クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 Another Story   作:クロスボーンズ

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今回で精神世界編を終わらせるんだ!と意気込んで書いてた結果まさかの10000文字数超えちゃった。

しかも滅茶苦茶な展開多いし・・・

でもみんな早くヒルダやロザリーとか本編に戻りたがってるだろうし。今回の様な事態が続く可能性があります。その点を御留意下さい。


第53話 血の涙が乾く時

 

 

「こいつ!強い!!」

 

皆が思う。目の前の相手に長期戦は不利である。アンジュ側が数で有利なのこの盤面をオーガは押されず、むしろ圧倒しているとも言えた。

 

その理由は他にもある。搭乗時に見た燃料タンクはアルゼナルの頃と違い満タンであった。それがこの十分ほどの戦闘で半分を切っている。ヴィルキスなどの燃料の減り具合が明らかに普段より早いのだ。

 

「オーガの固有能力はエネルギー吸収か。それもどこまでも膨大な・・・」

 

エネルギー吸収装置。彼女はこの一機だけで、何処かの国と戦争でも起こすつもりだったのだろうか。

 

(わかりづらい人の為に補足。バルンガというキャラクターを検索してほしい。この機体の固有能力はそれと似ています)

 

やがてアンジュとサラマンディーネがある覚悟をした。

 

「一か八か、行くわよ!サラ子!」

 

「いつでも行けますよ!アンジュ!」

 

「~~♪」

 

二人の永遠語りに応じるように、ヴィルキスと焰龍號が金色へと変化する。両肩が開かれた。そこから時空兵器がオーガ目掛けて放たれ、直撃した。

 

「大丈夫よね・・・」

 

やがて光が収まり、皆の視界が元に戻る。

 

「!!?そ。そんな・・・」

 

「こ、このようなことが・・・」

 

何とオーガは、ディスコードフェザーと収斂時空砲の直撃すらも何事もなく防ぎ切った。ここまでくると怪物クラスである。するとオーガの手にした銃剣が開かれ、そこから何かがチャージされていた。

 

「あれは!?」

 

「この感覚。我々のと同じです!回避を!!」

 

次の瞬間、光は放たれた。ギリギリの所で皆が避ける。

 

火力はこちらの時空兵器と同じ。いやらそれ以上。寧ろ、あの火力を制約無しに放つ点では、純粋な武器として最高クラスで、相手にとってこれ以上ない程に厄介である。

 

やがてオーガはヴィルキス達を無視し、一気に距離を詰めDEMへの攻撃を繰り広げてゆく。

 

最初こそ互角に捌いて来たが、やがて押され気味になってきた。

 

「駄目っ!これ以上捌けられない」

 

「・・・!?」

 

突如オーガめがけて、赤い粒子が飛んできた。それはムラマサブラスターだ。そこにはオメガがいた。

 

「オメガ!?何でここに!!」

 

「向こうの連中をあらかた片付けたからだ。それに私はあの人間を・・・マスターを、見捨てることはできない」

 

「オメガ・・・ならもう一度、お前の力を貸せ!!」

 

「面白い。やるな、人間」

 

次の瞬間、不知火はファントムから飛び出し、ホバリングしていたオメガ内へと転がり込んだ。

 

「貴様の能力は知っている。本物の自己再生。貴様用に全てのリミッターを完全解除してやろう。制限時間はない。全力でぶつかれ!」

 

予備のアクセルメモリーを機体に差し込み、機体をアクセルモードへと変化する。

 

すると機体を流れるフォトンブラッドが溢れんばかりに放出された。量が普段よりオーバーしているのか、その姿はまるで、銀色の炎を纏っているかの如く、存在であった。

 

エネルギー値が満タンの状態で、普段の1000倍の速度で移動できる。しかも無制限で。残像が実像が分からないオメガが、数機がかりで勝負をつける為、突っ込んだ。

 

「これで機体の四肢を捥ぎ落せば!!」

 

【ガシッ!】

 

「おいおい、嘘だろ・・・」

 

何とオーガはオメガのアクセルモードを真正面から受け止めた。エネルギーで有る以上、それを避ける必要などない。真正面から吸収すればよいのだ。

 

