クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 Another Story   作:クロスボーンズ

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第6話 悪夢の夜

 

訓練が始まってそれなりの時間が経過していた。

 

「ああっ!また外した!」

 

クリスが走りながら嘆いていた。その視線の先には木々を飛び移りながら移動するシルフィーの姿があった。彼女からしたら森は生活の場でもあった。木々の飛び移りなど造作もない事だ。

 

「落ち着いて狙え!動いた先を読むんじゃなくて

着地する瞬間を狙うんだ!」

 

ゾーラ隊長が皆に指示を出していた。

 

現在シルフィーVS第一中隊の模擬戦が実行されている。現段階ではまだ誰もペイント弾の餌食にはなってはいない。

 

「ちきしょう!!葉っぱや枝とかが邪魔して狙いにくい!」

 

やはり高低差というのは僅かでも高い方が有利なものである。彼女は急に止まっては振り返り銃口を第一中隊に向けている。しかも足元を狙っているため避けるのもかなり際どいのだ。

 

やがてシルフィーは木々が生い茂る深い場所へと入っていった。流石にあそこまで深いと視界的には第一中隊が圧倒的に不利である。

 

「全員!この周辺を包囲するぞ!」

 

ゾーラ隊長の掛け声の元、第一中隊で付近を円を張り巡らせたさ。そしてジワジワと円を狭めながら

迫って行った。

 

【バキューン!!】

 

【バキューン!!】

 

「ウッホォー!!」

 

銃声と共に驚きにも似たヴィヴィアンの悲鳴が響いた。ヴィヴィアンの両隣のヒルダとエルシャが駆けつけた。見て見るとヴィヴィアンにはペイント弾が付着していた。

 

「おいヴィヴィアン。あいつはどこに行った!」

 

「スッゲー!シルフィーってば、すれ違いざまに私を撃って!で、そのまま向こうを突っ切って逃げてった!スッゲー!」

 

ヴィヴィアンは何処か興奮していた。そこに他の

第一中隊メンバーも集まった。

 

「やられたな。多分あのままじゃ負けると判断して一発受ける代わりに奴は逃げ出したんだ。しかも見ての通りヴィヴィアン相手に一発お返しも出来てる」

 

なにやらゾーラ隊長が戦闘について解析している。

 

「・・・成る程。あいつは肉を切らせて骨を断つ奴だ。戦う上でリスクを犯すことに対する恐怖がほとんどない」

 

肉を切らせて骨を断つ。自分が傷付く覚悟で相手に致命傷を与えるためにぶつかる。これが出来る者はそうそういない。何故なら、普通は自分が傷つく事を恐れるのが人情というものだ。

 

シルフィーはそれが薄いようだ。

 

「とにかく、あの子を見失った以上、私達は不利です。ここは・・・」

 

【バン!】

 

「・・・へっ?」

 

突然の事で対応が出来なかった。見てみるとサリアの服にはペイント弾が付着していた。

 

皆で銃声のした場所を見た。するとそこにはシルフィーがいた。

 

「なっ!あいつ!」

 

すでに次のターゲットへの照準合わせの段階に移行している。

 

「撃て!撃てぇ!!」

 

誰が言い出したか、その場でシルフィーと第一中隊の激しい撃ち合いが始まった。

 

しかしそれも1分後には収束した。

 

「そこまで。第一中隊全員がペイント弾を受けた。これによって訓練は終了とする」

 

ジル司令が全員に通達した。この通達によって皆が最初に集まった場所へと集まる。結果的にシルフィーには4発のペイント弾が命中していた。

 

「訓練は終了。勝者はシルフィーだ。これが約束の50万キャッシュだ。配当はナオミと二人で決めろ」

 

そう言うと二人めがけて50万キャッシュの束が投げ渡された。

 

「そしてナオミ。現時刻を持って、シルフィーの

教育担当の任を解く。よくやったと褒めておこう。成功報酬は、分かっているな」

 

そう言うとジル司令は踵を返すようにその場を去った。

 

とりあえずキャッシュはシルフィーの提案で五分五分に分けられた。シルフィーは初めて見るキャッシュを様々な方角で見ていた。

 

【モニュ】

 

「!!??」

 

「シルフィーとか言ったな。さっきは見事な闘いぶりだ」

 

突然ゾーラ隊長が褒めながら、シルフィーの胸を背後から揉みしだいた。

 

「・・・」

 

彼女はその場で硬直していた。突然身体を襲った

未知なる感覚に動揺もしている。

 

「おやおや。緊張してるのか?意外に可愛いところもあるんだなぁ」

 

尚もゾーラ隊長は胸を揉んでいる。

 

