クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 Another Story   作:クロスボーンズ

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第31話 温もり

 

 

「ここは?」

 

気がつくとナオミ達は何処かの洞窟にいた。隣にはシオン達もいる。その隣を見るとオメガとグレイブが隠れるようにひっそりと置かれていた。

 

「ここ、私達の機体の隠し場所だよ・・・って

痛っ!」

 

身体を動かそうとした瞬間に激痛が走った。拷問

まがいの暴行の跡。身体には痣が複数箇所できていた。

 

「見せてください。・・・成る程。骨折数カ所。

でも、これなら直ぐに治せますよ」

 

カリスが怪我の部分に優しく触れる。そして彼女は目を瞑った。

 

「え?痛みが・・・」

 

「驚きましたか?」

 

今は全く痛くない。先程まであれほど痛かったのに。まるで魔法だ。呆然としているナオミ達に、

彼女は笑って洞窟の奥へと入っていった。

シオン達もそれに続く。

 

その場にはアンジュとナオミ。タスクとモモカさんの四人と寝ているドミニクだけが残された。少しの沈黙が場を包んだ。気まずくなったのか、モモカさんが話題を振った。

 

「あの、アンジュリーゼ様?こちらのお方とはどのような関係で?」

 

「えっ!?それは・・・」

 

「実は私も気になってた。貴方は一体・・・」

 

「・・・一週間、寝泊りを一緒にした関係だよ」

 

タスクの発言にモモカさんの顔が赤く染まった。

 

「やっぱり!でなければ命懸けでアンジュリーゼ様を助けになんて来られませんよね!男勝りなアンジュリーゼ様にも・・・ようやく春がやってきました・・・筆頭侍女として、嬉しく思います!」

 

「いやぁ。それほどでも・・・」

 

「あんたは黙ってなさい!!」

 

【ドガバギベギボガ!!】

 

「ギャーッ!!」

 

数分かけて、タスクはアンジュにボコボコにされた。

 

「はあっ。はあっ。ところでタスク。貴方は何者

なの?何であんなところにいたの?」

 

それはナオミ達も思っていた事だ。あの様な場所に何故いたのか。偶然などでは片付けられない。するとタスクの表情が真剣なものへと変化した。

 

「・・・ジルから言われたんだよ。アンジュを死なすなって」

 

「ジル?それってジル司令のこと?」

 

「それだけじゃない。俺はヴィルキスの・・・

アンジュの騎士だよ」

 

「騎士・・・」

 

しばらくの間沈黙が続いた。その為、洞窟の奥からの足音の響きがかなり反響していた。シオン達がその場へと戻ってきた。カリスの背にはシルフィーが負ぶさっており、意識の方はないらしい。

 

「どうなんですか。シルフィーは」

 

「・・・」

 

ナオミの質問にカリスは黙って首を横に振ると、

シルフィーを床に寝かした。そしてナオミ達に

した事を同じ事をした。すると彼女の身体の傷は

ものの数分で完治した。

 

「・・・ねぇ。貴方達は知ってるの?一体・・・

シルフィーに何が起きたの?」

 

「・・・持病の発作だ」

 

シオンが素っ気なく答える。

 

「そんな答え、納得できない!」

 

持病。人が人ならざる姿へと変化した。そんな病気がこの世界に存在するとは思えない。

 

「・・・タスクさん。銃から手を離してください」

 

その一言に皆がタスクの手元に注目する。その手には銃が握られており、シルフィーへと向けられていた。

 

「タスク!何をする気!?」

 

「・・・ジルから言われたんだ。彼女に不審な点が見られたら・・・その場で抹殺せよと」

 

「私達は彼女のおかげで助かったのよ!それなのに!」

 

「俺だって感謝している!でも、彼女の正体は・・・いくらなんでも、このまま放置しておく訳には・・・」

 

「どういう意味だ」

 

フリードが睨む様な視線をタスクへと向けた。

 

「・・・ジルは彼女を君達の組織の一員と考えている。そしてシルフィーのあの変化。どう見ても生物兵器の類だ。あまりに危険すぎる。だから・・・」

 

【ドゴッ!】

 

言い終わる前に、タスクの身体が吹き飛んだ。頬にグーパンチが飛んできたのだ。殴った主はエセルであり、その瞳はタスクに対する激しい怒りと軽蔑が込められていた。

 

