クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 Another Story 作:クロスボーンズ
「ねぇ。私達、いったいどれくらい飛んだんだろう・・・」
「知らない」
ナオミの力無き言葉に、少女は素っ気なく返事をした。日は高く上っている。
実はあの後、名もなき島を飛び立ってから既に一夜が経過している。その間ずっと飛びながら過ごしてた。因みにナオミは寝る事が出来たが少女の方は
機体の操縦の為に眠っていなかった。
アルゼナルがどこにあるのか、二人にはわからない。さらに二人は、今自分達がどこにいるのかさえわからなかった。
このままいけば良いのか、それとも右に行くべきか、それとも左に曲がるべきか、もしかしたら、今進んでいる方とはの反対側にアルゼナルがあるのかもしれない。
とりあえず、少女は一度進んだ方角から特に曲がったりなどはしなかった。
二人とも当初は外の風景を見ていたが、やがて海や雲しか見えないその光景には流石に飽きた様だ。
なんか気分を紛らわせるものがないか。それを考えていた。
「何か気でも紛らわせられない?」
「・・・〜〜♪♪」
すると突然ナオミが歌を歌い始めた。
「ナオミ?」
「あっ、これは・・・あれだよ。気を紛らわそうと思って。私の知ってる歌を歌ってみたんだ。うるさかった?」
「いえ、別に」
「よかった・・・貴女も何か歌う?」
ナオミが少女に話を振った。
(歌か・・・)
少女の中にある一つの歌が浮かび上がった。
「風に飛ばん el ragna 運命と契り交わして」
「風に行かん el ragna 轟きし翼」
少女は唯一と言える、自分の知っている歌を歌い始めた。
「ねぇ。その歌は?」
「・・・わからない。でも、何処か懐かしい歌だから」
少女がこの歌を知ったのは、島での事だ。あの時、あの光景を見た時、誰かに抱かれた際に聞いた歌。少女はその歌を歌い続けた。何もしないでただ飛んでいるよりは、気分が晴れるものだ。
少女はその歌を歌っていた。やがてナオミも歌の一部を覚えたらしく、少女と共に歌う。コックピット内で二人だけのミニ合唱が始まった。
暫くして少女は歌うのをやめた。そして名もなき島での出来事。あの時見た光景を考えていた。
あの時見た光景。あれは一体何だったのか。夢か現実か。よくわからないのだ。
だが彼女は、あれが気のせいや見間違いで放り出す事がどうしても出来なかった。
それはもう一つ気になることがあったからだ。
洞穴から出た際に、一瞬だけ見えた人物。右目に傷のある、黒装束の男。彼女は島で長い間暮らしていた。だから自分以外の人間がいない事は理解していた。
ならばあれは一体何だったのだろうか。
(・・・あれは一体・・・なんだったの・・・)
「?どうしたの?体調でも悪いの?」
突然黙り込んだ少女に何か不安を感じ、ナオミが声をかけた。
「・・・別に、ただ少しね、考え事をしてただけだから・・・」
少女は、はぐらかす風に言った。
その時だった。突然目の前の空間に穴が開かれた。
「え?なにあれ・・・」
突然空間に開かれた穴。少女は目の前の光景が理解できないでいた。しかしナオミは目の前の光景が理解できていた。
そして次の瞬間、穴からそいつらは現れた。トカゲに翼の生えた様な姿をしている。
少女は島であのような生き物を見た事がない。だがナオミはその正体を知っている。
「ドラゴン・・・」
ドラゴン。次元を超えて現れる謎の巨大生物。
Dimensional
Rift
Attuned
Gargantuan
Organic
Neototypes
これらの頭文字をとってドラゴンと名付けられた。行動原理など一切が不明なその存在である。何故この世界に現れるのか、何が目的なのか。その他殆どが不明である。
唯一わかる事。いや、理解できる事がある。それはこいつらが、こちらに敵意を持って襲いかかるという事だ。
現に次の瞬間には、ドラゴン達はこちらに狙いを定めたようで、二人めがけて襲いかかってきた。
「危ない!!」
ギリギリの所で上昇する。何とかしてドラゴンと距離をとろうとするものの、ドラゴン達はこちらにぴったりとくっついてくる。
「こんなところで死んでたまるか!」
少女は必死になって逃げ出した。しかしその背後をドラゴン達が追いかけてくる。ナオミは頭を抱えて震えていた。テストの時、墜落した時の事を思い出す。ナオミの頭の中にはあの時の記憶がフラッシュバックした。
「あ・・・あぁ・・・」
身体の震えが止まらない。ドラゴンの尻尾が機体にぶつかった時のあの衝撃。ドラゴンの荒い息づかい。それらが全身に纏わりつく様な感覚が襲っている。
