クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 Another Story 作:クロスボーンズ
第40話 シルフィーとナオミ
(私・・・どうなったんだっけ)
オメガから落ちたシルフィーは現在、地面に突っ伏している。重い身体を起き上がらせると、辺りの光景がぼんやりとだが見えてきた。
「ここ。また来たのね」
彼女の今いる場所。それは自身の夢の中だと自覚できた。辺りには瓦礫の山が散乱しており、激しい
戦闘の後爪痕を思わせる。
「・・・この場所を、私は知ってる」
【バサっ】
地面にある資料が落ちていた。手に取る資料の表面は赤黒いシミが付着していた。
【ZERO計画】
【コツ、コツ、コツ、コツ】
拾い上げた背後から音がした。振り返って見る。
すると目の前にはある人間がいた。自分と同じ様に
黒装束を纏い、フードを目深に被って顔が見えない。だが男である事は予想がついた。
「貴方はシオンなの?それともフリード?」
すると目の前の人間はフードをゆっくり外した。外した顔を見た途端、手にした資料を見事に床にぶちまけた。目の前の人間は二人のうちどちらでもなかった。簡単に説明するならこうなる。骸骨男。
「貴方、人間じゃない!・・・ははっ」
自分で言ったその言葉に自嘲気味に笑う。自分だって人間ではないじゃないか。たかが骸骨男一人、
別に驚く事ではない。
骸骨男は再びこちらに近づいてきた。そして彼女の頭を優しく撫でた。
その手は血が通ってないのか、冷たく、されど何処か温もりが籠っていた。そして撫でられた途端、
夢の中での彼女の意識は溶けていった・・・
再び意識が覚醒した時、彼女は広大な大地に大の字で倒れ伏していた。今度は現実世界の様だ。
「あれ?私、確か夢の世界で・・・その前は確か・・・」
彼女の脳が覚醒し、今に至るまでの経緯が細かく蘇る。
「そうだ!アルゼナルが人間の襲撃を受けて、確か親玉を討ち取って、そしたらそこにリラが現れて、それでDEMと戦って、そしたらオメガに飛ばされて・・・オメガ!オメガは!?」
慌てて辺りを見渡した。だが周囲にはオメガの姿は何処にもなかった。やがて自分のいる場所の異常性にも感づいた。
「あれ?私、確か海の上で戦ってたはず。なんで陸地にいるの?」
とりあえず自分の身の回りを確認する。服と腕輪はある。メモリーもある。彼女はオメガを探す為に
付近を散策し始めた。
「なんだここ・・・一体何があったんだ・・・」
辺りには廃墟の様な建物が立ち並んでいた。人の
気配が一切しない。死の大地とでも言うべきか。
やがて妙な影を見つけた大きさで言うならパラメイルクラスの大きさである。
「オメガか!?」
慌ててその影に近寄った。だがそれはオメガではなくグレイブであった。そしてコックピットには意識を失ったナオミがいた。
「ナオミ?ナオミ!」
胴体を軽く揺さぶる。すると彼女の意識は簡単に覚醒した。
「シルフィー・・・私。どうなったの?」
「分からない。そもそもここが何処なのかさえ」
「へ?そう言えばここって・・・どこ!?」
ナオミも今の現状を把握したらしい。慌ててパラメイルの通信機をとった。
「アルゼナル!応答してください!アルゼナル!
