クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 Another Story 作:クロスボーンズ
「ヴィルキスが堕ちた!?」
アルゼナルの司令室では、サリア、メイ、ジャスミン、マギー。そしてジル司令がいた。
「やっと乗りこなせる奴が現れたのにねぇ」
「恐らく、ドラゴンに襲われたのではなく機体のトラブルが原因と思われます」
「どうして・・・整備したときは機体の調子は良かったのに!?」
メイが疑問に思う。しかしサリアには原因に目星がついていた。
(ヒルダ達だ)
物証はない。けど、メイの言うことが本当ならば
誰かがヴィルキスに何かをした事になる。そんな事をする人間は限られてくる。
(私の責任だ・・・隊長の私の・・・)
「とにかく!機体は壊れてはいないんでしょ!?
直ぐに回収班を編成しないと!」
メイが慌てた口調で言う。
「そうね。今はヴィルキスの回収を優先すべきね」
「アンジュもだ」
ジル司令が付け加えるかの様に言う。
「アンジュも必ず回収しろ・・・最悪、死体でも
構わん」
ジル司令の放った言葉に皆が押し黙る。
「あの。シルフィーはどうします?」
「どうするとは?」
「シルフィーも行方不明になっています。ですから」
「サリア。分かっているな?」
ジル司令が睨むかの様な視線をサリアに向けた。
「リベルタスにはヴィルキスは必須だ。不安定な
リスクの危険分子一名のMIAを探す為に割ける人員がいるなら、ヴィルキスを優先させるべきだという事は・・・」
「・・・分かっています」
「先程の発言は、隊長としての発言か?」
「はい」
「ならばお前に任せる。確かに二人行方不明のうち、一人だけ探させるのは不自然だからな。だが、優先目標はヴィルキスとアンジュだ。これらを見つけ次第、シルフィーの捜索は中止とする。それでいいな」
「わかりました」
「よろしい。では直ぐに回収メンバーの編成にあたれ!」
ジル司令の言葉を受け、皆は司令室を後にした。
直ぐに捜索メンバーの編成が組み込まれた。ヴィルキスも回収する為、輸送機での捜索となった。
「いい!必ずアンジュとシルフィーを見つけるわよ!!」
サリアがメンバーに言った。なお、このメンバーにはサリアだけではなく、ヴィヴィアンとエルシャ。そしてナオミが参加していた。三人とも有志である。
「アンジュはまだ生きてるよ!私わかるもん!」
「そうね!きっとお腹空かせてるわよね!」
「怪我してるかもしれないし、治療セットも持ってきたよ」
こうして輸送機は飛び立った。アンジュとヴィルキス。そしてシルフィーを探すために・・・
その頃、アンジュは。
「んんっ。ん?」
アンジュは目を覚ました。そして覚ますなり違和感を感じた。手が不自然な状態になっている。まるで拘束されているかの様に。
現在アンジュはベットに拘束されている。
(なんでこんな・・・寒っ)
不意に寒さも感じた。見てみるとアンジュは一糸
まとわぬ裸体となっていた。それだけではない。なんと隣には男の人がいるのだ。
「あっ、目が覚めた?」
「・・・・・・え?」
(ええええええっっ!!!??)
次の瞬間、アンジュは現状を飲み込んだ。そして、飲み込んだ現状の結果に錯乱した。
「あっ・・・これは!その・・・海水で塗られて体がすごく冷えてたから・・・も、勿論何もしてないよ!」
(何!?誰!?裸!?何故!?縛られてる!?なんで!?どうして!?)
男は説明しているがアンジュの混乱は収まらない。
「とりあえず何か飲もう。落ち着いて、君の話を聞かせてくれないか?」
男が飲み物を持ちながらアンジュに迫って来た。
その時である!男の足元に転がって瓶に脚を乗せてしまった。
【ズルッ!】
「ウワァァッ!?」
男はアンジュめがけて倒れ込んできた。顔に飲み物がかかった。さらに、胸に違和感を覚えた。何かが乗っかっているみたいな。
「・・・・・・!!!??」
何と男の手はアンジュの両胸の上にのせられているではないか。しかも顔はアンジュの股間。つまりは秘部へと埋められていた。
アンジュの顔が茹でダコの如く赤くなった。
「ごっ!ごめん!!そんなつもりじゃ!?」
「イヤァァァァァッ!!!」
見事な膝蹴りが男の顔へと決まった。男の体は見事に吹き飛んだ。
アンジュは力任せに拘束を引きちぎり、側に置かれていたライダスーツと拳銃を回収すると、全速力で小屋を後にしたわ、
(なにあの男!?なんで私はこんな所に!?)
