試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【一般版】 作:珍歩意地郎_四五四五
赤毛の女児に手を引かれ、開け放した両扉の奥からエプロンをつけた、あきらかに
長い金髪を品よく結い上げ、蒼い縁どりのあるオフホワイトの布をトーガのように巻き付けている。村を出るときに送られた翡翠のチョーカー。エメロードのイヤリング。二の腕にある金の腕輪は、オレが買ってやったものだ。
緑色のひとみが――あいも変わらず
――やはりキレイだ……、いや、すこし
女はこちらを見るや一瞬、呆然とした
数拍の
「アラ――よくお
「え……」
「あんまり長い間帰っていらっしゃらないモノだから、
出た……とオレは心中、苦笑する。
まったくコイツのコレには、付き合いだしてからずいぶんと苦しめられたものだ。プロポーズの時はコジれにコジれ、破談寸前にまでいったことがある。
その時はエルフ属の長老が自らわざわざ
オレはソッポを向く家内にむかい、やさしく肩に手をかけた。
華奢な、それでいて柔らかい肩だった。
「シーア。そんなワケないだろ?オレにとっての女は……この世界でお前だけだよ」
ママ、すなおじゃないのネ、と
「いつもおだいどこで、パパかえってこないって泣いてたのに――」
「サフィール!あっちへ行ってなさい!幼稚園の宿題は?」
「やった」
「じゃぁ予習は?」
はぁっ、と女児はタメ息をつき首を振りつつ、
「やれやれ――とんだとばっちりだわ。は~ヤダヤダ、けんたいきの主婦は」
「サ!フィー!ル!?」
鬼のような形相になったシーアにそれ以上言われないうち、娘はピューッと家の中に退散した。
「ホントにもう!誰に似たのかしら?」
キロリ、と妻がこちらをニラむ。
「幼稚園でも大将株で、男のコたちをアゴで使ってるんですってよ?」
「将来有望だ」
オレは妻にキス。
すると彼女は怒ったように顔を離し、
「あん――もう、不意打ち!」
そうして改めて彼女から野性味あふれる濃厚な口づけ。
結い上げた彼女の頭を抱き、眼をとしてお互いの身体を合わせる。
柔らかい温かみ――
その夜。
使用人をすべて下がらせたあと、彼女はブーブーと不満を垂れながら冷凍豚肉を解凍し、香草焼きを作ってくれた。
「帰っていらっしゃるなら、準備もしましたのに……アナタの好きな牛肉の赤ワイン煮とか、ジビエのソース焼きとか。なんのお料理もできないじゃありませんか」
「なーに、お前の作ってくれるものが一番なんだ」
じつは泊まり込みの時、出前でさんざん食った――などとは大暴風がやってくるので口が裂けても言えない。オレは当たりさわりなく、
「どんな宮廷料理よりも、お前のつくる一品の方が好きなんだ」
「そんなコトおっしゃっても……こんな有り合わせなんか」
妻として残念ですわ?と彼女は食卓に料理を並べ始めて。
「サフィール、手伝って?」
娘がカトラリーや取り皿などを並べ始めた。
「パパが持ってきた、あのおっきいてさげぶくろナニ?」
リビングの端に置かれっぱとなっている紙袋を、娘はチラチラ興味深々に眺め、食器のセットもうわのそら。
「んー。なんだろうねぇ?ご飯が済んだら、開けてみようか」
「ワかった!サフィのおみやげだ!」
「サフィはイイ子にしてたかな~?してなかったらナニもないよ?」
「してた!」
ウソおっしゃィ、と冷静な妻の声。
「きょう幼稚園でプーチンくん泣かせたの誰~?」
「ママは!よけいなこといわない!」
ヤレヤレ、とオレはバジルが効いた香草焼きの一片を頬張る。
美味い――舌になじんだ味が、ホッとする。
“ようやく帰ってきた”という実感。そんな想いが、まじりっけなく顔をほころばせた。
オレの様子を見てようやく機嫌をなおしたらしい妻がビールをそそいで、
「ごめんなさいね?あとはワインになるけど……」
「え?ビール無いの?」
「ママおだいどこでときどきのむもんネ」
「サフィィ!ヘンなこと言わないの!」
「だってのんでたじゃん!」
「……まったく、親子だなぁ」
「アラ。それどういうイミかしら?」
ヤバい。
余計なことを言うと、ま~たとばちりが降ってくる。
オレは口を尖らす赤毛な娘と妻の言いあいを、なかば呆れ、なかば微笑ましく観戦しながら、しかしコイツの言ったことが本当だとすると、ナルホドちょっとヤバかったんだなと自戒する。
――
“虎”の字の言葉が思い出される。
本当に「明日は我が身」かもしれない。
光石ランプの灯りの具合か、すこしやつれたように見えるテーブル越しの妻の顔をみて、オレはもう少し屋敷にも気をかけねばと肝に銘じた……。
* * *
娘は、土産として買ってきた自分よりも大きな竜のぬいぐるみに興奮して走り回った挙句、疲れ果ててそれを抱きながらリビングのソファーで寝てしまった。
オレは反対側のソファーで、暖炉の火にあたりつつウトウトする。
とおくで、妻が洗い物をする音……。
革張りのソファーに居心地よくもたれていると、わずかに開いた出窓からニャァ、と一声。
――おや……ネコか。しかも黒ネコだ。
黒ネコが縁起悪いと言ってたのは、だれだっけ?
