「……どうしようかな」
本当、絶賛困惑中なんだけど。
確定はしたくないけど、まぁ、プリンちゃんなんだろうね。よりにもよってさぁ……。ビッグ・マムもなんでプリンちゃんを選んだの、別に自分で良いじゃん。
「だいじょう、ぶ?」
「ちょっとだいじょばないかも……」
最悪、最悪ね、仮にプリンちゃんと戦わなくちゃいけないってなった時……覇気だけで昏倒させられるのかな?前のデリンジャーを見る限りだと無理そうだけど……。嫌だぁ!戦いたくない!
もうね、ナミさん達に抱きついて癒されたい。キャロットでモフリたいし、シャルリアには頭を撫でて欲しい。ペローナちゃんには、自分から抱きついてきて欲しいし……。……って、そういえば……ペローナちゃんって今、プリンちゃんと一緒に居るんじゃないの?
「……確かさっき……」
ナミさん達と会った時、ペローナちゃん達は鏡に吸い込まれたって言ってた。……それは、不味いんじゃ。
鏡の中に入る方法なんて知らないし、能力者がどこに居るのかも、どんな気配なのかも全然知らないから……これは、本当に不味いかも。
「レイ、色々ありがとう、せっかく会えたんだけどちょっと急ぎの用事が出来ちゃったから……!」
「うう、ん。わたし、も、そろそろ戻らない、と」
流石に安城さんもそう長い事レイに体の主導権を渡さないって事かな。
どちらにしても私がやるべき事は決まってしまったし、ブルックには申し訳ないんだけど……。
心の中でブルックには全力で謝りつつ、外の様子を見聞色で確かめてから扉のドアノブに手をかけ、最後にレイへと振り返った。
「じゃあ、またね、レイ!……あ、そうだ、これだけは言わせてもらうけどさ、私の意見は前から何1つ変わってないよ」
「……?なんのこ、と……?」
「何の事って、本気で言ってる?じゃあもう1回耳に……ううん、レイの心にでも刷り込んでてくれるかな。“あなたを絶対、死なせたりなんかしない"って」
「あ……」
この話は前にやって平行線だったから、レイの答えは特に聞かずそのまま扉を開けて外へ飛び出した。
同じ体だとしても、悪事を行なってきたのは全て安城さんなんだ、レイが責任を取る必要はない。だから私の考えも、目指したい結末も変っちゃいないから。
「さて」
まず私はプリンちゃんを探さないといけないから、ナミさんの言っていた『鏡の中』とやらに行く必要があるんだけど……そんなものを手がかり無しで探していたって見つかる筈も無い。となると……正直申し訳なさすぎて気は進まないけど、あの2人の邪魔をするしか無さそうだ。
流石に本拠地の本城ともなると兵士が多くて、絶対に見つからずに城を出るのは難しく、幾度となく見つかっては騒ぎになる前に眠らせてを繰り返しようやく外へ出る事に成功した。
私の脱出はすぐに気付かれてしまうだろうけど、脱出を許したのはビッグ・マム側に落ち度があるからそれでサンジ達に矛先が向く事は無い筈。
「……あー、ほんっとうに気が進まないけど、急ぎの用事だから、ごめん!」
と、この場に居ない2人に全力で謝り、急いで『ジェルマ』まで駆けるのであった。
***
「……と、いうわけなんだけど、鏡の中に入る方法とか、そのブリュレって能力者がどこに居るのかとか知ってたら、ね?教えて欲しいかなーって……はい」
「なんでそんな畏まってるの?」
「いや……邪魔したし」
少し笑いながらツッコミを入れる王華に、何となく気まずくなって頬をかく。
「だってさぁ、折角2人っきりなのに邪魔したくなかったからさぁ!いやね、結局しちゃってるんだけど」
「そんな事言ったって、そういう事情があるなら仕方ないよ。沙彩も良いでしょ?」
「ええ、勿論、私達はこれからいつだってお話出来るもの。優先すべきは誰かの命、そうでしょう?」
そんな風に言ってくれるのなら、と少し気が楽にはなったけど……はい。という訳で、王華と沙彩の2人に相談する事にしてやってきました。
王華曰く、女王化ももうすぐ切れるだろうからタイミング的にも悪くないとの事で、ここから先は沙彩も同行してくれるそうだ。
「ミロワールドにブリュレ姉さんが居るのなら話は早いわ、何処かに鏡はあるかしら」
「この部屋にもあるよ、あそこに……って、あ、時間切」
『れだ』
おっと。壁にかけられてある鏡を王華が指差した瞬間、私の女王化が解けて同時に王華も戻ってきた。沙彩にも簡単に私の中に戻っただけだと伝え、早速鏡の前まで歩いていく。
「それで、この鏡がどうかしたの?」
「どうしたも何も、この鏡こそ、あなたを仲間の下に導いてくれるアイテムになるのよ」
「えっ?」
そんな貴重な鏡がなんでジェルマの城に、しかも適当な部屋に置いてあるの!?
