クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 Another Story 作:クロスボーンズ
アンジュは離れの扉を開いた。そこにはミスティがいた。様子を見る限り、リラに何かされた感じはない。その事にまず安心した。
「久しぶりね、ミスティ」
「あっ、アンジュリーゼ様!」
「かつてはね。今はただのアンジュよ。それより、私に何か用があるの?」
「未だに信じられません・・・私の永遠の憧れで
あったアンジュリーゼ様が・・・ノーマだったなんて・・・」
「・・・ミスティ、あなたは優しすぎるわ。私は
ノーマだった。それが現実なのよ」
「・・・」
その言葉にミスティは押し黙ってしまった。
「さてと、これで満足よね。それじゃあ今度は私の番ね。頼みたい事があるの」
「なんですか!?私に出来る事なら手伝います!
何でも言ってください!」
「そう。それは良かったわ」
するとアンジュはナイフを抜いた。そして満面の
笑みで尋ねた。
「手伝ってくれる?脱走」
こちらはシルフィーとナオミ。二人は現在とある会場に来ていた。何やら長蛇の列が作られており、おそらくアルゼナル殆どのメンバーはここに集まっているのだろう。
「ねぇ。これから何が始まるの?」
「大運動会。フェスタの二代名物の一つだよ。賞金も出るからみんなが意気込んで参加するんだ。
シルフィーも参加する?」
「遠慮しておく。今の手元のキャッシュでもやっていけるし」
「そう。じゃあシルフィー。私は行ってくるね」
そう言うとナオミは参加希望者の列へと並んだ。
こうして参加する者と観戦する者とでの境界線が
引かれた。尚、司会はジャスミンが務めている。
「さぁ!さぁ!!さぁ!!!賞金100万キャッシュの大運動会の始まりだぁ!みんな賞金目指して頑張りなぁ!」
「イエェェェェェイ!!!!!」
次の瞬間彼女達のテンションボルテージが一気に
最高潮に達した。
「元気がいいなぁ!それじゃあ最初の競技に行ってみよう!最初の競技は!恐怖!溶ける水着でパン食い競争だ!」
何やらユニークな名前の競技である。その後も挟んで運べ!おっぱいたまごなどユニークだが、競技者は大真面目な何処か可笑しい大運動会は繰り広げられた。
そんな中、アンジュとミスティはジャスミンモールへと来ていた。水着を着用していたバルカンがいたが、皿いっぱいのハンバーガーであっさり餌付けに成功した。銃やグレネードなど、様々な武器を
カートに乗せていた。
「処刑!?」
アンジュはミスティから聞かされた言葉に驚いていた」
「はい。アンジュリーゼ様がノーマであることを隠していた。国民を欺いたため、ミスルギ皇室の人達はいずれ・・・」
「そんな・・・シルヴィア・・・」
アンジュは武器を入れたカートを押しながら店を出た。キャッシュの入った袋をバルカンの横に投げ捨てる。一応人質的に扱うため、ミスティの腕は縛っていた。
そしてこちらはヒルダとモモカさんであった。
「マナを使えるあんたなら、これ、動かせるよな?」
それはローゼンブルム家の紋章付きの輸送機だった。
「できますが・・・何のために?」
「決まってるだろ?脱走だよ」
その言葉にモモカは驚く。
「・・・お断りいたします。私が従うのはアンジュリーゼ様だけです」
「だったら死ぬかい?いいのかい?だ〜い好きな
アンジュリーゼ様のお世話ができなくなっちまうよ?」
ヒルダが拳銃を突きつける。するとそこにアンジュとミスティがやってきた。
「・・・モモカ!?」
「アンジュリーゼ様。それにミスティ様!」
「これはこれは・・・イタ姫様」
「モモカ!なんであなたがヒルダと一緒にここにいるの!?」
「この方が、脱走するから輸送機を飛ばせと!」
「脱走!?・・・どうしてなの?」
「あんたには関係ないだろ?」
そう言うとヒルダはアンジュ達に銃を向けた。咄嗟にアンジュもカートの中からアサルトライフルを手に取り、ヒルダに向ける。
「させないわそんな事。これは私が使うから」
「はぁ!?」
ヒルダは驚いた。まさか自分以外にも脱走を企てる存在がいた事に驚いた。するとモモカが驚きながらたずねる。
「もしかして!シルヴィア様の為にですか!?」
「私はあの子から自由を奪ってしまった。だから私が守る!私が・・・。モモカ!あなたもついてきてくれるわよね!?」
「もちろんです!アンジュリーゼ様のためなら!
