クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 Another Story 作:クロスボーンズ
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あの後、一通りの今日の訓練が終わった。現在シルフィーとナオミは廊下を歩いている。
「ねぇシルフィー。隈が出来てるよ。寝不足?」
ナオミの心配する声がしたが彼女は反応を示さなかった。心の内に抱えた疑問。それと向き合っているからだ。
(あの夢。一体なんだって言うの・・・)
あの時見た二つの夢。ヴィルキスに似た機体。そしてそれらを破壊した謎の機体。もう一つ、アルゼナルが水没した夢。
どちらも一つだけ共通点と思わしきものがあった。オメガだ。あの機体には人が乗っている。正確に言うならば乗っていた。どちらも人の骸があった。あれの意味はなんなのか。彼女には分からなかった。
「ねぇシルフィー。今日もオメガで寝るの?」
ナオミが不安そうに尋ねる。しかし、流石にあんな夢を見ておいて、今日もオメガで寝る度胸は今の彼女には無い。
「・・・今日は部屋の床で寝るわ」
そう言いシルフィーが部屋の扉を開けた。すると
開けたドアの隙間から妙な匂いが漂ってきた。
「?」
不思議に思い、ドアを全開にする。臭いが更に強まった。
「・・・なんじゃこりゃ・・・」
二人が素で目の前の光景に驚いている。二人の目の前に広がる部屋の光景が異常だからだ。
「この部屋。ココが持ってた絵本の世界みたい」
「臭いのもとはあれか」
テーブルの上にはお香の様なものが焚かれていた。シルフィーが排除しようと部屋へと入ろうとする。すると部屋の中にいたモモカさんが両手を広げ、
二人を部屋の外へと押し出してきた。
「ダメです!ここはアンジュリーゼ様のお部屋です!部外者は立ち入り禁止です!」
どうやらこの部屋の飾り付けはももかさんが行ったらしい。
「この部屋の飾り付け、モモカさん一人でしたの!?」
「そうです!アンジュリーゼ様はアンジュリーゼ様。ならば筆頭侍女としてそれに相応しい部屋として飾り付けるのは当然のことです!」
「そう。貴女がしたの」
背後から声がした。振り返るとそこにはアンジュがいた。その目は、目の前の光景に一切笑っていない。
「アンジュリーゼ様!アンジュリーゼ様には皇女の時の感覚を思い出して貰わないと!」
「戻しなさい。今すぐに」
喜びながら言うモモカさんに一言冷たく呟くと、
アンジュは部屋の入り口を後にした。彼女の方はあっけにとられていた。
「・・・ナオミ。今日貴女の部屋で寝かせてもらうわ」
「・・・いいよ」
目の前の光景に呆気にとられつつ、二人も部屋の入り口を後にした。
因みにこの後、モモカさんがしでかした色々な事が露見したらしい。ロッカールームのロッカーをドレス入れにしたり、厨房の食材でアンジュ専用の料理を作ったり、踏んだり蹴ったりである。
これ程の資材をどうやって手に入れたのか。それは最大の謎だ。
現在シルフィーはナオミの部屋にいる。とは言え
部屋自体は特に変わった所のない、普通の部屋である。
「じゃあ、シルフィー。おやすみ」
「おやすみ」
部屋の電気を消し、ナオミはベットに潜り込む。
シルフィーも隣の地面に横たわる。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・えっ?ちょっ、ちょっと!シルフィー!?」
なんとシルフィーはナオミのベットに潜り込んで来た。床は冷たくて眠るのには適さないらしい。これはこれで夜這いとはまた違った面白さである。
流石に顔を間近で見合わせるのは恥ずかしいのか、お互いが背を向けている。
「・・・シルフィー。まだ起きてる?」
暫くして、ナオミが話しかけてきた。
「起きてる」
