クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 Another Story 作:クロスボーンズ
あの後もアルゼナルの復旧作業は夜通し続いた。
流石に丸一日近くも働くとなると、疲れというものは襲ってくるらしく、休む為に抜けるものと、その穴を埋める為に先に休んでいた。こうして誤魔化しながら復旧作業は続いていった。
ナオミとシルフィーはジャスミンの手伝いで、 物資などの運搬を行なっていた。
「ねぇジャスミン。ジャスミンや司令はドラゴンが人間だって事を知っても戦ってたんだよね?」
ナオミがジャスミンに尋ねる。
「・・・知らない方が幸せなこともある。戦場での迷いは死に繋がるだけだよ」
「でも知っちゃったんだね。私達も」
「なら考えな。ただし仕事の手は止めずにね」
「難しいことを言うなぁ」
「まぁね、悩みなんてものは仲間同士で共有するもんさ。あたし達だって昔はそうしたよ」
ジャスミンが昔を懐かしむ用に言う。人に歴史ありなどだ。その時、シルフィーが医務室から戻ってきた。
「ジャスミン。医務室に荷物を届けてきた」
「あっ、シルフィー。ヴィヴィアンの様子はどうだった?」
「昨日からずっと寝てるらしい。マギーが言うには、多量の抑制剤故の副作用だって。普段はキャンディーに抑制剤を混ぜる事で、ドラゴン化を抑えてたらしい」
「・・・いい機会だね。二人とも、ちょっと早いけど食料を配ってきな。配り終えたら各自休憩で構わないよ。少しみんなと話してきな」
「ありがとう。ジャスミン」
そう言い二人は配給品を持つと、その場を離れた。
その後は二人は第一中隊のメンバーと色々話した。サリアとヒルダに。アンジュに。エルシャとロザリーとクリスに。第一中隊の色々なメンバーと話し合った。無論、配給もちゃんと行った。
配給が終わると二人は自分達の部屋へと戻った。二人の部屋はドラゴンとの戦いの影響で酷いものであった。部屋の壁は壊れており、そこから風が室内に吹きすさんで来る。
それを気にせずベットに腰掛けると、お互いに弁当を食べ始めた。やがて弁当も食べ終わり、壁の時計を見た。休憩時間はまだ残っており、二人ともベットに横になった。狭いベットゆえに、身体が密着する。
「久しぶりだね。この感覚。一つのベットを二人で共有してた生活」
「ほんの一週間程度違っただけでしょ・・・」
「この一週間で、色々と変わったね」
これまで何の考えも起きず、ただ当たり前の様にドラゴンと戦う日々。何故か?それが人間になり損ねた私達ノーマの生き方だと信じて来たから。自分達ノーマが、人間達を守る為に命がけで戦う。
だが、実際はどうだろうか?
人間達はノーマを害虫の様に駆除し、殺そうとした。あんな連中を守る為に、ノーマはドラゴンと戦わなければならない。しかもそのドラゴンの正体は人間であった。
これまでの全てが崩れ去った様な気分とは、まさにこの様な気分の事なのだろう。
「・・・それでも、ナオミは変わらないわね。私と違って」
シルフィーもまた変わってしまった。己の事を人間だと思っていた。むしろ、人間じゃないと思ったことすらなかった。
だがその正体は人間ではなくドラゴン・・・それもバケモノであった。
「・・・正直なところ、私もまだみんなと同じで心の整理はついてない。まさかドラゴン達が人間で、シルフィーやヴィヴィアンがドラゴンだったなんて・・・」
「で、でも!そのドラゴンの力があったから、私達はあの国から生きて帰れたんだし!そんな悲観する事じゃないよ」
「・・・・・・」
「ごめん。今のは失言だったね」
言った後に後悔した。確かにミスルギでの土壇場を乗り切ったのはあの力のお陰だ。それは紛れもない事実である。だが、あの力でアルゼナルのメンバーの間に深い溝が出来たのも、また紛れもない事実であった。
気まずさ故の沈黙が場を包んだ。やがて耐えきれなくなったのか、シルフィーから話を切り出した。
「ねぇナオミ。もしこのままアルゼナルがなくなったら、貴女はどうする?」
その質問は、配給配りの際、エルシャに聞かれた
質問でもあった。
「アルゼナルがなくなる。私、そんな事考えた事なかったよ。でも・・・」
「でも?」
「もし、アルゼナルが無くなる事になったら、私は世界を旅して周りたい」
「世界を旅するの?」
「うん。山とか海とか。私は色々な所を見て周りたいと思ってる」
そしてナオミは、意を決した風に口を開いた。
「・・・ねぇシルフィー。もし、もしもだけど!!」
そう言いかけたその時である。突然空中に多数の
マナのウインドが展開された。そこには一人の
女性が映し出されていた。
