クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 Another Story 作:クロスボーンズ
「うわぁ。凄い」
ナオミがこの台詞を言うのは今日で7回目だ。
「ねぇシルフィー!凄いよこれ!」
こちらに関しては今日で13回目だ。
「ねぇナオミ。さっきからそればっかりよ」
当のシルフィーはどこか怠そうであった。
「だって凄いじゃん!」
「私、煩いのは好きじゃないのよ。辺り一帯雑音ばっか」
「でも凄いよこれ。みんな空中にウインドを出してるよ。エマ監察官が使ってるところを見ただけだったのに」
ナオミが周囲を物珍しくキョロキョロ見回している。現在二人はミスルギ皇国に来ていた。無論、
観光目的などではなくアンジュ奪還が目的である。しかしナオミは初めて見る外の世界にご満悦の様だ。
「こんな光景。夢にも見たことないよ」
ドラゴンと戦うアルゼナルでの日常。今いるこの
世界はそんな日常とはかけ離れた、正に夢の世界
と呼ぶに値する場所であった。
「私達は、この世界を守る為に戦ってるんだね・・・ふふっ」
「何笑ってんのよ」
「ちょっと嬉しくて。この世界を守る為に私達が
戦ってるって思うと、達成感に満たされない?」
「・・・・・・ゴボッ」
「シルフィー?」
突然シルフィーが黙り込んだ。不思議に思い、見てみると彼女は手で口を押さえていた。
「どうしたの!?大丈夫!?」
「・・・ああ。大丈夫。ちょっとね」
ナオミが背を向けた瞬間、シルフィーは自分の手を見た。そこには先程の吐血で吐き出された血がべっとりとこびりついていた。
慌ててそれを拭い取る。ナオミは気づいていない。
(身体の調子が変ね。アルゼナルに帰ったらマギーにでも診てもらうか・・・)
「ねぇシルフィー!凄いよ!モニターにアンジュが写ってる」
これで14回目だ。やれやれと思いそちらの方を向く。すると空中モニターにはアンジュの写真が映し出されていた。
「お姫様だったから。帰ってきたお祝いでもするのかな?」
「だとしたら私達が連れて帰る目的がしづらいじゃない」
しかし、 次のナレーターの言葉に二人は軽口を
閉ざし、そして絶句する事となった。
「本日、我々を欺いてきた忌むべきノーマ。元皇女のアンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギの処刑が実行されます。会場には観客10万人を収容できる他、マナネットによる生中継も行われ・・・」
驚きのあまり、お互いが顔を見合わせていた。
アンジュが処刑される。何故か?理由がわからない。とにかく奪還を命令されている以上、殺され
てはたまらない。
そんな時だった。突然シルフィーが頭を抑えて唸り始めた。
「うっ、ううっ。うう」
「シルフィー!?だ、大丈夫!?」
まるで頭の中で蛇がのたうちまわっているかの様な痛みであった。
「これは大丈夫じゃないかも。とにかく、近くの
建物に入るよ」
そう言い二人はとある建物へと入っていく。中は買い物客などで賑わっていた。ショッピングモールと言う奴だ。近くのベンチに横になり、その隣にナオミが腰を下ろした。
ここでも空中にはモニターなどが浮かんでおり、色々なテレビ番組の様なものが放映されていた。
「ねぇシルフィー。あれ見てよ」
ナオミの指差すモニターの方を向く。そこにはニュースが流されていた。
「まず、先日発見されたノーマとそれを擁護していた両親についてですが・・・」
ノーマが発見された。アルゼナルに新入りとしてくるのかと二人ともその画面を見ていた。
「我がミスルギ皇国で取り組んでいるノーマ根絶法に基づき、このノーマとその両親の処刑映像をご覧いただきましょう」
「!!??」
再び二人が驚きで一度顔を見合わせた。そして直ぐにモニターに顔を戻す。
画面には3歳くらいの女の子。そして両親が映し出された。どちらも手脚を拘束されていた。3歳くらいの女の子は泣いていた。
そして死刑執行人の兵士達が銃を構え、集まっていた。
「神聖ミスルギ皇国が取り組んでいるノーマ根絶法第1条!ノーマは生まれたその場で殺処分!
第2条!ノーマを擁護する者はノーマと同罪とみなし処刑する!
第3条!ノーマを産んだ場合、夫妻は強制離婚!
