クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 Another Story   作:クロスボーンズ

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第32話 パラダイス・ロスト

 

 

アルゼナルを目指し飛んでいた二人プラス二人。彼女達は特に何かを話すわけでもなく、只々海の上を飛び続けた。途中、雨が降り始めた。四人とも濡れていった。

 

やがて見慣れた島が視界に映った。アルゼナルが見えてきたのだ。勢いよく機体を発着デッキへと滑り込ませ、四人とも機体から降りた。

 

「帰ってきたのね。私達」

 

すると奥の方から人の気配を感じた。一人二人などではない。見るとアルゼナルにいるであろうメンバーのほとんどが集結していた。そしてそれらの群れを掻き分けながら、ジル司令が前へと現れた。

 

「任務ご苦労だったな」

 

「ジル司令。アンジュを連れて帰りました」

 

「貴女には色々聞きたいことがあるの」

 

アンジュが睨みならが一歩前に出る。

 

「ああ。構わん。だがその前に・・・」

 

ジル指令が右手を上げた。すると辺りのメンバー達が一斉に銃口をある一人へと向けた。シルフィーだ。

 

「何故帰ってきた」

 

「えっ?」

 

「何故帰ってきたかと聞いている」

 

「何故って、命令通りアンジュを連れて帰って・・・」

 

「私はそんな命令を出した覚えはない。まぁそんな事はこの際どうでもいい。全員知っているんだぞ。お前の正体を」

 

「!!!!」

 

その言葉に四人の表情が一気に険しくなった。更にジル司令は写真を一枚突きつけた。それはシルフィーがミスルギ皇国で鳴った怪物の姿であった。

 

「見せてもらったよ。ミスルギ皇国での一件。随分と派手にやってくれたな。あの一件で何人死んだか知りたいか?」

 

「・・・」

 

「78585人だ。まぁこんな事だけなら私とてとやかく言うつもりはない。だが、お前は人という存在ですらない。ここは化け物の居ていい場所ではない。今すぐアルゼナルから出て行け」

 

鉄槌の様なシルフィーに振り下ろされた。それにナオミが反発した。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!そんな・・・ジル司令!以前言ったではないですか!外にノーマの

居場所はない。それなのに・・・そんな・・・」

 

外の世界に居場所はない。あんな光景を見た以上それはノーマであるナオミ達も理解できた。

 

「私はアルゼナルとここに住む彼女達の為を思って言ってるんだぞ」

 

「でも!!それじゃぁ・・・」

 

「一つだけ教えてやる。これは何も私の独断では

ない。ここにいる者全員の意見だ」

 

四人が驚いた顔で人混みを見た。するとその場で銃口を向けたまま押し黙っていたメンバー達が口々に罵声を飛ばし始めた。

 

「ずっと、ずっと騙してきたんだな!

 

「身ぐるみ剝がせ!正体を表せ!」

 

「存在が迷惑なんだよ!」

 

「よく帰ってこれたわね!」

 

「怪しいと思ってたんだ!あんたのこと!」

 

「あの機体だって、怪しいもんだ!」

 

「早く出てけよ!」

 

「失せろ!」

 

「いっそこの場で撃ち殺せ!」

 

「ダメ!あの姿になってカウンターされたらこっちが!」

 

「悩みの種はごめんなのよ!」

 

「出てって!」

 

「消えろよ!」

 

口々に飛んでくる罵声。それらに我慢出来なくなったのかナオミが遂に声を上げた。

 

「酷いよみんな!!私達がどんな目にあったのかも知らないで、寄ってたかって!!!」

 

「ナオミ・・・」

 

「外の世界がどんな所かも知らないで!私達がどんな思いをしてきたのか。どんな思いで帰ってきたのかも知らないで!!一方的に!!」

 

その言葉の迫力に皆が尻すぼみする。ここまでの迫力があるとは思ってなかったらしい。数秒の沈黙の後、震える幼い声が聞こえた。

 

「お姉様。何で・・・さっきから何で黙ってるの?」

 

声の主は幼年部の子供であり、エルシャのスカートの裾を引っ張り、怯えていた。

 

「だって、あの人。ドラゴンと同じ化け物なんだよね・・・私、怖いよ。追い払ってよ。エルシャお姉様」

 

幼年部の子供の懇願に対し、エルシャは苦虫を噛み潰したような表情で、視線を逸らす事しか出来なかった。他の第一中隊のメンバーも、銃こそ構えなかったものの、顔を背ける事しかできなかった。

 

そしてトドメとばかりにジル司令が言い放つ。

 

「どうだ。これでもまだここに残るつもりか!?

