クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 Another Story   作:クロスボーンズ

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第11話 残った生命/散った生命

 

「様・・・アンジュリーゼ様・・・アンジュリーゼ様!!」

 

自分の名前を呼ぶ声に。アンジュは目を覚ます。

そこは自分の皇室ベットであった側には彼女の筆頭侍女であるモモカがいた。

 

「モモ・・・カ?」

 

「どうされましたか?酷くうなされておりましたが?」

 

(夢だったの?そう、夢を見ていたのね・・・酷い夢・・・)

 

「酷い夢を見たわ。私がノーマだったという夢」

「まぁ!何をを仰るのですか!」

 

 

 

 

「アンジュリーゼ様は私たちと同じノーマじゃないですか」

 

その瞬間、モモカの顔がココに変わった。しかも

全身血塗れの状態となっている。

 

「!?モモ・・・カ?」

 

「私も連れて行って下さい・・・魔法の国に・・・」

 

するとアンジュのベットの上に義眼が落ちてきた。

 

「目玉が吹っ飛ぼうが片腕吹っ飛ぼうが、戦う本能に血が滾る・ ・・それが私たちノーマだ」

 

上を向く。そこには血塗れのゾーラ隊長がいた。

あの時の光景がフラッシュバックする。

 

 

 

 

次の瞬間、アンジュの意識は覚醒した。

 

アンジュが目覚めた場所。そこはアルゼナルの医務室だった。そこには第一中隊のメンバーがいた。

ココ、ミランダ。そしてゾーラ隊長を除いて・・・

 

「お目覚めか。皇女殿下」

 

ジル司令が手元の報告書を読み上げる。先の戦闘での戦果らしい。

 

「パラメイル四機大破。一機中破。メイルライダー三名が死亡。新兵の二人に関しては遺体さえ残されていない。そして一名は意識不明の重体で生き残る確率は5%以下だ。仮に生き残ったとしても目覚める確率はまさに天文学的数字だ。そして肝心のドラゴンは取り逃がす始末。全部お前の敵前逃亡が招いた戦果だ。どんな気分だ?皇女殿下?」

 

アンジュはそっぽを向いた。向いた先にはシルフィーがいた。身体の至る所に包帯が巻かれている。口には酸素マスクを装着しておりそれが時々曇っている

 

そしてナオミが泣きながら、そして謝りながらシルフィーの名前を呼んでいた。

 

「人殺し・・・人殺し!!」

 

「お前がいなければお姉様が死ぬ事はなかったんだ!」

 

「手を出すなよ。それでも一応負傷者なんだからな」

 

興奮しているロザリーとクリスを制する様にマギーが言った。二人とも、今にも殴りかかる雰囲気を全開であった。

 

「なんとか言えよ!人殺し!!」

 

「私は国に帰ろうとしただけです。何も悪い事など・・・していません」

 

「わかってんのかよ!お前がお姉様を殺したんだぞ!」

 

あの時、もしアンジュの機体がゾーラ隊長に組みつかなければ、おそらくゾーラ隊長は死ななかっただろう。だがアンジュは組みついた。そしてゾーラ隊長は死んだ。なのにアンジュは生き延びた。

 

彼女を慕っていたロザリーやクリスからしたら、許せるはずがない。

 

「ノーマがどうなろうと、私には関係ありません」

 

「あっ!?」

 

「だってノーマは、人間ではないのですから」

 

場の空気が完全に凍りついた。アンジュの放った

一言はとてもじゃないが受け入れられるものではない。

 

次の瞬間、ヒルダのカカト落としがアンジュの傷口に命中した。

 

「があっ!」

 

「イタすぎだよ。あんた・・・」

 

ヒルダが静かな声で言う。だがその言葉の奥深くには、激しい怒りと不快感で燃えあがっている事が誰の耳にも明らかであった。

 

「サリア。お前を第一中隊の隊長とする。副隊長はヒルダ。各員、厳戒態勢をとれ!」

 

「イエス・マム!」

 

そう言うとアンジュとシルフィーを残し、第一中隊の皆は医務室を後にした。

 

「ねぇねぇサリア。前言ったクイズの答え。生き延びたのはアンジュとナオミだったね。あ、シルフィーも生きてるね」

 

「少し黙ってくれる?」

 

ヴィヴィアンが場を持ち直そうとするが、今のサリアにとってそれは、不快以外の何者でもなかった。

 