脚を掴まれ、地面へとオメガは叩きつけられる。

その上にマウントを取り、オーガは殴ってゆく。

 

「先生!!」

 

νがオーガを握ろうとする。だがその手からすり抜け、一気に距離をつめ、νの巨体を意に介さず、嬲って行く。やがて手にした剣がコックピットの位置へとロックオンされた。間違いない。彼女はシオンを殺そうとしている。

 

「!!やめなさいシルフィー!!!」

 

止めようとしたアンジュ達をオーガは、まるで邪魔感覚で払いのけた。

 

「大丈夫、アンジュ達に用はないから」

 

その声はとても穏やかであった。だがその目は声と同じく穏やかながら、その奥には隠しきれないほどの殺気で溢れ返っていた。

 

「私を軍隊に売り払った。お前らだけは、まとめてぶち殺す・・・」

 

「違う!俺たちはお前を裏切ってなんか!!」

 

「何が違う?あの日、私を捨てたことはまだ許せた。なのにその後、私を始末しようと軍隊を手引きしておいて」

 

「お願いだリラ!昔のお前に戻ってくれ!!お前を戦争に駆り立て、そして見捨た。そんな俺を赦してくれた、あの時のお前に戻ってくれ!!!」

 

「昔?そんなものにもう価値はないよ。何より一番気にいらなかった言葉。【普通じゃない。狂ってる】私は・・・私には!ああやって生きていくしか道はなかった!!!」

 

突然リラの態度が豹変した。情緒不安定なのか。先ほどの瞳とは違い、殺気ではなく、深い悲しみと憎しみが前面に押し出されていた。

 

「魔人族にも、ドラゴンにもなれない!中途半端なハーフ!!他者から唾棄され、存在を疎まれて!!!」

 

怒りまかせでオーガの剣が振り下ろされた。この

速度では、νで避けるのは不可能である。

 

(リラ、やっぱり、あの時お前を・・・)

 

シオン内で、時間の流れがとても遅く感じられた。走馬灯の様な回想が脳裏をよぎる。

 

 

 

龍魔大戦が勃発して6年の月日が流れた。この間に両軍共に疲弊し、泥沼の戦争となっていた。

 

そんな中、兵士補充の為の学徒出陣によりミリィが正式にDEMの乗り手として選ばれたその日、シオン達は軍隊の一部を引き連れ、リラのいるスマートブレインの部屋を目指していた。

 

リラは追放後、周囲に対し異常なまでの敵意を剥き出していた。逆らう者は力づくで黙らせる。自分の力だけを信じていた。だが、かつての面識である

シオン達だけには昔のリラを見せていた。そこに

友情が残されている。そう信じて。

 

護衛を下の階に残し、シオン達はエレベーターへと乗り込んだ。辿り着いた部屋の中では、上機嫌な

リラが回転椅子で遊んでいた。

 

『久しぶりミリィ。学校はどう?旨くやってる?』

 

『旨くやってけてるよ。その・・・地図の見方だけは最下位の成績だけど・・・』

 

『・・・正直、私としてはあなたに戦争に参加してほしくない。でも、貴女が望んだのなら、止める道理はないわね』

 

『リラ。今日はミリィとカリスが正式なDEMの乗り手として選ばれた。その挨拶に来た。最早この戦争は俺たちの勝利だ』

 

この時、魔人族の誰もが勝利を疑っていなかった。ドラゴン側の拠点は尽く潰され、まだ龍神器の開発に着手してなかったドラゴンにDEMが負けるはずがない。

 

後は都にカチコミを入れるだけ。それで戦争が終わると。

 

『・・・なぁリラ。この戦争の最大の功績者は誰が何と言おうとお前だ。だからその成果を手土産として、こっちの世界に戻らないか?』

 

リラは現在、非国民の傭兵の立場としてこの戦争に参加している。父を殺したドラゴンを皆殺しにするという点での利害の一致から、魔人族と協力している。

 

もっとも、ドラゴンの血を引いてる以上リラもドラゴンとみなされらその存在は魔人族からは唾棄されており、その事実を彼女はまだ知らない。

 