「こうして寝るのって、島で初めてシルフィーと出会った時以来だね」
「そう。あの時は驚いたわ。自分以外の人間に・・・ありがとう」
「えっ?何が?」
「あの時、私の前に現れてくれて、ありがとう」
「島での暮らし・・・本当は寂しかった。何をしてもずっと一人。同じ事を繰り返すだけの日々が」
「そんな時にナオミが現れた。嬉しかった。新しい出来事が自分に訪れた事が。もしナオミが現れなかったら、きっと私はあの島と一緒に沈んでた。誰とも出会う事もなく、たった一人で。だから私は、
貴女に感謝してるのよ」
ナオミは黙ってそれを聞いていた。
「・・・柄にも無いわね。私はもう寝る」
そう言いシルフィーは会話を終了させた。
(シルフィー。私だって、貴女がいなかったらきっと死んでた。生きていても、きっと手詰まりで私自身が自暴自棄になってた。シルフィーがいたから、今の私がいる。感謝するのは私の方なんだよ・・・)
やがて二人の瞼が静かに降りた。この日シルフィーが見た夢は、悪夢ではなく、優しい夢である事を願おう。
次の日、第一中隊は射撃訓練中だった。
「知ってるかい?あの侍女、殺されるんだってよ?」
「マジで!?」
「アルゼナルやドラゴンは一部の人間しか知らない極秘事項。そんな所に来た人間を生きて返すわけがない」
「あいつに関わった奴はみんな死ぬ。ココやミランダもそれで死んだ。あの子もだ。慕ってくれる奴をみんな地獄に叩き落とす」
「あいつに関わった奴はみんな死ぬ」
「酷い女だよ。ホント」
ヒルダ達三人がいつものようにアンジュの悪口を言う。当のアンジュ本人は全く気にしていない様子だが。
訓練が終わり、アンジュが食事をとっているとモモカさんが隣に座った。手にはノーマ飯のプレートを持っていた。
「なにそれ・・・?」
「多分ここでの最後のお食事になると思いますので、きちんと頂こうと思いまして。あっ、勿論お金も払いましたよ。」
「それでは、いただきます。!?これは・・・なかなか個性的な味ですね・・・」
不味い様だ。するとアンジュが突然立ち上がった。
「アンジュリーゼ様?」
「お風呂よ」
「あの・・・お背中をお流ししてもよろしいでしょうか?」
「・・・好きにしなさい」
「はっはい!」
お風呂場にて。野外風呂には先客にシルフィーがいた。
「二人ともお風呂?」
「当たり前でしょ。他になんの用事があるのよ」
半ば呆れながらアンジュが隣の椅子に座る。
「懐かしいです。こうしてお背中を流させて頂くのは・・・」
「・・・モモカ。シルフィーの背中も流してあげなさい。貴女の為にわざわざ部屋を開けてくれたのよ」
「アンジュリーゼ様のご命令とあらば」
そう言うとモモカさんは彼女の背中を流し始めた。
「シルフィーさん。部屋を開けてくださりありがとうございます」
「気にしないで、私が好きでやった事だから」
するとモモカさんがシルフィーの右腕を見た。そこには腕輪がつけられている。
「シルフィーさん。お風呂の最中も腕輪は外されないのですか?」
「あぁ、これか。ちょっと訳ありと言うか、なんというか・・・まぁ大切な物だとは思うし、肌身離さずつけてるだけよ」
「・・・実は私にも右腕にあります。決して色褪せない。大切な物が」
そう言うとモモカさんは二人に自分の右腕を見せた。するとそこには何かでついた傷があった。
「その傷、まだつけてたの?」
アンジュが驚いた風に言う。
「はい。マナを使えば元どおりになると言われたのですが・・・思い出の傷なので」
そう言うとモモカさんは語り始めた。
昔の記憶。大切な思い出を・・・
まだアンジュが幼かったころのお話。
【ガッシャーン!】
部屋から大きな音がした。それに驚いたアンジュは慌てて駆け付ける。
「何ごと!?」
「も、申し訳ありません・・アンジュリーゼ様。大事なお人形を」
その手には壊れた人形が握られていた。しかしアンジュの目にはそれ以上にある物が強調されていた。
