クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 Another Story 作:クロスボーンズ
「おーい!だれか聞こえてますかー?死んでいますかー?死んでいるなら死んでいるって言って下さーい」
ヴィルキスの通信機越しに、無邪気な声が聞こえてきた。その声を二人とも知っている。一週間ぶりの懐かしい声だ。
(この声、ヴィヴィアン!)
「こちらアンジュ!生きてます!救助を要請します!」
「アンジュ!無事なのね!」
通信機越しにサリアの安堵した声が聞こえてきた。
「サリア。アンジュのいる場所を特定したよ。後
40分程度でたどり着くから、待ってて!」
ナオミがそう言うと、通信は切れた。
「私、帰るわ」
アンジュが砂浜からタスクを引っこ抜き、そう言った。
「今はあそこが、私の帰る場所の様な気がしたから。それに・・・やり返さないといけない奴がいるし」
アンジュの脳内にヒルダが浮かんだ。
「さて、シルフィー。貴女はどうするの?」
隣で何も言わずに聞いていたシルフィーに話を振った。それにシルフィーは何も答えなかった。
「悩んでるなら、一緒に来ないか?」
後ろから足音が聞こえてきた。振り返るとシオン達がいた。どうやらさっきまでドラゴンの死体の処理をしていた様だ。
「俺達と来ないか?別段変わった事は無いぜ」
「・・・帰るわ。私も」
今まで黙っていたシルフィーが口を開いた。
「・・・そうか。アルゼナルに帰るんだな」
「ええ。島で過ごした時間はとても楽しかった。でも、私もアンジュと同じ考え。今の私には、あそこが帰る場所の様に思えたから」
「良い事です。帰る場所で待ってる人がいる人は
幸せ者です」
「幸せ者・・・か」
「・・・そうか。まぁそれがあんたの選んだ道なら、私達は止めない」
隣で話を黙って聞いていたエセルが口を開いた。
「だけど、これだけは覚えておきな。道ってのは
基本二つに分かれている。だからどちらかの道を進むには、選ばなかった道を切り捨てるって事になる。いずれ、大事な決断をする時が来るかもしれない」
彼女の瞳は真剣な眼差しでシルフィーを見つめていた。
その時不意に昨日の戦闘を思い出す。そしてあの時現れたオメガに酷似した機体。それらも思い出す。
「そう言えばあの機体。オメガと酷似してたけど、一体あの機体はなんなの?貴方達は一体?」
するとシオンは懐から何かを取り出した。それは砂時計であった。手の上の砂時計をひっくり返すと、砂が下へと零れ落ちて行く。
【サラサラサラ】
「この砂時計は三分で砂が落ちきる。それ以上でも、それ以下でもない。きっちり三分だ」
やがて砂は全て下へと落ちていった。三分経ったというわけだ。
「この砂時計は三分という時間をかけて、今の状態となった」
シオンが再びひっくり返す。砂は再び零れ落ち始めた。
「答えを急ぐ必要はない。今はこの様に、ゆっくりと砂が落ちている状態だ。それに近道も遠回りもない」
「いずれ道が交わった時、その疑問に答えを出そう」
様は今は答えるつもりはないというわけだ。だが、シオンはとあるノートをシルフィーに渡してきた。それにはオメガの整備方法が詳しく記されていた。
「ねぇねぇ二人とも!手を出して!」
言われた通りに二人が手を出した。するとミリィは二人の手の甲に指で何かをなぞる風に書いた。そして書き終わると目を閉じて手をお祈りの形にした。
「たとえ何処にいても、ささやかな幸せが貴女と共にあらん事を」
どうやらおまじないの類の様だ。
「では我々はこの辺で。もし道が交わったら再び会おう」
そう言うとシオン達が機体に乗り込んだ。次の瞬間、機体は空を飛び、直ぐにはるか彼方へと飛び立って行った。
「タスク!いい事!?貴方と私はなにもなかった!何も見られてない!何も触られてない!何も吸われてない!いいわね!」
「はいっ!」
「貴女もよ!この男の事は黙ってなさい!」
「いいわよ。その代わりシオン達の事も、貴女は黙ってなさい」
「いいわよ。お互いに弱みを握った買収成立ね」
そう言うとお互いが握手をした。それを見届けた後、タスクは森へと入っていった。
やがて輸送機が島へと降り立った。
「アンジュ!無事だったんだね!よかったぁ!!・・・シルフィー!シルフィーも無事だったんだね!」
ナオミが泣きながらアンジュに抱きついてきた。
やがてシルフィーに気がつくと同じ事をした。二人ともそれを拒まずわ黙って受け止めた。
(あらあら、二人とも少し見ない間に、ちょっと変わったかしら?)
エルシャがそう思っている中、輸送機に機体を入れる作業が始まった。輸送機は二機とも収納する事が出来た。
やがて輸送機はアルゼナルを目指し、飛び立った。輸送機内ではアンジュとシルフィーが暖かい飲み物を飲んでいる。
「その、ナオミ。エルシャ。ヴィヴィアン。サリア。四人とも、助けに来てくれて、ありがとう」
「ありがとう」
アンジュが礼を言った。シルフィーもそれに続いた。
「アンジュ、名前・・・」
「・・・ねぇヴィヴィアン。ペロリーナだけどまだある?私のコックピット、何にもないから」
「うん!」
するとヴィヴィアンはポケットからペロリーナを取り出した。
「ちょっとカレー臭いけどいい?」
「・・・やだ」
その言葉に皆が笑った。そんな中、ヴィルキス達の所にいたメイがやってきた。そしてシルフィーの前に来た。
「シルフィー。お願い!機体を私に整備させて!