ドラゴンはこちらを捕食しようと機体に喰らいつこうとしている。
ドラゴンの咆哮が直ぐ背後に聞こえた気がした。
その時だった。
突然背後から銃声などが鳴り響いた。それによってドラゴン達は数匹倒された。
「なに。今の・・・」
「まさか・・・」
ナオミは振り返ってみてみた。そこには希望があると予想して。そしてその予想は当たった。
そこにはグレイブとハウザー。レイザー。そして
アーキバスの合計7機のパラメイルがいた。
「間違いない!あれは第一中隊だ!!」
ナオミが喜びながら叫ぶ。
「ナオミ!あれを知ってるの!?」
喜ぶナオミとは対照的に少女の方は動揺していた。突然また謎の何かが現れたのだ。驚くなと言う方が無理であろう。
「うん!あれはアルゼナルか来たんだよ!」
「じゃあアルゼナルの場所は・・・って危ない!」
少女はドラゴンの放つ火球を避けた。とにかく避けた。
一部ドラゴン達は、そちらのパラメイルの方へと進軍して行った。そのパラメイル達は散開して、戦闘態勢に入った。
第一中隊の皆はその光景に多少唖然としていた。ドラゴンが現れたから倒しに来たら、そこに謎の機体が飛んでいるではないか。
「ねぇ。なにあのパラメイル?」
「友軍・・・にしては妙ね」
「あんなパラメイル。見た事ないな」
皆口々に謎の機体について話している。
「司令。戦闘空域に謎のパラメイルが存在しています。あれは援軍か何かですか?」
第一中隊隊長のゾーラが司令室に通信を送った。
「なんだと?映像を回せ!」
アルゼナルの司令室。その司令室のモニターには、その謎の機体の映像が映し出された。
「あれが謎の機体か・・・」
アルゼナル総司令官のジルがタバコに火をつけながら呟いた。
「一体誰なんだろうねぇ。こんな所を飛んでいるだなんて」
バンダナを頭に巻いた女性。ジャスミンが言う。
「それにしてもなんだい、あの動き。基本がまるでなってない。ただ逃げてるだけじゃないか」
アルゼナルの医者であるマギーが呆れた風に戦闘について解析していた。
「司令。あれは一体なんですか!?」
ジル司令の隣にいた女性。エマ監察官がジル司令に問いかけた。
「・・・さぁ。まぁこんなところを飛んでるんです。少なくてもまともな存在ではないでしょう」
そう言うとジル司令は第一中隊に連絡を送った。
「第一中隊。その機体に関してはこちらに仕掛けてこない限りは放っておけ。その機体をどうするかに関しては後に指示を出す事とする」
ジル司令は第一中隊にそう命じた。
「聞いたな。全機、攻撃目標はドラゴンだ!あの謎のパラメイルについては今は放置しろ!」
「イエス・マム!」
第一中隊の皆はそれぞれドラゴンの迎撃に当たった。
ライフルやブレードなど、それぞれのパラメイルが持つ装備でドラゴン達を蹴散らしてゆく。
やがて第一中隊に向かっていったドラゴン達は全て殲滅された。
「よし!残りのドラゴンはあの謎の機体の後ろにいるはずだ。全機、あの機体の目的がわからない以上、不用意な真似はするなよ!狙いはドラゴンだ!」
「イエス・マム!」
そう言い皆があの機体の後を追いかけて行った。
一方少女とナオミは相変わらずドラゴン達と追いかけっこをしていた。しかし距離は中々離すことが出来ずにいた。背後からは魔法陣などが展開される。そこから色々な攻撃が飛んできた。
ナオミは震えているが、それとは対照的に少女は
冷静であった。彼女はある事を考えていた。
(・・・同じだ。島と・・・)
昔、島の森で狩りをした時を思い出していた。熊がこちらの手に入れた魚を強奪したのだ。それを熊から奪い返した。すると熊は怒り狂って襲いかかってきた。
彼女は最初は逃げた。その背後から熊がピッタリとくっついて迫ってきたが、やがて熊がバテてきた頃、少女は熊に体当たりをした。疲れてフラフラだった熊はものの見事に後ろへと倒れこんだ。そして背後にあった岩に頭を強く打ち付けて動かなくなったのだ。
「・・・やるしかないか・・・」
第一中隊が謎の機体を捉えた頃、少女はある覚悟を決めた。相手を熊だと思う事にした。無意識にスティック型のコントロールユニットを握る手が強くなる。
「ナオミ!目を閉じて!」
そう言った次の瞬間、少女は機体を180度回転させた。そして機体を加速させた。
「え!?なにするの!?」
最初ナオミは困惑していた。彼女は更に機体を加速させる。やがて彼女の狙いがわかり、再び困惑した。
「え?ちょっ、ちょっと!!落ち着いて!!!」
目前にはドラゴンが迫ってきていた。
「ここからいなくなれぇぇぇっ!!!」
次の瞬間、二人の乗る機体はドラゴンの身体へと突っ込んだ。そしてドラゴンの身体を貫いた。コックピット部分が剥き出しなため、ドラゴンの血が二人に飛び散った。