「あなた・・・怪我してるじゃない」
モモカさんの右腕からは血が流れていた。するとアンジュは自分の着ていたドレスを破り、その切れ端でモモカの手当てをした。
「アンジュリーゼ様・・・そのドレスは」
「バカ!人形やドレスはまた作ればいい!でもあなたはたった一人なのよ!」
「アンジュリーゼ様・・・」
「これで大丈夫ね。割れ物は裏の木の下に埋めるといいわ」
「え?」
「ナイショよ?」
「アンジュリーゼ様・・・」
モモカが話し終わる。
「そんな昔の事・・・」
「私は決して忘れません。今の私がいるのも、アンジュリーゼ様がいたからです」
「これからも・・・ずっとお慕いしております。アンジュリーゼ様」
その言葉にアンジュは動揺する。射撃訓練中にヒルダ達の会話が脳裏をよぎった。やがて絞る様な声でアンジュが言い出した。
「出て行け・・・」
「え?」
「出て行くのよ」
「はい。明日には。だから今は」
「違う!今すぐよ!マナを使えば海を渡ったり潜ったりくらいは出来るんでしょ!?今すぐ逃げない!モモカ!」
当初モモカさんはあっけにとられていたが、やがて笑いながら一言だけ呟いた。
「・・・やっと呼んでくれました。モモカって」
その事にアンジュ自身が一番驚く。
「ですが・・・時間のある限り、アンジュリーゼ様のお側に居させてください。私モモカ荻野目は・・・アンジュリーゼ様の筆頭侍女なのですから」
「・・・バカ」
(昔の大切な思い出・・・か。私には何も残っていない)
シルフィーはその話を聞いていた。何も言わずに、何も聞かずに、ただ目の前の鏡を見つめていた。湯煙と泡でよく見えなかったが、彼女には一瞬だけ、鏡の中の自分が黒髪をしている風に見えた。
【ビーッビーッビーッビッ!!!】
風呂場に警報が鳴り響いた。シンギュラーが開かれ、ドラゴンが現れた。遂に狩の時間である。
「行くわよシルフィー」
二人が泡をざっと流すと風呂場を離れようとした。
「あの、アンジュリーゼ様!どうかご無事で」
モモカの声にアンジュが一瞬立ち止まった。だが
直ぐにその場から駆け出した。
発着デッキでは機体の発進作業が急ピッチで進められている。
「頑張って稼ぎなよ〜?あの子の墓石の分も。」
「うっわぁ悪趣味〜」
出撃準備中、いつもの様にロザリーとクリスが言う。そんな中、ジル司令がアンジュの側に寄ってきた。
「アンジュ。夜明けに輸送機が到着する。元侍女の世話は現時刻をもって終了とする。ご苦労だった」
ただそれを告げると、ジル司令はその場をそそくさと去っていった。やがて発進準備が整い、第一中隊の機体はその身を夜空へと向かわせた。
そんな中、戦闘中域に向かうアンジュはアルゼナルで見たモモカさんの出来事が脳裏をよぎっている。
(騙していたくせに!ずっと!・・・騙していたくせに!)
風呂場で見たモモカさんの顔が脳裏をよぎる。
無意識の内にアンジュはヴィルキスを加速していく。
ドラゴンとの戦闘が終わり、第一中隊が帰還した。皆が様々な表情を浮かべている。
「あいつ!私の機体を蹴飛ばしやがって!」
「私なんて邪魔者扱いされたよ」
この様に不快感を示す者もいれば、感嘆の声を上げる者もいた。
「いやぁ!今日のアンジュ超キレッキレだったにゃぁ〜」
「何言ってるの!重大な命令違反よ!」
ヴィヴィアンの言葉にサリアが怒る。
「それにしても・・・一人でドラゴンを全部狩るなんて、聞いた事がないわ!」
そう、今回の出撃。なんとアンジュは一人でドラゴンを全部倒したのだ。メイルライダーにとってドラゴンを倒す事はキャッシュを稼ぐ一番の方法だ。パラメイルの燃料や弾薬などもドラゴンを倒して稼ぐものである。貯金のある者はともかく、貯金のない者には今回の出撃は大赤字なのだ。
「そういえば、アンジュはどうしたの?」
「確か今日の報酬を貰いに行ったはずよ」
「・・・成る程。保険は貼っておくべきね」