よく見てやろうと薄目を開けるが、温かみからくる睡魔には勝てない。
部隊勤務の疲れが、おもったより溜まってるなとオレは実感。
やはり温泉に行こう、と思ったときだ。
――ヤァ、いい
いきなり、ペロペロと
部屋の照度が急に暗くなった気配。そのなかで金色の瞳が炯々と輝く。
しかし自分は、それを特に奇異なものとしては受け止めず、あたりまえに返事をかえした。
――そうサ。あれだけ苦労したんだ。少しぐらい愉しみがあってもイイじゃないか。
――まったくねぇ……“苦あれば楽あり”ってやつだね?
――願わくばこの幸せが、ずっと続くことをねがうよ。
――でもこの世界は、まだまだ不安定だからねぇ。
――と……いうと?
――常に気をくばってないと、足もとを
――不吉なことを言う。
――この世界は因果からくる絶対値から成りたってるからね。
――ネコ風情が、ずいぶん難しいことをいうんだなァ。
――ネコ風情とは、ご挨拶だねぇ
このまま放っとくと、本当に小ムズかしい講義でも始めかねない。
オレは冷やかしのつもりで、
――ずいぶん博識でいらっしゃる。どっか大学でも出たのかい?
――ゲッティンゲンで哲学を。ソルボンヌで神学を学んだよ?
――これは、どうも……(ウヘッ)。
オレは、反対側のソファーを見た。
買ってきたぬいぐるみを抱いておだやかに寝入る娘。
その横、脇の小卓にのせられたカゴに包まれる大ぶりなワインボトルは、液面がカゴ部分に入ってしまっているので分からないが、そんなに飲んだだろうか?
あるいは……これは夢か。
――なるほど夢だ……。
オレはやってきたネコをよく見たとき、納得する。
驚いたことに、なんとシッポが2本あるではないか。
その二本を、まるで触手樹のように波打たせ、まるで手話のように。
そしてツヤツヤと、ベルベットのよな毛並みを光らせつつ、
――キミの存在を、ここで定着させてもイイのかい?
――どういうイミだ?
――そういう意味さ……まぁ、よく考てみるんだね。
――Qべぇみたいな口ぶりだなぁ。
――まったくキミたち人類っていうのは……ところで○ゅ~るって、もうナイのかい?
