クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 Another Story   作:クロスボーンズ

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第13話 Ω(オメガ)

 

「・・・ゲホッゲホッ、ゲホッ」

 

息苦しさを覚え、シルフィーは目を覚ました。周りを確認する。するとそこはパラメイルのコックピットではなかった。島で機体に乗り込んだ際に、

コックピット内で垣間見た風景であった。

 

「ここ、あの時来た。うっ・・・」

 

突然、激しい絶望感に襲われる。身体の震えが止まらない。

 

「なんで・・・なんで・・・」

 

「なんで、私は生きてるの・・・なんで、こんなに悲しいの・・・」

 

突然湧き上がった不安。自分という存在が大嫌いになる。まるで、自分が生きていてはいけない存在の様に感じられる。何か、とんでも無い事を忘れてしまっているのではないか。そんな気分に襲われた。

 

(・・・いだ)

 

「えっ?」

 

不意に声がした。何処からかは分からない。いや、わかる必要がない。声は全方位からしているのだ。

 

(お前のせいだ・・・お前の)

 

(なんで生きてるのかなぁ・・・)

 

(死ね。死んでつぐなぇ・・・)

 

姿なき声が辺りから響き渡る様に聞こえる。その声の全てが呪詛の言葉を呟きながらシルフィーへと迫っていた。

 

「償わなきゃ。死んで・・・償わなきゃ・・・」

 

【カラン】

 

不意に何かが落ちた音がした。見てみるとそれはナイフであった。

 

(ほら、これで死ねるよ)

 

不意に男の声がした。だが彼女は気にせず、無意識の内にナイフを手にした。刃先に指を当ててみる。切れ味は良いらしく、人差し指から一筋の血が流れた。

 

(そうか。私・・・死にたいんだ・・・)

 

自分の中で芽生えた一つの答え。何故かその様な考えが浮かび上がった。ナイフを首元に向けた。後は勢いよく掻っ捌くだけだ。

 

【ドガッ!】

 

次の瞬間、シルフィーの身体が宙を舞いそして地面に叩きつけられた。何者かに身体を強く蹴りとばされたのだ。身体は数メートル飛ばされ、その衝撃でナイフも何処かへと吹き飛んだ。

 

「今日一日で自殺願望者を二人も見る事になるとは」

 

声がした方を向く。そこにはシオンがいた。すると辺りから煩いほど響いていた声がピタリと止んだ。

 

「生きる事が罪だとしたら、その罪を償う事は死ぬ事だけなのか?」

 

シオンはシルフィーの元へと歩みを進めた。しゃがみこみ、シルフィーの顔を覗き込む。

 

「その目から流れ出るものはなんだ?」

 

「え・・・」

 

シルフィーが自分の頬を触った。何かで濡れていた。見てみるとそれは涙であった。無意識の内に泣いていた様だ。

 

「私の、涙・・・?」

 

「死ぬ事が怖くない人間などいない。お前は自分を偽っているだけだ。それに以前言っただろう。お前は死なない。絶対に生きる」

 

シオンはシルフィーの肩を掴んだ。すると震えが止まった。

 

「お前を待つ存在がお前の元にやってくる。信じるんだ」

 

そう言うとシオンは上を指差した。それにつられて上を見る。すると太陽の光が差し込んできた。

 

眩しさのあまり目を瞑った。次の瞬間、シルフィーの意識は失われていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ここは!?」

 

シルフィーが目覚めた場所、そこはコックピット内であった。意識を失っていたらしいが、時間にして10秒も立っていない。

 

(なんなの、さっきの・・・なんであんな事を・・・)

 

先程までのやりとりをシルフィーははっきりと覚えていた。

 

「・・・信じてみる・・・か」

 

モニターを操作するが反応がない。シルフィーは

ある決心をし、色々と機体そのものを弄り回し始めた。

 

その頃、司令部は大騒ぎであった。

 

「シルフィーの生命反応が復活しました!」

 

「なに!あいつ、また生き返ったのか!?」

 

なんせ生命反応が途切れていたのが、電気ショックもなければ、蘇生術もせず、突然復活したのだから。驚くなと言う方が無理であろう。

 

しかし、さらに驚く事態が襲いかかってきた。

 

「ジル!大変だよ!!」

 

突然発着デッキからメイの慌てふためく声で通信が入った。

 

「どうした、メイ?」

 