ノーマを産んだ穢らわしい母親は神聖ミスルギ皇国から永久追放!!」
「これらの法を破るとは!この非国民の化け物め!!」
「頼む!私はどうなってもいい!!だからお願いだ!妻と娘だけは助けてくれ!!」
「お願いです!!私はどうなってもいい!だから主人と娘の命だけは!」
両親と思われる二人が必死になって懇願する。
しかし兵士達はそれを一蹴した、
「黙れ黙れ黙れ!!!この神聖ミスルギ皇国には!ノーマに吸わせる空気もノーマに踏ませる大地もない!死ね!!!」
【バババババ!】
乾いたマシンガンの銃声が鳴り響いた。
二人とも画面から目を背けた為どうなったかは詳しくはわからない。だが一つだけわかる事があった。
あの家族は死んだという事だ。
人が死んだ。こうもあっさりと、道端のアリンコを踏み潰す感覚で、人が・・・。
「万歳!万歳!!ノーマ根絶万歳!!」
周りでモニターを見ていた人が口々に叫んでいる。中には手を挙げて喜んでいる者までいた。
「我らが皇帝、ジュリオ・飛鳥・ミスルギ一世はこの法案を全国的に拡めようと日々努力されています。そして本日のアンジュリーゼ処刑の際は、特等席でご覧になられる・・・」
「・・・」
「・・・」
そこから先の会話など頭に入らなかった。二人とも黙り込んでいる。人の死を見世物に、そしてそれを喜んで見ているミスルギ国民。
こいつらは狂っている。
以前ココが言っていたピカピカ光る魔法の国。二人の中にあったそのイメージとはあまりにもかけ離れすぎていた。もはや別物だ。
ナオミの顔は青ざめ、身体は震えていた。先程までの興奮は完全に恐怖へと塗り変わっていた。恐らくシルフィーも顔は青ざめているのだろう。もしこの場でノーマである事がバレたら間違いなく殺される。二人ともそれを確信した。
「・・・人の少ないところに行こう。アンジュが
ここにいるのはわかった。こうなったら処刑会場
で助ける事を・・・」
その時であった。
突然ショッピングモール入口の扉が蹴破られた。
そして銃を持った兵士達がゾロゾロと室内へと
入ってきた、
「ここにノーマが潜伏しているという通報を受けた!各自マナを展開!己が身元を明らかにせよ!」
(不味い!!)
最悪のタイミングで最悪の事態が発生した。ノーマ根絶法なる物。それを考えればここで捕まるわけにはいかなかった。
咄嗟に二人とも奥の通路へと駆け込んでいた。
やがて倉庫の様な場所へと辿り着いた。
「ここなら一安心かな?シルフィー。早く出よう・・・」
そう言い振り返った時、シルフィーは蹲っていた。
「ちょっと!シルフィー!本当に大丈夫!?」
そう言いシルフィーの身体を触った時、ナオミは
反射的に手を引っ込めた。
「冷たい・・・」
今のシルフィーの身体は体温が一切感じられなかった。まるで氷で作られた氷像の様だ。
「シルフィー!体調が悪いの!?何で教えてくれなかったの!?」
「こんな筈じゃなかった。朝起きた時は健康だった。それなのに突然。ゴホッ!ゴホッ!」
咳が出ている。唾と一緒に血液が床に飛沫する。
「おい!いたぞ!」
先程兵士達が倉庫内へとやってきた。
「まずい!逃げるぞ!」
言ったのが先が行動したのが先か、二人は裏口から飛び出し、裏路地を走っていた。
「逃がすな!捕まえろ!」
背後から物騒な単語が聞こえてきた。後ろを振り返る余裕なんて一切ない。時々銃弾の様なものが身体の横を通り抜ける時もあった。
ひたすらに走った。無我夢中で走った。先回りされていた時もあった。それらを避けながら走り続けた。
気がつくと廃屋の様な所へと迷い込んでいた。背後から足音などは聞こえない。
「とりあえず追っ手はまけたみたい。シルフィー。大丈夫?」
不安そうにシルフィーの顔を覗き込む。明らかに顔色は悪くなっていた。手で額に触れてみる。すると手のひらに生暖かい液体が付着した。血だ。額から血が少しだけだが垂れ流れてきた。
「ちょっとの間横になってて。包帯がないか探してくるから」
そう言うとナオミは、廃屋の二階へと登っていった。シルフィーは一人壁にもたれかかっていた。
身体中が痛い。息苦しさも感じる。
とてもじゃないがただの体調不良ではなかった。
何気なく割れている鏡を見た。鏡には顔色の悪い
自分自身の姿が映し出されていた。
「・・・え?・・・え?」
鏡の中の自分の目が紅眼をしていた。目を擦り、
もう一度確認する。今度は鏡の中の、自分の眼は
エメラルドグリーン。つまり元に戻っていた。
「見間違い?でも今確かに・・・」
疑問に思っていたが、ナオミが降りてきた為考えるをやめる。
「ごめん。ここには包帯も何もなかった」
「いいって。とにかく一度機体のある場所に戻ろう。アンジュを奪還するなら機体を使った方がいい」
「そうだね。一度ここを出よう。シルフィー、立てる?辛いなら肩を貸すよ」
その時である。
二人の首筋に何が掠めた。すると突然二人の身体の力が抜けてその場へと倒れこむ。
「なに、これ・・・」
「意識が・・・」