化け物!」

 

「!!そんな言い方!!!」

 

前に出ようとしたアンジュ達の身体に腕がぶつかる。シルフィーが二人を抑えていた。

 

「・・・・・・」

 

顔は下を向いており、その表情は一切読めなかった。外したバイザーを目深に被り、今来た道を黙って戻っていった。歩くペースは一切変えずに。

 

「シルフィー・・・」

 

彼女はオメガのコックピットに乗り込むと、機体を急発進させた。一切振り返る事もせず、機体はフルブーストで雨の降りしきる空を貫いていった。

 

やがて緊張の糸が解けたのか、一人、また一人と銃を下ろしていった。

 

「さて。それじゃ次だ」

 

ジル司令はアンジュの元に駆け寄るとその腹部にパンチを入れた。注意が他所へと向いていた為、完全な不意打ちとなりアンジュは意識を失い、その場へ倒れこむ。

 

「アンジュを拘禁しろ!!反省房に叩き込め!!」

 

「そんな!どうしてです!?せっかく帰ってきたのに!そんな!」

 

「こうでもせねば、他の者への示しがつかん。それとナオミ。外での出来事は一切口外にするな。以上だ。各自解散!持ち場に戻れ!」

 

ジル司令の鶴の一声によってその場に集まっていたメンバーは散り散りになっていった。なお、モモカさんは人間という事もあり、反省房送りは免れたらしい。

 

その場にはただ一人、ナオミだけが残された。

 

「そんな・・・シルフィー・・・」

 

彼女は振り返り、未だ雨の降りしきる空の方を向いた。そこは暗雲が立ち込めるだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃司令室ではジル司令とマギー。そしてジャスミンが集まっていた。

 

「それにしても、一体何者なんだろうね。あの子が化け物の姿に変化する映像をアルゼナルの全域に流した奴は」

 

「それについては現在捜索中だが、これをやった奴はかなりの手腕だ。マナを使っておおっぴらに公開したが、少なくても監察官殿ではないだろうな」

 

「私としては興味があったね。彼女の変化。どういう理屈なのか。知的好奇心を掻き立てられる」

 

「・・・いいのかい。あんな事して。私らの抱えてる秘密。それを教えてやれば、とりあえずあの場は収められたんじゃないか?」

 

ジャスミンの視線を受けながら、ジル司令はタバコを取り出し、一服し始めた。

 

「秘密か。それを彼女達に教えることは出来ん。それは二人とも知っている筈だ。この秘密が知られれば、このアルゼナルの存続に関わるのだからな」

 

その言葉に二人は押し黙ってしまった。やがてマギーが口を開いた。

 

「まぁいい。それじゃあ私はこれで。プラントにちょっと用事があってね」

 

「プラントか。どうなんだ。最近の研究は」

 

「思うようには進んでないのが現状かね。前より悪化はしてない分、マシだろうけど」

 

そう言うとマギーはその場を離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は反省房へ。

 

「起きろアンジュ」

 

その声と同時に身体にかけられた水によってアンジュは目覚めた。

 

「処分を伝える。反省房での一週間の謹慎。所持品。資産、財産は全て没収。無論、ヴィルキスもよ」

 

「・・・ねぇ。どうして?どうして脱走なんてしたの?」

 

「私達は赤ん坊の頃からここにいるわ。だから外の世界を知らない。待って人なんていない。ここから出て行く理由もない。外にノーマの居場所なんてないのよ・・・」

 

「結局違うのよ。こいつらは・・・信じるんじゃなかった」

 

サリアはそう言うとその場を後にしようと数歩歩いたところでその足を止めた。

 