「隊長!スキンシップは程々にしてください!」

 

副長であるサリアがゾーラ隊長に注意する。彼女のスキンシップは激しく、新兵からは揉み方が痛いという苦情も出ているのだ。

 

「はいはい。気をつけますよ〜サリア副長」

 

そんなサリアの注意などゾーラ隊長には蚊ほどにも効かないようだ。

 

「なぁシルフィー。シャワーを浴びたら第二試合をしないか?勿論ベットの上で・・・」

 

「まだここにいたか 」

 

そこにジル司令が戻ってきた。

 

「シルフィー。用事がある。シャワーを浴びたら司令室に来い。ゾーラ。スキンシップのやり過ぎには気をつけておけ」

 

「わかりました」

 

流石にジル司令からの注意なら聞くらしく、渋々シルフィーを解放する。サリアが注意した時とはえらい違いだ。

 

言いたい事を言い終わると、ジル司令は再び踵を返していった。

 

「ちぇっ。司令に言われちゃ仕方ないなぁ。まぁいい。これからシャワーを浴びる。お前も来い」

 

そう言われ、ナオミを除いた第一中隊はシャワー室に足を運んだ。

 

 

 

シャワー室にて。

 

「ふぃーっ。一汗掻いた後のシャワーはほんといいもんだなぁ。そう思わないか?シルフィーか」

 

「はい」

 

第一中隊の面々に混じり、シルフィーもシャワーを浴びていた。特に思うところもなく、シャワーから流れ出るお湯をその身に浴びていた。

 

ふと右腕を見た。そこには腕輪があった。

 

「・・・・・・」

 

彼女は島で一人育った。だから自分以外の人間も皆腕輪をつけているものだと勝手に想像していた。

だが、誰も腕輪など付けてはいなかった。

 

ではこれはなんなのか・・・

 

(・・・自分以外の人間なんて、名もなき島では見たことなかった・・・なのにこれは・・・私は誰かと会った事があるのか?)

 

不意にある人物の顔が脳裏に浮かび上がった。

 

島が沈むあの日。揺りかごに乗って洞穴を脱出する瞬間に見えたあの人物。右目に傷のついた黒装束の男。

 

(あいつ・・・一体何者だったの・・・)

 

その様な考えを浮かばせつつ、他の人より一足先に、彼女はその場を離れた。

 

脱衣所にて、近くにあった適当なタオルを使い身体を拭くと、再びてるてる坊主の姿となってシャワー室を出た。

 

外に出るとナオミが待っていた。

 

「訓練お疲れ様。どうだった?シルフィー?」

 

「どうもしないわ。それよりナオミ。何か用?」

 

「その様子だとここでの生活に慣れたようだね」

 

「・・・別に。で、なんか用でもあるの?」

 

「今日の訓練でさ、キャッシュ分けたよね。それでプレゼント買ったんだ。あげるね」

 

そう言うとナオミはシルフィーに茶色い紙袋を差し出した。彼女はそれを受け取ってその場で開けた。

 

袋の中には黒い輪っかのようなものが入っていた。

 

「なにこれ」

 

「ヘアゴム。似合うかなと思って。試しにつけてみてよ」

 

そう言われ、シルフィーは髪を束ね、ヘアゴムで縛った。白馬の尻尾と言っても差し支えない、見事なポニーテールの出来上がりだ。

 

「うん。よく似合ってるよ」

 

「・・・ありがとう」

 

「そういえば、まだお礼言ってなかったね。ここまで連れてきてくれてありがとう」

 

「別に気にする事じゃない。私からしたら貴女はついでだったし」

 

「・・・ねぇ。ひとつだけ聞かせて」

 

ナオミの口調が重くなった。それにシルフィーは

なんの返事もしなかった。

 

「シルフィーは・・・ここに来た事を、後悔してる?」

 

「・・・別に。私がここに残ったのは私の意思だから。ノーマってのだからここにしか居場所がない。そんな理由なんかじゃない。だから貴女が気にする事なんてないのよ」

 

「シルフィー・・・」

 

「私、ジル司令に呼ばれてるから行かなきゃ。またね、ナオミ」

 

そう言うとシルフィーはその場を後にした。

 

 

 

 

そしてその頃、ジル司令は発着デッキに来ていた。そしてメイの元にいた。

 

「あっ、ジル」

 

背後の人物に気づいたらしく、メイが声をかけた。

 

「メイ。調査の方はどうだ?」

 

メイが調査しているもの。それはシルフィーが乗ってきたパラメイルである。こういうのはアルゼナル一の整備士であるメイに任せた方が良い。

 

「それが・・・」

 

