クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 Another Story   作:クロスボーンズ

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第25話 たった1日の休日

 

今日のアルゼナルは妙に慌ただしい雰囲気であった。皆がそわそわとせわしなく動いている。まるで何かが来るのを心待ちにしているかの様に。

 

そんな中、アンジュだけは気分が上の空であった。

 

(お姉さま!アンジュリーゼお姉さまぁ!!)

 

目を閉じると、妹シルヴィアの叫びが今も耳鳴りとして痛いほど響いてくる。

 

(シルヴィア。貴女に一体何が・・・)

 

すると突然ヴィルキスが射出された。突然のことにアンジュは驚く。

 

「ウワァァァ!なっ、何するのよ!」

 

「ぼさっとしてるからよ!」

 

アンジュは気づいてなかったが、実はすでに発信命令が何度も出されていた。アンジュはそれに気づいていなかったのだ。それゆえ緊急発進ブースターを使われたというわけだ。

 

「慰問船団、まもなく第一中隊と接触します」

 

オペレーターの子、今まで名前をほとんど呼んでいなかったが、オリビエがそう言う。

 

「くれぐれも粗相の無いように!」

 

エマ監察官の声が響いた。妙にカリカリしている。

 

目の前には輸送機が一機いた。それを取り囲む様に各機体が配置に着く。

 

「ウォォー!フェスタだフェスタだ!」

 

ヴィヴィアンが興奮気味に言う。シルフィーには何の事だかさっぱりである。

 

(フェスタ?そういえばナオミがそんな事言ってた様な・・・)

 

【ズキン!】

 

シルフィーに突然頭痛と目眩が襲いかかった。その痛みからかハンドルから手が離れる。オメガが若干ブレた。

 

「シルフィー!ちゃんとしなさい!」

 

「っ了解」

 

痛みは直ぐにひいた。ハンドルを握りなおし、再び配置に着く。

 

(変ね。昨日はちゃんと寝たはず何だけど・・・)

 

痛みが消えた為、その後特に気にする事はなかった。

 

 

 

 

その頃、輸送機内にて。

 

「あれで戦うのですか?ドラゴンと」

 

「作用でございます。お嬢様。こちらが写真です」

 

今回の慰問船団の代表と言えるミスティ・ローゼンブルムがパラメイルに対して質問してきた。そしてそれを彼女の護衛の一人が答える。マナのウインドにグレイブとハウザーの姿が載せられている。

 

ローゼンブルムとは、アルゼナルを管理している

国の名前、ローゼン・ブルム王国の事である。

 

ふと窓を見た。窓には一機の機体が映し出されていた。その人物の顔を見た途端、ミスティの顔色が変わった。

 

(あれは!アンジュリーゼ様!?)

 

窓に映る機体のライダーはアンジュであった。少し腰を浮かせたが、直ぐに窓からヴィルキスは離れたため、ちゃんと確認することは出来なかった。

 

「まもなく着艦コースに入ります!」

 

操縦者の言葉を聞き、ミスティは腰を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

慰問船団がたどり着くと遂にフェスタの始まりで

あった。

 

「これが・・・フェスタ?」

 

「随分と楽しそうね」

 

アンジュとシルフィーの中で出た率直な感想で

ある。

 

「そうよ。人間が私達に休む事を許してくれた日。それがフェスタ」

 

サリアが二人に解説する。

 

「明日までは全ての訓練が免除。ノーマにとっては、たった1日だけのお祭り。過酷なノーマ達が、明日を生きる唯一の理由のなの」

 

「ペロペロ〜良い子のみんなには、ペロリーナからプレゼントペロ〜」

 

少し奥ではペロリーナが幼年部の子供達に風船を配っていた。そしてその声は何処か聞き覚えがあった。

 

「サリア。あれの中にはエル・・・」

 

「中に誰もいないわよ」

 

「・・・悪かったわね」

 

自分の聞こうとした質問が凄く浅ましく感じられた。

 

「ようは奴隷のガス抜きってことね」

 

アンジュがスパッと言った。

 

「確かにそうだけど、言い方ってものがあるでしょ!」

 

「まぁまぁ二人とも、今日はフェスタなんだよ。

楽しまなきゃ!」

 

