クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 Another Story   作:クロスボーンズ

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第5章 破滅へのカウントダウン
第33話 失意の底で


 

ミスルギ皇国。あの事件から2日が経過したこの国は、現在も得体の知れない恐怖に怯えていた。崩壊した処刑場では焼死体か幾多も発見され、それらが今回の事件の残虐性を示していた。

 

そんな夜。シルヴィアが突然ベットから跳ね起きた。どうやら悪夢に魘されていたようだ。目覚めた彼女の身体はバケツをひっくり返したかの様に、全身が汗まみれであった。

 

(あれで、あれでよかったんですよね!?お兄さま!もう、もうここには来ませんよね!?)

 

マナの力で車椅子を寄せる。震える手で枕を握りしめ、ジュリオの部屋を目指した。

 

やがてジュリオの部屋の前に辿り着くと、扉が数センチ空いている事に気がついた。何気なくその隙間から部屋の中の様子を探った。部屋の中にはジュリオとリィザがいた。

 

「大丈夫よ。ジュリオ。貴女はよくやったは

 

「本当に!?僕よくやれた!?嬉しいなぁ。母上は僕の事全然褒めてくれなかったんだよ。

いっつもアンジュリーゼの事ばっかりエコヒイキしてたんだ」

 

するとリィザは爪から何かを垂らした。ジュリオの口にその液体が入る。

 

「ふふっそれじゃ今度はママのお願い聞いてくれる?」

 

「わかってるよ。シンギュラーポイントを開けば

いいんだよね?」

 

「そうよ。いい子ね」

 

窓に雷の光が入り込む。壁に映し出されたシルエットには、リィザの背中から翼が生えていたのだ。

 

「ひっ!」

 

ついあげてしまった声にリィザがこちらを向く。するとリィザは邪悪な笑みを浮かべた。

 

「あらあら。シルヴィア様」

 

「近衛長官・・・あなた・・・一体」

 

「どうやら悪い夢を見てらっしゃるのですね」

 

リィザが近づいて来た。シルヴィアは慌てて車椅子でその場を離れる。しかし後ろからリィザの尻尾がシルヴィアの首に巻きついた。

 

「ぐっ・・・たす・・・けて。助けて!アンジュリーゼお姉様!」

 

シルヴィアの助けを求める悲鳴が、皇宮内に虚しく響く。その悲鳴を抑えるかな様に、何かの薬品が染み込んだ布を嗅がされ、彼女の意識は閉ざされた。リィザは尻尾を首から離す。

 

「貴女ね。出てきなさい」

 

リィザが暗がりを睨んでいる。その暗がりの奥にはリラがいた。

 

「やぁリザーディア。ごめんね。ちょっとこっちに用事があってね。そしたらピーピーうるさいから、黙らせてもらったよ」

 

「リラ。まさか貴女が黒の部隊の協力者とは」

 

「まぁね。で、どう?そっちはうまく行ったの?」

 

「ええ。シンギュラーは抑えた。後は決行の時を待つだけ」

 

「ふーん。それじゃあせいぜい頑張りな。バイビー」

 

それだけ言うと、リラはシルヴィアをリィザの方に放り投げ、自身は今きた道を笑いながら戻っていった。しかしそれをリィザが呼び止めた。その顔には焦燥が見られた。

 

「待て!」

 

「なんだい?僕はこう見えて忙しいんだよ」

 

「・・・知っていたのか。アンジュリーゼの処刑のおまけが・・・あいつらの仲間だという事を」

 

「イグザクトリー!もちろんだよ」

 

「初めから分かっていたのか!こうなることが!!」

 

「・・・一つだけ教えてあげるね」

 

そう言うとリラは一気にリィザの背後へと回り込んだ。次の瞬間、背筋に悪寒が走る。リィザの頬を何かの尻尾のようなものが冷たく愛撫する。

 

「君は何も知らなくていい。黒の部隊の命令系統は君達とは違うんだから。僕はそれの協力者。下手な探りをいれると・・・食べちゃうよ?指を一本ずつ、ゆっくりと痛めて、苦しめながら・・・」

 

それだけ言うと、リィザの背後に蠢いていた殺気はリラごと、一気に消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンジュ達が帰ってきてから一日が経過したアルゼナルでは、現在ミスルギ皇国。いや、神聖ミスルギ皇国からの使者とジル司令が対談していた。

 

「つまり、ここにこの人物はいないという事ですね?」

 

テーブルの上に置かれた写真。それはシルフィーの写真であった。そしてもう一枚、ミスルギ皇国で

起きた謎の変化後の写真も置かれていた。

 

