻り、流水を卵に当てた。
「流水に当てながら剥くとホントに綺麗に剥けるのね......」
「不思議ですわ......」
驚くほど綺麗に剥ける卵の殻に感動しながらも、二人は全ての殻を剥き終えた。
「お次は材料の仕込みですわ」
「セシリアは葱と生姜切って。アタシは調味料計るから」
「分かりましたわ」
セシリアは葱頭と生姜スライスを作り、鈴は計量カップに調味料を注いでいった。
「15分経ちましたわ。下茹ではこれでいいでしょう」
「じゃあ調味料入れてくわよ」
鈴が鍋の中に計った醤油とみりん、そして料理酒と砂糖を入れていく。
そして続いてセシリアがスライスした生姜と葱頭を入れていった。
数分後、鍋の中が煮詰まってきたことで、次の工程に移る。
「鍋に蓋をして圧力をかけていきますわ」
「圧力鍋ってマジで便利よね」
圧力鍋に蓋をして暫く放置。
数分放置した後、蓋に付いた突起が動き出したため火から下ろす。
そのまま鍋を流しに持っていき、流水をかけて圧力を解いていく。
そして蓋を開けるとそこには......
「あらあらー!」
「やだぁー! ホント美味しそうねぇ!」
動画の一般男性にすっかり毒された女二人。
「あとは茹で卵を入れて少し煮込むだけですわ」
「じゃあ仕上げの白髪葱切っておくわ」
セシリアが鍋に茹で卵を投入している間、鈴は白髪葱を細かく切っていった。
数分ほど煮込み、卵に色がついてきたのを頃合いに角煮と大根、そして卵を皿に盛り付けていく。
最後に鈴が切っておいた白髪葱を乗せれば......
「「完成ー!」」
セシリア&鈴特製豚の角煮の完成である。
「ところでセシリア、アンタこれをおかずにするのはいいけど飲み物はどうすんの?」
「抜かりありませんわ!」
そう言ってセシリアは調理室に備え付けてある冷蔵庫を開けると中から缶を二つ取り出して戻ってくる。
彼女はニヤッとした笑みを浮かべるとその缶をテーブルにドン! と置き......
「デンッ! 一番のヤツ!!」
「マジモンのビールじゃないのアンタァ!!」
そう、セシリアが自分と鈴の前にそれぞれ置いたのは動画の男が飲んでいたものと同じもの。
つまり一番●り。ガチガチの缶ビールである。
「馬ッ鹿じゃないのアンタ! アタシたちまだ未成年なのよ! バレたら千冬さんに殺されるわよ! っていうかよくこんなモン調達してこれたわね!?」
「わたくしを甘く見て貰っては困りますわ。このセシリア・オルコットの辞書に不可能という文字はないのです!」
「うん、アンタが超弩級のバカチンだってことはよく分かったわ!」
「そんなこと言って、鈴さんも興味があるのではありませんこと? ビールという大人にしか許されていない禁断の蜜に」
「うっ......まぁ、アタシもお母さんが飲んでるの見て気になったことはあるけど」
セシリアの問いに目を逸らしながら答える鈴。
「ここにはわたくしと鈴さんの二人だけ。つまりこのことは誰も知らないのです。飲み終わった缶はわたくしが秘密裏に処理しておきますわ。それに、なんでもビールは料理にも使うと聞いています。万が一缶を持っているところを見られたとしても、料理に使ったと言えばいいのですわ。つまり! バレなければ何の問題もねぇのです!」
「アンタ、いつからそんな破天荒になっちまいやがったってのよ......」
もう飲むと決めたセシリアはプルタブに指をかけていた。
それを見て鈴も死なば諸共だと腹を括り、同じく指をかける。
カシュッ! という小気味の良い音を立てて缶が開いた。
「では、いきますわよ......」
「うん。もうどうにでもなれ......」
「「いただきます」」
まずば豚の角煮を箸で裂き、パクッと一口。
「これは......!」
「うん、美味しい!」
どうやら角煮自体は上手く出来たようで、その味に二人は感動していた。
「セシリア、アンタもやれば出来るじゃない!」
「フフン、わたくしにかかればこんなものですわ」
そして本命。角煮とビールの合わせ技。
再び角煮を一口。そしてすかさずビールを口元へ。
すると......
「んっ!?」
「んぐっ!?」
口の中に広がる味に二人は目を見開いた。
そしてお互い顔を見合わせながらモグモグと咀嚼する。
「鈴さん、これは......」
「ヤバイわセシリア。アタシたち、とんでもないものを知っちゃったかもしれない!」
二人は口内に広がる美味に酔いしれていた。
一般的にビールというものは苦味が主な味として成り立っている。
成人したての若者が一番最初に飲むお酒としてビールを選ぶのはあまり適切とは言えない。
何故ならその独特の苦味は、まだお酒に慣れ親しんでいない者にとっては不味いとしか感じられないことが多いからだ。
初めて飲んだお酒がビールだったため、ビールが嫌いになることや、お酒そのものが苦手になってしまうこともある。
それほどまでにお酒初心者にビールというのはハードルが高いのだ。
しかしことこの二人においては例外だったらしい。
豚の角煮の甘さと濃厚なタレ。
それにビールの苦味が合わさった結果、口の中で想像だにしない旨味が広がったのだ。
結果、彼女たちはもれなく......
「んっ......んっ......んっ......」
「むっ......っぐ......んぐ.....」
「「ぷはぁ〜っ!」」
ビールの虜になりました。
「美味〜い! 何なのコレ!? 何この何とも言い難い味は!?」
「不思議ですわ。チェルシーの作る料理の方がはるかに良い物であるはずですのに......! どうしてこんなにも心が跳ね躍るのでしょうか!」
「これはアレね。美味すぎて......」
「ウマになりましたわ」
「はい頂きました」
お約束のセリフを頂戴したことで、二人はガツガツとどんどん食べ進めていった。
するとあっという間に......
「「完食〜!」」
全て食べ終えてしまいました。
「大人ってこんなものを食べてるのね.....」
「わたくしたちの知らない未知なる美食の領域。そこに今日至ってしまったのですわ」
「ねぇセシリア、これどうすんの? アタシたちもう後戻りできないんじゃない?」
「既にウマになってしまいましたし、もう仕方ないのではありませんか?」
「この際ウマ通り越してユニコーンにでもなるしかないわね!」
「そうですわ! わたくしたちの優勝の道は始まったばかりなのです!」
「アタシたちの優勝はこれからよ!」
何だかよく分からない決意を固め、熱意に溢れている二人であった。
「そうですわ、最後にアレを言っておきませんと」
「あ、そうね」
二人はそう言って背筋を伸ばすと両手を合わせて......
「「はい、エドテン! 」」
食事を締めくくった。
※お酒は二十歳になってから。