利用するされるの関係で成り立っているのだ。

 

『あんな連中の元に戻るつもりはないわ。ドラゴンと共倒れで滅べばいいんだ・・・いっそ、これで滅ぼしてやろうかな・・・』

 

半分冗談で、半分望んでいる事だ。そして彼女の手にしている物。それは全てのDEMに搭載された機械生命体のコントロールを一瞬でこちらへと戻すボタンであった。これを押せばDEMは命令一つでどうにでもなる。それこそ、乗り手を殺すことだって。

 

やがてそれを握る彼女の目は真面の眼へとなった。遂に皆が口を開き、思っていた事を言い出す。

 

『・・・ねぇリラ。もうやめよう?こんな生き方。こんな生き方し続けたら、敵が増えていくだけだよ・・・』

 

その言葉に、彼女の眉が僅かだが吊り上がった。

 

『なら・・・ならその増えた敵も殺せばいい!!』

 

彼女のだんだん態度に落ち着きがなくなってくる。

 

『駄目。そんな考え。普通じゃないよ。狂ってるよ』

 

普通じゃない。狂ってる。その一言がリラの中の何かのスイッチを押した。逆鱗と言う名のスイッチを。

 

『私には、こうするしか生きていく道がなかった!!道を歩けば石を投げられ、外で寝てれば寝込みを襲撃された!軍隊の連中はDEMの権利書を強奪する為にフレンドリーファイアだってしてきた。そいつらを圧倒的な力で捻じ伏せて黙らせる!!そうしなかったら、生きていけなかった!!!』

 

彼女は生粋の狂人である。【普通】の考えを持つ人間にはそう見える。だが彼女にはその【普通】がなかった。異常こそが、彼女の中での【普通】であった。

 

異常と言われる事、それは自身の全てを否定された気分となる。座っていた回転椅子を全力で投げつける。

 

『文句あるならどっか行けよ!!私を見捨てた、

あの時みたいに!!!』

 

『リラ・・・みんな、帰ろう』

 

『えっ、でも』

 

『もう俺達の言葉は、彼女には届かない』

 

シオンが踵を返した。その態度はサジを投げた態度であった。誰も振り返る事をせずにエレベーターへと乗り込ち、止まる事なく降り続けた。

 

『バカ・・・バカァ!!バカッ!!バカッ!!バカァッッ!!』

 

リラは一人、机を叩き泣いていた。そのバカが自分に向けてなのか、シオン達に向けた物なのか、理解出来ぬままに。

 

(俺はリラが心の底では憎かった。こいつさえいなければ、先生が人柱になる必要はなかった。戦争だってきっと止められた。一番憎かったのは、こいつがその事実を知らなかったことだ。何も知らずに、こんな暴君のせいで先生が・・・)

 

(でも。あの時の事は、今でも後悔している。あの時、あの場で諦めて話を切り上げた事を。その直後に起きたZERO計画。その結末を知っていたら、あの時もう少しだけ、リラの傍にいてやれたら・・・)

 

「・・・すまなかった。リラ・・・」

 

自然と脳に浮かんだ言葉を口にする。後1秒もせず、オーガの剣が機体諸共シオンを貫くだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、振り下ろされた剣は割り込んだ機体の寸前で止められていた。不知火の乗るオメガだ。

 

「殺せるもんなら殺してみやがれ!!!」

 

「っ!どけよ!!」

 

「どかねぇ!娘のバカには親が命張って付き合ってやんなきゃならねぇ!!どうした!?殺してみやがれ!!直ぐ蘇るけどな!はっはっは!」

 

うざい。今直ぐ殺してやりたい。なのに・・・

 

「なんで・・・なんで動かないの!?!?」

 

ほんのレバーを少し下げれば、機体もろともこの男を殺せる。これまで自分にとって邪魔な存在は全て潰してきた。それと変わらない。なのに両手が自分がしようとしている動作を拒絶しているかの如く動かない。

 

それだけではない。

 

「なんで!!なんでこんな不快な気分になるの!!邪魔なのに・・・殺せるのに!なのになんで!!」

 