すると二人の身体は地面へと組み伏せられた。そして二人の後頭部に銃口が突きつけられた。残された僅かな意識が、鉄の冷たい感触を後頭部から全身へと伝えた。
どうやら追っ手をまいてた訳ではなかったらしい。正確に言うなら、この廃屋へと誘い込まれていたのだ。
「隊長。この二人、この場で殺しますか?手順通りやるなんて面倒だ。ノーマなら幾ら殺しても平気ですよね?」
「馬鹿!何のための麻酔針だ。ジュリオ様の命令を忘れたか。今日はアンジュリーゼ処刑記念日となる祝い日だ。今日発見されたノーマがいた場合、アンジュリーゼ処刑の前祝いとせよとのご命令だ。」
「そうでしたね。喜べ下劣なノーマ共。貴様らは今日という特別な日に処刑されるのだからな」
麻酔針の影響を直接受けた二人に、その声は届いていなかった。
牢屋にて。シルフィーとナオミの現在宙吊り状態であった。
先程まで二人とも抵抗できない様に拘束されての
暴行を受けており、身体の至る所に青痣が出来て
いた。
「はぁ。はぁ。ナオミ。大丈夫?」
「何とか。シルフィーこそ・・・身体、大丈夫なの?」
「・・・何とかね」
お互いが疲労困憊仕切っていた。完全にミイラ取りがミイラになってしまった。宙吊りになっている際もシルフィーの体調は悪化の一途を辿っていた。
「私達、これからどうなるんだろう・・・」
「・・・」
シルフィーは何も答えなかった。ナオミにも予測はついているのだろう。ノーマ根絶法なる物が制定されている国。そこにノーマがいる。
結果は火を見るより明らかだ。
「・・・」
「・・・」
二人とも、何も言うことが出来なかった。
そんな中、アンジュリーゼの処刑会場では、近衛
長官のリィザが取材陣のインタビューに応答して
いた。
「はい。今回アンジュリーゼを処刑する為にこの様な専用のドームを建造されました。なお、アンジュリーゼ処刑後は、即撤去されます」
「それはそうでしょう。皇室に巣くっていたノーマの処刑跡地などこの世に不要ですから」
「今回の処刑の特徴として、このドームは外部から完全に遮断されます。ノーマの悪い空気を外に散布させてはなりませんからね」
「成る程。16年間も我々を騙していた悪しきノーマです。空気もきっと悪いのでしょう。ですがそれではドーム内の人が悪い空気を吸ってしまうのでは?」
「ご安心ください。今回はノーマの悪い空気を吸わない為に希望者には酸素マスクを与えています。
これによってノーマの悪い空気を吸わなくて済むのです」
「それは素晴らしい考えですね」
「それだけではありません。会場の至る所にアルコール消毒などが備えられています。これで感染症の予防にもなるでしょう」
「そうですね。感染症などは現在マナではまだ治せません。本来人が集まる所は避けるべきなのでしょうが、これは話は別なのです。ご覧ください。この長蛇の列!アンジュリーゼの処刑を見ようと、10万人もの方が列を作り並んでいます」
「ところでリィザさん。本日はアンジュリーゼ処刑の前祝いなる物が行われると風の噂でお伺いしたのですが」
「ええ。本日捕獲したノーマに対しての投票です」
「投票ですか?それは何故」
「本日はミスルギ皇国にアンジュリーゼ処刑記念日という名で新たな休日として制定される日です。
その為本日捕まえたノーマに対して皆で投票を行うのです。もし、助ける意見が過半数を占めた場合、そのノーマに恩赦を与えます」
「な!なんと!ノーマごときにあのジュリオ・
飛鳥・ミスルギ一世様が恩赦を与えるとは!
何という素晴らしい御心なのでしょうか!」
「投票には名前とマナIDを書く必要があります。
その点の御注意を会場に入る10万人の観客には
伝えています。では、私は準備があるのでこれで」
そう言うとリィザはその場を離れていった。
「全く。なんで私がこんな事を」
「それが君の役割だからだろ?」
背後から声がした。振り返るとそこにはリラがいた。
「リラか。何の用だ」
「今日、ノーマが二人捕まったらしいね」
「ええ。確か貴女の通報でしたね」
「実はあの二人、アンジュを助ける為にアルゼナルから来たんだって。それがこうして捕まったと。怖いねぇ。ミイラ取りがミイラになるって。くくっ」
「・・・私は仕事があるので。与太話なら後で」
そう言い再び歩き出す。
その時であった。
「お互いにお仕事頑張ろうね・・・リザーディア」
リラのその言葉に急いで振り返った。しかしそこにリラの姿はもうなかった。
「なんなんだあいつは・・・一体」
妙な気持ち悪さと不安を抱えつつ、リィザは仕事に戻った。
ノーマ根絶法ですが、最初はゲルショッカーの掟
みたいな法にしようと思いましたがあそこまで殺す
殺す連呼されてはどうしようもない為、そちらは
挫折しました。
果たして3人は助かるのか!?
なお、次回あたりからオリジナルの方もかなり動き出す予定です。
今後、ナオミにどの様なルートを辿って欲しいかを以下の三つから選びなさい。
-
①ドラゴンルート
-
②エンブリヲルート
-
③オリジナルルート