クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 Another Story 作:クロスボーンズ
第一中隊に半ば連行される形で二人は飛行していた。やがて、とある人工物が見え始めた。
「アルゼナル。アルゼナルだ!」
ナオミが喜びながら言う。
「え?あれがアルゼナルなの・・・」
少女の方はその見た目に戸惑っていた。アルゼナル。【兵器工廠】の名を持つ施設。その見た目を一言で言うならば無骨だ。岩礁の上に無理矢理基地を建てたみたいである。はみ出ている滑走路に滑り込むと、そのまま発着デッキに機体は滑り込んだ。
「アルゼナルに着いた様ね。降りなさい」
少女に言われ、ナオミは機体から飛び降りた。
「ナオミ!」
「ナオミだ・・・本当にナオミだ!」
降りた次の瞬間、二つの声がナオミを呼んだ。声の主達の方を向いた。そこにはナオミが会いたかった人物がいた。
「ココ!ミランダ!」
お互いがそれぞれに向かい走り出した。
「よかった・・・ナオミが、生きてた」
「本当に・・・本当に心配したんだよ・・・」
二人とも泣いていた。ナオミも泣いていた。
「ただいまココ。ただいまミランダ」
「お帰り。ナオミ」
「ねぇ。確かテスト中にドラゴンに襲われたんだよね!?」
「うん。でもあの後流れ着いた島で、あの子に助けられた。そしてあの機体で私をここまで送ってくれたんだよ」
そう言い後ろを振り返った。そしたらあの機体はバックしていた。少女からすればアルゼナルに来た理由はナオミを送り届ける為である。送った以上ここに用事はない。
しかしそうは問屋が卸さないものである。
「ヒルダ!ロザリー!取り押さえろ!!」
ゾーラ隊長の指示の元、まだ機体に乗っていたヒルダとロザリー。二人のパラメイルのグレイブが人型へと姿を変え、その機体を取り押さえた。
「野郎!降りてこいってんだ!」
ロザリーが勇んでその機体のコックピットに乗り込んだ。次の瞬間、その機体のコックピットからロザリーと少々が放り投げ出された。
ロザリーの上に乗っかっていた少女は慌てて距離をとった。保安部達は彼女を囲むように展開した。
「グルルルルルル」
少女は身を屈めながら低く唸り声をあげて相手を威嚇している。それは狩りをする野生の獣の姿に似ていた。先程までの理性的は部分が鳴りを潜めている。
「銃は使うな。警棒で取り押さえろ!」
保安部達が総出でジリジリと少女に迫っていった。全員の手には特殊警棒が握られていた。
「ガウゥッ!!」
次の瞬間、彼女は保安部の一人に飛びかかり腕に噛み付いた。一瞬にして発着デッキが戦場へと変貌を遂げた。
保安部総出でその少女の取り押さえ様とするが、彼女は保安部達が言葉通り束になってかかっても、全く寄せ付けない強さを持っていた。
「こいつ!大人しく・・・」
【ドスッ!】
「グェッー!!」
「こら!暴れるんじゃ・・・」
【ボキッ!】
「ギャッー!!」
「大人しくなさい!さもないと・・・」
【ドガ!バギ!ベギ!ボガ!】
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!ビギャー!!」
嫌な音と共に、保安部達の断末魔が虚しくその場に響いた。
やがて辺りはシーンと静まり返った。
そして第一中隊のメンバーは全員が呆然としていた。目の前の光景がとても受け入れられなかった。
そこにジル司令とエマ監察官が駆けつけて来た。
「おい!!一体何事だ!!!」
「な、な、な・・・何ですか!?この惨状は!!!」
ジル司令とエマ監察官が見た光景。
それはたった一人の少女によって全員ダウンした保安部達の屍(生きてます)の山であった。そしてその山の上に血塗れの少女が一人佇んでいた。驚かない方が異常である。
「お前があの機体のもう一人の乗り手か」
「ガルルルルル」
少女はジル司令にも低く唸り声をあげながら睨みつけている。今にもジル司令に飛び掛かりそうだ。
この時ナオミは少女の行動理由を理解した。
(そうか。彼女はたった一人島で育った。だからいきなり沢山の人が現れた事に驚いてるんだ!それで