「こちらはミスルギ皇国、ノーマ管理委員会直属の国際救助艦隊です。ノーマの皆さん。ドラゴンとの戦闘、ご苦労様でした。これより、皆さんの救助を開始します。水、衣料品、温かい食料も十分に用意されています。今すぐ全ての武器を捨て、脱出準備をしてください。繰り返します。こちらはミスルギ皇国・・・」
「やった!ノーマ管理委員会だ!」
「助けが来たんだ!」
その通信を聞いたアルゼナル人員の殆どが浮き足立った。この状態が打開される。プラス方面で。そう信じていた。
数名を除いて。
「ねぇシルフィー。これって」
「ええ。幾ら何でもきな臭すぎる」
ミスルギ皇国の実態を知っているシルフィー達からすれば、それは余りにも不自然な内容であった。
ノーマ根絶法。ノーマの命を露程にも思っていない連中が助けに来た。こんな世界の果てまで。それも輸送機ではなく雁首そろえて艦隊で。
「・・・嫌な予感がする。とても嫌な・・・」
少し前に遡る。ジル司令はタバコを吸うために外へと出ていた。
(リベルタスについてアンジュには話した。後はあいつが計画に参加させる様に動かし、決行する時を狙うだけ)
(問題はシルフィーだ。ヴィヴィアンの方ならまだどうにかなるが、奴はあまりにもハイリスクハイリターンすぎる。オメガについてもだ。話す機体など
聞いたことがないぞ)
一人、思案にふけていた時である。
「シルフィー。今の彼女はかなり不安定で危険だよ。利用しようとは思わない事だ」
背後から声がした。慌てて振り向くとそこにはある男がいた。金髪でスーツ姿の男。ジル司令はその男知っていた。
「エンブリヲ!」
ジル司令は拳銃を取り出すとエンブリヲを撃った。しかしエンブリヲはそこに実体がないのか。弾が
身体を通り抜けた。しかしジル司令は銃を向けながらエンブリヲを睨む。
「怒った顔も素敵だよアレクトラ。いや、今は司令官のジルか」
「何をしに来た!」
「何、先日はリラが君に無礼を働いたそうで、その事について謝りに来たんだ。すまなかったね」
「ふざけるな!」
「まぁいい。それより後のことはジュリオ君に任せよう」
それだけ言うと、エンブリヲはその場から姿を消した。ジル司令は周囲を見渡した後、駆け足で臨時司令部へと向かっていった。
臨時司令部では例の放送に、オペレーター達は動揺していた。あの放送は一方的に流されているものらしい。
「ジル司令、救助艦隊が・・・」
「耳を貸すな、戯言だ。対空防御態勢!」
「ジル司令!?」
オペレーター達が驚きの声をあげる。ジル司令の言葉の意味する内容は明白であった。人間相手に銃を向けろ。
「対空防御態勢と言った!」
「いっ、イエス・マム!」
動揺しつつも、アルゼナルは対空兵器などを起動
させた。そしてそれを艦隊は確認した。
「アルゼナル!対空兵器の起動を確認!」
「やれやれ。こちらとしては平和的にに事を進めたかったというのに」
ジュリオが残念そうに、だけどどこかでは予定通りとも取れる笑みを浮かべた。
「旗艦エンペラージュリオ一世より全艦隊へ。たった今ノーマ達はこちらの救援を拒んだ!これは我々、嫌、全人類に対する明確な叛意である!断じて見過ごすわけにはいかん!」
「これよりアルゼナルに対する総攻撃。並びに穢らわしいノーマどもの殲滅作戦を開始する!今この時から、我が覇道は開かれた!!戦うのだ!この世界に巣食う巨悪を!!我等の手で!!」
ジュリオ艦隊から放たれたミサイルがアルゼナルめがけて飛んできた。対空兵器で迎撃するがドラゴンとの戦闘の傷も癒えていないため、焼け石に水であった。
ミサイルの何発かはアルゼナルに命中した。ミサイルの命中により基地内は大きく揺れる。
「なんで!?なんで私達は攻撃されてるの!?」
「なんだよこれ!救援なんかじゃねぇじゃねえか!」
基地内は混乱していた。幼年部の子達はその身を寄せ合い、震えていた。エルシャはオルゴールを取り出し、その子達を落ち着かせる。
その時、全施設にジル司令からの通信が入った。
「諸君。わかったか?これが人間だ。奴らは我々を助ける気など毛頭ない。我々を物のように回収して、別の場所で別の戦いに従事させる気なのだ」
「それを望む者は投降しろ。だが、抵抗する者は共に来い!」
「これよりアルゼナル司令部は人間の管理下より離脱!反攻作戦を開始する!志を同じにする者は武器を持ちアルゼナル最下層に来い!」
「作戦名は・・・リベルタス!!!」
リベルタス。ラテン語で自由を意味する言葉。人間からの解放。それを願う彼女達の反逆が、今始まろうとしていた!
そしてこの襲撃の裏に、ある人物の思惑がある事には、誰一人として、気づいてはいなかった。
今回は少し短めでしたね。遂に次回からアニメ13話を本格的に執筆するのかぁ。正直あれだけは見てて鬱になる。
無抵抗な少女に火炎放射ってお前・・・どこぞの
大人相手に破壊光線ぶっ放すあの人が可愛く思えた。