驚いた事に機体の方は無傷に近い。本来あのような事をすれば爆発してもおかしくないはずなのに、機体はそんな気配を微塵も感じさせなかった。
これには流石に驚いたのか、ドラゴン達はその場で大きな咆哮を上げていた。少女はなおもドラゴンの群れに機体を突っ込ませる事によりドラゴン達を倒していった。
普段の彼女は比較的冷静だが、仮に打つ手がなくなると、直感で何かをするようだ。金庫の中身を頂く為に、ダイヤルを回したりテコなど道具を使ったりするが、それらがダメだと判断すると、金庫を拳で壊そうとしたり、挙げ句の果てに金庫ごと盗んでいくタイプの様だ。
「おい!!あんなのありかよ!!!」
あまりにも予想外の事態の為にその場に居合わせた機体のパイロット達は驚いていた。まさか武器を使わずに機体を突っ込ませる事によってドラゴン達を撃退するとは・・・あまりにも予想外であった。
彼女達にとってその戦い方はまさに無茶苦茶である。訓練を受けた人間の戦術とは程遠い。
そしてそれを見ていた司令室はまさに開いた口が
塞がらなくなっていた。
「おいおいおい!!機体で突っ込むって、あんなのありかい!?」
「思い切りはいい様だね。あの機体のパイロットさんは」
「あの機体・・・本当にこの世のものか・・・?」
ジャスミン以外、皆が驚愕していた。オペレーターの3人などあまりの衝撃的な戦い方を見たせいで意識が吹き飛んでいる。
戦闘において、教本通りの戦闘をするものは弱い。だがこれは予想を180度どころか540度反対側である。武器が機体そのものとなっているのだ。
「と、とにかく!私達も残りのドラゴン達を倒すぞ!!全機!とにかくあいつの事は今は全力で無視するんだ!!」
「イ、イエス・マム!」
第一中隊の皆は明らかに動揺しつつも、何とかドラゴン達を倒していった。意図せずともお互いがドラゴンと戦っていた為、協力関係が自然と発生したようだ。
「ラスト!」
最後に、周りのドラゴンよりちょっと大きいドラゴンに少女は突っ込んだ。機体はそのドラゴンの身体を難なく貫いた。そのドラゴンは断末魔とともに海へと落下していった。
こうして全てのドラゴンが殲滅された。
「ふうっ〜〜」
命のやりとりを終えた後の安心からか、少女もナオミも胸をなでおろし、安息の息が漏れた。
そんな謎の機体を第一中隊は只々見ていた。
「ゾーラ。その所属不明機を鹵獲しろ」
ジル司令から連絡が来た。
「了解。さてサリア。あんたがあの機体に通信を送りな」
「ええっ!私がですか!?」
「あぁ。隊長命令だ」
「・・・イエス・マム」
渋々だがサリアはこれを承諾した。
「・・・え!?」
二人が外を見た。するとこの機体を包囲するかの様に他の機体が囲んでいた。更にその機体の武器の銃口は全てこちらに向いていた。
「そこの所属不明機に告げる。私はアルゼナル第一中隊副長のサリアよ。まずドラゴンの撃退協力には感謝する。だが今からはこちらの指示に従ってもらう。拒否権などそちらにはない」
音声だけの通信越しに、命令するかの様な口調で
内容が告げられた。
「サリア!サリアなの!?」
通信相手を知っているナオミが通信に出た。
「えっ・・・ナオミ!?貴女、無事だったの!?」
サリアの言葉に第一中隊の皆が驚いた。
「ナオミだって!?」
「えっ!?ナオミちゃん!本当にナオミちゃんなの!?無事だったのね!よかった!」
「あんた。てっきり死んだと思ってたけど・・・
生きてたんだな」
「いきてる!私生きてるよ!全部この人のおかげだよ!」
ナオミは少女に通信させた。
「彼女を保護した。だからアルゼナルに用事がある。よかったら案内してほしい」
「・・・わかったわ。付いてきなさい」
そう言うとサリアは通信を切った。
「よかったわねナオミ。アルゼナルに帰れるようで」
「うん!」
(元気な様ね。さっきまでドラゴンに震えてたのが嘘みたい・・・)
少女はナオミの元気な様子に胸をなでおろした。
「・・・ってウォ!」
お互いの姿を見て驚いた。なんと互いに血塗れ状態であった。
もっとも、この血は全部、ドラゴン達の血なのだが。なんせドラゴン達に機体を突っ込ませたのだ。さらにコックピットは剥き出し状態である。
その血が命のやり取りをしていたと強調している。
「とにかく一度アルゼナルに帰還するわ。二人とも付いてきなさい。・・・言っておくけど、変な事をしたら直ぐに撃ち落とすから」
前後左右にグレイブとハウザーが回り込んだ。絶対に逃がさない様に包囲されたというわけだ。
こうして二人は第一中隊に半ば連行される形で
アルゼナルへと進路を進めた。
次回からアルゼナルが舞台になります。
とりあえずアニメ本編はもう2.3話後に突入予定となります。