行く当てもなく、ただあの男から離れたい。その
思いだけでアンジュは森を駆け抜けた。やがて森を抜けると、砂浜へと出た。
そこでアンジュはあるものを見つけた。
「あれは、ヴィルキス・・・」
ライダースーツを着込み、ヴィルキスへと接近する。試しに電源ボタンを押してみるが機体は動かなかった。
(なんで?・・・フィンが焦げてる?)
アンジュがフィンを調べ始めた。そしてフィンの中からあるものが発見された。それは焦げた下着の様なものだった。
「!この下着・・・あいつだ!」
アンジュの脳裏にはヒルダが浮かび上がった。
「このっ!このっ!この!この!」
アンジュは下着を引き裂くと、砂浜に叩きつける。そしてそれを憎々しげに踏みつけた。
「酷いじゃないか、君は命の恩人になんて事を」
不意に声がした。後ろを振り向くとあの男がいた。アンジュに蹴られた影響か、顔の一部が赤く腫れている。
アンジュは反射的に銃を取り出し男の足元に向けて撃った。
「うわっ!!わぁぁぁ!」
「それ以上近づいたら撃つわ!」
「わぁぁっ!落ち着け!俺は君に危害を加えるつもりはない!てかもう撃ってるし!!」
アンジュは興奮気味言う。
「縛って脱がせて抱きついて!私が目覚めなければもっと卑猥で破廉恥な事をするつもりだったんでしょ!」
「もっと卑猥でハレンチって・・・例えば」
①「君が気を失ってる間にその豊満な形のいい胸の感触を楽しんだり」
②「無防備な肉体を隅々まで味わおうとしたり、
その大きなお尻を撫でまわそうとしたり」
③「女体の神秘を存分に観察して、それを記録するとか」
「そんなことする人間に俺が見えるのか?」
・・・変態かなこいつ。私だったら①を・・・
ゲフンゲフン。話を戻そう。
無論、今のアンジュがそんな事を言われて黙って
いるはずがない。
「そんな事をするつもりだったの!?この
変態!!」
アンジュは男に発砲した。
「ウワァァァッ!!落ち着け落ち着け!!話せば
わかる!!」
そのときだった。男の足にカニのハサミが近づいてきた。自慢のハサミが男の小指をはさむ。
「痛ってぇぇぇ!!!」
男は痛みで前に倒れこむ。そしてアンジュの体にぶつかった。アンジュも巻き込まれ、倒れ込んだ。
「・・・!!!??」
男の顔がアンジュの秘部に埋める。それどころかパイロットスーツの隙間から再び直接胸を触った。
一体何をどうすればこの様な状態になるのだろう。
アンジュの顔の赤さが最高潮へと達した。
「ちっ!違うんだ!これは!!」
「死ねぇ!!!」
拳銃の発砲音、そして男の悲鳴が砂浜に鳴り響いた。
「一度ならず二度までも!変態!ケダモノ!!発情期!!!」
アンジュは命からがら生きている男を森の木に、蔓で縛り付けるとその場を離れた。男は弾などを避けた為、ダメージはないがアンジュは心理的ダメージで既にボロボロである。
「おーい!ちがうんだー!あれは事故なんだぁー!!」
男の弁明をアンジュはスルーする。あんな事をしておいて良くもこんなセリフを言えたものだ。この男の名誉の為に言うが、男の行為は悪意ゼロである。全て不可抗力の事故なのだ。もっとも、気をつければ起きなかったと言えばそれまでだが。
アンジュはヴィルキスを色々と弄っていた。だが
あらゆる機能が落ちていた。
(通信機は故障・・・非常食も積んでないなんて・・・)
(私達ノーマの棺桶よ)
以前サリアが言っていた言葉を思い出す。
(そうよね・・・死人は食べる事も飲む事もしないわよね・・・)
【ポタ】
何かが降ってきた。水だ。雨が降ってきたのだ。周りを見ると機体の下半身は既に海に浸かっており、コックピットにも少しずつ流し込まれている。
(いつのまに!こんなに潮がみちて)
このままではここも安全ではなくなるかもしれない。アンジュは急いでヴィルキスから離れた。雨をしのぐために森へと入っていった。そして歩きながら考える。
(自分はこれからどうすればいいのだろう。機体は
動かず通信機も使えない)
すると突然雷が落ちてきた。それは目の前の木に
落ちると木は燃え始めた。
「ひっ!?」
急な事でアンジュは頭を抱えうずくまる。すると近くに木の空洞を見つける。そこに避難する。そこで雨を凌ぐ考えだ。
※なお実際には落雷がある時に木に避難するのはかなり危険なので、絶対に真似をしないでください。
落雷があった場合、近くの鉄製の頑丈な建物などにお逃げください。
(・・・!?)