警戒して・・・)
「大丈夫だよ!びっくりしたと思うけど、この人達は信頼できる安全な人なんだよ!」
ナオミが少女に抱きつき、宥めるように言う。
「・・・わかった」
そう言うと少女は警戒を解いた。少なくても今は
もう戦う意思はないという事である。
「ナオミ。そいつは一体何者だ。説明しろ」
「ジル司令。彼女について説明する為に、場所を変更する事を望みます。後、人も少ない方がいいと思います」
「・・・よかろう。付いてこい」
ジル司令はそう言うと踵を返していった。
「大丈夫、付いてきて」
ナオミは少女の手を引っ張っりながらジル司令の後をついていった。
その場には第一中隊の皆が取り残された。
「あの子。髪ちょーなげぇー!」
「にしてもすげぇなぁ。まさか一人で保安部全員を半殺しにするだなんて」
「ぼやくなお前達。こいつらを運び出すのを手伝え」
そう言うと第一中隊はその場に散らかる保安部達の屍(生きてます)を集めると、医務室へと運び始めた。
ナオミ達はある部屋へと入っていった。エマ監察官は外で待機となった。そこには少女とナオミ。そしてジル司令の三人だけである。
部屋に入るなら少女とナオミにタオルが渡された。二人はドラゴンの血に塗れていた。それを拭けという事だ。
そして拭いた後、少女にはマントの様なものが渡された。少女の身体はボロボロの布切れを胸と下半身に纏っているだけの姿だった。しかもそれが先程の保安部との戦闘で全て破けたのだ。つまり全裸である。
床屋などで髪を切る際につけられるのマントを想像してほしい。少女の見た目は見事なてるてる坊主となった。
「さてと。まずナオミ。その少女は何者だ」
「はい。彼女は私がパラメイルの実機テストで墜落した後、流れ着いた島に住んでいてそこで出会いました」
ナオミはジル司令に少女について簡単に説明した。彼女が一人で生きてきた事。彼女があの機体の所持者であるという事。彼女は名前が無いという事。彼女のお陰で私は助かったという事。それらの全てをありのままに話した。
「大体の話は理解した」
ジル司令はそう言うとポケットからタバコを取り出し、一服した。
「まず君。手荒な真似をしてすまなかったな。許してくれたまえ。まさかその様な事が起きているとは予想外だった」
ジル司令は少女に謝罪した。
「それで君は、その名もなき島と言う所から来たのだな」
「・・・えぇ」
「色々と聞きたい事がある。順番に聞いていこう」
ジル司令は咳払いをすると聞き始めた。
「まず最初に、あの機体を一体どうやって手に入れた。まさか作り出した訳ではあるまい」
「・・・揺りかごの事?」
「揺りかご?」
皆が首を傾げた。
「・・・その揺りかごをどうやって入手した」
おそらく少女の言う揺りかごはあの機体の事であると判断し、揺りかごで聞いてみる事にした。
「・・・あそこで私は産まれた」
「・・・はい?」
再び首を皆が傾げた。
「つまり君は気がついたらそこにいたという事か?」
「・・・はい」
「すまんが一名この部屋に追加させて貰う」
そう言うとジル司令は部屋の外へと出た。そこでエマ監察官と何かを話していた様だ。やがてエマ監察官が何処かへと走っていった。そして戻ってきた。一名追加して。
「その子かい?例のパイロットは」
そこにはアルゼナルの医者であるマギーがやってきた。
「あぁ。その通りだ。彼女の言う事は私の常識の外にありすぎる。こういうのは私よりお前の方が向いているだろう」
「それで私を頼ったのか。任せな。それじゃあ診断してやるよ」
そう言うとマギーは少女の目の前に座った。
「・・・」
少女は目の前のマギーを睨みつけた。
「そう警戒しなさんな。リラックスして答えりゃいい」
その後マギーはカウンセリングの様なのものを少女に行った。暫くしてマギーは黙り込んでしまった。
「・・・こりゃあ手を焼くなぁ」
「おっおい。マギー!」
そう言うとマギーは勝手に部屋から出て行った。
それを追いかける様にジル司令も部屋を後にした。
部屋の外にて。
「どうだったんだ。あの少女は」
ジル司令が単刀直入に聞いている。
「まぁ大体聞き出せたね。まずあの子が所持する