「殺すってのか!?人と姿が違うから、お前は彼女を撃つのか!?殺すのか!?生きる権利を奪うのか!?この子があんたに何をしたんだ!!なのに・・・そんな理屈。この子にしてみれば、そんな理屈で殺そうとするあんたの方が、よっぽど化け物だ!!!」

 

「やめろエセル!」

 

大きく振りかぶっていたエセルの拳を、シオンが止めた。

 

「シオン!いいのか!こんな奴に好き勝手言われて!こんな奴!あの国の人間と同レベルの存在に!」

 

「・・・事情を知らなければ無理もない。それに、力を持たない者が力を持つ者を恐れる気持ちも分かる。だから・・・」

 

「・・・ちっ!」

 

舌打ちをした後、エセルは拳を下ろした。勝手に話を完結された為、アンジュ達からすれば全く事態が飲み込めていない。

 

「貴方達は一体何者なの!?前にもシルフィーと

現れたわよね!?シルフィーとどういう関係なの!?」

 

「それは・・・」

 

「・・・うっ」

 

突如聞こえた微かな呻き声に皆が一点を注目する。見るとシルフィーの眼が開かれていた。

 

「シルフィー!その眼・・・」

 

異変は直ぐに見られた。彼女の目は紅色へと変色していた。翼や尾なども生えておらず、皮膚だって鱗なんかではない。なのに瞳だけは紅色のままであった。

 

シオンが慌てて側へと駆け寄った。

 

「シルフィー!一度でもいい。自分そっくりな人間に一度でも出会ったか!?そいつに何かされなかったか!?」

 

「あ、ああっ・・・ああああぁっ!!」

 

しかしシルフィーは突然絶叫をあげると、跳ね起きて洞窟を飛び出し、ゲリラ豪雨の降りしきる森の方へと逃げる様に飛び出していった。

 

「シルフィー!」

 

呼びかけるも帰っては来なかった。数分の間、誰も動く事が出来なかった。

 

「・・・私が行く」

 

ついさっきまで寝ていたドミニクが目を開けた。そして辺りを見回すとその視線をナオミの前で止めた。

 

「貴女も来て。きっとその方がいい」

 

そう言うとナオミの手を引き、ランタン片手に洞窟の外へと出て行った。外は先程まで降っていた雨が止んでおり、地面がぬかるんでいた。

 

「シルフィー!どこにいるのー!?」

 

森にはナオミの呼ぶ声が反響する。

 

「・・・あっち」

 

ドミニクの指差す方向。手元のランタンの照らす先に探していた存在はいた。シルフィーは木の幹の所にうずくまっていた。頭を抱えて何かに怯えているみたいであった。そこに普段見てきた彼女の面影はなかった。

 

「シルフィー!大丈夫!?・・・!!」

 

シルフィーの肩に触れた手が反射的に引っ込む。雨に濡れた影響か、はたまた今朝の体調不良の影響か、彼女の身体は明らかに冷たくなっていた。これではまるで死体だ。

 

「シルフィー。これ飲む?」

 

ドミニクは何かのカップを差し出してきた。中からは湯気の様なものが沸き立っていた。それを受け取る。カップ内の水面は揺らいでいる。その手は目に見えるほど、酷く震えていた。

 

「落ち着いて。ゆっくり。ゆっくり飲めばいい。

貴女も飲む?」

 

ナオミもそのカップを受け取り、恐る恐る口をつける。甘い。中身はホットココアであった。

 

三人ともそれを少しずつ飲み続けた。

 

三人が飲み終わるとドミニクは黒のローブを取り出し、シルフィーにかけた。

 

「・・・暖かい」

 

「話して。今、心の中に溜まっているの。何か思い出した事。あるんじゃないの?」

 

やがてシルフィーは震える声で話し始めた。

 

「・・・同じ」

 

「同じ?」

 

「あれが初めてじゃない。私は、以前もああなった。間違いない。夢の中で一度だけ見た黒い人影。あれは私なんだ・・・あの夢は、私の記憶を表してるんだ・・・でも何で。何であんな記憶が・・・」

 

シルフィーは震える自分の右手を見た。その手は

人間の手の姿をしている。今の彼女にはそれさえ

気に食わなかった。

 