「ええ。この様な化け物。私は見た事もありません」

 

追放したシルフィーに関する全てのデータは抹消していた。エマ監察官も寝込んでいて応対どころではない。

 

「では、今回の事件に関する重要参考人として、アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギの身柄を引き渡してもらいたい」

 

「ここはアルゼナルです。アルゼナルはローゼンブルム王国の管理下にあります。ノーマ根絶法をなんかを使うつもりでしたら、ローゼンブルム王国を説き伏せる事ですね」

 

ミスルギ皇国がアンジュ達にした仕打ちはジル司令も知っている。みすみす殺させる為に送り渡すはずなかろう。すると使者の表情が一気に険しくなる。

 

「ノーマ風情が。調子にのるなよ」

 

「すみませんね。ノーマなもので」

 

「・・・ローゼンブルムを説き伏せろと言ったな。その言葉、忘れるなよ」

 

そう吐き捨てると、ミスルギ皇国の使者は唾を床に吐き捨て部屋を出て行った。

 

「下衆が」

 

「ったく。なんなんだい一体。傲慢と言うか何と言うか」

 

背後で対談を見守っていたジャスミンとマギーが愚痴を零す。あの使者の態度を一言で言うならば、こちらを見下す、傲慢の一言に尽きた。

 

「だからこそ、我々は行わなければならないんだ。リベルタスをな」

 

そう言うとジル司令は、手元のタバコに火をつけ一服した。

 

 

 

その頃、ナオミは発着デッキでグレイブに搭乗していだ。そして無線機で必死にオメガとコンタクトを取ろうとしていた。

 

「シルフィー!応答して!シルフィー!」

 

「・・・」

 

無線機からは物音一つ聴こえてこない。それでも

ナオミは諦めずに通信を送り続ける。

 

(お願い。出て、シルフィー!)

 

「・・・・・・・・・ナオミ」

 

やがて通信機からは、今にも消えてしまいそうなか細いシルフィー声が聞こえた。

 

「シルフィー!シルフィー!!お願い!帰ってきて!ちゃんと話せば、みんなだって分かってくれるよ!!だから!」

 

「もう連絡するな」

 

「えっ?」

 

「私は・・・もう私じゃない・・・」

 

その言葉を最後に、通信は断絶した。通信機からはもう何も聞こえてこなくなった。

 

気がつくとナオミは一人、部屋へと戻っていた。そこには数日前までは確かにあった色が完全に消え失せている。ベットに横たわり、そこで違和感を覚えた。妙に広いのだ。その違和感の答えは直ぐに判明する。

 

(そうか。確かこれまで、シルフィーと一つのベットを共有してたんだ。だからこんなににも広く・・・もう、会えないのかな・・・)

 

「・・・食堂に行こう。何か、食べないと」

 

重い身体を引きずり、彼女は部屋を後にした。

 

食堂内。ここは普段人が一番集まる場所と言ってもいい。だからここの人達の雰囲気がアルゼナルでの雰囲気となる。はっきり言って雰囲気は最悪である。

 

特に第一中隊の立場はかなり危うくなっていた。

二人がアルゼナルを脱走。一人はアルゼナルを追放。

これらの問題によってかなり肩身の狭い状態になってしまったのだ。

 

一人テーブルの外れで食事をしていたナオミ。それらも終わりプレートを片付けるためとあるテーブルを通った際、第二中隊と第三中隊の隊長同士の会話が聞こえてきた。

 

「第一中隊も大変だな。二人も脱走兵を出したばかりかあんな化け物がいただなんて」

 

「あぁ。全く怖いな。化け物と同じ屋根の下で寝食を共にしてただなんて。考えただけで背筋が冷たくなるよ」

 

「・・・うるさいよ。少し静かにして」

 

「ん?あんたは確か第一中隊のメンバーか。あんたらも大変だったな。脱走者は出るは化け物がいたはで」

 

その発言がナオミの中の何かのスイッチ押した。

感情が理性を押しのけた。

 

「化け物化け物って、シルフィーが・・・シルフィーが一体何をしたっていうの!?」

 

大声によって食堂中の視線がナオミへと向けられる。

 

「彼女は私達と戦ってきた!信頼できるのに!それを化け物化け物って!」

 

「それは解ってる。でもな。一緒に戦ってきたとか、信頼できるとか。それはあんたらの理屈だ。

こっちからしたらあいつは化け物。それで十分なんだよ」

 

「!!」

 

「何処に行くんだい?」

 

「一人になりたい。少なくても今、私は貴女達と居たくない」

 

「じゃあ早く消えてくれ」

 