不意に足に痛みを感じた。見てみると足の付け根の所に何かが噛み付いていた。それは蛇だった。
「このっ!」
蛇を引き剥がすと、そこらへんに投げ捨てその場所を駆け足で離れた。
しばらくして、意識が朦朧としてきた。先程の蛇は毒蛇だったようだ。目眩によって地面に倒れこむ。血清や解毒薬などをアンジュが持ち合わせている筈がない。
「たす・・・け・・・て」
アンジュはそう呟くとその意識を閉ざした。誰も
助けになどはこないはずの島で、一人孤独に死んでしまうのか・・・
いや、一人だけいた。木に吊るされている変態男だ。
「おっ、おい!君!」
目の前の木に吊るされていた男はアンジュに気づくと、蔓を引き千切り、アンジュの元に駆け寄った。
「おい君!大丈夫か!?」
心臓と脈に触れた。どちらとも明らかに弱くなっている。
(まさか毒蛇に!?)
男は噛まれた跡を探す。足の付け根部分にそれはあった。
男は口を近づけ毒を吸い出す。そして毒を吐き出す。そして再び毒を吸い出そうと口を近づける。
しばらくはこれの繰り返しであった。やがて男は
アンジュを背負い、小屋へと足を進めた。
さえ、それとは別にシルフィーの方は一体どうなっているだろうか。
「・・・んっ。んんっ」
シルフィーは目覚めた。目覚めるなり今いる場所に違和感を覚えた。
「ここは・・・森?でも潮の香りも仄かにする・・・」
その時だった。
「あっ!目覚めた!?」
ふと声がした。声の方角を見る。すると目の前に
逆さの女の子の顔があった。
「誰!?」
慌てて飛び起き距離を取る。それと同時に身体に痛みが走ったが今は無視した。そしてよく見るとその女の子は枝に縛られ、なんと逆さ宙づりをしているではないか。そして身体には【私は皆に迷惑をかけた悪い子です】と書かれた張り紙を貼っている。
「私ミリィ!いきなりで悪いけど、このロープ切ってくれないかな・・・頭に、血が・・・」
後半息切れしたかの様にミリィが頼み込む。言葉通りに頭に血が上っているらしくかなり苦しそうだ。とりあえず言われた通りロープを引き千切った。
すると彼女は頭から地面に落っこちた。
「いたたた。助けてくれてありがとぉ」
「ミリィ。よかったな。目覚めてもらって」
茂みの向こうからある人物が歩いてきた。
「私はエセル。あんたはこの島に流れ着いてきたんだよ」
「・・・」
シルフィーは身を低く屈めた。いつでもとびかかれる様にしている。
「落ち着けって。別にあんたをとって食おうだなんて考えてねぇよ。まぁ暫くはそこで横になってな。その方が身体の為だ」
「じゃあね。また後で!」
そう言うとエセルとミリィはその場を後にした。
シルフィーも身体を動かそうとしたが、突如として身体に痛みを感じ動きが止まった。見てみると身体には包帯が巻かれている。どうやら意識を失っている間に手当てをしてもらった様だ。痛みには勝てず、大人しく横になる。
(島・・・名もなき島・・・)
しばらくはぼーっとしていたが、やがて痛みが引いてくると動き始めた。
時を同じくし、砂浜ではフリードを中心にエセル、ドミニク、カリス。そしてミリィが集まっていた。現在五人で円陣を組んで会議をしている。
「カリス。お前が付いていながら何をやっている。よりにもよって方向音痴のミリィに水先案内を頼むなどと」
「ごめんなさいフリードさん。ミリィさんが絶対的な確証を持っていると断言されたので・・・つい」
「そうだよ、あの時私の第六感がね。ピッカーって光ったんだよ!!」
「その結果が迷子か。本来ならあんたらが帰ってくる予定日は数日前だ。シオンの奴は調査ついでに
あんたら探しにも行ったんだよ。帰ってくるまで逆さ吊りの刑に処しとくかい?」
「ねぇ。それよりあの子と機体。どうするの?」
「ミリィのしでかしたジャミングの影響か、はたまた整備した人の腕の問題か、とにかくあの機体は
ボロボロだ。内部構造なんて目もあてられない。そう簡単には直らないな」
「まぁとりあえず、機体が直すまでは、あの子は
ここにいるだろうな。そして直った後どうするか、それを決めるのはあの子だ」
「一応シオンさんにも連絡を入れてはいますが、
今のところ返事はありません」