「こんなの・・・人の形をしたただの化け物じゃない!!」

 

「・・・大丈夫。シルフィーはシルフィーだから。化け物なんかじゃ無い。確かに見た目は人間じゃないのかも知れない。あの魔法みたいな炎だって、私にはよくわからない」

 

そう言いナオミはシルフィーに抱きついた。

 

「・・・でも、シルフィーのあの炎は、決して私達には牙を剥かなかった。少なくても、あの人達に比べてシルフィーは人間だよ。だって、人間じゃない人がこんなに暖かいわけがないよ」

 

シルフィーの身体は相変わらず冷たかった。だが、全体にほんのりとした温もりが広がっているのも、確かに感じた。

 

「ナオミ・・・私・・・わたし・・・」

 

啜り泣きにも似た声が聞こえる。やがて啜り泣きの声は安堵の寝息へと変わった。するとドミニクは

ナオミにも黒のローブをマントの様にかけた。

 

「今だけはいっしょにいてあげて。お願い」

 

「うん。わかった」

 

そう言うとドミニクは来た道を帰っていった。洞窟内では相変わらずの雰囲気であった。

 

「ドミニク。シルフィーは?」

 

「大丈夫。あの子がついてる。ほんの少し。そっとしておいてあげて。お願い」

 

「・・・分かった。彼女の事は俺の心の奥にしまっておくよ」

 

そう言うとタスクは銃をホルダー内へとしまった。

 

「先程はすまなかった。そちらの事情も考えずに。でも、ならばせめて教えてくれないか?君達が何者なのか。それだけでも!」

 

「・・・」

 

「君達だってあそこに来た理由があるんだろ?それにはシルフィーが関係してるのかい?せめて、それだけでも」

 

「アンジュ。モモカ。君達は席を外してくれ。奥の開けた場所に掘り風呂がある。よければ使いたまえ」

 

シオンの言葉は静かなものだった。しかしその奥深くには有無を言わせぬ強さが込められていた。それに気圧され二人は黙って奥へと進んで行った。

 

この場はシオン達六人とタスクだけとなった。

 

「君は何も感じなかったのか。圧倒的な威圧感に」

 

「威圧感?」

 

「何もする事が出来ない。ただ突っ立ってるだけ。そんな雰囲気を感じなかったか?」

 

タスクには心当たりがあった。シルフィーの姿が変わったあの時、兵士達や観客達が何故か直ぐに逃げ出さなかった事だ。何か見えない力によって全ての行動をするのを忘れたかの様に。

 

「・・・あれが持病なのは本当の事だ。彼女は我々とは違う。そして我々の目的の一つはあの子を守る事だ。これで満足かな?古の民最後の生き残り、

タスクよ」

 

「!!どうしてそれを・・・」

 

「何故なのか。それを知るのは今ではない。もし、道が交わる時が来ればその疑問に答えよう。さて、そろそろシルフィー達を洞窟内に戻すか。外で寝ては風邪を引いてしまう」

 

そう言うとシオン達は外へと出て行った。やがて

二人をオンブすら用に戻ってきた。

 

「二人とも死んだように寝ているよ。きっと疲れたんだろう。今日起きた出来事を考えれば、疲れるのも無理はない」

 

「あの、俺が二人を運びます」

 

タスクが二人を背負い、洞窟の奥へと歩いて行った。

 

「奥地はここか・・・!!」

 

「!!」

 

少し開けた場所。そこでは正にこの世の神秘が広がっていた。風呂上がりの二人の裸体がそこにはあった。アンジュの顔が一気に赤く染まった。

 

「あっ!いや!その!これは!」

 

「この変態!!死ねぇ!!」

 

「ギャーッ!!」

 

洞窟の奥地で、タスクの悲鳴が響き渡った。こんな惨劇の中でも、二人は目覚めなかったあたり、余程疲れていたのだろう。こうして雑魚寝の形で四人は眠りについた。なお、タスクは安全の為、アンジュによって洞窟の岩に括りつけられた。

 

朝となった。アンジュ達が目覚めるとそこにはシルフィーがいた。

 

「起きたか。朝食食べたらアルゼナルに帰るよ。今暖めるから。少し待ってて」

 

周りを見渡して

 

「ねぇ。黒装束の集団は??」

 

「シオン達の事?さぁ。起きた時にはもうどこにもいなかった。朝食だけ置いてったけど」

 