二人を止めるようにナオミが言う。

 

「まぁそれはまだいいわ。それよりもこの格好は何なのよ」

 

二人は自分の身体を見た。普段着ている制服ではなく、水着姿なのだ。

 

「伝統よ。制服やライダースーツじゃ息がつまるでしょ?」

 

「恥ずかしくないの?」

 

そう言われるとサリアは胸を隠した。

 

「水着でいることよ!」

 

「ところでナオミ。借金はまだあるの?」

 

「うん。でも後10万キャッシュだよ!きっと直ぐに返せるよ」

 

「へぇ。凄いじゃない。後少しで完済出来るのね・・・ナオミ。どうせなら一緒にフェスタ巡らない?完済の前祝いで簡単な食べ物なら奢るわよ」

 

そう言いシルフィーはナオミの手を引いて、人混みへと紛れ込んで行った。

 

(シルフィー・・・随分と変わったわね)

 

「それじゃアンジュ。今日という日を楽しみなさい。これから映画見るの」

 

そう言うとサリアも人混みの中へと紛れ混んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

その頃離れにて。こちらでは今回の慰問船団の代表であるミスティ・ローゼンブルムの接待をエマ監察官が行なっていた。

 

「よくおいでくださいました。ミスティ・ローゼンブルム妃殿下」

 

「いえ、アルゼナルを管理するのは、我がローゼンブルム家の責務ですから」

 

「無事に終えられたのですね、洗礼の儀。これで

ミスティ様も皇室の仲間入りですね」

 

「・・・あの、一つお伺いしたいのですが」

 

「はい。なんでしょうか?」

 

「ミスルギ皇国第一皇女、アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ様がこちらにいると思われるのですが?」

 

「・・・確かにその者はいましたが、今ではアンジュです」

 

「構いません。お会いしたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

「・・・わかりました。少しお待ちください」

 

そう言うとエマ監察官は部屋を離れた。

 

 

 

こちらはロザリーとクリス。クリスはヒルダの件で悩んでいた。あの一件以来、何処か疎遠な感じになってしまったのだ。

 

「ヒルダってば、一体どうしちゃったんだろう。

ねぇロザリー。私達ヒルダに避けられてるのかな?」

 

今日の輸送機護衛の際も、ヒルダは何処か深刻な面持ちをしていた。クリスにはそれが心配でたまらないらしい。

 

「いっけぇ!豚骨インパクト!私のキャッシュを307・2倍にできるのはお前だけなんだ!」

 

しかしロザリーは、そんなクリスをほっぽってすっかり競豚競争に夢中であった。今行われてるレースは彼女にとって一番の本命故に、仕方ない部分もあるが。

 

「ロザリー!」

 

「うぉっ!なんだよクリス」

 

「ヒルダの事!心配じゃないの!?」

 

「向こうが会いたくないんだ。今こちらから会いに行っても意味ないだろ?ヒルダが昔から何考えてんのかよく分からないのは今に始まったことじゃないじゃないか」

 

「それは・・・そうだけど」

 

【ワァァァァァ!!!】

 

周囲から歓声や哀声が響き渡った。レースに変化が起きたのだ。何とトップを独走していた豚骨インパクトが横転!最下位に落ちてしまったのだ!!

 

「うわぁぁ!何してるんだよ!豚骨インパクトォ!!!」

 

ロザリーの豚券はものの数秒で何の価値もない紙切れへと早替りした。

 

エルシャはオイル・マッサージを堪能していた。

因みになぜか外にはペロリーナ人形の着ぐるみがあった。

 

ヴィヴィアンはメイとイカ焼きを食べていた。

 

サリアは恋愛映画のワンシーンでハンカチ片手に泣いていた。

 

シルフィーとナオミは射的で生活用品を可能な限り狙っていた。

 

それぞれが今日という日を楽しんでいたのだ。

 

 

 

 

 

アンジュとヒルダを除いて・・・

 

アンジュはパラソルの下にいた。その後ろにはヒルダもいた。しかし、アンジュ達はヒルダには気がついていない。

 

当然、アンジュが考えているのはシルヴィアの事だ。

 

「・・・!マナから通信です!」

 

「シルヴィアから!?」

 