応答して!アンジュ!ヒルダ!ジル司令!ジャスミン!だれか応答して!」
しかし通信機からは誰の応答も返ってはこない。
試しに飛ばそうとエンジンを入れる。しかしかからない。機体としては整備しないと飛べないみたいだ。
「駄目。オメガは愚か、人影すら何処にもない。
だいたい個々が何処なのかすら分からない。
「私達、どうな・・・」
会話の途中で、突然シルフィーがナオミを引っ張り、グレイブの機体の影に蹲る。
「ど、どうしたの!?」
「何か来る」
その時奥から何か音が聞こえた。二人とも直ぐに
交戦状態に入れるように銃を構える。やがて何かがこちらへと接近してきた。
それには二人とも目を疑った。なんと人間ではなく小型の全自動移動ロボットが来たではないか。
「こちらは地方防衛機構です。生存者の方はいらっしゃいますか?生存者の方はいらっしゃいますか?地方第七シェルターは現在稼働中。生存者の方を受け入れています。生存者は第13公園までお越しください。繰り返します。こちらは・・・」
ロボットはこちらに気づく事なく通り過ぎていった。
「第13公園。そこに行けば誰かに会えるんじゃないか!?」
「きっと会える!行ってみよう!」
二人とも慎重にロボットの跡をついていった。
やがて二人はある場所にたどり着いた。そこはドームのような場所である。
「ここに生存者が?」
辺りを見渡してみるが、それらしき影はない。だとすると生存者は中にいることになる。
「この中に生存者が・・・」
すると扉のようなものからセンサーのビームがこちらに向けられた。センサーは身体を一通りスキャンした。
「生体反応を確認。収容を開始します」
機械の音声で言葉を放った。すると目の前の扉が
自動で開かれた。
「ようこそ。地方第七シェルターへ。地方防衛機構はあなた様を歓迎します」
二人は顔を見合わせた。そして銃を構えながら奥へと進んでいった。
「現在、当シェルターは6.5%の余剰スペースがあります。それでは快適な生活を」
周りの扉が一斉に開いた。中を覗いてみるとそこには人が沢山横になっていた。厳密に言うならかつて人だったと思われる者が横になっていた。
シェルター内部の部屋には白骨死体が大量に転がっていた。きっと長い年月をかけて白骨化したのだろう。
驚きのあまり二人とも悲鳴は愚か声すら出なかった。やがて絞り出す様にナオミが声を出した。
「な・・・なに、これ・・・なんで、こんな事が・・・!」
すると目の前のモニターに突然電源が付いた。そこには女性の姿が映し出されていた。
「私は防衛機構の共有管理コンピューターのひまわりです。ご質問をどうぞ」
「これ。コンピューターなの・・・」
「ひまわり?と、とにかく教えて、これは一体なんなの!?一体、何が起きたの!?」
「質問を受け付けました。回答シークエンスに入ります」
その言葉と共に照明が落ちた。一瞬の暗闇が場を支配する。しかし次の瞬間には灯りがついた。どうやら映像を投影する為の用意らしい。
映像にはビル街が映し出された。次の瞬間、ビル街にミサイルの雨が降り注いだ。上空では空を埋め尽くさんばかり戦闘機が飛んでおり、陸には地面を埋め尽くすほどの戦車が走っていた。そのどちらとも何かとの戦闘中である事がわかる。
「なにこれ・・・バトル映画?」
「実際の映像です。統合経済連合と反大陸同盟機構による大規模な国家間戦争。第7次大戦やラグナレク。D.WARなどと呼ばれる戦争が起こりました。
この戦争により地球人口は11%まで減少しました。膠着状態を打開すべく、連合側が絶対兵器【ラグナメイル】を投入」
その映像に映し出されたそれに二人は言葉を失った。映像に映し出されたその機体は彼女達も知っているものだった。
「あれは、黒いヴィルキス?」
「何を・・・する気・・・」
映像に映されたそれは、ヴィルキスに搭載されている両肩部分から光を放った。それらは街を一瞬で薙ぎ払った。艦隊を、街を、海を、その光が全てをなぎ払う光景が映し出された。
「こうして戦争は終結しました。しかしラグナメイルの次元共有兵器により地球上全てのドラグニウム反応炉が共鳴爆発を起こし、地球は壊滅的なダメージを受けました」
「こうして地球は生存困難な汚染環境となり、全ての文明は崩壊しました。以上です。他にご質問はありますか?」
「世界が・・・滅んだ・・・」
二人とも唖然となっていた。いきなり突きつけられた情報がこれであるため無理もない。
(この映像。確か以前見た・・・)※第24話参照
それだけではない。辺りに散らばるこの人骨。これもシルフィーはかつて見た事がある。※11話参照