「でも、貴女は一つだけいい事をしたわ。シルフィーの正体を暴いてくれた事よ。 これでアルゼナルの不安要素が取り除かれたわ」

 

「・・・あんた、シルフィーは同じ中隊仲間なんじゃないの?」

 

アンジュの言葉にサリアの表情が一気に険しくなった。

 

「・・・私だって信じたくなかった。あんな事・・・あんたのせいよ」

 

そう言い今度こそ反省房を後にした。エルシャも

サリアを追いかけてその場を後にした。

 

「相変わらずうるせぇなぁ。あの隊長は」

 

ふと隣から声がした。隣のベッドを見ると、そこには何とヒルダがいたのだ。

 

「ヒルダ・・・貴女も帰ってきてたのね」

 

「それ以上近づくな」

 

数歩歩いた所で数歩後ずさる。ヒルダの顔にはボコボコにされた後が凄惨にあった。見てるこちらも痛いほどに。

 

「あんた。一体何があったのよ」

 

「そっちが先に答えな。話はそれからだ」

 

「・・・死刑。殺されかけた。人間共の前に晒されて、鞭を打たれて、死にかけたわ」

 

「はっはっは!そいつは災難だったなぁ」

 

「私は話したわ。次は貴女の番よ」

 

「50人にぼこされた。全員再起不能にさせてやったけど」

 

「貴女も随分とやられたのね」

 

「それより随分な歓迎を受けてたな。ここの連中の罵声、ここにまで聞こえてきたぞ。後さっきのサリアの話。シルフィーの奴に何かあったのか?」

 

「・・・シルフィーがアルゼナルを追放された」

 

その言葉にヒルダは驚きを隠せなかった。

 

「・・・まじかよ」

 

「・・・私のせいよ」

 

行動には結果という答えが付いてくる。例外は一切ない。アンジュはアルゼナルを脱走した。この行動の結果、外の世界の人間の迫害によってアンジュとモモカさん。シルフィーとナオミは殺されかけた。

 

そしてシルフィーは人で無い事が発覚。アルゼナルのメンバー達からも迫害され、追放された。ノーマに外の世界で居場所はない。ならば彼女の辿る末路は・・・

 

しばらくの間、お互い何も話さなかった。

 

(追放か。もし、昔の私だったら喜んで追放されたかったろうな。それなら合法的に全てを捨てられた。ここでの思い出も・・・友達も)

 

実は今朝、ヒルダがアルゼナルへと強制送還された際、反省房にロザリーとクリスが来たのだ。

 

「なんで脱走なんかしたんだよ。なんで相談してくれなかったんだよ。うちら、友達だろ?」

 

「友達なんて思ってなかったんでしょ?」

 

クリスの発言にヒルダはただ一言呟いた。

 

「・・・ああ。思ってねーよ」

 

【ペッ!】

 

その言葉に、クリスがヒルダに唾を吐きかけた。

 

「死ねばよかったのに」

 

吐き捨てる様に言うとクリスはその場を後にした。ロザリーもそれに続いてその場を離れた。

 

そして暫くした後、アンジュがここにぶち込まれたというわけだ。

 

 

 

 

「あーあ。なーんもなくなっちゃったな。部屋もクリスの奴が買い取ったって聞いたし。キャッシュも全額没収。生きてる理由もない。・・・いっそ殺してくんないかな」

 

「死ぬのはダメ」

 

「アッハハハ!流石は元皇女様、言うことが違うね。希望は捨てずにってか?」

 

「違うわよ。匂うでしょ?死んだら。止めてよ、こんな狭いとこで」

 

「・・・はぁ?」

 

あまりにも突拍子な発言に唖然とした。

 

「希望?大体そんなもの本当にあると思ってるの!?」

 

ヒルダの愚痴にアンジュが怒った風に言う。

 

「あるのは迫害される現実とドラゴンとの殺し合いの毎日だけよ。全く、馬鹿馬鹿しくて笑っちゃうわ」

 

「偏見と差別に塗り固められた愚民ども。ノーマってだけで一方的に否定するやつら。マナを使う奴はそんなに偉いの?全部が嘘だった。友情とか家族とか絆とか・・・」

 

