クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 Another Story   作:クロスボーンズ

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第36話 右腕の過去

 

 

ドラゴンの大襲撃を受けた次の日。各国マナ会議では、例のミスルギ虐殺事件での援助会議をそっちのけで、この議題についての会議を始めていた。

 

「まさかドラゴンの方から攻めてくるとは」

 

「このパラメイル・・・まさかドラゴンが?」

 

それぞれの首脳が見ている映像。それは昨日のアルゼナルの襲撃映像だ。

 

マナのモニターにはドラゴン達と共に映されている七機の謎の機体が映し出されていた。

 

「たしかシンギュラーの管理はミスルギ皇国の仕事でしたよね?なにか弁明でもありますか?」

 

「それが。暁ノ御柱にはなんの反応もなかったのです」

 

「ふん。言い訳にはぴったりだな」

 

ジュリオの答えに、皮肉を返す首脳達。

 

「とにかく今は、アルゼナルの再建を進めて、戦力の増強を図るべきでは?」

 

「そうも言えない理由があるんだ」

 

そういうとマナの光はある機体を映し出した。

 

「これは・・・ヴィルキスか!?」

 

「あの時の反乱の際に、破壊されたと思っていたが・・・」

 

「アルゼナルの管理はローゼンブルム家の仕事のはずでは?」

 

「監察官からの報告では・・・問題ないと」

 

「ノーマに出し抜かれたわけか。無様な」

 

「それだけではない。もう一つ重大な問題が浮き彫りとなった」

 

モニターにはニ機のDEM、Ωとνの機体写真が写し出された。

 

「何だこの機体は。これもドラゴン共のパラメイルか?」

 

「それが昨日の戦闘を見る限り、この謎のパラメイルとドラゴンは交戦した。つまりは敵対関係にあるものと思われるのだ」

 

「つまりドラゴン共の機体ではない!?だとしたら、この機体は一体なんだと言うのだ!?」

 

「まさか、アルゼナルが独自に新たなパラメイルを製造しているとでも言うのか!?」

 

「だとしたら一大事ですぞ!これでは十年前の反乱が再び起きる可能性だってある!」

 

「これも全てはローゼンブルム家の失態だ!親がこれじゃあ娘さんがノーマに誘拐されても仕方ないですな!」

 

「なっ!ミスティは今は関係ないはずです!娘を

侮辱する事は許しません!」

 

「そんなことより、今はこれからどうするかを考えましょう」

 

場を嗜める声など誰も、聞いてはいなかった。責任のなすり付け合いが繰り広げられていた。ある人物が口を開くまでは。

 

「全く。どうしようもないな」

 

その声を聞いた途端、罵り合っていた各国首脳が

ピタリと口を閉ざし、その声の主を見た。先程まで木陰で本を読んでいた青年。エンブリヲだ。

 

「え、エンブリヲ様・・・」

 

「我々に選択肢は二つ。ドラゴンに全面降伏するか、全滅させるか」

 

「そんな・・・」

 

「そこで三つめだ。世界を創り直す」

 

「世界を?」

 

皆が口を揃えて尋ねる。

 

「その通り、一度世界をリセットしてしまうのだ。害虫を殺し、土を入れ替える。正常な世界を作り出す

 

「その様な事が可能なのですか!?」

 

「全てのラグナメイル。そしてメイルライダーが

集まればね」

 

「・・・素晴らしい!素晴らしいですよエンブリヲ様!創り変えましょう!そもそも初めから間違っていたのです!ノーマという存在も!ノーマに頼らなければならないこの世界も!」

 

少しの沈黙の後、ジュリオが喜んだ口調で賛同した。

 

「馬鹿な。ここまで発展した世界を捨てろと言うのか?」

 

「では他に方法がありますか?」

 

ジュリオの放ったその一言で皆が黙る。それは他に方法を知らないと言う事を表していた。

 

「じゃあジュリオ君。この件は君に任るとしよう。

私の持ってるおもちゃを少し貸してあげよう。有意義に使いたまえ。では本日の会議はこれで」

 