そう言うとシルフィーもその場を離れた。
夜明けとなった。モモカがアルゼナルを去る日だ。
「ではお世話になりました。僅かな時間でしたが、とっても幸せでした。アンジュリーゼ様にもそうお伝え頂けますでしょうか?」
「わかったわ」
エマ監察官がそう答える。
「ではこちらに」
「・・・!?」
エマ監察官は彼女の持つ銃剣に目が行った。とてもじゃないが移動用の輸送機の人が持つ代物ではない。この人達はモモカさんを輸送機内で始末して、遺体を海に放棄する魂胆らしい。
「わかりました」
しかしモモカさんは特に気にする様子も見せず、輸送機に向かって足を進める。
「待ちなさい!!」
その言葉に皆足を止めた。振り返るとアンジュがいた。両手にはキャッシュの入った袋を持っていた。
「その子!私が買います!」
「は?・・・はぁぁぁぁぁッ!?」
エマ監察官が驚きの悲鳴をあげる。
「ノーマが人間を買う!?こんなボロボロの紙屑で!?そんな事が許されるわけないでしょ!」
「人身売買かい。だとしたらもう少しばかり値を
貼らせてもらいたいねぇ・・・」
【ポン】
エマ監察官とジャスミンの前に袋が投げられた。中にはそれなりのキャッシュの束が含まれていた。投げた主はシルフィーである。
「これ使えば?」
「シルフィー。貴女・・・」
「モモカさんには背中を流してもらったし。その分のお礼よ」
そう言うとシルフィーはその場を後にした。
「うーんなるほど。この額なら問題ないね」
「額の問題じゃありません!いいですか!!ノーマと言うのは不潔で野蛮で交戦的で!!!」
「良いだろう」
エマ監察官の話を遮るかの様にジル司令が言う。
「ジル司令!?」
「金さえ積めば何でも手に入る。それがここ、アルゼナルのルールですので」
そう言うとジル司令はその場を立ち去る。
「いや・・・そのちょっと・・・司令〜」
後ろからエマ監察官がジル司令の後を追いかけ、ジャスミンは満面の笑みでキャッシュを数えながらその場を離れた。
銃剣持った人も最初は動揺していたが、やがて諦めて、輸送機に乗り込む。そして輸送機は離陸した。
その場にはアンジュとモモカさんだけが残された。彼女は状況が理解できないでいたが、やがて事態を飲み込んだ。
「ここにいても良いのですか・・・?アンジュリーゼ様のお側にいても・・・良いのですか・・・?」
「・・・アンジュ。私はアンジュよ!」
「はい!アンジュリーゼ様ぁ!」
そう言うとモモカさんはアンジュに抱きついた。
こちらは、現在海の上を飛んでいる輸送機にて。
「まさかノーマが人間を買うだなんて・・・」
「委員会から始末を命令されてたのに。私達、きっと大目玉を喰らいますよ。どうします?」
【ビーッ!ビーッ!】
「おい、通信が入ったぞ」
「あーあ。噂をすればなんとやら。だりぃ」
愚痴りながら通信機を取った。するとそこからは怒鳴り声はしなかった。そのかわり、無邪気な子供の様な明るい声で、二言だけ通信が送られてきた。
「邪魔。死んで」
次の瞬間。突如として機体が爆発を起こした。原因は不明であるが、輸送機は木っ端微塵となった。機体の残骸や人間の身体の一部などが海めがけて降り注いで行く。
そんな中、海の上に一人佇む少女がいた。リラだ。彼女は上での出来事を見ていた。
「・・・汚ねぇ花火だ」
彼女はつまらなそうに、だが何処か気取った風に
一言呟いた。
(仕込んだ種は未だ目覚めない。まぁ焦っていても
仕方ない。作戦とは常に二手三手先を読むものか・・・いい機会だ。保険ついでにあいつらの所にでも行くか)
次の瞬間、リラの姿がその場から消えた。リラのいた場所には、輸送機や人間の残骸などが散らばるだけだった。
アニメの第6話が完結しました。
最近、自分が燃え尽き症候群になったと自覚してしまった。このままではサティスファクション出来ない。
何か新しい目標を見つけなけれ・・・