不意にアンジュが叫んだ。

 

「あー!友情こそ大事とか!絆こそ素晴らしいとか!平気で口にしてた自分を殴りたくなってきた!どいつもこいつもバカばっか!こんな世界!腐ってるわ!いっそ壊してやりたい!」

 

「世界を壊すねぇ・・・どうやってだよ?」

 

ヒルダが当然の疑問を聞いてくる。

 

「できるんじゃない?パラメイルと武器があれば」

 

「陸までどんくらいあると思ってんだよ」

 

「長距離移動が可能な機体を作ればいいじゃない」

 

「食料や資材はどうすんだよ」

 

「魚なら取れるし、最悪人間達から奪い取ればいい」

 

そう言うとアンジュは鉄格子を忌々しげに掴んだ。

 

「私を虐げ!辱め!貶めることしかできない世界なんて!私から拒否してやる!こんな腹立たしくて!頭にくる!ムカつく世界!全部壊してやる!」

 

「・・・ハッハッハッハッハ!」

 

ヒルダが突然笑い始めた。

 

「何がおかしいの?」

 

「ムカつくな。そういうの。よし!あたしも協力してやるよ。ムカつく世界をぶっ壊すのに」

 

そういうとお互いが堅く強く握手をした。

 

その日の夜、アルゼナルにアンジュの

歌う永遠語りが響いた。

 

それは自室にいたサリアに。

 

野外風呂にいたエルシャとヴィヴィアンに。

 

ゾーラの部屋でお楽しみをしていたロザリーとクリスに。

 

食堂で手伝いをしていたモモカに。

 

一人ベットに腰掛けていたナオミに。

 

反省房の隣のベッドで横になっていたヒルダに。

 

司令室でタバコをふかしていたジル司に。

 

アルゼナルにいた全員に、その歌は響き渡った。

 

やがてその歌は何の脈絡もなく、突然途絶えた。

アンジュが歌うのをやめたからだ。

 

「どうしたんだよ。急に歌うのやめちまって」

 

「・・・ちょっとね。今日見た出来事で、昔の事を思い出したわ。私がアルゼナルに来る前。私がノーマだと判明したあの日の出来事をね。どいつもこいつも、私の事を期待と尊敬の眼差しで見てた。それがノーマだとわかった途端掌返し。罵声を浴びせて。ほんとあいつら、胸糞悪い」

 

「それをシルフィーのやつが受けたって事か」

 

その言葉を最後に、二人とも、それ以上何も話さなかった。ただベットに横になり、一つだけある事を考えた。

 

(シルフィー。今頃どうしているのかしら・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在シルフィーは一人、オメガと共に夜空を飛び続けていた。

 

(昔に戻るだけだ。昔に・・・)

 

彼女にとって一人で生きる。それは昔の自分に戻る事を意味していた。それは何も難しいことではない。

 

(・・・あそこでの生活。少しだけ楽しかったけどね・・・)

 

下まぶたに何かの液体が溜まっている。バイザーによって外へと排出されないそれは徐々にだが溜まっていった。

 

(・・・夢を見てたんだ。ほんの少しの間、楽しい夢を。でも、夢はいつか覚めて終わるものだし・・・)

 

無意識の内にバイザーを取り外す。液体は頬を辿り流れ落ちた。

 

(昔に戻るだけ。戻るだけなのに・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(・・・何で涙が止まらないの・・・)

 

泣きながら彼女とオメガは行く当てもなく、夜空を飛び続けた。やがて涙も枯れ果てた頃、彼女は墜落に近い形で近くの島へと落ちていった。




今回で第4章はおしまいです。アンケートは数日の間は解禁しておきます。

シルフィーには絶望のどん底に叩き落ちて、そこから這い上がってきてもらいましょう。

第5章からかなり物語が動きます!果たしてシルフィーの運命はいかに!

今後、ナオミにどの様なルートを辿って欲しいかを以下の三つから選びなさい。

  • ①ドラゴンルート
  • ②エンブリヲルート
  • ③オリジナルルート
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