その声と共に、各国首脳は続々と会議場からログアウトした。ジュリオとミスティパパを除いて。

 

「ジュリオ・飛鳥・ミスルギ。娘は無事なのだろうな」

 

「安心したまえ、ローゼンブルム。心配せずとも娘さんはお返ししましょう。何せ、エンブリヲ様からのお許しをいただけたのですから」

 

「・・・一体、何を考えている」

 

「先程のエンブリヲ様のお言葉を聞いていなかったのですか?この世界にノーマの存在など、不要なのですよ」

 

そう言いジュリオは、マナの通信を遮断した。通信会場にはミスティパパ一人だけが残された。

 

ジュリオの行おうとしている事は彼には予想がついた。

 

「・・・ミスルギで虐殺を行った化け物とお前のやろうとしていること。一体何が・・・何処が違うというんだ・・・」

 

その呟きに答えるものは、誰もいなかった。

 

その頃ジュリオは、リィザに指示を出していた。

 

「リィザ。支度を頼む」

 

「御意」

 

「フッフッフ。今に世界は変わる。異物の排除された、青き清浄なる世界へと!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夜明けたアルゼナル。現在彼女達は、底の見えない絶望感に襲われていた。

 

昨日の戦闘。ドラゴンの大進撃は、様々なイレギュラー要素が重なり、生き残ることが出来た。

 

ただ、それだけである。

 

アルゼナルは半壊。死傷者もかなりの数が出ており、医務室などではベットが足りなくなっている。メイルライダー達も第二中隊が全滅し、第三中隊も半滅。戦力は激減している。

 

何より、謎のパラメイルに関しては一機も撃破する事が出来なかった。結果として脅威は何一つ去っていない。普段なら大量のキャッシュ確定などで浮かれる雰囲気など、微塵も感じ取れなくなっていた。

 

発着デッキでは、サリアとヴィヴィアン。そして

シルフィーを除いた生き残りのメイルライダー達が集まっていた。その数、たったの11である。

 

「これだけか・・・確認するが指揮経験者はいるか?」

 

ジル司令の質問にのヒルダが小さく手を挙げた。

 

「よし。全てのパラメイル中隊を統合。再編成する。暫定隊長にヒルダを任命。その補佐にエルシャとヴィヴィアンを任命する」

 

するとこの決定にロザリーとクリスが異議を唱える。

 

「こいつは脱走犯なんですよ!脱走犯を隊長にするんですか!?サリアでいいじゃないですか!」

 

「あいつは命令違反で反省房送りだ」

 

その言葉にその場の皆が動揺を隠せなかった。あの生真面目で融通の利かなそうなサリアが命令違反。誰が予想出来たであろうか。

 

「でっ!でも・・・」

 

「文句あるならあんたがやりな」

 

ヒルダがロザリーとクリスに言う。

 

「いっいや。指令が任命したんだ。仕方ねぇから認めてやるよ。なぁクリス?」

 

「わっ、私も認めるよ」

 

これで少しは昔のように戻ればいいのだが。

 

「では、全メイルライダーは再編成の後に警戒態勢にあたれ!」

 

「イエス!マム!」

 

その掛け声と共に、彼女達は散り散りとなった。

ジル司令が一息つこうとタバコを取り出した。

 

「ねぇ」

 

タバコを吸った直後、呼ばれたので振り返る。そこにはアンジュがいた。

 

「私の謹慎期間。終わったんですよね」

 

「あぁ」

 

「じゃあ、全部話して。約束したはずよ」

 

「このクソ忙しいときにか?」

 

「誰のおかげでみんな助かったと思ってるの?」

 

「・・・帰ってきた化け物と突然現れた正体不明の正義の見方気取りのおかげ・・・かな?」

 

「・・・それだけ?」

 

睨む様な視線をジル司令に向ける。

 

「いいだろう。ついてこい。ただし侍女はダメだ」

 