「いえ。これはエマ監察官です」

 

「そう」

 

アンジュが落ち込む。やっとシルヴィアと連絡がとれたのではないか?そう期待していた分、落胆も激しかった。

 

とりあえずモモカさんはその通信に出る。

 

「あの、アンジュリーゼ様にお会いしたいと言う方がおりまして」

 

「私に?一体誰よ?」

 

「ミスティ様です」

 

「ミスティ・・・ミスティ・ローゼンブルム!?」

 

その名をアンジュは知っていた。

 

まだアンジュが皇族だった頃、ミスティとは同じエアリアで勝負した事があるのだ。洗礼の儀を受ける前日にあったエアリアの対戦相手もミスティ達の所だったのだ。

 

「どうします?アンジュリーゼ様」

 

「・・・会ってどうするの?笑い者にでもしたいわけ?」

 

アンジュはもはや皇室の人間ではない。ノーマなのだ。そんなアンジュに会いたいなど、変わり者としか思えない行為だ。だがエマ監察官がこのまま引き下がるとは思えない。

 

「・・・しばらくの間、消えるわ」

 

そういうとアンジュは、側に置いてあったペロリーナの着ぐるみへと手を伸ばす。少しすると、そこにはアンジュではなく、ペロリーナがいた。

 

「ほら、モモカは離れて。あなたと一緒だと私だってバレるでしょ?」

 

「ですが。アンジュリーゼ様ぁ」

 

「私はペロリーナペロ〜」

 

既にアンジュはペロリーナになりきっていた。少しだけノっている気がしなくもない。

 

「アン・・・ペロリーナ様ぁ〜」

 

モモカはそう言いながら手を伸ばすことしか出来なかった。

 

そしてその後ろではヒルダが笑みを浮かべていた。まるで絶好のタイミングが来たでも言わんばかりの笑みを・・・

 

アンジュはペロリーナの着ぐるみに入って、一人になれる場所を探した。すれ違う形で、エマ監察官がアンジュを探していた。

 

エマ監察官は先程、ジル司令、マギー、ジャスミンの着替えを除いてしまった。その時「いや〜ん」とコテコテの反応をされたため、多少不機嫌でもあった。

 

そしてアンジュは、ある事に苦しんでいた。

 

「・・・暑い・・・蒸れる・・・臭い・・・」

 

着ぐるみの中は他の例に漏れず、快適ではないらしい。

 

その時だった。隣にあったメリーゴーランドの手すりが突然破損した。そのメリーゴーランドに乗っていた女の子が悲鳴をあげる。

 

「キャァァァァァ!」

 

その時アンジュの脳裏にかつての記憶が呼び覚まされた。馬に乗っていた妹が、馬から落馬した事を。

 

アンジュは体が勝手に動いた。ペロリーナ姿でその子を助けていた。

 

「はぁ、はぁ、大丈夫・・・ぺろ〜!?」

 

「うっうん!ありがとう!ペロリーナ」

 

その少女はペロリーナにお礼を言った。アンジュにはその顔がシルヴィアのものに思えた。

 

(・・・シルヴィア・・・)

 

ペロリーナことアンジュは格納庫へと来ていた。

 

つい先程までそこでいかがわしい事をしていた二人がいたが、人が来たと分かると慌てて何処かへと退散していった。

 

アンジュはペロリーナの頭部を脱ぎ捨て、ベンチに横になる。

 

やっと一人になれた。そんな中、アンジュは先程のメリーゴーランドの件を考えていた。

 

(・・・シルヴィア。私は・・・)

 

 

 

アンジュがまだ幼かった頃。アンジュは妹のシルヴィアと一者に馬に乗っていた。原っぱを駆け抜ける馬とそれに乗る姉妹はまさに絵になる構図であった。

 

しかし、その時だった。シルヴィアが馬から落馬

したのだ。

 

「シルヴィア!」

 

アンジュは馬から降りて彼女に駆け寄った。直ぐに家へと連れ帰った。

 

直ぐにモモカがマナで治療を施した。しかし、マナとはいえ、治せないものもあるのだ。彼女の足は

それ以来、動かなくなってしまった。

 

「ごめんなさいシルヴィア・・・わたくしのせいで・・・」

 