シルヴィア様のためにも!」
「へぇ〜利害の一致ってやつか。なら話は早い。
一時休戦ってやつでいこうぜ」
「断るわ。あなたは信用できないから」
「いいのかい?それじゃあ誰が輸送機の拘束を外すんだい?」
「拘束?」
「そうだよ。この輸送機は整備のために色々と拘束してある。警報システムを解除せずに外せば警報装置が作動するよ。かといって無理に飛べば機体損傷。これ、あんたに解除できるのかい?」
「・・・」
アンジュは黙り込んでしまった。
「あたしはできる。なんてったってこの日のためにずっと準備してきたんだから。どう?協力しない?」
暫く考えていたがアンジュはやがて武器を下ろした。
「わかったわ。一時休戦ね」
こちらは大運動会組。こちらでは今年の優勝が決定したらしい。
「さぁ今年の大運動会!優勝はなんと!意外も
意外!大穴中の大穴!サリア隊のクリスだぁ!」
今年の大運動会の優勝者、それはクリスであったのだ。普段、影が薄い分、周囲の驚きも大きいらしい。
(これで、ヒルダとも仲直りできるかな?)
クリスのこの心が、今回の優勝へと繋がる動力となったのだ。
「さぁさぁさぁ!30分後には花火の時間だ!最後の締めだ!!トイレとかは今のうちに行っトイレ!」
ジャスミンがそう言うと皆が散り散りにその場を離れた。フェスタ最後のイベント。それを万全の体制で迎えたい者もいるのだ。
「ナオミ。私トイレ行ってくる」
そう言いシルフィーはその場を離れた。だが、何処のトイレも混んでいた。並ぶにしてもそれなりの時間がかかる。
そんな中、司令室ではオリビエが一人、ガラスに顔をくっつけていた。フェスタの時とはいえドラゴンが現れない保障などない。その為オペレーターや
保安部の数名は、普段と同じ様に作業をしていたのだ。
「あーもー。折角の花火なのに、ここから見えるかなぁ。・・・?」
不意に背後に気配を感じた。振り返り確認しようとする。
【ドスッ!】
彼女の意識は闇に閉ざされた。そこにはヒルダがいた。司令部のパソコンをいじり、準備をしていた。
「例のシステム解除キーは・・・バッチリ。これで拘束具を解除しても警報はならないな。早いとも戻らねぇと・・・」
「ヒルダ。何してんのよ」
背後からの声に心臓が飛び出るくらい驚いた。咄嗟に拳銃を引き抜き、振り返りざまに発砲した。
そこにはシルフィーがいた。弾丸はどうやら外れたらしい。
「危ない!いきなり何すんのよ!」
「な!何でここにいやがる!!」
「トイレよ。何処も混んでたから、ここの近くのトイレを使ったの。そしたら司令部から音が聞こえたから来たわけ。それよりヒルダ。あんた何してんのよ」
彼女の目には、うつ伏せで倒れるオリビエも写っていた。ヒルダの手には拳銃が握られている。何があったかを想像するのは容易いことであった。
「こんなところとはおさらばすんだよ。あたしは
ここを出て行くんだ。さて。聞いた以上、あんたには眠ってもらうよ」
ヒルダが拳銃を突きつけてきた。
その時であった。
「おい!お前何をしている!!」
先程の銃声を聞きつけ、保安部の係の人が駆けつけてきた。ヒルダは再び、条件反射的に撃ってしまった。幸い弾は逸れたらしく、保安部の身体に命中はしなかった。
「貴様!何をする!こい!」
今日が仕事の保安部は、ヒルダやシルフィーの様に水着ではなく、ちゃんとした装備であった。銃弾の尽きたヒルダが敵う相手ではなかった。
「離せ!離せよ!!今日しかないんだ!チャンスは!ママが!ママが待ってるんだ!!」
その言葉にシルフィーの表情が少し変わった。
「!・・・ママだって・・・」
「何をわけのわからない事を!取調室に来い!何があ・・・」
【ドスッ】
「うっ・・・」
保安部の裏首筋に手刀が入り込む。保安部の女性は顔を歪めその場に倒れ伏した。シルフィーが保安部を倒したのだ。
「・・・行きなさい」
「あんた。何で」
「・・・カリスが言ってた。帰る場所で待ってる人がいる人は幸せ者だって」
「誰だよそいつ・・・まぁいい。時間がないから。
礼は言わないぜ。あばよ」
そう言うとヒルダは司令室から駆け出して行った。
「・・・」
シルフィーは何も言わずに、気絶しているオリビエと保安部の女性の介抱をした。
(ママ・・・か)
シルフィーの心の中に何かが突っかかっている。
人間とは母親の母体から産まれる。そうアルゼナルで学んだ。彼女は、自分がオメガから産まれた思っていた。それ以外は知らなかっただけだ。そう信じて疑わなかった。
(私が生きてる。じゃあ私にもお母さんがいたってこと・・・じゃあ私のお母さんは、何で私をあの島に・・・らしくないな。こんな事考えて。早いとこ戻るか。花火ってのを見逃したくないし)