「それが、シルフィーが乗って来た機体が発進準備にかかってる!」

 

その一言に司令部が騒然とした。

 

「なんだと!?誰が動かしている!?」

 

「それが無人なんだよ!」

 

メイが慌てた口調で言う。発着デッキでは例の機体はカタパルトへと乗せられた。必死にメイ達が止めようとするが、機体は止まらない。カタパルトの

射出準備が完了したとランプを点灯させた。

 

「全員退避ィ!!」

 

メイの叫びが聞こえた瞬間、機体は射出された。

無人機のそれは、まるで目指す場所でもあるかの様に、速い速度で飛び去って行った。

 

「何が起きたんだ・・・」

 

「主を迎えに行ったのだ」

 

不意に声がした。驚いてその声の方角を向いた。

そこにはなんと、右目に傷のある黒装束の男がいた。シオンだ。

 

「なっ!貴様!何者だ!?」

 

ジル司令が拳銃を取り出しシオンに向ける。絶海の孤島、世界の果てに突如、謎の存在が現れたのだ。当然の反応であろう。エマ監察官とオペレーター達は背後へと後ずさっている。

 

「一体どこから入った!それ以前に、どうやってここに!?」

 

「これは失礼。女性のいる部屋に入る時にはノックの一つでもするべきだったか」

 

そういうと薔薇を取り出し、ジル司令に投げつけた。

 

「貴女は薔薇のような美しき人だ。綺麗で、そして何処か棘のある、素晴らしい人だ」

 

「ふざけるな!」

 

【バァン!】

 

【パシ!】

 

ジル司令が銃弾を放つ。だがその弾はなんと人差し指と中指の二本指で挟むかの様に止められた。

 

「なっ!銃弾を指で止めただと!」

 

「別に驚く事ではない」

 

「さて。美しき薔薇よ。その名をなんと言う?」

 

「・・・ジル。アルゼナル総司令官のジルだ」

 

「ジルか。良い名だ」

 

「私の名前は名乗ったぞ。さて、貴様の名はなんと言う!?」

 

「黒き魔法使いだ」

 

当たり前の様に放たれた一言。この一言にジル司令は更に憤慨する。

 

「ふざけてるのか貴様!それが本当の名なわけないだろう!?」

 

「・・・自分の事は棚上げかい?」

 

不意に男の声色が変わった。そして放たれた一言にジル司令の表情が強張る。

 

(こいつ!私の本当の名を知っているのか!?)

 

「・・・では黒き魔法使い!貴様があの機体を勝手に動かしたのか!?」

 

動揺を隠し、銃口をシオンに向けて尋ねた。するとシオンは、なんと銃口に指を突っ込んだ。

 

「あの機体が動いたのだ。ビルキスと同じ様に」

 

シオンが指先を下に降ろす。すると指先がはまっている拳銃も、下へと向けられる。動かそうにも、拳銃はウンともスンとも言わなかった。引き金を引こうにも、何故か硬くて引けない。

 

やがて残された左腕で何かを取り出した。それは

水槽であった。中には水が張られ、鯉が一匹泳いでいる。一体どこにこんなものをしまっていたのか。

 

「鯉の滝登り伝説を知っているか?」

 

鯉の滝登り伝説。黄河の上流にある滝、竜門を登ることのできた鯉は、強き竜になるという伝説だ。

 

「何を言っている!」

 

「だが、どんなに強き竜も、初めは未熟な鯉。滝登りに挑んでは、打ち負けるのが当たり前。それでも鯉は竜を目指し、滝を登ろうとする」

 

鯉が水槽から飛び出した。蛍光灯の光を浴びたその鯉は、何処か幻想的だ。次の瞬間、鯉と水槽が突然消えた。

 

「そして今、滝に挑む鯉がいる。共に見届けよう。鯉が滝を登り、竜に変わる瞬間を」

 

シオンは銃口から指を抜き、モニターを指差した。皆がその方角を向く。するとそこでは目を疑う光景が映し出されていた。

 

黒焦げのグレイブのコックピットがこじ開けられた。そこからシルフィーが身体を半分を出している。真下は海であり、かなりの高度もある中でだ。

 

「シルフィー!!何やってるの!!?」

 

次の瞬間、シルフィーは海めがけて勢いよく飛び降りた。このままいけば海面衝突。間違いなく死ぬだろう。

 

