クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 Another Story   作:クロスボーンズ

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第2話 旅立ちの時

 

誰にでも、そしてどんな場所にも朝は平等に訪れる。たとえそれが見ず知らずの島だとしても。

 

外からの光によって、ナオミは目を覚ました。ふと隣を見てみるとあの少女がいない事に気がついた。

 

外へと出てみるとちょうど彼女が帰ってきたところだ。手には魚などの魚介類が入った網を握っている。

 

「起きた?食事にするよ」

 

彼女は魚を焼いた。今日は貝のダシ汁つきである。

 

一通りの食事をすませるとナオミはずっと疑問に

思っていた事を聞いた。

 

「ねぇ、貴女はずっとここで暮らしていたの?」

 

「えぇ。そうよ」

 

「寂しかったりとかしないの?」

 

「・・・ずっと一人だったから」

 

彼女はずっとここで生きてきた。島の外の事など殆ど考えた事がない。彼女にとってナオミは外から

現れた、初めて見る人なのだ。

 

ナオミの質問が終わると、今度は少女がナオミに

質問した。

 

「で、貴女はどうするの?」

 

「え?何が?」

 

「アルゼナルだっけ。そこが貴女の島なんでしょ?」

 

「・・・」

 

その言葉にナオミは黙ってしまった。

 

「ここはアルゼナルじゃない。貴女の望んでいる

居場所じゃないわよ」

 

少女はナオミの寝言を聞いていたのだ。アルゼナルに帰らなくちゃならない。待ってる人がいるから。ナオミはそれを譫言の様に繰り返していた。

 

「別に島から出て行けとは言わないわ。でも、帰りたいなら別に気を使わなくていいのよ。待ってる人がいるんでしょ」

 

「私・・・アルゼナルに帰りたい。ココとミランダが待ってるから。でも・・・帰れないの・・・」

 

通信機も使えず、パラメイルもお釈迦となっている。正に手詰まりだ。

 

「私・・・一体・・・どうしたら・・・」

 

「それは貴女が決める事よ」

 

少女はナオミに告げた。

 

「もしここで暮らして行くのなら私は止めないわ。でも、そのアルゼナルって所に帰りたいのなら、

最後の最後まで帰る方法を考えなさい。勿論できる限りの手は貸すし、面倒も少しは見るわ」

 

「でもね。最後にどうするか、最後に何をするか。それを決めるのは自分自身にしか出来ない事よ」

 

そう言うと少女は森に昼食確保のため入っていった。その場にはナオミだけが残された。

 

「私自身が決める・・・」

 

そう呟きながら、ナオミは自分のパラメイルへと向かった。何か出来る事があるはず。そう思い機体を色々と操作していた。

 

彼女はメイルライダーだ。技術士ではない。その様な知識は専門外である。何より知識があったとしても、パラメイルにはそれを直せるような応急修理が出来る備品など積まれていない。

 

だがそれでも、彼女は色々と操作した。最後まで

諦めたくない。その思いで必死に作業を続けた。

 

「私は諦めない。絶対に・・・」

 

そう思い機体に様々な手を加えてみる。

 

「ナオミ。食事よ」

 

不意に声がした。振り返ると少女がいた。その手には木のみやキノコなどがあった。

 

実は作業に集中していたせいか、時間が立つのも

忘れていた様だ。既に時刻は2時を回っている。

 

二人は森に入り、少し遅い昼食を摂る事にした。今回の食事はキノコのスープと野草サラダである。

 

食事中。ナオミは少女にアルゼナルについて軽く話した。

 

「成る程ね。そこには沢山の人がいると・・・」

 

そう言うと少女は右手に待っていた器を口元に寄せると、一気にスープを飲み干した。

 

「あっ、それなに?」

 

この時ナオミは、少女の右腕に注目した。少女の右肩と右腕関節の中間くらいのところには腕輪が付けられていた。

 

その腕輪は、普通の腕輪と大差ない見た目をしている。しかし何処か特徴的な雰囲気を醸し出している。特に印象深いのは鉄製の羽が付いていた事だ。

 