「ねぇシルフィー。眼は大丈夫?」

 

「これ?問題ない。これまで通りちゃんと見えてる。ほら、早く食べなさい」

 

シルフィーの様子は普段アルゼナルで見てきたものと何ら変わりないものだった。簡素なパンにスープをつけた朝食を五人がとった。そして食事が終わると、いよいよアルゼナルに帰る時がやってきた。

 

「三人とも、アンジュの事を頼んだよ。ジルにもなるべく穏便に済ませる様に頼んでおいたから」

 

「ねぇ。タスク。また・・・会えるわよね?」

 

「・・・ああ。必ず会える・・・そうだ。もう一つあった。君の髪って綺麗な金色だよね」

 

「えっ!?そっそれが・・・?」

 

アンジュが顔を赤らめた。褒められて嬉しいのだろう。

 

「下の方も金色なんだね」

 

「死ね!この変態騎士!!」

 

この変態は何故このような発言が出てくるのだろうか。この後タスクが今回三度目のフルボッコにされた事は言うまでもなかろう。

 

二人は自分のライダースーツを着込み、アンジュには黒ローブを渡す。アンジュはオメガに。モモカさんがグレイブに搭乗する。機体で飛び立つ直前、

アンジュはミスルギ皇国の方を振り返った。

 

「さようならミスルギ皇国・・・さようなら・・・腐った国の家畜ども・・・シルヴィア・・・お兄さま・・・さようなら」

 

アンジュは呟いた。過去の自分と・・・自分の中のアンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギと決別するために。

 

「帰ろう。アルゼナルへ」

 

そして二つの機体は自分達の帰る場所。アルゼナルを目指して飛び立って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間前、夜も更けて皆が眠りについていた時、

六人は洞窟の奥に集まっていた。

 

「まさか症状が出るとは」

 

「今のところ、腕輪は何とか機能してる。だがもう

焼け石に水もいいところだ。今のうちにあの子を連れて・・・」

 

「いや、彼女は我々とは別にした方がいい」

 

「シオン!確かにあの子と私達が一緒にいたら不味いのは解る!でも、末期症状が出てるんだぞ!これ以上は!」

 

「だからこそだ。せめて彼女にはこれまで通りの生活を送らせてやりたいんだ。今のうちに、今の幸せを満喫させてやりたいんだ・・・」

 

「シオン・・・」

 

「わかりました。でも、シルフィーさんには見守りが必要です。だから私が彼女を見守ります。それなら問題ないでしょう」

 

「ありがとうカリス」

 

「シオン。シルフィーだけど。記憶の封印。かなり解けかけてる。多分。いつか全てを思い出す。きっと」

 

「・・・そうか。残された時間は少ないって事か。

 

そう言い隣で寝ているシルフィーと腕輪を一撫でした。そしてその側に置かれているオメガへと歩み寄った。

 

「お前も頼む。あの子がこのまま永遠に発症しないのかもしれなければ、明日目覚めれば即座に発症するのかもしれない。だから、それまでの間だけでも側にいてやってくれ。何たってお前は、あの子のたった一人の友達なんだからよ」

 

「・・・」

 

「って。今のお前にそんな事言っても意味ないか。さて。簡単な朝食を作っておいた。火で温めれば食べれる料理だ。これを置いて、我々は早くこの場から去ろう」

 

六人が洞窟を出た数メートル先で、シオンは一度だけ洞窟の入り口の方を振り返った。

 

(・・・そろそろ動き出す頃か。待っていろリラ!

必ず腕輪は取り返す!取り返してみせる!)

 

そう思い、再び前を向き歩き始めた。こうして六人の姿は夜の深い闇へと溶けていった。

 

 




エンブリヲの声を聞くたびに脳内でこれ→⊃天⊂が
浮かんできます。

俺もこれくらいの頭脳か力(次元連結システム)が
欲しいなぁ。世界征服したいなぁ。

次回で第4章は最終話です。アンケートがまだの方はお早めに。なおもし一位が二つ並んだ場合はアンケート期間を1話延ばすつもりです。

今後、ナオミにどの様なルートを辿って欲しいかを以下の三つから選びなさい。

  • ①ドラゴンルート
  • ②エンブリヲルート
  • ③オリジナルルート
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