【ガサガサ】
不意に森から音がした。皆が見てみるとそこには
シルフィーがいた。
「もう動ける程回復されたのですね。よかったです」
「まぁそんな大怪我じゃなかったしな。そんで、
なんか用事でもあるのか?」
「機体は何処にあるの」
「・・・知りたければ付いて来なさい」
そう言うとフリードは歩き始めた。シルフィーは
それに続く。エセル達も続いた。
やがて一つの洞窟に入り込んだ。少しばかり歩くと、広いところに辿り着いた。そしてそこで、オメガは横たわっていた。
「ざっと見させてもらったが機体の内臓パーツに
かなりのガタがきている。新しいのに取り替えるべきだ」
「これ、飛べるの?」
「飛べるがそこまでだ。飛んだ後に内部の回路が
爆発。間違いなく墜落する。飛ぶにしても何処か
行くあてがあるのか?」
その言葉にシルフィーはハッとなる。
(そうか、ここは島。島なんだ・・・)
アルゼナルにいた理由。それはナオミを送り届ける為であり、その後は住む島を探す旅に出る予定であった。シルフィーは成り行きに近い形でアルゼナルには住んでいた。
その為何もアルゼナルが特別というわけではない。こうして住める場所があるのだからここに住めば
良いのだ。何故この様な考えが浮かばなかったのか・・・
「・・・とにかく、整備は私がやります」
「では俺たちは外で夕飯の用意をしている。飯の
時間になったら呼ぶ」
「zzzスピーーーッ。スピーーーッ」
皆が音のする方角を見た。するとドニミクが壁に
寄りかかりながら眠っていた。
「・・・まぁ放置しておくか」
こうしてフリード達は外へと出た。その場にはシルフィーとドミニクだけが残された、
機体の修理作業は難航していた。必要なパーツは
揃えられていた。だがあまりにも複雑で作業の方が中々進まないのだ。
「手伝うよ」
ふと背後から声がした。振り返るとドミニクがいた。どうやら起きた様だ。
「私の機体は私で整備する。他の人には触れて欲しくない」
「・・・本当に?」
「本当に」
「嘘」
「えっ?」
突然言われた言葉にシルフィーは動揺した。
「私には分かる。今の貴女は自分を守る為に強がっているだけ。周りに馴染めず、意地を張っているだけ。本当の貴女は仲間思いの優しい子」
「・・・・・・」
「これ以上、自分を曲げるべきじゃない」
そう言うとドミニクは勝手に整備の手伝いをし始めた。シルフィーは何も言えずに、隣で作業を続けた。二人でも作業は難航した。だが一人の時に
比べ、作業効率は確実に上がっていた。
やがて日が暮れて夜となった。月が夜空に浮かんでいる。
「今日はここまで。もう夕食。貴女も食べよう」
二人は洞窟を出た。砂浜には火が焚かれていた。
そして焚き火の周りには魚が焼かれていた。
「来たか。とりあえず食べろ」
そう言うと焼きたての魚を渡してきた。食事中は皆が楽しそうに話し合っていた。たまにシルフィーにも話を振ってくる時があった。
シルフィーに話の番が回ってきた。思い切って聞きたい事を尋ねた。
「なんで私を助けたの」
「別に。ただ困ってそうな人がいた。だから助けた。それだけだ。きっと立場が逆なら、お前も同じ事をしたはずだ」
その言葉にシルフィーはナオミの事を思い出す。
思えばあの時、ナオミを助けなければ、今、ここに私はいないだろう。
やがて食事が終わった。
「俺たちはあの洞窟の中で寝る。無理強いはせん。だが雨風を凌ぎたいならそこで寝るのがベストだ」
そう言うと皆は洞窟へと入っていった。だがシルフィーは一人、砂浜に佇んでいた。特に何かしようとか、そんなものはない。寧ろ何もしたくない。強いて言うならぼーっとしていたい。その様な感覚の方が近い
空を眺めた。すると今日の朝早くに見た夜空の風景が広がっていた。
「ここでもアルゼナルでも、空は一緒か」
不意にある疑問が湧き上がった。彼女自身、なぜ湧き上がったのか、それが分からない疑問である。
(みんな、今頃どうしてるのかな・・・・・・)
アニメの5話が序盤においてオリジナルの方を進める場面には最適だと思っている。
余談ですがオリキャラ図鑑②の製作を決めました。おそらく第3章終了時に作るつもりです。