何やら言いづらい事があるのか、メイが口ごもる。

 

「どうした?手詰まりか?」

 

「・・・はっきり言うとこの機体。全く動かないんだ」

 

「動かない?」

 

予想の斜め上を行く答えに、ジル司令は驚いた。

 

「コックピット部分のどのボタンを押しても、全く反応しないんだよ。燃料切れとかの可能性もあるけど・・・内部構造を調べようにも機体の開け方がわからない。下手に力づくでこじ開けるわけにもいかないし・・・」

 

「成る程。【アイツ】より人を選ぶと言うわけか・・・」

 

ジル司令は格納庫の片隅の暗がりを眺めた。そこには【アイツ】がひっそりといた。

 

「ここにおられましたか、ジル司令」

 

名前を呼ばれたので振り返ると、エマ監察官かいた。手には複数の書類を持っている。

 

「エマ監察官。どうされました?」

 

「先程ミスルギ皇国よりノーマの引き渡しが通達されました。後数時間でこちらに引き渡されるでしょう」

 

「そのノーマは例の皇女か?」

 

ジル司令には心当たりがあった。なんせそいつは今日、国民の前で大々的にノーマであると告発された存在だ。しかもマナを使った中継により、全世界にノーマだと知られているのだ。

 

「そうです。もっとも、ノーマである以上、もう

皇女でもなんでもないですけどね」

 

「わざわざ報告ありがとうございますね。エマ監察官」

 

そう言うとジル司令はエマ監察官の用意した資料に目を通した。そして最後に、【アイツ】のいる方を向くと、ジル司令はその場を後にした。

 

 

 

 

 

それから時間は流れた。

 

外は夜となっている。月明かりの一つも感じられない程、雲はどす黒く広がっている。時折雷の轟音が、響き渡っていた。

 

そしてそんな嵐の中、アルゼナルでの一室では今日送られてきた廃棄物の取り調べが行われていた。

 

「1203ー77号ノーマ。アンジュリーゼ・斑鳩・

ミスルギ。出身はミスルギ皇国。年齢は16歳。16・・・ねぇ」

 

エマ監察官がマナを使い、目の前の存在の様々な情報を引き出していた。

 

「何処なのですかここは・・・私に・・・何が起きているのですか・・・!?」

 

震えた声で彼女はエマ監察官に尋ねる。彼女の首には首輪の様なものがつけられており、それが手錠と繋げられている。そして首輪からは紐が垂れていた。

 

「1203ー77号。貴女は今日からここ【アルゼナル】で兵士として戦うことが義務付けられます。

16歳であるあなたは特例として教育課程に・・・」

 

「そんなことは聞いてません!母に、母に合わせてください!!今すぐに!!」

 

彼女は母に合わせろと言い出した。彼女の母、ソフィア・斑鳩・ミスルギは洗礼の儀の際、彼女を庇い、撃たれたのだ。気にするなという方が無理だろう。

 

しかしエマ監察官はその質問には答えず、彼女に近づくと、ピヤスを取った。

 

「所持品は没収します」

 

そういうと彼女の所持品を剥ぎ取っていった。

 

「その指輪もだ」

 

その後ろ、机の上に足を組んで偉そうに座っていたジル司令はそう命令した。

エマ監察官は指輪を取ろうとした。

 

「触るな!」

 

アンジュリーゼはそう怒鳴るとエマ監察官の手を払いのけた。

 

「これは我がミスルギ皇国斑鳩家に代々伝わるもの!お前のような下級役人が触れて良いものではない!」

 

「このっ!ノーマの分際で!」

 

「私がやろう、エマ・ブロンソン監察官殿。ノーマの相手は同じノーマでなくてはな」

 

興奮するエマ監察官を宥める風に言うとジル司令は立ち上がった。

 

「さて、手荒な真似をしてすまなかったな。私は

ここ、アルゼナルの総司令、ジルだ」

 

そう言ってジル司令はアンジュリーゼの例の首輪手錠を外した。

 

「・・・私はノーマなどではありません。きっと何かの間違いです。すぐにミスルギ皇国から・・・」

 

次の瞬間、アンジュリーゼの腹部にジル司令の見事な蹴りが入った。その衝撃で彼女の身体は壁に叩きつけられた。

 

口からは多少の血が出ていた。

 

「なにを・・・」

 

「いやはや恐れ入ったよ。16歳までマナを使わずに生きて来る事が出来たとはな。おかしいとは思わなかったのか?一度も?」

 

「マナを使う専属の侍女がいたようです」

 

エマ監察官がジル司令の疑問に答える。

 