 

 

再びナオミが医務室に訪れた。手には水のはられた桶をもっている。ナオミはタオルを絞ると、シルフィーの身体を拭いた。

 

あの後皆がアンジュに対して様々な事を言っていた。だがナオミには何も言う事が出来なかった。

 

(私にアンジュを責める資格はない・・・)

 

あの時の恐怖がナオミの中で蘇る。あの時、もし

凍結バレットを放っていれば、ドラゴンを倒せたのではないか。少なくてもシルフィーは傷つかずに済んだはずだ。

 

(大丈夫なの?実戦で出会ったら)

 

(大丈夫だよ)

 

以前、シルフィーとした会話を思い出す。ちっとも大丈夫ではなかった。あの時の自分に激しい不快感を覚える。

 

(私は弱くて身勝手。友達を失い、傷つけた)

 

その考えがナオミを苦しめた。自分がシルフィーを殺したのだ。まだ死んではいないが生き残る確率が既に5%を切っている。

 

「シルフィー。目を覚ましてよ・・・」

 

シルフィーは何も答えず、ただ酸素マスクの口当て部分を曇らせている。やがて身体が吹き終わるとナオミは医務室を後にしようと扉へと向かった。

 

「・・・?」

 

不意に何かが動いた気配を感じ、背後をその方を向いた。アンジュは動いていなかった。

 

【ゴト】

 

持っていた桶を床に落とした。桶の中の水が床に溢れた。眠っていたシルフィーの目が薄めだが開いていた。その目はナオミを見ていた。

 

「・・・シルフィー・・・シルフィー!」

 

「ナ・・・オミ?」

 

「シルフィー。ごめんなさい!ごめんなさい!!」

 

ナオミは謝った。ひたすら泣いて謝っていた。シルフィーは口に当てた酸素マスクを取り外した。

 

「何泣いてるんだいナオミ。廊下にまでまる聞こえ・・・まじかよ」

 

戻ってきたマギーもシルフィーの姿を見て驚いていた。直ぐにマギーの診察が始まった。

 

しばらくの間、色々な事を聞かれた。それらに彼女は上の空で答えていた。あの時見た風景。一体あれはなんなのか。それについて考えた。

 

 

 

意識を失っている間、彼女は夢を見たのだ。そこである人物と出会った。

 

「・・・?」

 

気がつくとシルフィーはこの場所にいた。辺りには廃墟が立ち並んでいる。暗さからして恐らく時間的には夜更けだろう。

 

この時のシルフィーには何の疑問も持っていなかった。此処が何処なのか。何故ここにいるのか。そんな疑問を一切持っていなかった。

 

近くの廃墟に入って行く。するとそこには何かの骨が散らばっていた。人間の骨とは多少違っているが、根本的な外郭などに大きな違いはない。なんらかの生物の骨だ。

 

これらに対しても、シルフィーは何一つの恐怖も

疑問も抱かなかった。見えてないかの様に無視して、骨の上を歩き廃墟の階段を上っていく。

 

二階三階。そのどの階にも骨は散らばっていた。

 

やがて屋上へと辿り着いた。

 

屋上には骨がなかった。そしてよく見てみると、

地上からは廃墟の陰などで見えなかったが、上から見ると、ボロボロの鉄くずなどが至る所にあった。その鉄くずは人型兵器の名残が残されているものも多くある。

 

まるで戦争のジオラマを見ている気分だ。

 

その光景はまさに、これらの機械を使い戦争が起き、その結果自分以外の全ての人間が、いや、生物が地上から消え去った雰囲気であった。

 

ふと空を見上げた。そこには月が浮かんでいた。綺麗な満月であった。地上の荒廃とはまるで別世界の存在であった。

 

背後に暖かみを感じて振り返った。見てみると太陽が昇って行るではないか。太陽はなおも昇っていった。そしてなんと、空には太陽と月が並びたったのだ。

 

「太陽と月が」

 

「太陽の光。それは皆平等に降り注ぐ光だ」

 

不意に声がした。背後を振り返ると黒装束の男がいた。その右目には傷が付いていた。

 

この時シルフィーは、初めてあらゆる疑問が認知された。

 

「えっ・・・誰!?ここ何処!?なんで私、こんなところに」

 

「誰・・・か・・・黒き魔法使いとでも名乗っておこう」

 

黒き魔法使い。どう考えても本名であるはずがない。

 