「待ってろ!今そっち行ってやる!!」

 

不知火がオメガから降り、オーガのボディをよじ登り始めた。何と不知火はコックピット部分の外装を引っ剥がし始めた。力を込めるに込め、数発殴ったのち、人一人入れる穴が開いた。その奥にリラはいた。

 

「来るな!来るなぁ!!」

 

「リラァァ!!!」

 

殴りかかったて来たリラの右手を、不知火は受け止めた。掌は先程の無茶振りのせいか血塗れで、生暖かい。だが不知火はその手で強く握りしめてきた。絶対に離さない程の握力で。

 

「昔言ったよな!?どんな事があってもこの手を離すなって!!!」

 

「!!」

 

「この手をお前が離さない限り、俺もお前の手を離さない!!だからお前はこの手を絶対離すな!!傍に居続けてやる!!そう言ったよな!?」

 

「だっ、黙れ!!私は1人だけだ!今更そんなもの!!」

 

「あんたいい加減にしなさいよ!!じゃあ私達はなんなの!!?」

 

堪えきれなくなったのか、アンジュ達が声を上げた。

 

「ここにいる私達はなんだって言うの!?あんたを心配して私達はやって来た!なのに!あんたにとって私達って、唯の置物って訳!?答えなさいよ!!」

 

「アンジュ・・・」

 

「そうだよ!みんなでアルゼナルに戻ろうよ!!

みんな心配してるよ!」

 

「ヴィヴィアン・・・」

 

「シルフィーは一人じゃない!少なくても、ここにいる私達は、そう思ってる」

 

「ナオミ・・・」

 

「私は魔人族じゃない。だからシルフィーがどれほど辛かったのかは分からない・・・きっと、分かるなんて軽はずみに言っちゃ駄目だとも思う。でも、それでも!傍にいる程度なら私でもできる!」

 

「!!」

 

『私に、貴方の悲しみを癒す事も、貴女の悲しみを代わりに受ける事も出来ません。ですが、こうして貴女の側に居続ける事なら、私にも出来ます』

 

かつて魔人族から追放刑を受けた時、オメガは言った。彼女はもう理解していた。だがそれを受け入れられない。認められない。その言葉を受け入れれば、彼女の中のこれまで本当に無駄になってしまいそうだから。

 

「私は!私は!!私はぁ!!!」

 

「もうわかっているのでしょう?だから、やめましょう」

 

突然その場に声が響いた。威厳溢れる、だが何処か優しい声であった。すると皆の前に一本の弓矢が現れた。その矢は光り、人の姿へと変化した。白い長髪。まるでシルフィーを一回り大きくした存在である。

 

「誰、あの人?」

 

その人物を知る者はいなかった。一人を除いて。

 

「アウラ・・・アウラなのか!?」

 

不知火が目も見開いて驚いていた。サラマンディーネも、その名前を聞き、驚きを隠せなかった。

 

「アウラ!アウラなのですか!?」

 

「ええ。まず、初対面なのにこの様な形で会う無礼をお詫びします。サラマンディーネ。そして皆さん」

 

「何故、私の名を?」

 

「エンブリヲの元に囚われてからも、私はずっと、都を見守ってきていました」

 

「・・・そうか。記憶テープで見た、ミスルギって所でリラの暴走を止めたのはお前なんだな」

 

「ええ。私の精神体の一部を切り離し、浄化の力を込めて矢として放ちました」

 

「アウラよ。貴女は一体、何処に囚われているのですか!?」

 

「私の本体はミスルギ皇国、暁の御柱の最深部に、幽閉されています」

 

「暁の御柱ですって!?」

 

暁の御柱。それはミスルギ皇国にある象徴とも言える建造物である。まさかそこにアウラがいようとは」

 

「それと、ロシェンには気をつけてください。彼女はエンブリヲ側が残したスパイです」

 

「スパイだって!?では、ロシェンはエンブリヲ側の存在なのか!?」

 

アウラが誘拐された第二のレーテの悲劇。実はアウラを拐う様に裏で手引きをしたのは、なんとロシェンであったのだ。

 

「まさか、大巫女様や議会の方々も!?」

 