――ちゅ~○?……なんだソレ。
「アナタ?――貴方どうなさったの?」
「う……」
現実感が潮のようにもどってきた。
ねぼけ眼でかたわらを見上げれば、妻が手を拭きながら立っている。
「誰かとお話しになってたようですけど」
「オレが?」
「大学がどうとか。まさかあの娘を大学にやるの?」
「いや、ネコが来ていて」
「ネコ……どこに?」
そこ、とレースのカーテンがゆらぐ出窓を示すが、ネコの姿など見えない。
「いやねぇ……妖魔でも来ていたのかしら」
妻はかたわらの窓を開けると鎧戸を鎖し、窓そのものも閉め、厚いカーテンを引いた。
「あらあら、この娘ったら。寝室まで運んで下さいな」
「うむ」
おれは娘をぬいぐるみと共に横抱きにすると、子ども部屋に行き、妻の手も借りて子供用ベッドに寝かせた。
娘の部屋を出ながら彼女は、
「ずいぶん大きなぬいぐるみねぇ……高価かったのではなくて?」
「まぁ、それなりには……な」
イヤですねぇ散財して、と彼女は首をふり、
「まだこの屋敷のローンがタップリ残っているんですからね?節約しませんと」
ホラ出た、とオレは内心してやったりの笑み。
こういうことになると思ったんだ。
そなえあれば憂いなし。
「オヤ、そうか?では君にもお土産を買ってきたのは、散財だったかな?」
エッ、と妻はうれしそうな顔をとっさに怒り顔でごまかして、
「もう、アナタったら――意地悪!」
寝室に行く途中で、オレたちはふたたび長いキスを交わす……。
そしてベッドの上で、妻がネグリジェに着替えるため素肌になった時をねらい、オレは彼女に後ろから抱き着いた。
そして背後から腕をのばし、彼女の目の前に細長い小箱をもってくる。
「ふふぅぅん。コレ、な~んだ」
「……ナニかしら」
「これはね、オレの一番大切な、そしてカワイイ奥様のために買ってきた、アムタリア川の首飾りです」
「まぁ……」
「あれ~奥様?いないなぁ~奥様、おくさま~?」
「ここに居まぁ~す」
抱き着かれたまま、身をゆさぶる妻。
女の匂いが、かすかに漂う。
「ホントかァ~?ほんとにほんとに、オレのチュッチュしたい奥様かァ~?ホントにオレのチュッチュしたい奥様ならなー、この問題が解けるはずだ!」
「……え」
「シーアのだんなサマが好きな場所はどこでしょう!
ででン! 大ヒント!
あまんこ
いまんこ
うまんこ
えまんこ……の次です!」
沈黙。妻はくちびるを噛む。
オレは彼女の目の前の小箱をホレホレ、とゆらして。
「…………………………ぉ○○こ」
「奥様だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「もう、バカ!バカ!〇んこ!」
妻のマクラ攻撃。
「ワかった、ワかった。こーさん、こーさん」
オレは妻のまえで小箱を開く。
シルダリア川の貴石が嵌まる首輪。
ナイト・ランプのうす暗さを圧して輝いて。
妻は
「こんな……
「まだまだ。シーアを想う気持ちに比べたら」
涙ぐんだ目が近づく。
そしてやわらかい
そのまま、臥所に二人して横たわる。
上掛けの下で、オレの手が
そのまま、しばし××××。
怒りだすかと思ったら、彼女は幾分涙ぐんだ声で、
「ごめんなさいね、小さな胸で」
「……え」
「わたしの胸。姉さんたちみたいに大きくないんだもの」
たしかに。
オレは年に1回、向こうの実家へ挨拶に行くときに見る二人の姉を思い出す。
なるほど彼女らは、ムチムチなワガママボディで、いかにも狩猟系の肉体をしている。出るとこは出て、引っ込むところは引っ込み、まさしく肉食系な
「GIGA MILK」のTシャツでも着せたいぐらいなのだ。
たいして我が妻であるシーアは、どちらかと言えば果樹・草木採集系をおもわせる繊細な身体で、いかにも妖精属の末裔といった
「……バッかだなぁ」
オレはシーアの××をピンと弾く。
「やん!……いたァい」
「こーゆーのは“美乳”っていうんだ。キミのネェさんみたいなのより、オレはコッチのほうが好きなのサ」
うわがけの中に顔をもぐらせ、××××い×にチュッ。
顔を出したあとは、やさしく――やさしく――マシュマロのような××を、撫でた。あんまりホンキで揉むと妻のスイッチが入って始まってしまうので、あくまでもさする程度に。
「……ホントに?」
「そうさ」
「……良かったァ」
オレは××から手をはなし、妻の身体をそっと抱きしめる。
シーアも安心したように体をゆだね、やがて安らかな寝息をたてはじめた。
――そう、良かった。NTR、なんか無かったんだ。
どこかでわだかまっていた心の
あれほど胸の奥に凝り固まっていたものが、ウソのように。
オレは体の力を抜くと、安心して眠りについた……。
試製・転生請負トラッカー日月抄
~撥ね殺すのがお仕事DEATH~
おわり
……wwwな訳ァないよネェェェェェエェl!!!!11111
次回:第5話:『団欒の無残な崩壊――そして“ブレヒト的”解決』へと続きます。
【速報!】
完全新作!
『玲瓏の翼』短編集~ヒナ鳥たちの宴~
単発でスタートします。
こんどはエロ要素全く無し。
少年候補生がそれぞれの場所で、
それぞれの理由で死んでゆく小品集(予定)です。