「なるほどなぁ、みんなで隠してきたのか・・・

16年も」

 

「!?」

 

ジル司令とエマ監察官の会話を彼女は半ば受け止められないでいた。そしてジル司令は彼女の顔に近づき、耳元で囁くように言った。

 

「お前の母親も、結局無駄死にだなぁ」

 

「えっ?死・・・死ん・・だ?えっ・・・」

 

彼女現実を受け止められないでいた。そんな彼女など御構い無しにジル司令は彼女の指から指輪を奪い取った。

 

「やれやれ。指輪も取れなかったらどうしようかと思ったよ」

 

「返して!返しなさい!!」

 

「取り返してみたらどうだ?【マナの光】で」

 

その言葉に彼女は手を前に出した。

 

「マナの光よ!」

 

しかしなにもおこらない。

 

「光よ!マナの光よ!」

 

しかしなにもおこらない。

 

「光!マナの光よお願い!出て!」

 

いい加減にしろ!なにもおこらないと言っているだろう!はねるしか覚えてないヒンバスかお前は!!!

 

ジル司令もあまりの滑稽ぶりに半ば呆れていた。

 

「もうお前には何もない。皇女としての権限も、

人としての尊厳も、何もな!!」

 

そう言うとジル司令はナイフを取り出し、彼女の服を切り裂いた。

 

「きっきゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

驚くなという方が無理な話だが、ジル司令は間髪入れずに彼女の服だったものを剥ぎ取った。そして彼女を拘束台へと押し付ける。

 

「はっ放せ!」

 

「エマ監察官、お手伝い願えますかな?」

 

彼女の言葉など無視して、エマ監察官に協力を求める

 

「何故・・・私が・・・」

 

エマ監察官は不服らしい。

 

「早く終わらせたいでしょう?汚れ仕事なんてものは」

 

その言葉に、エマ監察官も渋々納得したらしい。

エマ監察官の手が光る。すると拘束具が勝手に動き始めた。それらは彼女を、アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギの手足を拘束した。

 

アンジュリーゼはまな板の上の魚の状態となっている。

 

「なっ!なにを・・・!?」

 

「身体検査だ」

 

そう言うとジル司令は彼女の下着に手をかけ、一気にずり下ろした。 そして義手である右腕の指などを調節しはじめた。

 

「やめてっ!やめなさい!私はミスルギ皇国!第一皇女!アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギなるぞ!」

 

「いや、今からお前は【アンジュ】だ」

 

次の瞬間、義手である右指がアンジュのあそこに突き刺さった。

 

「キャァァァァァァァァ!!!!」

 

轟く雷と共にアンジュの悲鳴だけが、室内に響いた。

 

やがてその場には、糸の切れた人形の様な状態のアンジュが残された。

 

ジル司令はアンジュの耳元で囁くように言った。

 

「ようこそ。地獄へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその隣では、シルフィーが何事もなく寝ていた。彼女はアンジュの取り調べ前に、服のサイズなどを測るために呼ばれていたのだ。そしてまだ部屋がない為、ここで寝る事にしたのだ。

 

彼女は先程までの隣の惨状など御構い無しに眠り、夢を見ていた。悪夢という悪い夢を。

 

夢とは楽しいだけのものではない。時に悲しい夢や怖い夢。そして辛い夢など、それらが容赦無く襲いかかってくる時もある。そして彼女も現在、それに魘されていた。

 

今の彼女は一人だ。辺り一帯は真っ暗である。更に周囲からは様々な言葉が聞こえてきた。

 

それは一人対複数での口論の様だ。

 

複数の人が自分に対して罵声などを浴びせていると予想できた。その複数の声のどれも自分の知らない声である。

 

「おいおい。大の大人が子供相手に寄ってたかって、みっともないと思わないのか?」

 

今度は聞いたことのある声がした。島で聞いた声だ。右目に傷のある黒装束の男の声だと理解できた。

 

「ごにょごにょ!しかしごにょごにょ!この子は!」

 

怒鳴り声にも似た声で一人が何やら言っている。しかしごにょごにょしていて、一部が聞き取れなかった。

 

「そちらの言いたい事も理解出来る。だが、相手は子供なんだぞ。やり方というものがあるだろう」

 

「それに彼女は、ピーッなんだ」

 

ピーッの部分がうまく聞き取れなかった。だがシルフィーの耳にはこの様に聞こえた気がした。

 

「それに彼女は、運命の子なんだ」

 

そしてその言葉を最後に、シルフィーの意識は失われていった。

 

 






第1章はこれでおしまいです!次回は第2章です。

やっと本格的にアニメのメインキャラクター達を登場させられます。
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