やがて考えるをやめ、シルフィーもその場を離れ
ナオミ達の所へと戻った。
会場では既に花火を見る為の席取りが繰り広げられていた。
「シルフィーちゃん。こっちこっち」
呼ばれた方を向く。そこにはアンジュとヒルダを除いた第一中隊が集まっていた。集まっている場所へと向かう。隣には第二、第三中隊のメンバーもいた。
「全く。ヒルダってば何処に行ったんだろ」
クリスが愚痴る風に言った。それにシルフィーは何も答えなかった。
「さぁ!それじゃあフェスタ恒例!最後のシメ!!打ち上げ花火だぁ!!!」
ジャスミンのシャウトに合わせ、空めがけて無数の花火が打ち上がった。しばらくするとそれは空中し、夜空に綺麗な模様を浮かび上がらせた。
「わぁぁぁぁ!!!」
「綺麗」
「やっぱフェスタのシメはこれでなくっちゃ!」
皆がその花火を目に焼き付けていた。
(みんな満足してるみたいだね。今年のフェスタも
大成功か)
「おいジャスミン!」
ジャスミンの所にエマ監察官とジル司令。そしてマギーが来た。その背後からはバルカンもくっついて来ている。
「どうしたんだい?みんな大慌てで?」
「それが、ミスティ・ローゼンブルム様がどこにもいないのよ!」
「何だって!?」
数分前。
発着デッキではアンジュとモモカが輸送機へ、荷物の運搬をしていた。そこにヒルダも戻ってきた。
「運搬を急げ!フェスタが終わっちまう!」
彼女は針金を取り出した。そしてそれをある所に
差し込んだ。しばらくかちゃかちゃしていたが、
やがて近くにあった蓋が開かれた。
そこにはさまざまな装置などがあった。彼女の狙いは拘束具の解除システムと緊急射出システムだ。
ヒルダはタイミングを見計らっていた。狙いは花火が打ち上がる時。モモカさんはマナを使い、輸送機の機能を作動させていた。
「・・・・・・今だ!」
そう言うとヒルダはその装置のスイッチを切った。これによりタイヤを固定していた拘束具が外れる。
「よし!成功だ!」
すると輸送機が少しずつ進んでいく。
「おい!待てよ!」
ヒルダが走りながら言う。しかし輸送機は加速を続けた。そしてアンジュがヒルダに向かって言い始めた。
「ブラジャーの恨み、忘れてないから。あのせいで大変な目にあったのよ!」
「そんな昔の事!」
「それだけじゃないわ!散々後ろから狙ってきた事!手下を使った嫌がらせ!ペロリーナの着ぐるみの臭さ!」
「最後の何だよ!」
「とにかくあなたは信用できない!せいぜいお友達と仲良く暮らしてなさい。モモカ!後部ハッチ閉めて!」
「でっ・・・ですが・・・」
「ふざけんなぁ!!」
そう言うとヒルダはスロープに飛び移り、そしてしがみついた。
「ふっざけんな!このために!何年も何年も待ったんだ!生き残るためなら、ゾーラのおもちゃにもなった!面倒な奴とも友達になってやった!なんだってやってきたんだ!」
その迫力はアンジュを驚かせた。
そこにジル司令達も駆けつけてきた。だが、時既に遅しである。
「ずっとこの日を待ってたんだ!・・・絶対に!
ママのところに帰るんだ!!!」
「!ママ・・・」
すると輸送機が遂に離陸を始めた。ヒルダが
バランスを崩す。
「ウワァァ!」
落ちそうになったヒルダが手を伸ばした。ヒルダの手をアンジュの手が握っていた。何故そのような事をしたのかはアンジュ自身にも分からなかった。
「・・・モモカ!一人追加するわ!」
「!はい!アンジュリーゼ様!」
そうしてアンジュ達を乗せた輸送機はアルゼナルを離陸した。
その場には、ジル司令、エマ監察官、マギー。ジャスミン。そしてバルカンだけが残された。
「なんて事なの!!ノーマの脱走を許したばかりか、ミスティ様も誘拐されるだなんて!!」
あまりの出来事に、エマ監察官が倒れてしまった。
「簡単に買収されちまいやがって!何のための番犬だい!全く!」
ジャスミンはバルカンを睨みつけている。バルカンは小さく縮こまる。
「ジャスミン。坊やに連絡を。あと、第一中隊のメンバーを全員集めてくれ」
ジル司令がそう言うと、駆け足でその場を離れた。
ノーマの脱走。アルゼナル創設以来、初の出来事である。
そしてこの出来事が、アンジュとヒルダ。更には第一中隊。何より、シルフィーに深い爪痕を残すことになる事を、この時はまだ誰も知りはしなかった。
第3章はこれでおしまいです。次回から第4章へと移行します。
なお、第4章開始前にオリキャラ図鑑②を製作してからです。多分今日中に投稿できますのでそのつもりで。
次の章から、オリキャラ達もそれなりに絡んでいかせる予定です。