それは言葉では言い表せない様な、何処か神秘的な雰囲気を纏っていた。

 

「それ、手作り?」

 

「・・・・・・さぁね。産まれた時から付いてたわ」

 

ナオミの質問に少女は答えた。少女自身、特に痛かったり痒かったりしない為、特に気にした事がなかった。

 

その時だった。

 

【グラグラグラグラグラグラグラグラグラ】

 

突然激しい揺れが二人に襲いかかった。

 

「何事!?」

 

これには少女も驚いた。この島では地震など特に珍しい事ではない。だが今回の揺れは過去に例のないくらい激しい揺れである。

 

「ねぇ!あれを見て!」

 

ナオミの指差す方を少女は見た。それを見た瞬間、地震の原因が判明した。そこには山が佇んでいた。その山の頂上から煙が上がっているのだ。

 

先ほどの揺れは火山が噴火した為に発生したものだ。頂上からは火山岩や火山灰などが降り注いできた。

 

すると何かがこちら目掛けて飛んできた。

 

「危ない!!!」

 

間一髪のところで火山岩を避けた二人。だが森には火山岩などが直撃した。森はたちまち火の海へと

変わり果てた。

 

「ここは危ないよ!!」

 

そう言うとナオミは少女の手を掴み、急いで砂浜に打ち上げられたパラメイルへの元へと駆け付けた。

 

「お願い!動いて!!」

 

必死に色々な操作をする。機体を一発叩いたりもした。

 

だが機体はそんなナオミを馬鹿にするかの様にウンともスンとも言わなかった。

 

「・・・ねぇ。これでどうするの?」

 

「これを使って飛んで避難するんだよ!」

 

「これ、飛べるの!?」

 

「・・・駄目だった。今のこれじゃあ飛べないよ・・・」

 

すると外にいた少女は何かを考えていた。

 

(飛べる・・・もしかしたら・・・)

 

「付いてきて!!」

 

少女はそう言うと駆け出した。

 

「えっ?ちょっと待ってよ!」

 

ナオミもコックピットから降りると、慌てて追いかけた。

 

二人は、この島の寝床となっている洞穴へと入っていった。そしてその足で、洞穴の奥地へと進んで行った。

 

少し走っただろうか。やがてある一つの塊が目に留まった。それに被さっていたシーツを剥ぎ取る。

 

「ねぇ。これって使えない?」

 

その塊は白色を基調としていた。そしてボディの所々に赤いラインが薄っすらと色づいている。翼の様なものが4つ付けられている。それはこの島に

おいて、少女が知っている唯一の人工物である。

 

「これは・・・パラメイル?」

 

その機体はパラメイルに酷似していた。だが、その機体はナオミの知っているどのパラメイルの型にも当てはまらなかった。

 

「グレイブ?ハウザー?アーキバス?・・・いや、この際なんでもいい。お願いだから動いてよ」

 

ナオミはコックピット部分に乗り込んだ。動くという希望を信じて。

 

だが次の瞬間、それは絶望へと変わった。この機体も墜落したナオミのパラメイルと同じ様に一切の操作を受け付けないでいた。

 

「そんな・・・なんで動かないの!?」

 

慌ててコックピットから降りて機体を確認する。だが特に異常や異変などは確認できなかった。しかし動かない。

 

再びコックピットに目を向けた。そこで更に絶望する事態が判明した。あのコックピットには機体を操作するためのハンドルなどが見受けられなかった。

 

「そんな・・・」

 

ナオミは膝をついて崩れ落ちた。やっと見つけた希望の糸が目の前でプチンと音を立てて切られたのが感じ取れた。

 

「ごめんね。ココ、ミランダ。私、ここでお終いみたい・・・」

 

「やっと・・・夢が叶ったのに・・・メイルライダーになるって夢が・・・でも、ここまで見たい・・・」

 

自分の死を悟り、目から涙がボロボロと零れ落ちていった。先程、最後まで諦めないと決めたはずなのに、既に心は諦めていた。頭では諦めたくないのに、心が、そして身体がそれを受け付けないでいた。

 

 

 

 

その時である。

 

「人は矛盾を抱えて生きている」

 