「呼びにくければシオンと呼んでくれたまえ」

 

シオン。今度は幾分かマシな名前を出してきた。

黒き魔法使いとの名前の関連性は不明だが。

 

「さて、この様に出会ったのだ。帰る前に少し映像鑑賞でもしようではないか」

 

すると突然あたりの廃墟が騒めき始めた。見てみると鉄くずとなっていた機械が綺麗になっていた。まるで新品の様に。時間が巻き戻った感覚であった。

 

その機械は銃で空を撃ち始めた。すると上空に何かが現れた。

 

「あれはドラゴン!」

 

そこにはスクーナー級やガレオン級など、様々な

ドラゴンがいた。機械はドラゴンを撃ち落とすかの様に手にしたライフルや備え付けのミサイルなどをドラゴンに向けて放つ。

 

それに負けじとドラゴンは機械に、火炎弾や鱗などを飛ばして反撃する。

 

撃っては撃ち返し、撃ち返してはまた撃たれる。まさに泥沼の戦争という言葉が相応しかった。

 

やがて目の前の風景が廃墟に元に戻った。いや、廃墟になったと言うべきか。

 

「お前は死なない。絶対生きる。だから帰りたまえ」

 

「帰る・・・アルゼナル。何処にあるの?結局ここは何処なの?」

 

ここでアルゼナルの事を、先程の戦闘の事を思い出していた。

 

「大丈夫。これが導いてくれるはずだ。お前の行くべき道を」

 

そう言うとシオンは右腕につけられている腕輪をツンツンと突いた。

 

すると腕輪が眩いばかりに光輝いた。あまりの眩しさにシルフィーは目を細めた。

 

「いずれまあ会おう。その時は仲間と共に晩餐でも開こう」

 

その言葉を最後に、シオンの声は聞こえなくなった。腕輪は尚も輝き続け、あまりの眩しさに遂に目を瞑った。

 

そして次の瞬間、シルフィーの意識は覚醒した。

 

 

 

やがてマギーの診察が終わった。

 

検査の結果、失血状態が長く続いておりこのように後遺症もなく目覚めたのはまさに奇跡としか言いようがなかった。

 

「いやはや恐れいったよ。まさかあの土壇場で生き返るとは。まぁ今だけでもゆっくり休みな」

 

そう言うとマギーは部屋を後にした。どうやらジル司令に目覚めた事を報告しに行くようだ。

 

「ごめんシルフィー。私のせいで」

 

「気にしないで。私が好きでやった事だから」

 

「ココもミランダも・・・ゾーラ隊長も・・・三人とも死んじゃった・・・シルフィーまで、死んだら、私・・・」

 

「・・・何も言わないで」

 

シルフィーはナオミに抱き着いた。ナオミの口から出されるであろう言葉。その言葉を聞きたくないし、言わせたくない。そんな思いからきていた。

 

「私は・・・生きてるから」

 

すると扉が開いた。見てみるとジル司令であった。

 

「シルフィー。本当に目覚めたのか。生還おめでとうと言っておこう」

 

ジル司令から簡単な現状を説明された。まだドラゴンが残っている事。その為第一中隊は厳戒態勢を敷いているらしい。

 

「お前の身体に特に異常は見られない。戦線に復帰するかどうかは任せるぞ」

 

「・・・戦います」

 

「そうか。ならば死なない様に頑張るのだな。奇跡は二度も起こらんぞ」

 

「あの、嘆願書はどうなりました?」

 

話が終わったのを見計らうと、アンジュはジル司令に尋ねた。

 

「これの事か」

 

ジル司令は懐から嘆願書を取り出すとアンジュの元に投げ捨てた。全て同じ判子が押されていた。

 

「全て受け取りを拒否されたよ。アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギも、ミスルギ皇国も知らんとな」

 

「どういう事ですか・・・」

 

「エマ監察官に聞いたところ、もうないそうだ。

ミスルギ皇国は」

 

「え・・・ミスルギが・・・ない」

 

ジル司令の一言にアンジュは絶望した。自分が帰るべき場所だと思っていた故郷、ミスルギ皇国がもうない。その事実はアンジュにとって衝撃的な内容であった。

 

「お前がノーマだとバレたんだ。大方、キレた国民が革命でも起こしたのだろうな」

 

「そんな・・・ではお母さまは?お父さまは?お兄様は?シルヴィアは!?」

 