「いえ、彼女達はエンブリヲとは無関係です。ですが彼女達はある種一番手強いでしょう」

 

「どういうことですか」

 

「・・・真実のアカシックレコード。私から言えるのはこれだけです」

 

「またその言葉か」

 

一体真実のアカシックレコードとはなんなのか。

不知火が数歩歩み寄ったが、直ぐにその足を止めた。

 

「貴方、積もる話はありますけど、今は」

 

「ああ。わかってる。お前が今、現れた理由もな」

 

するとアウラはリラの方を向いた。

 

「貴女が、私の・・・お母さん?」

 

「ええ。そうよ。・・・今はリラでしたね。ごめんなさい」

 

「な、何を・・・言って」

 

「貴女の病気を治す。それが貴女の為になると信じて、その結果、貴女の事を他人任せにしていて。それがどれほど孤独で辛かったか。母親面できる事ではないけど、謝らせてほしい」

 

「!?アウラよ!御体が!?」

 

彼女の身体は半分透けていた。残りの半身からは光の様な粒子が溢れ出ていた。

 

「今の私は、精神の切れ端にすぎません。精神世界内で復元した以上、いずれ消滅する覚悟できていました。リラ。これだけは忘れないで。例え貴女が咎人となったとしても、貴女に本当に味方がいなかったとしても、私は、私達だけは絶対に見捨てない。だって・・・」

 

「まっ、待って・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴女は私の、大切な娘なんだから・・・」

 

アウラはリラが触れたと同時に、光の粒子態となって、消えていき、その場には、一枚の翅が残されていた。

 

「・・・ずっと、ずっと見守ってくれてたんだ。ずっと・・・」

 

「そうみたいだな」

 

オーガが光となって消えていった。彼女の中の戦う意思がなくなったのだろう。それはアンジュ達の機体も同じであった。眼からは、リラの頃に枯れ果てた、血の涙が流れ落ちてきた。

 

「・・・私は大馬鹿だ。確かに手は差し伸べられていた。なのに私は、その手を見ようとせず、いや・・・見て見ぬふりをしていて、それで独りぼっちだと・・・喚き散らして・・・」

 

「何も言うな・・・リラ、大きくなったな」

 

これを見ていたアンジュ達は何も言わず、不知火を残し部屋の外へと出た。部屋の中からは一人の少女の泣き声が響いていた。長年の憑き物が落ちたかのように泣き続けていた。

 

やがて扉が開き、二人が出てきた。リラの姿は元の人間に戻っていた。そして出てくるなり、アンジュのパンチがシルフィーに襲いかかり、軽く吹き飛んだ。

 

「アンジュ!?」

 

「これは私に迷惑をかけた分よ。これでチャラにしてあげる」

 

「・・・じゃあ俺も」

 

その後、皆から一発ずつグーパンチを貰ったとさ。その直後。

 

「あっ、そうだタスクくん。ちょっと話があるんだ。こっち来なさい」

 

不知火のその言葉は戦闘中のリラ以上に、殺意に満ち溢れていた。

 

「えっ、いや、その、俺は・・・」

 

「いいから、少しお話ししようか」

 

首根っこを掴まれながら、タスクが室内に連行され、扉が閉じる。以下、アンジュ達が聞いた、部屋の中から聞こえた会話。

 

「人様の実の娘の乳を二度も揉むとはどういう了見なんだゴラァァァァッッッ!!(第19話、43話)俺だってまだ揉ませて貰ってねぇんだぞ!!」

 

「ひいっ!ち、違うんだ!あれは事故なんだ!俺はシルフィーの身体に興味なんて!」

 

「なんだと貴様ぁ!!娘の乳を揉んどいてその言い草はぁ!!娘にだって女性としての色気ぐらいちゃんとあるわ!!」

 

「いや、俺は違和感を感じてたんです!アンジュと違って小さいというか、なんというか・・・」

 

「貴様ぁ!!!!もう生かしては帰さんぞぉ!!!!」

 

【ドカッ!バギッ!ベギッ!ボガァ!!!】

 

「ちょっ!まっ!ギブ!ギブ!!!キブキブギブギブ!!!!」

 