記憶は今から約十年前のものまで所持している」
十年前と言う言葉にジル司令の顔色が一瞬険しくなった。だが直ぐに元の面持ちを取り戻した。
「だけど。その十年より前は一切記憶を持ってない。いや、正確に言うなら、シャットダウンしてるね」
「シャットダウン?どういう事だ」
「あんただってわかるだろ?機体が子供を産むわけない。そしてあの子の言う十年間の記憶に偽りはない。ならその十年以上前に誰かがあの子を機体に入れた事になる。そしてその事を少女は無意識の内に遠ざけようとしている。つまり記憶として思い出さないように自然とロックしているってわけさ」
「なるほど・・・ご苦労だった。マギー」
そう言いジル司令は部屋へと戻った。そこで少女の措置について決定した。
「とにかくこの少女については、現段階ではまだどうするかその処置が決まっていない。よって安全性も考慮して別室へ隔離する事にする」
そう言うとジル司令は少女の手を引いてこの部屋を去った。ナオミはマギーによって医務室へと連れ込まれた。
やがて彼女は部屋とは名ばかりの反省房へと入れられた。特に少女は抵抗せず、すんなりと入った。
「窮屈だと思うが、今日一日だけ我慢してくれ。食べ物なら机の上に置いてあるし飲み物なら蛇口を捻れば出てくる。朝になったら起こしにくる。その時に処遇を伝える」
そう言うとジル司令はその場を後にした。少女だけがその場に残された。
「ドサッ」
少女は床にバッタリと倒れ込んだ。様々な出来事が起きて疲れていたのだろう。そのまま床に死んだ風に眠りついた。
「エマ監察官。どうでした?彼女は?期待通りノーマでしたか?」
外で待機していたエマ監察官に、何処か皮肉めいた口調でジル司令が尋ねる。
「ええ。ノーマでした。安心しましたよ。人間ではなくて」
そう。このアルゼナルはとある事情により、世界においてはトップシークレットクラスの秘密の場所なのだ。そんな場所にマナの人間がやってくれば機密保持の為に口封じをするしかない。
簡単に言えば殺さなければならないのだ。
「・・・ジル司令。なぜ彼女は島で一人生きてきたのでしょう」
エマ監察官の一言にジル司令は驚いた様な顔をした。
「意外ですね、エマ監察官。貴女がノーマを気にかけるとは」
「そういう訳ではありません。ただ気になっただけです。捨てたにしては随分と手が凝っていますし。何よりアルゼナル以外でパラメイルなどを装備している組織があると言うのでしょうか?」
「・・・さぁ。私にはわかりませんね」
パラメイルを所持している組織。ジル司令には一つだけ予想があった。そして彼女が何故島で一人暮らしていたのか。それも予想がついた。しかしそれを表面には出さず、タバコを吸い始めた。
(あいつ・・・彼等の生き残りか?)
「エマ監察官。手続きの方はよろしくお願いします」
そう言うとジル司令はその場を後にした。
アルゼナルの食堂。ここでは第一中隊のメンバー達が集まって食事をしていた。ナオミの生還祝いである。
「じゃあココとミランダのパラメイルも届いたんだね」
ナオミが言う。そう。今日の戦闘でココとミランダの二人がいなかったのは、二人の機体がまだ届いていなかったからである。そして二人の機体は今日
ロールアウトされたのだ。
「うん。これでやっとメイルライダーだよ!」
「メイルライダーになっても、ナオミとココのお守りをしないといけないのかぁ」
「またぁ、ミランダはそんな事を言って」
皆で軽く談笑していた。
「そう言えばナオミ。マギーの検査はどうだったんだい?」
「うん。そっちの方は大丈夫だったよ」
あの後ナオミは医務室のマギーの元で様々な検査を受けたのだ。墜落した際にメイルライダーとしての適性が損なわれていないかを検査するためである。
幸いな事に検査に問題はなく、メイルライダーの
資格を剥奪される事はなかった。
「それにしてもあの女。随分と強いじゃないか」
ヒルダ達が発着デッキでの出来事に話を移す。
「なぁナオミ。あいつは一体何者なんだ?」
「あの子は、島で一人育ったらしいよ」
「島で一人暮らしねぇ。そりゃあたくましく育つわけだ」
「ここにいたか、ナオミ」