「知らん。それより石の準備が出来た。行くぞ。

ナオミとシルフィー。二人もついてこい」

 

「私達も・・・ですか?」

 

「お前達は知らなければならない。特にナオミ。お前はな」

 

そう言うとジル司令はアンジュを掴み、その場を後にした。ナオミとシルフィーもその後に続いた。

 

 

 

 

やがて四人は外へ続く入り口に辿り着いた。外は雨が降っていた。そしてその入り口にはジャスミンとバルカンがいた。

 

「まさか一日に三つも必要になるだなんてねぇ」

 

「急ですまないなジャスミン」

 

「いいって事よ。それよりアンタが噂の島育ちの

シルフィーかい?」

 

「はい。貴女は?」

 

「私はジャスミン。ジャスミンモールの店主さ。

こっちはバルカンだよ。まぁ今度うちに買い物でもしにおいで」

 

ジャスミンはシルフィーを一通り眺めた。

 

「成る程ねぇ。私の見込み通り、あんたはいい腕を持ってる」

 

「ジャスミン。すまないが早くしてくれ」

 

「おおそうだった。それじゃああんた。これを」

 

そう言うとジャスミンはアンジュにリアカーを渡した。その荷台には大きな石が三つ置かれている。

 

「お前が運ぶんだ。アンジュ」

 

「生き残った人間は死んだ仲間の墓を建ててやるんだよ。自分の金で。その子の人生を忘れないためにね。安心しな。足りない分はツケにしておいてあげるよ」

 

そう言うとアンジュはリアカーを引き始めた。その後ろをシルフィー達が付いて行く。やがてある場所へと辿り着いた。そこは沢山のお墓が並ぶ墓地であった。

 

「ゾーラ・アクスバス。ココ・リーブ 。ミランダ・キャンベル。アルゼナルの子たちはね。死んだ時に初めて名前が戻るのさ。親がくれた本当の名前に」

 

ジャスミンが何処か懐かしむ風に言う。

 

ジル司令はナオミの方を見た。

 

「ナオミ。お前の墓も一度この場所に並んだ事がある」

 

「えっ・・・本当ですか」

 

「お前がパラメイルの実機テストで墜落した時だ。第一中隊が駆けつけた時、お前の手がかりは何処にもなかった。皆が死んだと思ったよ」

 

「だがお前は帰ってきた。お前は自分の意思で帰りたいと願ったそうだな。シルフィーの様に島でひっそりと暮らすのではなく、兵士として戦う道を選んだんだ。ならば逃げるな。恐怖に、ドラゴンに立ち向かえ。でないとこいつが浮かばない」

 

ジル司令の視線の先にはお墓があった。お墓には

シェリー・メールと書かれていた。この下で眠っている人の名前なのだろう。

 

「実機テストの前に言ったはずだ。その命は明日も知れぬ命だと」

 

「・・・じゃあこの人が」

 

「あぁ。こいつが死んだ。だからお前に順番が回ってきた。お前達は死の上で生きる為に戦っている。中途半端な覚悟はやめろ」

 

キツイ一言だが、ジル司令なりに気遣っての発言なのだろう。誰も無駄死にする事など望んでいない。

 

三人でお墓の設置をした。ココとミランダは死体が残されていない為、空のお墓となってしまった。

 

やがてナオミがココとミランダのお墓の前にしゃがみ込む。

 

「なんで・・・私が帰ってきたときは、迎えてくれたのに、なんで、私は二人を迎えられないの・・・なんで・・・側から消えちゃったの・・・」

 

ナオミは泣くのを我慢していた。本当は泣き出したいのに、その気持ちを無理矢理押し込めようとしている。泣いたら、認めてしまいそうだから。二人が死んだという悲しい現実を。

 

「・・・シルフィー。受け止めてやれ」

 

「同期を失ったんだ。今泣かないと、後が辛いだけだよ。受け止めておやり」

 

二人に言われ、シルフィーは黙って背後からナオミに抱きついた。

 

「シルフィー?」

 

「大丈夫。私は死なない。側にいるから・・・」

 

「うっ、ウワァァァァァァァ!!」

 

堪えきれなくなったのか、ナオミは泣きだした。それをシルフィーは何も言わずに黙って抱きしめていた。

 

ジル司令とジャスミンはアンジュの方を向いた。

アンジュは相変わらず下に俯いていた。

 

「これから・・・これから私はどうなるのですか・・・どうすれば・・・」

 