一体中で何が行われてるのか、それは想像にお任せしよう。その後、二人とも部屋から出てきた。自業自得の結末とはいえ、タスクが哀れに思えた。そして遂にシオンは話を切り出した。

 

「なあリラ。お前の付けていた腕輪について、何か知らないか?」

 

「あの腕輪はお母さんが私にくれた腕輪を自分の魔術で作った複製品。オリジナルの方は海底洞窟の宝物庫に箱ごとしまってある」

 

「海底洞窟だと!?」

 

魔人族側の顔色が悪くなる。

 

「何そこ、海底洞窟?」

 

「以前リラを引き取った直後、家出をしたことがあってな。半年くらいしてようやくリラを見つけた場所がその海底洞窟だったんだよ。それからは俺たちはそこを家として生活してたんだけど。あそこは自然の大迷宮だ」

 

「とにかく一度、現実世界に戻ろう。向こうの状態を知らなければ・・・あっ」

 

自分達は精神体を肉体に戻せば何の問題もない。だがリラ、いや、シルフィーは違う。彼女の肉体は死んでいる。動かす事は出来ないのだ。

 

「リラ。少し待ってろ。腕輪を手に入れたらすぐにまた人柱になる」

 

「大丈夫、向こうの世界でも生きていけるよ。これ、託されたから」

 

それはアウラが消えた場所に残されていた翅であった。皆が来た入り口へと戻ってゆく。そこには大きなゲートの穴が開かれていた。次の瞬間、勢いよくその穴目掛けて飛び込んでいった。

 

飛び込んだ直後、皆は意識を失った。

 

次に気が付くと無機質な天井が真っ先に目に移った。自分達のいる場所は、地下格納庫である。

 

「私達、戻ってこれたのね」

 

「その様ですね、アンジュ」

 

サラマンディーネにシオン達も続々と目を覚まし始めた。

 

「姫様!!ご無事でしたか!」

 

「あら、みんな戻ってきたのね」

 

ナーガにカナメ。そしてアスカ達とエリスが出迎えた。とりあえずそこで色々と話を聞いていた時だった。

 

【こんっ・・・こんっ】

 

「・・・えっ?まさか・・・」

 

ガラスを叩く音に皆がある一か所を注目する。カプセルの培養液?内のシルフィーの眼がうっすらとだが開いており、こちらを見ていた。

 

「リラ・・・リラ!」

 

不知火達が急いでカプセルを解除する。緑色の液体が隙間から漏れ始める。半分程流れ出てきた頃、リラをカプセルから引き摺り出す。

 

「リラ、リラなのか!?」

 

「ううん。今の私はシルフィー。リラとしての記憶も蘇ったけど、シルフィーで呼んで欲しい」

 

「な、なんで生きていられるんだ。確かに心臓は停止していたはずなのに。先生の力なしで」

 

するとリラは不知火の耳元に口を寄せた。

 

「実は、ごにょごにょ」

 

「はあっ!?嘘だろ!?アウラの心臓と共有してやがるのか!?」

 

「ど、どういう事?」

 

突然の謎の言葉に皆が動揺していた。すると何かを察したカリスが解説を始めた。

 

「つまり一つの心臓で二人の人間を動かしている状態。そういうことになります」

 

「そんなことができるの!?」

 

「一つの電池で二つの前電球を点灯させられますよね?それと同じ理屈と考えれば、理論上は可能です」

 

(より具体的にに言うなら、ワイヤレス充電でスマホを二機同時に充電していると考えてください。今回の場合、アウラの残した翅が受信機となって、心臓を動かしています)

 

だがカリスは、目の前の結果に何処か釈然としていなかった。

 

「リラさん。突然で悪いですが、魔術でこれを修理してみてください」

 

そういうとある物を手渡した。それは不知火が工具箱がないと直せないと言っていたトランクケースである。

 

「簡単なはず。修・・・ら?痛っ!!」

 

能力を使おうとした途端、全身に激痛が走った。肉をナイフでぶっさす感覚である。口からは血か何か分からない液体が漏れ出ている。

 

「おい、水だ!液体もってこい!!」

 