デジャブ感とはこの事を言うのだろう。やがてナオミが慌てて尋ねた。
「ねぇ!これっていつの話なの!?」
「538年193日前です。現在世界各地、20976箇所のシェルターの中に熱、動体、生命反応は殆どありません。現在地球上に生存する人間は、あなた方を含めて三人だけです」
女性の顔が笑っていた。満面の笑みで。それはとても不気味であった。だがその言葉には少しの希望も含まれていた。
「三人・・・私達二人の他に、誰か生きてるの!?」
そう。自分達以外の人間がいるという事実に二人の顔は少し明るくなった。
だからこそ、次の言葉がその分衝撃を含んでいた。
「はい。首都第三防衛シェルター。そこに二人の
人間の生命反応が確認されました」
「へっ?」
二人が拍子抜けした声を出す。現在ここに居るのが二人。そしてその第三シェルターにいる生存者が二人。2+2=4。幼年部で習う計算だ。それなのに、このコンピューターの言っている事は数が合わないのだ。
「ねぇ。そのシェルターには本当に二人の生存者がいるの?」
「はい。先日、第三シェルターのひまわりにアクセスした者は二人です」
「これって壊れてるんじゃないの?ねぇ。今このシェルターに何人の人間がいるの?」
「私は正常です。現在このシェルターの生存者は
一人だけです」
「やっぱり壊れてるのかな?」
「とにかく外に出よう。こんなとこ居たくない。」
こうして二人はシェルターを後にした。既に外は
夕陽に照らされていた。歩く二人は終始無言であった。
シルフィーはオメガを探しながら食料を集めるのに精を出した。
ナオミは暫くの間、パラメイルの修理に取り組んでいたが、その作業は困難を極めていた。
「駄目、このグレイブ。飛べないし動かない」
グレイブは動かずオメガは行方不明。生存者のいるとされる場所は600km離れた東京とやら。とても
じゃないが歩いて行くのは不可能な距離である。
一体どうするべきか、その思考に老けていた。
「ナオミ。ちょっと来て」
背後からシルフィーが声をかける。そこは廃れた館であった。その館の食堂の様な部屋に入った。そこには焼き魚が並べられていた。
「これは?」
「近くに川が流れてた。そこで釣ってきた。私達、何も食べてないから、食べよう」
しかし、こんな状況では食事などほとんど喉を通らないものである。
「ちゃんと食べないと、直ぐに倒れるわよ」
「私はダメだよ。頭の中がぐちゃぐちゃになって。一体何をすればいいのか、全く分からない。初めてシルフィーとあった時と、全く同じ気分だよ・・・」
「私も、シルフィーみたいに強ければ、こんな時にも平気でいられるのかな。少しも怖くないのかな・・・」
「・・・私だってすごく怖いよ」
「えっ?」
「でもね、それだけじゃない。安心感もある・・・ミスルギ皇国での出来事を覚えてる?」
二人の脳裏に嫌な記憶が思い出される。
「気がつけばいきなり見た目が人外になったばかりか変な能力までついてきた。いざ帰る場所だと思ってたアルゼナルに帰れば周りからは批判とブーイングの殺到。まるで自分一人だけが、別の世界に放り出された感じがしたわ」
「でも、ナオミは躊躇わずに手を差し伸べてくれた。ねぇ、自分が人間じゃなくて、人を沢山殺して、帰る場所をなくした私にとって、その行為がどれほど嬉しくて、暖かい言葉だったか・・・そんな人が側にいるだけで、どれ程救われる事か・・・」
「シルフィー・・・」
「それにね。実の所、私もどうすればいいのか全く分からない。でも、今私は生きている。たとえ五百年近く眠っていたとしても、私は生きてる。だから私は生き続ける。きっと明日が来るから」
「・・・そうだね。今私は生きてる。なら明日も
生きないとね」
そう言うナオミの目には、生きる希望が戻った。
「でも、まさか本当にアルゼナルが無くなることになるなんて。でも、グレイブが飛べる様になったら、この世界を見て回れば、きっとなんとかなる!」
(こんな世界でも、ナオミは世界を見て回りたいんだな・・・私には、彼女のやりたい事を止める権利はない・・・)
(また、一人に戻るのか・・・)
そう思うと少し悲しい感情が込み上げてきた。だが、次のナオミの言葉にシルフィーは驚きを隠せなかった。
「ねぇシルフィー。アルゼナルで言いかけたけど、もしこのまま誰も見つからなかったら・・・ここでこのまま二人で世界を見て回らない?もしくは、
このまま静かに暮らさない?」
その言葉にシルフィーは目を丸くした。一瞬ナオミが何を言っているのか理解が出来なかった。
「なっ、わ、私は化け物なんだぞ!」