「えっ?」

 

突然、ナオミの耳にその声は届いた。

 

「頭で理解していても、理解した事を実際の行動に移すのは難しい。それは誰しもが持つ感覚だ。決して恥じる事ではない」

 

謎の声は続けた。

 

「人の夢と書いて【儚い】と読む。人の持つ夢とはそれ程までに脆く、そして崩れやすいものだ。だからこそ夢とは人が持つべき価値があるものだ」

 

その様な声がした。ふと奥を見た。この時ナオミは、一瞬だが暗がりの奥に誰かの人影を見た。

 

涙を手で拭い、もう一度確認してみる。

 

そこには誰もいなかった。涙によって反射で見えた虚像だったのだろうか。

 

(今のは・・・一体・・・)

 

 

すると先程までの外にいた少女が、突然その機体に乗り込んだ。そして何かを探すようにしている。

 

「機体操作に必要なのは・・・これか!?」

 

少女は機体のボックスから何かを取り出した。それはその機体を操作するためのコントロールユニットであった。

 

「それって・・・機体のコントロールユニット?」

 

「えっと、ここか!!」

 

少女はその機体の差込口にも似た所に、そのコントロールユニットを差し込んだ。するとそのユニットからコックピットの機器が一瞬だけ光った。

 

その時だった。突然少女に目眩が襲いかかった。

 

「くっ・・・」

 

激しい目眩に少女は目を閉じた。そして次の瞬間、目を開けると辺りの様子が一変していた。

 

「何・・・ここ・・・」

 

先程までいたコックピットではない。彼女の目の前に広がる光景。それは焼け野原であった。あたり一帯には、破壊された風な光景が広がっていた。何よりその場の空気は完全に死んでいた。凍りつくような、まるで全てが死に絶えた様な世界であった。

 

この時少女は、底知れぬ絶望を感じ取った。

 

「うっ・・・」

 

突然少女が倒れた。息が苦しい。いや、そもそも呼吸さえままならない状態になっていた。

 

「・・・何で・・・何で私は・・・」

 

掠れる声で少女は呟いた。何か言葉を紡ぎだそうとするが、何を言えばいいのか全くわからない。何より、何故この様な事を言おうとしたのかさえ、彼女には分からなかった。

 

この時少女は死を覚悟した。

 

その時だった。

 

「〜〜♪♪」

 

突然歌が聞こえた。優しい歌であった。すると地面に倒れて伏していた彼女のの身体が持ち上げられた。そして何かが少女を優しく包み込んだ。すると先程までの息苦しさが嘘の様に消え去った。

 

歌は囁くように続けられた。

 

「〜〜♪♪」

 

(この歌は・・・)

 

彼女にとってそれは、幼い赤子をあやす子守唄であった。少女の意識が朦朧とし始めた。いや、眠くなってきたと言うべきか。その眠気は、安心できる場所がそこにある為の安心感から来ていた。

 

(・・・あれ・・・今・・・)

 

少女の瞳が閉じる瞬間、少女には、自分の腕輪が光った様に見えた。そして瞳を閉じた次の瞬間、少女の意識は優しく溶けていった。

 

 

 

「・・・はっ!」

 

気がつくと少女はあの島へと戻っていた。いや、実は初めからそこにいたのだ。先ほどの出来事、それはほんの一瞬の出来事だった。時間にして1秒もたっていない。

 

「え・・・何・・・今の・・・」

 

少女は先程までの光景を覚えている。優しい歌も覚えている。一体あれは何なのか。

 

すると先程までウンともスンともいわなかった機体が突然稼働し始めた。ボディには紅いラインの色が浮かび上がる様に光だした。4つの翼から熱が放出され始める。

 

「動いた!?」

 

外にいたナオミは驚いた。機体は僅かながら前進をしていた。

 

「ナオミ!乗って!」

 

「うっ、うん!」

 

コックピットから出された手を掴みナオミはコックピットに乗り込んだ。少女の髪の毛が気になったが、そんな事を言っている場合ではない。

 

少女は機体の操作を難なくこなしている。

 

「分かる・・・機体の動かし方が!」

 