するとエリスは紙パックをシルフィーに投げ渡した。それを開け中身を口に流し込む。

 

「因みにそれ、鬼殺しよ」

 

「何飲ませんだお前は!!・・・え?」

 

魔人族は戦慄した。目の前の少女は鬼殺しをまるで水の様に飲んでいた。しかもビールや酒に不快感を示していた存在がだ。これにはアンジュ達も目を見開いて驚いた。

 

「・・・シルフィー、それお酒だよ」

 

「え?水でしょ。無味無臭なんだし」

 

何かがおかしかった。何かが。だがこれで事態をいち早く理解、いや、確信したのはカリスであった。

 

「やっぱり、何かしらのデメリットはありますよね・・・心臓の共有。理論上では可能ですけど、それはあくまで理論上。心臓は二人の人間を生かす様に造られてはいません。一人の心臓への負担だって倍かかる。そしてその負担を減らすため、おそらく必要最低限な機能以外はオミットされたんでしょ」

 

「つまり、今のシルフィーは魔人族としての能力は簡単に使えない、味覚と嗅覚が損失していると?」

 

(まぁ他者への細胞への干渉が使えたら、話の展開もカタルシスもクソも無くなるので、仕方ないが)

 

「ええ。恐らく魔人化も使えません。それに問題は残されています。脳のドラグニウムも今は無害ですけど、いずれまた危険領域になる可能性だって。先生の助力が得られない現状、そうなれば今度こそ確実に死亡します。何より、今は味覚嗅覚の損失で収まってますがこれから先、この症状がこれ以上酷くなる可能性だって・・・」

 

「・・・」

 

場の雰囲気が完全に沈んだ。何と声をかければいいのか、皆が困惑した。そしてそんな中、さらなる追い討ちが彼女達を襲った。

 

「あのーとても言いにくいのですけど・・・」

 

場の雰囲気的に黙っていたファントムが口を開いた。

 

「なんだファントム?」

 

「それが、もうこの近くに黒の部隊の本体が到着したみたいです」

 

「なっ!?黒の部隊の本隊が!?」

 

皆が慌てて地下格納庫を飛び出した。部屋に戻り、モニターで外の様子を確認する。

 

「これは・・・!」

 

モニターに映し出されたのは絶望であった。核龍號三機。カーネイジ級ドラゴン。そして大量の黒いドラゴンの兵隊。

 

「放てぇ!」

 

その掛け声のもと、何かがこのビルめがけて投げ込まれた。それは床に落ちると煙を吹き出し始めた。すると魔人族メンバーは黒装束を整え、フードを目深に被った。

 

「ドラグニウム弾だ!龍魔大戦終盤で導入された対魔人族用の毒ガス兵器!!その煙は水素より軽いとされる!」

 

煙は既に建物の土台部分を占拠。さらに屋上側のフロアも煙で満たされている。恐らく皆が耐え切れなくなり出てきた所を殺す算段だろう。

 

「ねぇ!ゲート使えないの!?」

 

「無理だ!俺達人間だけならだけならともかく、機体置いていくことになる!それは一番避けなければ!!」

 

口論している間にも煙は充満していく。いずれ自分達の部屋も煙が襲ってくるだろう。すると不知火が立ち上がった。

 

「2.3分だ」

 

「へ?」

 

「その時間内なら持ちこたえさせられる。その間にシオン、手近で広い場所を思い浮かべろ。後これ借りるぜ」

 

不知火の手には二本の刀があった。サラマンディーネの刀とシオンの刀だ。後、シオンのフライングアタッカーも背負っている。すると不知火は、煙で充満した階段を駆け上っていった。

 

屋上にたどり着くなり、声を大にした。

 

「よく聞けドラゴンども!俺は正義の味方ぶるつもりはねぇ!だからはっきりと言ってやる!!俺は娘達を、俺の護りたい者を護る!!それの邪魔するってんなら、覚悟しやがれ!!!」

 

次の瞬間、不知火はドラゴンに乗り移ると、喉元に剣を突き立てた。紅い鮮血が身体に吹き付けてくる。その後は落ちてゆくドラゴンを踏み台に別のドラゴンに飛び移る。これの繰り返しであった。