一度でいい、整備士としの私の腕を信じて!!」
メイが深く頭を下げた。
「・・・」
(本当の貴女は、仲間想いの優しい子。これ以上、
自分を曲げるべきではない)
島でのドミニクの言葉が蘇る。
やがてシルフィーは黙って立ち上がると、機体の元へと歩いていった。コントロールユニットを差し込み、機体を起動させる。内部構造などの蓋部分を取り外した。
「・・・なにこれ」
オメガの内部構造は他のパラメイルと比にならない程複雑なものであった。何のパーツなのか、よくわからない部品などが拵えられていた。
「これに整備方法や必要なパーツとかについて簡単に記されている。必要なら使いなさい」
「えっ?」
驚くメイを他所にシルフィーは機体の整備マニュアルをメイに手渡した。
「信じるって事よ。メイ」
サリアが補足するかの様に説明する。そして補足を聞きメイの顔が笑顔になる。
「よし!アルゼナルに戻ったら!分解して調査だ!!」
「・・・」
その言葉を聞き、奥からシルフィーが睨みつけている。
「・・・・・・分解せずに整備だ!」
言い直したメイの言葉に輸送機にいた皆が笑った。今この瞬間、隔たりの壁がかなり薄くなったのを皆は感じ取れた。
時を同じくして、タスクは島のある所にいた。そこは銃にヘルメットで作られた彼の仲間の墓であった。
しばらく彼はそこにいた。やがてタスクは洞窟の中に入っていった。シーツを剥がす。そこにはパラメイルがあった。
(父さん・・・母さん・・・やっと見つけたよ・・・)
(父さんと母さんが死んで・・・仲間を失って・・・ヴィルキスを守るという自分の使命に向き合うことから逃げていた)
(この森で・・・一人死ぬことも出来ずにその日暮らしを送っていた)
(そこにヴィルキスと共にアンジュが現れた。凶暴で、人の話を聞かなかって、まるで野獣で、本当に彼女を選んだのか疑わしかった・・・)
(でも・・・たとえ不利な相手とも戦い、生きようとする姿は・・・美しく・・・眩しかった)
パラメイルに乗り込み、エンジンをかける。
(俺も生きよう・・・!!彼女の様に!自分の手と足で!)
(ただのタスクは今はいない)
(ここにいるのはタスク。ヴィルキスの騎士、イシュトヴァーン。メイルライダーバネッサの子、タスク!)
(そして・・・アンジュの騎士だ!)
決意を新たにタスクは島を後にした。その目は、
前を見据えて生きる者の目をしていた。
「あのドラゴンども。どういう事か説明してくれるかな?」
とある場所でスーツ姿の金髪男が言った。目の前にはリラがいる。
「別に。私には私の協力者がいるってとこかな?」
リラはくつろいだ体制のまま答えた。
「君があの子と接触した事はわかってる。腕輪が
狙いなのかな?」
「さぁね、腕輪が欲しいのは君の方じゃないの?」
リラが目の前の人物を睨みつけるかの様に見た。
「とにかく、あの子に対しては手出しを禁止とする」
「言うねえ。美味しい七面鳥を食べたいならまずは太らせるって判断なのかな?・・・忘れないで、
僕達はあくまで利害の一致で成り立ってるだけ。
利にならないなら僕は君を切り捨てるつもりだよ」
「それは私とて同じ事だ」
「言ってくれるじゃない。エンブリヲ・・・」
そう言うとお互いがグラスを手に取り、中の水を
飲み干した。
(ま、タネの仕込みは終わってる。後は水を与えて芽が出るのを待つか・・・)
水を飲みながら、リラは不気味にほくそ笑んだ。
こちらは現在飛行中のシオン達。シオン自身はアルファの機体先端に突っ立っている。
「・・・本当によかったのか?シオン」
「・・・あいつはあいつで道を選んだ。ならば今は道が分かれているだけ、このまま平行に進むのか、それとも何処かで交わるのか、それはまだわからん」
「でも残念だなぁ。また昔みたいに戻れると思ったのに」
「シルフィーさん。あの様子じゃ何も覚えてないみたいです・・・でも、その方が彼女の為ですよ」
「カリス。少し違うぞ。あの子は覚えてないわけじゃない。おそらく断片的に色々なビジョンを見てる。ただそれらを理解してないだけだ」
「では、もし彼女が全てを思い出したら・・・」
「その時はその時だ」
そう言うとシオンは自分の右目辺りを摩った。彼の言葉には、決意の様なものが強く秘めていた。
「じゃあシオン。本題に移ろう。調査の方はどうだったんだい?奴等の居場所を探りにいったんだろ?」
するとシオンが急に重い面持ちとなった。
「見当はついた。あいつらがいる場所はおそら
くミスルギ皇国だ」
「ミスルギ皇国って、確かあのアンジュって子が
ノーマだとばれて、滅びた国だよな」
「その事なんだが、少し言いにくい事になった」
「なんだよ。勿体ぶらずに言ってみろよ」
「・・・」
最初は黙っていたが、やがてシオンは前を見据えながら、その口を開いた。
「あの国は異常だ」
苦々しく、そして重々しくただ一言、そう呟いた。
前回が長かった分、今回は短めでしたね。
今更ながら言っておきますが、この作品は原作にはあったシーンがオリジナル部分や容量の都合上、
変化したりカットされたりしている箇所もあります。