そう言うとジル司令は歩き出した。その後ろから

アンジュが付いていく。そうして辿りついた先は、なんと風呂場であった。お互いが全裸となり、湯船に浸かっている。

 

「なんで風呂場なの?」

 

「秘密の話は曝け出して話すものだろ?さてアンジュ。なにから話す?」

 

「全部よ。最初っからね。ドラゴンにあの女。ヴィルキスにお母さまの歌。タスクと貴女の関係。その全てをね」

 

「いいだろう」

 

「むかーしむかし、ある所に神様がいました。繰り返される戦争とボロボロの地球に神様はうんざりしました」

 

「・・・突然何を言い出すの?」

 

「黙って聞いてろ。平和に平等。そして友愛。口先だけなら美辞麗句を皆言ったが、人間の歴史は戦争に憎悪に差別。神様は悩みました。このまま人類は滅んでしまうと」

 

「そこで神様は作る事にしました。新しい人類を。争いを好まない穏やかで賢い人類。あらゆるものを思考で操作できる、高度情報化テクノロジー

【マナ】」

 

「あらゆる争いが消えて、あらゆる望みが叶い、

あらゆる物を手に入れる理想郷が完成した。

後は人類の進化を見守るだけでした」

 

「だけど生まれてくるのです。何度システムを組み直しても、マナの使えない女性の赤ん坊が。古い遺伝子を持つ突然変異体が。突然変異の発生は、人々を不安にさせました。だけど神様は逆にこれを利用する事にしました」

 

「彼女達は、世界を拒絶し破壊しようとする反社会的な化け物。ノーマであるという情報を植え付けたのです。世界はノーマに対処するために、結束を強めました。人々も差別できる存在に安堵し安定しました」

 

「生贄。犠牲。必要悪。言い方はなんだって構わない。私達も作られたのです。世界を安定させるため、差別されるために」

 

「・・・」

 

「どうだ?驚きで声も出ないか?」

 

その言葉に、アンジュがため息混じりに呟いた。

 

「よくそんな作り話が出るものね」

 

「聞いたからな。神様本人からなもっとも、そいつは神と呼ばれる事を嫌がってたけどな。さて、話を続けるぞ」

 

「こうしてマナの世界は安定し、今度こそ繁栄の歴史が訪れるはずでした。ですが、それを許さない者が現れました。古の民。彼らは突然世界から追放された、マナが使えない古い人類の生き残りです」

 

「彼等は自分達の居場所を取り戻すために、何度も神様に挑みました。仲間達の死を乗り越え、遂に彼等は手に入れたのです。神の兵器。

【ラグナメイル】を。破壊と創造を司る機械の天使。パラメイルの原型となった絶対兵器だ」

 

「それが・・・ヴィルキス?」

 

「これで神様と同等に戦える。古の民は勇んで

ヴィルキスに乗り込んだ。だが、彼等にヴィルキスは使えなかった。鍵がかけられてたのさ。虫ケラごときが使えないように」

 

「古の民は絶望した。生き残った仲間はあと僅か。古の民達は滅びを待つしかなかった。その時古の民は知ったのさ。世界の果てに追放されたノーマ達がパラメイルに乗って戦っていることにな。彼等はアルゼナルを目指した」

 

「古の民達とノーマ。世界に捨てられた者達。彼等は手を取り、その時に備えた。鍵を開く者が現れるその時を」

 

「そして遂に現れたのさ。アレクトラ・マリア・

フォン・レーベンヘルツ。王族から産まれた初めてのノーマだ」

 

「アレクトラ・マリア・フォン・レーベンヘルツ。その名前聞いたことあるわ。確か、ガリア帝国の第一皇女のはず。だけど10歳で病死したはずよ?」

 

「バレたのさ。ノーマだとな。アルゼナルに放り込まれ、自暴自棄になっていたアレクトラだが、彼女の高貴な血と皇族の指輪が、ヴィルキスの鍵を開いた」

 