突然シルフィーの身体が消えた。いや、正確に言うなら、何かに持って行かれた。

 

そしてその場に一陣の風が吹いた。

 

突如、その場に謎の機体が現れた。そしてなんと、シルフィーは機体の翼を掴んでいた。その機体とは、アルゼナルを飛び出した機体である。

 

「あの速度の機体に乗り込んだのか!?」

 

「うっひょー!シルフィー、すっげー!!」

 

「あの機体。確か島にあった・・・」

 

機体は急上昇している。シルフィーは機体にまたがった。直ぐにコントロールユニットを握った。

 

「動けえぇぇ!!」

 

次の瞬間、機体は動き出した。コックピット部分は内部に収容される。四つの翼が背部へと回り込む。その翼はX字となった。機体の紅いラインが光る。顔と思わしき部分にはバイザーがつけられており、それが赤く一光りした。

 

その姿は、正に駆逐形態と同じ、人型兵器である。

 

目の前のモニターにはとある文字が表示されていた。

 

【DEM・type・Ω】

 

 

 

「あの機体。変形した・・・」

 

司令部の皆が呆けていた。これまで何をしても何一つ反応のなかった謎の機体。それが突然動き出し、そして人型兵器に変形した。

 

「だが、まだ仮免許だな」

 

「なんだと?どういう事だ」

 

ジル司令が振り返り尋ねる。だが既にそこにはシオンの姿はなかった。

 

「なっ、あの男!何処に行った!?」

 

ジル司令が司令部の面子の顔を見た。皆が首を横に振っている。知らないというわけだ。

 

「・・・何者だったんだ。奴は・・・」

 

 

 

 

 

戦場では、第一中隊が変形したその機体に注目していた。

 

「あれが、あの機体の変形した姿」

 

無人のグレイブとハウザーがライフルを向けて放つ。だが、ライフルを向けた瞬間、無人機の目前にオメガは来ていた。グレイブの腕を掴むと、そのまま捩じ切った。

 

次にハウザーに蹴りを入れる。するとハウザーの

身体が上下に分断された。どう見ても普通の機体よりも馬力などが桁違いである。

 

「あの機体、格闘戦が出来るのか!?」

 

皆が驚いた。パラメイルという鉄の塊が、同じ鉄の塊に素手で戦えるのだから。だが何より驚いたのはその動きだ。

 

まるで人間のような、機体が生きているかの様な

動きを見せた。

 

「凄い・・・」

 

オメガの戦闘に呆けていたが、それ以前に自分達も戦闘中だったのだ。そして皆がその機体に反応する事が出来なかった。

 

「危ない!」

 

しかし分断されていた為、シルフィーは直ぐに援護には向かうことが出来なかった。

 

【バキューン!】

 

しかし突然横殴りの銃撃が起きた。それによって

向かってきた無人機は蹴散らされていった。

 

「なっ!あれは!」

 

銃撃のした方を向く。するとそこには謎の機体が

二機、空中に佇んでいた。その機体はラインの色こそ違うが、それ以外の見た目はオメガに酷似していた。

 

「司令!また謎の機体が!」

 

「無人機の援軍か!?」

 

しかし謎の機体は第一中隊を無視して、無人機の相手に回った。手に持ったライフルが無人機達の頭部などに命中する。第一中隊の全員は事態が全く飲み込めてなかった。通信越しでオペレーターの声が聞こえる。

 

「待って!今現れたあの機体。生命反応がある!」

 

生命反応。そのの一言に皆が再び驚いた。

 

「何ですって!?じゃああれは有人機。中に人がいるの!?」

 

あらゆるチャンネルでコンタクトを取ろうとする。だが謎の機体達は何一つの返答を返さなかった。

 

突如現れた謎の機体は、相変わらず無人機である

グレイブとハウザーだけを狙っている。

 

「第一中隊!全機無人機が攻撃対象だ!今現れた謎の機体は無視しろ!!」

 

「イエス・マム!」

 

謎の機体を含めた大乱闘が開かれた。オメガは脚部から武装を取り出した。それはナイフの様なものであった。それは無人パラメイルの装甲を易々と切り裂いた。

 

更にオメガは銃も所持していたらしい。何処からかガトリングガンを取り出すと無人機目掛けて乱射した。鉛弾の雨はものの見事に無人機達の群れを蹴散らした。

 

こうして60機の群れは、乱入した三機体によってその全てが狩りとられた。全ての無人機は蹴散らされた。

 