「お姉さまのせいじゃありませんわ。また遠乗りに連れて行ってくださいね」

 

歩けなくなったシルヴィアは、アンジュを許したのだ。

 

 

 

アンジュはしばらく考えていたが、やがて目の前の輸送機に目をやった。それはローゼンブルム王家の家紋が描かれていた。

 

(・・・・・・)

 

黙って眺めていたが、やがてアンジュは立ち上がりペロリーナの頭部を装着すると、離れを目指して歩き始めた。その目には決意が込められていた。

 

 

 

 

 

 

「ペロリーナ様ぁ〜一体何処ですかぁ〜?」

 

こちらではモモカがアンジ・・・ではなくペロリーナを探していたその両手には、オレンジジュースを持っていた。

 

「ペロリーナ様。脱水症状になってなければよろしいのですが」

 

「やっと一人になったね」

 

「はい?」

 

不意に声がした。自分の事かと思い、モモカは後ろを振り返った。

 

そこにはヒルダがいた。

 

次の瞬間、ヒルダはモモカに銃を向けた。驚きで

手に持っていたジュースを床に落とす。床にはジュースのシミがついた。

 

「ひっ!?」

 

「ちょっとつきあってもらうよ」

 

ヒルダはそう言うと銃をつきつけながら、黙って距離を詰めてきた。

 

 

 

 

「何よ・・・これ」

 

アンジュは目の前の光景に呆然としていた。離れの廊下にてペロリーナの頭部マスク越しに見える薄暗い光景。

 

何とボディガードが全員倒れているではないか。

 

全員の身体には暴行を受けた痕が見受けられた。生半可なものではない。完全に相手を痛めつけるレベルで行われた痕跡である。

 

「これって・・・一体・・・」

 

「やぁ、アンジュリーゼ様、お目にかかれて光栄だよ」

 

暗い廊下に、どこか明るい無邪気な声が響いた。

その声は四方八方から響く様な声であった。

 

「誰!?何処にいるの!?」

 

「あれ?分からないのかな?君の頭の上だよ」

 

その言葉とともに、突然頭に重みが増した。何かが体重をかけるかの様に増した。だが直ぐに頭は軽くなった。そして目の前に、黒髪で紅眼の少女が降り立った。

 

その顔はシルフィーそっくりであった。

 

「シルフィー?貴女一体・・・」

 

「ちょっと。僕をあんなお人形と一緒にしないで。僕はリラ。君の熱狂的なファンだよ。あぁ。お会いできて光栄だなぁ。アンジュリーゼ様」

 

そう言うとリラはペロリーナの頭部を外した。そして品定めでもするかの様にアンジュをジロジロと眺めていた。

 

「・・・この連中。全員貴女が倒したの?」

 

「まぁね。最も、全然張り合いがなかったけど。それに、今の君が何を考えてるかなんて、胸に書いてあるし。可愛い妹を助けに行かなきゃ・・・健気だねぇ。美しいねぇ。つい手を貸したくなっちゃった」

 

「どいて。邪魔をするなら、貴女を排除してでも行くわよ」

 

アンジュがナイフをリラに向ける。しかし彼女は、微動打もせず、顔色一つ変えなかった。

 

「落ち着いてよ。邪魔だなんてとんでもない。言っただろ?アンジュリーゼ様の手助けをしに来たんだよ。現にこうして邪魔な連中を蹴散らしたじゃないか」

 

「じゃあどいて。ミスティに会わなきゃ」

 

「ああ。今どくよ」

 

あっさりと扉の横へと逸れた。アンジュはリラを出来るだけ無視して進んだ。そしてリラの背後にある扉のドアノブに手をかける。

 

その時である。

 

「せいぜい頑張りな。堕ちた皇女様」

 

その言葉にアンジュが振り返る。だが、既にそこには誰の人影もなく、ただ意識を失っているボディーガードだけが無造作に散乱していた。




次回で第3章は終了です。第4章ではとあるアンケートを実施する予定です。

尚、第4章はアニメで言うあの回なのであまり楽しい内容にはなれません。今のうちに言わせてもらいます。

第4章はオリジナル要素も絡める関係でかなり鬱くさくなるかもしれません。その点をご了承ください。
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