「この際はっきりと言おう。死の第一中隊。普段の態度から薄れがちだが、そんな物騒な呼び名のついてる部隊のメンバーと一緒にいたら、こっちに死が移りそうで迷惑なんだよ」

 

二人に睨むような視線を向けた後、ナオミは黙って食堂を出て行った。そしてその様子を遠目から見ていた第一中隊。

 

「荒れてるわね。ナオミちゃん」

 

「無理もないわ。ココとミランダが死んでからは、彼女と一番仲が良かったんだし・・・」

 

「大体あいつのあの変化。一体何なんだよ。ヒルダや痛姫サマの件で叩かれるならまだしも、うちらだって知らないっての。あんな変化」

 

「そいつらの名前。口にしないで」

 

「わ、悪ぃ」

 

「でもナオミの言い分もわかるなぁ。だってシルフィー。現に私達に何もしてないじゃん」

 

「・・・何かあってからじゃ遅いのよ。それじゃあ手遅れなのよ・・・」

 

そう言うとサリアは立ち上がり、食事プレートを

片付けて食堂を後にした。

 

「今日の隊長。どこか元気がなかったな」

 

第一中隊のメンバーが思い思いの中、食事を続けた。

 

 

 

 

 

その頃サリアはアルゼナルの外へと出た。そこで野に咲く花を摘んでいた。するとそこに幼年部の幼女達と先生がやってきた。

 

「あーサリアお姉さまだ。サリアお姉さまに敬礼」

 

幼年部の子達とその先生がサリアに敬礼する。サリアもそれに敬礼し返す。すると幼年部の子供達ははしゃぎ始めた。

 

綺麗とかかっこいいとか色々だった。その中でサリアが一番心に響いた言葉があった。

 

「私も将来、サリアお姉さまみたいになるんだ」

 

この言葉であった。サリアはその言葉に昔を思い出す。

 

「私もお姉さまみたいになる」

 

まだサリアが幼年部にいた頃。ある人物に憧れての言葉だった。

 

サリアは先程摘んだ花を持ってある人のお墓へと向かう。そこにはメイもいた。

 

「これ。お姉さんに」

 

「毎年ありがとう。サリア」

 

二人でお墓に手を合わせる。

 

「・・・ねぇメイ。さっきサリアお姉さまって言われちゃったよ。私。もうそんな歳かな?」

 

「まだ17じゃん」

 

「もう17よ。同い年になっちゃった・・・

アレクトラと」

 

サリアは十年前の事を思い出す。

 

十年前、アレクトラの乗ったヴィルキスが帰還した。煙が吹き出ておりどう見ても死にかけの危険な状態であった。

 

「マギー鎮痛剤だ!あとありったけの包帯も持ってきな!」

 

当時総司令だったジャスミンが手当てのために

それらをマギーに要求する。

 

「あれ・・・お姉さまの機体」

 

サリアは窓からそれを見ていた。

 

「アレクトラ!?一体何があった!?」

 

「みんな・・・みんなが・・・そうだ。フェイリンから、メイに伝言が・・・三番目の引き出しの二重底に、一族の伝承が・・・」

 

「馬鹿!そんな話は後にしろ!」

 

「ごめんジャスミン。みんな・・・死んじゃった。フェイリンも、バネッサも、騎士の一族も・・・

私じゃ使えなかった・・・ヴィルキスを・・・

私じゃ・・・ダメだった」

 

「そんな事ないよ!!」

 

寝間着姿のまま、サリアとメイが降りてきて、アレクトラの前に立つ。

 

「お姉さまは強くて綺麗でかっこいいもん!ダメなんかじゃないもん!」

 

「サリ・・・ア」

 

「一体どんなドラゴンだったの?大きさは!?硬さは!?私!許さない!お姉さまをこんな風にして!私が仇をとってみせるよ!」

 

最初こそ驚いた顔をしていたアレクトラだが、やがてやがて優しい笑顔となり、残された左手でサリアの頭を撫でた。そして一言。

 

「期待してるわよ・・・サリア」

 

これが十年前に起きた出来事である。

 

 

 

「・・・覚えてないや」

 

「無理ないわ。まだ三歳だったもの」

 

「でも、一族の・・・お姉のの意思は受け継いだよ。ヴィルキスと共に世界を解放する。お姉の分

まで・・・」

 

自分の姉の眠る墓。それを眺めた後、メイは隣にいるサリアの方を向いた。

 

「サリアはライダーとしてアレク・・・じゃなかった、ジルの分まで戦うんだよね?」

 

サリアは思い出していた。今日、アンジュがヴィルキスを没収された以上、自分がヴィルキスを使うべきだと進言した時の事を。ジル司令はその進言を

一蹴した。

 

「なんで!?私はヴィルキスを使えるように頑張ってきたのに・・・なのになんで!?」

 

その時のジル司令の言葉が鮮明に脳裏をよぎる。

 

「どんなに頑張っても、できない奴には出来ないんだ。それがわからないやつは・・・こうなるぞ」

 

ジル司令は右腕を見せた。義手である右手を。

 

「私に・・・私になにが足りないの!?」

 

サリアがそう言う。それにジル司令はタバコの煙を出すとこう言った。

 

「私達・・・にだ」

 

(じゃあ、アンジュには何があるの?)