その場には残骸がボチャボチャと海面に落ちている音だけが聞こえた。

 

「終わったのね」

 

シルフィーは安心からか胸を撫で下ろす。心臓の

鼓動がバクバクと伝わってくる感覚がはっきりとわかる。

 

すると謎の二機の内、一機がオメガの元へとやってきた。やって来るなりオメガを一通り眺めた。

 

「シルフィー!」

 

「待ってナオミ!」

 

ナオミが武器を構えようとするが、それをサリアが制する。まだあの機体はこちらに何もしていない。もしこちらから仕掛ければ、間違いなく交戦状態に陥り、こちらが全滅するからだ。

 

「・・・」

 

一通り眺めたのか、やがて謎の機体はその場を去ろうと振り返った。

 

「待って」

 

通信でのシルフィーの声に反応したのか、機体が

動きを止めた。

 

「・・・助けてくれてありがとう」

 

「・・・」

 

機体は何も言わずに去っていった。

 

「すごい速度ね。もうレーダーに感知されないわ」

 

皆が謎の機体について感心していると、ジル司令からオープンチャンネルで通信が来た。

 

「戦闘ご苦労だったな。全機、アルゼナルへ帰投しろ」

 

「了解。全機、アルゼナルへ帰還するわよ」

 

サリアの掛け声の元、皆がアルゼナルの帰路に着いた。

 

「シルフィー。お前には戻ったら色々と聞きたい事がある」

 

帰り道、ジル司令から通信が来ていたが、シルフィーはそれどころではなかった。何故なら自分の人差し指、そこからは何かで斬られた様な傷口があったからだ。そしてそこからは血が流れ出ていた。

 

怨念にも似た声。それらの出来事を思い出す。

 

(・・・あれは、現実だったの・・・)

 

(だとしたら、なんであんな事を思ったの・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ。まさか失敗してしまうとは」

 

先程の戦闘を、ある男が見ていた。その男は金髪でスーツを着ていた。

 

「君だってこうなる事は予想していたろ?」

 

スーツ男の背後から声がした。振り返るとそこには女性が一人いた。妖艶な雰囲気を醸し出している。上着の胸元は大きくはだけており、セクシーな印象を受ける美女だ。

 

「全く。無人のおもちゃなんか駆り出して。えっと、シルフィーだっけ。あの娘を捕まえたいなら

君が乗り込めばいいのに。僕にはわからないなぁ」

 

「あれが一番最善の策だと思ったのだよ。シルフィーを捕らえ、邪魔する者の口封じの為にあれほど用意した機体。まさかそれが撃墜されるとは」

 

「それだけじゃない。DEMまで目覚めさせられちゃって。しかもtypn・Ω。最も厄介な奴じゃないか。ここまでしてくれちゃって。どうするんだい?彼女にまた精神攻撃でもするかい?」

 

「いや、どうやら捕獲する時期が早すぎた様だ。

それにDEMもあくまで仮覚醒だ。完全には目覚めていない。しばらくの間は静観しよう。そして熟れた所を狙う」

 

「固執するねぇ。運命の子だからかな?それとも

腕輪が狙いかな?」

 

「運命の子・・・か」

 

その言葉を聞いた途端、スーツ姿の金髪男は失笑した。

 

「あの呼び名にあまり意味はないのは君も知っているだろう?私の狙いは腕輪と言っておこう。彼女はおまけさ」

 

「腕輪狙いねぇ。なら僕からとってみたらどうだい?」

 

女が左腕を捲り上げた。そこにはシルフィーが右腕につけているものと酷似した腕輪がされていた。

 

男はそれをじーっと眺めていた。

 

「・・・やめておくよ。君からは奪うつもりはない」

 

「まぁ僕もタダであげるつもりはないしね」

 

どうやら女の方は男をからかったらしい。

 

「まぁいい。それよりまさかあの連中が生きていたとは。さてどうしてくれようか・・・」

 

モニターには謎の二機が映し出された。

 

「やれやれ。敵に回したくない、こわ〜い連中だこと」

 

そう言うと女はその場から姿を消した。

 





突然自分の背後に(しかも絶海の孤島で)見知らぬ存在がいたらそりゃビビりますよね。

あれ?君。なんで背中に血塗れの女の人を背負ってるんだい?

次回の話の製作後、オリキャラ図鑑制作を決定しました。
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