「戦ってドラゴンを倒す。以上だ」

 

アンジュの質問にジル司令が簡潔に答えた。しかしその内容をアンジュは受け入れられないでいた。

 

「何なのですか・・・ドラゴンって、どうして私があんなのと・・・」

 

「授業を聞いてなかったのか?ドラゴンを殺す為の兵器。それが私たちノーマの唯一の生きる理由だ」

 

「皇女様としては本望だろ?世界を護るために戦えるんだからねぇ」

 

「世界を?」

 

ジャスミンの言葉がアンジュには理解できなかった。

 

「ここでノーマの娘たちがドラゴンと戦っているからマナの世界は平和を謳歌できる。平和ボケしたマナの世界は誰にも知られず死んでいったノーマ達が護ってたんだよ。そして今度はお前の番だ」

 

「しっ・・・知りません!!だって私は・・・

ノーマではないのですから」

 

ジル司令は何かを取り出しアンジュの前に突きつけた。

 

「監察官のペンだ。使ってみせろ」

 

アンジュはそれを受け取った。

 

「マナの光よ」

 

しかし何も起こらない。

 

「マナの光よ」

 

しかし何も動かない。

 

「マナの光よ!」

 

・・・しかし何も変わらない。

 

アンジュは地面に倒れこんだ。自身への絶望感。それらの感情に苛まれた。

 

「どうして?どうしてなの?今はほんの少し、マナが使えないだけなのに・・・なのにどうして」

 

「それを決めたのは人間だったお前達だろう?」

 

「マナがほんの少し使えない。そいつがどうなるか決めたのはお前達だろ?そしてそれに従ってお前はここに送られてきたんだ」

 

「だからってこんな・・・マナを使うのがほんの少し下手なだけなのに・・・それだけで、こんな地獄みたいな所に突き落とされるだなんて・・・」

 

「ノーマ。マナの光を拒絶する存在。本能のまま生きる暴力的で野蛮な突然変異。今すぐこの世界から隔離しなければならない」

 

「それがなんだと言うのですか!?それだけでこんな理不尽を受け入れろというのですか!?」

 

ジル司令の一言にアンジュは喰いかかる。すると

ジル司令はアンジュの方を向いた。その視線は明らかに軽蔑の視線であった。

 

「・・・セーラと言う名前を知っているか?」

 

セーラ。アンジュはこの言葉を何処かで聞いた記憶がある。遠い昔などではない。ほんのつい最近に聞いた言葉だ。

 

「セーラ。こいつはお前が送られてくる前日に送られて来たノーマだ。まだ赤ん坊でな。そしてマナで中継されてたよ、その子の確保する瞬間が。私は監察官のマナで見た。そしてお前はその時、その子の母親にさっきの言葉を言っていたな」

 

その言葉にアンジュは思い出した。

 

洗礼の儀の前日、エアリアの大会の帰り道の事だ。道端でノーマの赤ん坊が発見された。ノーマ管理法に基づきノーマは世界から隔離しなければならない。たとえそれが、何も知らぬ赤ん坊だとしても。

 

母親は必死に我が子を守ろうとしていた。

 

「この子はほんの少し、マナを使うのが下手なだけです!」

 

その母親にアンジュ、いや、アンジュリーゼはこう言った。

 

「マナの光を拒絶する存在。本能のまま生きる暴力的で野蛮な突然変異。今すぐこの世界から隔離しなければならない」と

 

その母親はこうも言っていた。

 

「私がきちんと育てる」と。

 

だがアンジュはこう言った。

 

「不可能です。だって【ノーマは人間ではないのです】から。忘れなさい。そして次の子を産むのです。ノーマなどではない【正しい子】を」

 

母親は怒り、アンジュリーゼ目掛けて哺乳瓶を投げつけた。この哺乳瓶はマナの光で塞がれた。正確には、モモカのマナの光で塞がれた。

 

無論、そんな事をしても何のの解決にならない。だが母親は最後の最後まで我が子を守ろうとした。だが現実は残酷だ。セーラはまるで害獣の様にケージに入れられ、連れ去られた。

 

その赤ん坊は母親から引き裂かれた。そして、母親は泣きながら我が子の名前を叫ぶ事しか出来なかった。

 

この時のアンジュリーゼには母と子を引き裂いた罪悪感など微塵もなかった。むしろ清々しさを感じていた。これで理想の世界。マナの光で満たされた素晴らしい世界にまた一歩近づいた。洗礼の儀を終えた暁には、ノーマ根絶を目指すつもりでいた。