それは知ったと言うより、流れ込んで来たと言った方が良いのかも知らない。機体は徐々にだが前進し続けた。途中岩などで痞えるかと思いきや、それらを蹴散らして機体は加速し続けた。

 

そして洞穴の出口へと辿り着いた。

 

出口から飛び出した直後、マグマが洞穴を飲み込んだ。

 

間一髪のところで二人は島を脱出したのだ。

 

二人とも呆然としていた。ナオミは命からがらだったからだ。だが少女が呆然としているのは、別の理由だ。

 

「今のは・・・一体・・・」

 

実は彼女には、洞穴から飛び出す直前この時、

一瞬だけ外の光を受けたあるものが目に入った。

 

それは男である。一瞬とはいえ、右目に傷を負った、黒ローブ姿の男が少女の目には映った。そしてその男は確かにこう言った。

 

「行け!アルゼナルへ!!」

 

その言葉を最後に、次の瞬間マグマは男諸共洞穴を飲み込んだ。

 

あれはなんだったのだろうか。気のせいなのか、見間違いなのか。彼女は再び底知れぬ不安を感じたのだ。

 

「見て!島が!!」

 

ナオミの声で、少女は我に帰る。振り返って見てみた。そしたらなんと島が徐々にだが海へと沈んでいるではないか。

 

数分後には、先ほどあった島はその姿を海中へと消した。

 

その付近には少女とナオミ。そして機体だけが残された。

 

「私達も危なかったね」

 

もし、あと少し遅ければ、二人は火山流に飲み込まれ、マグマの餌食となっていただろう。

 

「・・・アルゼナルだっけ?」

 

「え?」

 

突然少女がナオミに問いかけてきた。

 

「アルゼナルって所に帰りたいんだっけ?」

 

「うん」

 

「・・・送るよ」

 

「え!いいの!?」

 

「ええ。名もなき島が沈んだ以上、私は新しく生活できる場所を探す。そのついでよ」

 

「ありがとう!!」

 

ナオミは少女に感謝した。アルゼナルへの帰還の

目処が立ったのだ。

 

最後に、少女は島のあった方を振り向いた。

 

「・・・・・・」

 

少女は何も言わず前を向き直し、機体を加速させその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかここにいたとは・・・」

 

とある場所で、ある男が一人いた。

 

その姿は、スーツ姿の金髪男である。手には先程

まで読んでいたのか、本が開きっぱなしである。

 

スーツの男は、モニターに映し出されている少女の姿を見ていた。

 

「これまでどうやって隠れていたかはわからない。だが腕輪もちゃんと所持している」

 

「・・・多少の手を検討するべきか」

 

そう言うと男は手にしていた本を閉じ、静かに立ち上がった。

 

そしてほくそ笑みながら一言呟いた。

 

「待っているがいい。・・・運命の子よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

それと同じ頃、海の底沈もうとしている名もなき島。

 

そこにはあの男がいた。右目に傷のある、黒のローブを身に纏った男だ。身体には特に火傷などで苦しんでいる様子も跡も見受けられない。

 

「島よ。暫しのお別れだ。来たるべき時、再びここに来るだろう。だからそれまで【アレ】を守る為に、安らかなる眠りにつきたまえ」

 

そう言うと男は海の中から空を見上げた。

 

「・・・アルゼナル。虚無の楽園。果たしてそこに意味はあるのか・・・」

 

そう言い男は姿を消した。島は尚も海底深くへと沈んでいった。

 

 

 

 

 

そして少女とナオミには、ある問題が起きていた。

 

「ナオミ。そのアルゼナルって後どれくらい?」

 

「えっ?知らないよ?知ってるんじゃないの?」

 

「え?でも、そこから来たなら帰り道もわかるんじゃ・・・」

 

「私、墜落しちゃったから。その後は流されてあの島に着いたの。だからアルゼナルが何処にあるのかなんてわからないよ」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

お互いが黙りあった。そしてナオミが仮説を立てた。

 

「もしかして私達・・・迷子!?」




少女の名前が決まるのはおそらく第5話になると思います。機体名は更に遅くに決定します。
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