 

「すっ、すごい。本当に生身に二本の剣だけでドラゴンと戦ってる」

 

己が肉体を限界まで使用する。これが、本来の魔人族の戦い方なのだ。そして遂に時間となった。

 

「今だ!シオン!!」

 

「はい!!」

 

次の瞬間、突然ビルが大きく揺れた。地面へと沈んでいくかの様に。これは攻撃ではない。シオンがビルの土台部分に転移門のゲートを作っていた。ビルごと何処かに転移するわけだ。不知火が屋上へと飛び移り、そのまま建物内に転がり込んだ。

 

「みんな!近くの物を掴んでおけ!!」

 

ビルはみるみる内に地面、いや、ゲートの中へと沈んでいった。

 

「追え!追いかけるのだ!」

 

黒いドラゴンからすればこのまま逃がすわけにはいかない。追撃をかけようとしたその時だった。消えゆくゲート内のビルの屋上から、何かが射出された。それは射出後、はるか上空でUターンして、戻ってきた。

 

「あれは、まさか・・・」

 

「小型水爆!!?全員撤退ィ!!!」

 

先程の倍の速度で踵を返す黒の部隊。その次の瞬間、それは炸裂した。幸い小型故か、その爆弾の被害を受けた黒いドラゴンはいなかった。

 

だがゲートは既にふさがっており、穴の開いていた場所には瓦礫の山が築かれていた。これで完全に糸の切れた凧となったわけだ。黒の部隊も、これにはお手上げらしく、兵を引き上げた。

 

「・・・人形が生きてた。生き返った・・・ハハッ。ハーッハッハッハ!!これで私が、この場にいる意味ができた!!」

 

この様子を陰で見ていたリラは狂った様に笑っていた。するとZEROと共に直ぐにその場を離れていった。

 

その場には、何か重い雰囲気だけが、残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、シルフィー達は。

 

【ドシーン!!】

 

ゲートを潜り抜けた後、ビルは何処かに落ちたらしく揺れの衝撃が激しく伝わってくる。

 

「うわっ!」

 

揺れるビルの窓ガラス部分から、皆の身体が吹き飛ばされる。幸い下が砂浜の為に大怪我にはならなかった。

 

【ザザーン。ザザーン】

 

波の音がする。自分達のいる場所は何処かの島らしい。すると目の前に、一つの鉄屑が飛び込んできた。それはパラメイルであった。

 

「あれはグレイブ?でも、この壊れ具合。まるて長い間整備されずに、放置されてたみたい・・・え?これって」

 

見てみるとそのグレイブは演習用のグレイブであった。武器も模擬戦用の弾薬である。ナオミの中である答えが浮かび上がってきた。それはシルフィーも同じであろう。

 

「まさかここって、名もなき島!?」

 

名もなき島。かつてシルフィーが住んでいた島にして、ナオミと初めて出会った場所。だがこの島は火山の影響か、海底深くに沈んだはずでは・・・

 

「ウオォっ!?なんじゃこりゃあ!?」

 

ヴィヴィアンが上を見ながら興奮していた。つられてアンジュ達も上を見る。そこには予期せぬ光景が広がっていた。

 

なんとある程度の上を魚が泳いでいた。この島は海の底に沈みながら、何かしらの魔術で、沈没とまでは行っていないらしい。

 

「先生、お話が」

 

シオン達魔人族メンバーが真面目な面となった。そして重い口調でこう言った。

 

「魔人族の同胞の事ですが・・・この島に生き残りがいます・・・」

 

 




魔人族の生き残りがこの島にいた!

遂にリラ(黒髪)やシルフィー誕生の原因となったZERO計画について触れてゆこう。

力だけを求めた計画、そしてリラの行きつく先は
勝利か破滅か。

次回、「滅びゆく者達へ 前編」に、続く!!

(次回は出だし部分を除き、基本オリキャラ達の回想シーンです)

余談、リラとシルフィーについて。

シルフィーは多重人格者ではなく、真面目だった頃がシルフィー、荒れてた頃がリラという感覚で見てください。
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