 

サリアは発着デッキに置かれたヴィルキスをじっと見つめていた。ジル司令の態度を見るに、いずれ

アンジュに再びヴィルキスを託すつもりなのだろう。

 

(アンジュにヴィルキスは渡さない・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、シルフィーが墜落した島。ナオミとの通信が終わったシルフィーの手には、オメガのコントロールユニットが握られていた。

 

【ポチャ】

 

大きく振りかぶり、投げ捨てたそれは海水面に波紋をつくり、海の底へと沈んでいった。これでオメガはただの鉄屑へと成り果てる。次に自分の着ていたライダースーツを手で引きちぎった。それらは風に乗り宙に舞い散った。

 

(これで昔に戻った。シルフィーになる前の自分に・・・)

 

彼女は全裸となった状態で、行く当てもなく島を彷徨い続けた。やがて小山の様な場所の頂上倒れ込む。すぐ側には崖と谷があるなど本来なら直ぐにでも離れたい場所である。

 

だが彼女は動かない。黙ってそこに倒れこんだままである。その瞳からは一度は尽きたはずの涙が溢れていた。

 

(全部、勝手に期待してたんだ、私。みんなは私を受け入れてくれると思って、勝手に・・・こんな事なら、初めからアルゼナルなんか、行くんじゃなかった・・・初めから誰とも、出会うんじゃなかった)

 

不意に背後から足音がした。シルフィーは何一つの反応を示さない。

 

足音の主は横たわるシルフィーの隣に佇んだ後、その身をしゃがめた。そこにはシオンが現れた。彼は倒れ伏しているシルフィーの顔を覗き込んだ。

 

「いいのか?こんな所でふて寝なんかしてて」

 

「・・・」

 

「仲間を失った事がそんなに辛いのか?」

 

「・・・」

 

「別に何も失っていないと思うけどな。俺は」

 

「・・・」

 

「・・・はぁ。ここでリタイアしちまうのか。お前は」

 

「・・・」

 

「・・・ならばこれもお前には不要だな」

 

そう言うとシオンはシルフィーの髪を鷲掴みにした。そこにはナオミがシルフィーにあげたヘアゴムであった。

 

次の瞬間、シオンはそれを側にあった谷底へと投げ捨てる。ヘアゴムはゆっくりと暗く深い谷底へと落ちていった。

 

「今のお前とはもう出会う事はないだろう。じゃあな、負け犬」

 

そう言い残し、シオンはその場から姿を消した。シルフィーは一切の反応を示さずに黙って虚空を見つめていた。

 

その頃、浜辺ではオメガを囲むようにフリード達が集まっていた。シオンは彼等の前に姿を現わす。

 

「やり過ぎだぞ、シオン」

 

「・・・仕方ないんだ。身体の怪我や傷ならカリスの力とかで治す事が出来る。でも、心だけは、自分自身でしか治せないんだ」

 

「シルフィー。ここで終わっちゃうのかな・・・」

 

ミリィの一言に皆がやがてシオンがフードを目深に被り、その場から背を向けた。

 

「何処に行くんですか?」

 

「用意だけはしておく」

 

「何のだ?」

 

「・・・あいつは絶対立ち上がる。こんな所で終わるような奴じゃない。だからその時、戻るにしろ、合流するにしろ、きっとオメガが必要になる。だから行ってくる・・・名もなき島に」

 

そう言い残し、シオンはその場から消えた。フリード達は黙って彼の消えた場所を眺めていた。残された五人は同じ事を考えていた。

 

(・・・戻すのだな。オメガを)




アンケートの結果、ドラゴンルートが一番多かったのでそれを採用することにしました。アンケートにご協力いただき、誠にありがとうございました。

第5章から本格的にオリジナルな部分が原作に絡んできます。ぶっ飛んだ設定も出てきます。より一層、楽しめる作品を手がけていきたいと思いますので、今後とも、この作品をよろしくお願いします!
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