 

アンジュリーゼは本気でそう思っていた。それが今ではこうだ。自分の言葉に打ちのめされた感覚だ。

 

ジャスミンが付け加えるかの様に言う。

 

「あぁ。全く理不尽だねぇ。ココなんて12歳なのに」

 

12。その言葉にアンジュが反応する。

 

「12。妹と・・・シルヴィアと同じ」

 

「・・・違う・・・違います!シルヴィアとは違います!だって・・・だって!」

 

「ノーマは人間などではない・・・からか?」

 

次の瞬間、ジル司令はアンジュの髪を掴んだ。

 

「だったらお前は何だ!皇女でもなく!マナもなく!義務も果たさず敵前逃亡し、年端も行かぬ仲間を殺したお前は一体何なんだ!?」

 

「ジル司令!」

 

不意に声がした。振り返ってみるとその場にサリアがいた。

 

「ドラゴンが発見されました。ってシルフィー!?貴女目覚めたの!?」

 

「そうか。立てアンジュ。出撃だ。ナオミ、シルフィー。お前達もだ」

 

「イエス・マム」

 

二人はそう言うと立ち上がり、墓地を後にした。

 

だがアンジュは動こうとしなかった。ジル司令はアンジュの襟を掴み、立ち上がらせた。

 

「この世界は理不尽で不平等だ!だから殺すか死ぬしかない!死んだ仲間の分もドラゴンを殺せ!それが出来なければ死ね!!」

 

「では殺してください。こんなの・・・辛すぎます」

 

「だめだ」

 

ジル司令はアンジュの哀願を一蹴した。

 

「ここで死んだ娘達と同じ様に、戦って死ね」

 

「あの、司令。パラメイルがもうありません」

 

サリアが報告する。アンジュの機体は大破して修復不可能であった。その為アンジュは機体を持っていなかった。

 

それにジル司令はニヤッと答えた。

 

「あるじゃないか。とっておきのが【アイツ】が」

 

その言葉にサリアはハッとする。ジャスミンは何処か笑っていた。

 

「アンジュ。ついてこい」

 

そう言うとジル司令とサリア。そしてジャスミンとバルカンはその場を後にした。だがアンジュは動かなかった。只々その場にへたり込んでいた。

 

あまりにも過酷な現状。アンジュは無意識の内にある言葉を呟いた。

 

「・・・死にたい。誰か、殺してください」

 

次の瞬間、アンジュの身体が蹴り上げられた。

 

突然の事でアンジュは対応が出来なかった。身体が地面に叩きつけられる。その方を見てみるとそこにはある人物がいた。右目に傷のある黒装束の男。

いや、シオンだ。

 

「なっ!何を・・・」

 

シオンは黙って近づいてきた。そして再び蹴りを入れた。

 

「痛っ。やっ、やめてください」

 

するとシオンは蹴りを入れるのをやめた。

 

「蹴られて痛いか?蹴りが止んで安心したか?」

 

「なっ、何を・・・」

 

「死んだ逝った者達は痛みで泣くことも、安心に喜ぶ事も、何も感じる事が出来ないのだぞ」

 

するとシオンはなにかを取り出した。それは血がついた人間の右腕と右足であった。

 

「人が眠る場所は地面だ。例え全てではなくとも、こうして祀られている場所で眠らせた方が良かろう」

 

そういうとシオンはココとミランダの墓を開けた。何もない空っぽのお墓に右腕と右足を大切に閉まった。そして再び墓を閉じ、最後に手を合わせた。

死んだ者達の御冥福を祈るために。

 

「ここに眠る娘達は誰一人として、死のうと思い死んだ者などいない。皆もっと生きたかったはずだ。命を粗末にするな」

 

シオンは睨むかの様な視線をアンジュに向けた。その言葉を最後に、彼はその場から姿を消した。瞬きする間もなく突然消えたのだ。

 

アンジュは呆然としていた。

 

「アンジュ!いつまで倒れてる!早く来い!」

 

ジル司令の催促の声が聞こえた。アンジュは力なく立ち上がると、格納庫の方へと歩いて行った。

 





遂に黒装束の男の名前を明らかに出来た。果たして彼は物語にどのような影響を与える存在になることやら。

見直してみると今回の話ちょっと長いかな?
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