不意に名前を呼ぶ声がした。振り返ってみるとそこにはジル司令がいた。
「ナオミ。お前には明日から彼女の教育係を務めてもらう」
突然告げられた内容に、ナオミは直ぐに反応することが出来なかった。
「・・・えっ?私がですが?」
「ジル司令。教育係なら私が」
ゾーラ隊長が我こそはと立候補した。
「何を教える気だ?ベットで女を喘がせるテクニックか?それとも必ず相手をイかせるやり方か?」
「見抜かれてましたか・・・」
実はゾーラ隊長はレズビアンなのだ。その為に彼女の事も襲おうと考えていたようだ。
「あの、よろしいのですか?彼女は島が沈んで、
新たに住む島を探していましたけど・・・」
「検査の結果、あいつはノーマだと判明した。知っているだろう。ノーマの居場所はここしかない。そしてあいつは、今の段階ではおそらくお前にしか心を開いていない。下手な奴をぶつければ今日の乱闘の繰り返しになるだけだ」
「なに。教えろと言っても必要最低限の一般常識程度で十分だ。成功報酬は今回の借金の全額免除だ」
「え?・・・借金?」
ナオミは当初言葉の意味が理解できなかった。
「知らんのか?ナオミ。お前はテスト用のグレイブを損失した。その分の借金だ。言っておくが額は1000万キャッシュだ」
「・・・・・・・・・イッセンマンンンンンッ!?」
「ひっ!」
ナオミが普段出さないような変な声を出した。その声には第一中隊の皆が驚いた。
「そうだ。1000万だ。新兵のお前に返せるアテがあるのか?」
「ア・・・アイアウエア、ウアアオウオア・・・」
開いた口が塞がらなくなっていた。さらに目が虚になっている。やがてナオミは力なく椅子ごと後ろにばったりと倒れこんだ。
「ナオミ!?大丈夫!?しっかりして!」
「ほら!深呼吸して、深呼吸!後せめて股だけでも閉じて!」
皆でナオミを介抱する。
「これは命令であり訓練だ。断れば100万キャッシュの罰金では済まさんぞ」
「・・・・・・イエス・マム」
長い沈黙の後、ナオミは力無く返事をした。
「そうか、では明日から頼むぞ」
そう言うとジル司令は食堂を後にした。
「お前、いきなり借金スタートじゃないか」
「まぁナオミちゃん。頑張ってね。手伝える事があったら手伝うから」
様々な視線がナオミに向けられた。憐れみの視線。温かな視線。興味の視線。少なくても三つとも気持ちの良いものではなかった。
食堂でそんな事が起きてるとはつゆ知らず、反省房の中で少女は一人静かに夢を見ていた。
(ここ・・・どこ・・・)
そこは外であった。空を見上げてみると月が顔を出している。少女は自分が外にいる事を理解した。そして同時に、自分が夢を見ている事も理解した。
そこは森のようだ。近くの木に寄りかかるように座る。そこで彼女はこれまでの事を考えていた。疲れで直ぐに眠ってしまったが、考えればかなり驚かされる事の連続であった。
(突然現れたナオミ。見たことのない大きな生き物。沢山の揺りかごに沢山の人との出会い・・・そして何より、コックピットで見たあの光景。そして歌)
一体何がどうなっているのか。それらがわからないでいた。しかし強烈な眠気と疲れが少女に襲いかかってくると、彼女はうつらうつらし始めた。
(変なの・・・夢の中でも眠ろうとするだなんて・・・それにしてもこの森・・・何処か懐かしい・・・)
そう思いながら、再び彼女は眠りについた。眠りに着く直前、少女の耳にある言葉が聞こえた。
「アルゼナルで生きるんだ」と。
そして少女が眠る木の背後からある男が現れた。右目に傷のある、ローブ姿の男である。その男は少女の寝顔を覗き込んだ。きっと他人には見せないだろう、可愛らしい無防備な寝顔であった。
「それで良い。眠りは誰にでも平等に与えられる安心と安らぎの時間。たとえそこが、皆が言う地獄であっても、寝ている時だけは安らげるというものだ」
そう言うと男はその場から姿を消した。
その場には、木に寄りかかりながら寝る彼女だけが残された。
次回で主人公の名前が決定します。
正月三が日も今日でおしまいか。皆様はどのように過ごしましたか?
私は主人公の名前を考えて過ごしましたね。