なんて考えが表情にも出ていたのか、沙彩は眉を下げてくすりと笑い、壁から鏡を取り外して床に寝かせた。
「正確には、この島中の鏡、というのが正しいわね。ブリュレ姉さんの能力で行く事の出来る鏡の世界、ミロワールドは、能力者であるブリュレ姉さんと彼女の周辺に存在する鏡があってようやく渡れるのよ。そしてその『周辺』がこの島全域程度という訳ね。ミロワールド内部もこの島くらいの広さはあるんじゃないかしら」
「へぇ、つまり鏡は特別なものじゃなくて良いんだ、ブリュレさえ居ればどんな鏡だろうと入り口になると」
「そういう事になるわね。で、肝心のブリュレ姉さんなんだけど……。こほん、あー、あー。姉さん、ブリュレ姉さん、聞こえる?」
と、こんな風に床に置いた鏡に話しかけ出し、大体どういう事か理解出来た私は鏡に自分の姿が写らない様に一歩下がった。ブリュレに警戒心を抱かせる訳にはいかないという理由である。
『────ん?お、なんかここから声が聞こえるぞ!』
『そ、その声はサアヤだね!?助けて〜〜!捕まっちゃったよォ〜〜!』
『うるせェ、静かにしろ』
お、この声はチョッパーとペローナちゃん!真ん中の声は知らないけど、普通に考えてブリュレ、かな?
でもなんか捕まってるっぽいし、姿を見せても良さそうだと判断した私は鏡を覗き込む様にひょっこりと顔を見せる。
『お!?なんだ、イリスの顔が写ったぞ!』
『イリスの!?』
鏡の向こうは結構ハッキリ見えて、うねうねした背景に大量の鏡という謎の場所にみんなは居るみたいだ。
ペローナちゃん、キャロット、チョッパー、そしてこの人がブリュレかな?それに……ちゃんとプリンちゃんも居るね。
「とりあえず、私達もそっちに行っていいわよね」
『は、早く来てくれェ〜!』
「もう、姉さんってば、妹にそんな姿見せて恥ずかしくないのかしら」
恥ずかしいとかそんな問題なのかな……なんかロープでぐるぐる巻きにされて人型チョッパーが背負ってるし、命の危機を感じてるレベルだと思いますね、はい。
でもなんというか、ブリュレという人を見る沙彩の顔は……うーん、なんて表現したらいいのか……そう、優しい、かな。正に大事な家族に向ける様な……て事は、なんだかんだ言っても家族愛はあるみたい。
そんなこんなで、鏡を通れる様にして貰って中へ飛び込み、私達もミロワールドへと足を踏み入れた。
「おい女王、シャルリアは見つかったのか?」
「手がかりだけしか……。もしかしたら、そこに居るブリュレなら何か知ってるかもだけど」
「知らないよっ!そんなやつ!」
ふぅん?でも私の見聞色に反応が無かった以上は絶対この鏡の世界にいる筈なんだけどな。
それ以外で反応が無かった理由なんてのは、ハナから考えちゃいないよ。
「突然押し掛けておいてなんだけれど、姉さんの事、解放してあげてもらえるかしら?」
「それはムリだ、あともう少しでおれもキャロットも鍋の材料にされかけたんだぞ!」
「私じゃなくてカエルさんだよ!」
ちょっと話が掴めないけど、まぁ、その話し合いは沙彩に任せるとしよう。正直、ブリュレの処遇についてはあまり関心が無いし。というか、他にやらなくちゃいけない事があるからね。
……少しだけ、緊張するけど。
「や、昨日ぶり」
「……はァ、なんで話しかけてくるのよ、あっち行け、あっち!」
プリンちゃんとの楽しい楽しい『お話』……始めようか!