「そんなの関係ないよ。シルフィーはシルフィーだよ。たとえシルフィーが人間だとしても、ドラゴンだとしても、これまでのシルフィーが否定されるわけじゃない」
「私はシルフィーの事は怖くないし一緒にいたい。シルフィーは私と一緒にいたくないの?」
【ガシッ!】
突然シルフィーがナオミの手を強く握った。
「・・・嫌なわけ、ないでしょ・・・ずっと、ずっと一緒だぞ」
この時ナオミは、初めて彼女が泣く姿を見た。その涙は温かく、優しい涙であった。
「私は、幸せ者だ」
二人のいる部屋のベランダ。そこにはシオン達が居た。皆が眼を閉じ、黙って先程の会話を全て聞いていた。
(・・・ナオミ。君みたいな優しい人がシルフィーと出会う事になって、本当に良かった・・・本当に)
「真実を告げなくていいのかい?とても薄情な人達だなぁ」
「!!!」
「あの子はこのままだと、きっと死ぬほど後悔する事になるだろうねぇ。それは君も知ってるんだろう?それともまだ、中途半端に真実から目を背け、勝手な想像に甘え続けるつもりかい?」
「・・・・・・黙れよ」
絞り出す声で背後の存在を睨みつけた。そこには
リラがニタニタと満面の笑みを浮かべていた。
「それとも、贖罪のつもりかい?」
「余計なお世話だ」
次の瞬間、シオンは居合刀を引き抜き、リラの左腕目掛けて斬りかかった。しかしその一撃は容易く避けられた。
「腕輪を返せ!それはお前には不必要なはずだ!」
「悪いけど、腕輪を揃えるためにも必要だよ。欲しければ力強くで奪い取るかい?」
「言ってくれるじゃないか。その挑発のった」
フリードを筆頭に皆がが構えた。するとリラが突然構えをといた。
「でも残念。ここで戦うつもりはないよ。それに、そろそろ奴等が来るだろう。今は君達も身を引いた方が賢明だよ」
それだけ言うとリラは森の奥へと走っていった。
「奴等が来るか。こちらも準備に取り掛かるか」
それだけ言うとシオン達もその場から姿を消した。
その頃食堂でも、異変が起きていた。突然シルフィーの付けている腕輪が輝きだしたのだ。
「!腕輪が!!」
「ど、どうしたの!?」
彼女は腕輪に触れ、静かに目を閉じたかと思うと、一気に目を見開かせた。
「何かくる!」
すると突然部屋の窓ガラスが砕けたった。ガラスの先にはドラゴンが数匹いた。そしてドラゴンの目の前には、二人の女性がいた。
「救難信号出していたのはお前達か?」
それを見た二人は目の前の人物がドラゴンの人間態だと理解できた。
「灯りが見えてな、まさかと思い来てみたら案の定いたか。おい、コンテナを持ってこい」
一つのコンテナが投下された。コンテナの入り口部分が開く。そこには二人が知っている人物がいた。
「ナオミ!?それにシルフィー!?」
「アンジュ!タスク!それに・・・もしかして、
ヴィヴィアン!?」
コンテナの中にはアンジュとタスク。そしてドラゴンになったヴィヴィアンが搭載されていた。
「まさか第三シェルターにいたのは、アンジュ達なの!?」
「貴女達こそ!あのシェルターで聞いた生存者は私達の他に一人って聞いたけど、まさか二人もいたとは」
「再開の挨拶は中でしろ。お前達もこの中に入れ。悪いが来てもらう場所がある」
青い服の女が手にした二本の刀をこちらへと向けてきた。
「安心してください。そちらに危害を加えるつもりはありません。それにそちらの機体はこちらで回収させてもらいました」
「二人とも、今は言う通りにした方が良いわ。私達も聞きたいことがあるし」
アンジュが付け足す風にいう。奥を見るとガレオン級はヴィルキスとアーキバス。そしてグレイブを運んでいる。おそらく機体を人質ならぬ物質にとられてるのだろう。
(オメガはないのか)
「わかった。そっちに移るよ」
ナオミが素直にコンテナ内に入る。シルフィーも後に続いて入ろうとする。
「ん?お前。ちょっと待て」
シルフィーが入ろうとした途端、二人の女はシルフィーを止めた。そしてシルフィーの身体をペタペタ触り始めた。
「何?」
「・・・お前はこっちに乗れ」
すると女達はシルフィーをコンテナには乗せず、
コンテナを吊り下げたドラゴンの上へと乗らせた。
「命が惜しければ落ちない様に気をつけるのだな。では行くぞ」
ドラゴンは荒っぽく、何処かを目指して高く飛び立って行った。
今回の話は本編にはありません。アニメの第14話ではアンジュとタスクの回でした。その為その部分が描かれていません。
もし知りたい方がいましたら是非ともアニメを視聴する事をお勧めします。
簡単かつ簡潔なアニメでの展開を説明すると。
アンジュとタスクが喧嘩して仲直りです。