「彼女の元に多くの仲間が集まった。ヴィルキスを守る騎士。ヴィルキスを直す甲冑師。医者に武器屋。そして犬」

 

「ヴィルキスを・・・守る騎士?」

 

「アンジュ。お前が考えてる事はあたっているぞ。タスクは古の民の末裔だ」

 

「タスクが・・・」

 

「そして始まったんだ。捨てられた者達の逆襲。

リベルタスが。地獄のどん底で私は仲間と使命をえた。このクソッタレな造り物の世界をぶっ壊す使命をな」

 

「だが・・・私には足りなかったんだ。ヴィルキスを使いこなすための何かが・・・」

 

十年前を思い出す。右腕を失い、パラメイル隊の中で、ただ一人生き残った自分の事を。

 

「全部吹き飛んだよ。指輪も仲間も右腕も名前も。だが、リベルタスを終わらせる訳には行かなかった。死んでいった仲間の為にも」

 

「そこにアンジュ。お前が現れた。そして今。ヴィルキスの最期の鍵が開かれた」

 

ジル司令の顔は、これまで見たことないくらいの

真剣な表情をした。

 

「お前が壊すんだアンジュ。あの歌でこの世界を」

 

「私を生かしておいたのは、そのリベルタスって事の為?」

 

「そうだ。お前には強くなって貰わなければならなかったからな」

 

「・・・」

 

沈黙が場を支配した。それはほんの数秒だったのだろうが、何時間にも感じ取れた。やがてアンジュが沈黙を破る。

 

「皇女アレクトラ・・・か。あなたには感謝してるわ」

 

「あなたのおかげで自分がどれほどの世間知らずで、甘ったれで、人生を舐めていたがよく分かったわ。だから・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから答えはノーよ」

 

「・・・ほう」

 

「神様とかリベルタスとか百歩譲って、これまでの話が全て本当だとしても、私の道は私が決める。たとえそれが、どんなに崇高な目的だとしても。私の目で見て考えて私が決める。誰かにやらされるのは御免なのよ」

 

「では、リベルタスには参加しないと?」

 

「・・・嫌いじゃないの。ドラゴンを殺して、お金を稼いで、好きな物を買う。そんな今の暮らしが・・・」

 

そこまで言って、アンジュはとある事実に気がついた。ドラゴンについてだ。

 

「そういえば、さっきの話。ドラゴンが出てきてない」

 

その時であった!

 

【ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!】

 

突然警報が鳴り響いた。そしてオペレーターの叫びにも似た声で一言だけ、現状が告げられた。

 

「アルゼナル総員に告げます!ドラゴンです!!

基地内にドラゴンの生き残りが!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分前。医務室ではマギーがとある資料データを見ていた。それはシルフィーの血液や細胞などのデータなどであった。

 

「なんだい、これ!!遺伝子レベルに、何らかの

人為的な細工が施されてるじゃないか!?しかも

なんだい!この見たことのない細胞は!?」

 

詳しい事は不明だが、彼女の身体は異常という事だけは明らかである。それはまるで、今まで隠されてきた古傷などが突然現れた、そう表現せざるを得なかった。

 

「・・・流石にここでは調べるのは限度があるか」

 

そこに先程の警報が鳴り響いた。

 

【ガッシャーン!!】

 

すると突然、背後から激しい音がした。見るとベットがひっくり返されているではないか。そして次の瞬間、シルフィーが台の拘束を引きちぎった。

 

「なっ!シルフィー!?」

 

(あの怪我がもう治ったのか!?幾ら何でも異常過ぎる!)

 

驚く彼女を他所に、シルフィーはおぼつかない足取りで歩き出した。

 

「おっ、おい!」

 

「呼んでる・・・行かなきゃ・・・」

 

マギーの呼び止める声も聞こえないのか、彼女はふらつきながら、着てきた黒装束を羽織り、医務室を出て行った。そこに皆は唖然とする事しか出来なかった。

 

やがてマギーが一言だけ呟いた。

 

「拘束を引きちぎった・・・鋼鉄製だぞ。あれ」

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