『架空の財閥を歴史に落とし込んでみる』外伝:戦後の新線   作:あさかぜ

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東海新路線
東海新路線①:名古屋市営地下鉄金山線・東部線


 2020年現在、名古屋市営地下鉄は6路線が運行されている(東山線、名城線、名港線、鶴舞線、桜通線、上飯田線)。

 この6路線以外にも、東部線、金山線、南部線の計画が存在する。これらの計画線は1992年の運輸政策審議会答申第12号に組み込まれた路線で、それぞれ以下の様になっていた。

 

・東部線:笹島(現・ささしまライブ。当時は未開業)~丸田町~吹上~星丘~高針台~岩崎

・金山線:戸田~金山~丸田町~黒川~楠町

・南部線:桜本町~大江~名古屋港~稲永

 

 この内、東部線と南部線はこの答申から組み込まれたが、金山線は1972年の都市交通審議会答申第14号の5号線(伏屋~金山)と8号線(枇杷島~浅間町~矢場町~高岳~黒川~楠町)が原型となっている。前者は近鉄との直通を、後者は名古屋市北部と都心部の連絡を目的とした。

 

 東部線は笹島から関西本線・西名古屋港線(現・名古屋臨海高速鉄道あおなみ線)と、金山線は戸田から近鉄名古屋線と直通する構想だった。また、丸田町で延伸予定の上飯田線との直通も想定された。南部線は輸送量が少ない事から、新交通システムが計画されていた。

 この3線の内、東部線の笹島~高針台がA線(=2008年までに開業する事が望ましい)、金山線の戸田~黒川がB線(=2008年までに建設に着手する事が望ましい)、残る区間がC線(=今後建設するか検討する)とされた。

 だが、東部線は答申で示された2008年までに開業処か、建設すらされなかった。A線の東部線でこれな為、後の2路線も同様であった。恐らくだが、並行路線の存在や東海地域の経済低迷、それに伴う需要減から、建設に至らなかったのだろう。

 

 もし、これらの路線が開業していたら。

 

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 この世界でも名古屋市営地下鉄は存在するが、桜通線と上飯田線が史実と異なる。

 桜通線は、1435㎜・直流1500Vとなっており、京阪名古屋線と直通運転を行っている。特急列車の直通も行われており、淀屋橋~久屋大通という長大運転が行われている(※1)。

 上飯田線は、この世界では存在しない。小牧線が大曽根まで延伸した為、瀬戸線経由で名古屋中心部への乗り入れが実現した為である(※2)。

 

 1992年の答申だが、史実と内容が異なる部分がある。それは、金山線と上飯田線が事実上統合された事、東部線の区間が延伸された事である。

 先述の通り、この世界では小牧線が大曽根で瀬戸線と繋がった事で、名古屋市中心部への乗り入れが実現している。その為、上飯田線の存在意義はほぼ無くなった。

 一方で、副都心として整備が計画されている金山と大曽根を結び、中心部である栄へのアクセスが既存の名城線だけでは不足すると見られた。また、近鉄が名古屋市内への乗り入れを要望した事から、戸田~金山~新栄町~大曽根が「金山線」として答申に組み込まれた。この路線はA線とされた。

 

 一方の東部線は、最大の目的である「東山線の混雑緩和」が桜通線の開業で実現した事、その桜通線が京阪との直通を考慮した設計(19m×8両)となっており、輸送量強化が実現した。それらの理由から、全線がA線に設定されながらも「建設する場合、他のA線の新線を建設した後とする」という但し書きが付けられた。つまり、東部線は最も評価の低いA線とされた。

 だが、名鉄が1982年に枇杷島口~柳橋~金山橋を建設して事実上の複々線化を行ったものの、須ヶ口~神宮前の混雑の緩和が進まなかった事、東海道本線・関西本線・庄内川に挟まれた名古屋市西部の交通網の面的拡充などを目的に、須ヶ口~中村日赤~笹島が追加された。こちらもA線と評価され、東部線全体ではこの区間の方が評価が高かった。

 

 しかし、須ヶ口~笹島が追加された事で、当初の構想にあった東部線と西名古屋港線・関西本線との直通構想は流れる事となった。また、JRにとって東部線への直通は名古屋や既存の繁華街を経由しない事からリスクが大きいと判断して乗り気でなかった。この時のJRは、関西本線の複線化の方を重視していた事もあった。

 

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 近鉄は、京阪が桜通線と直通を開始した事で、名古屋市内へのアクセス強化の観点から金山線への直通を要望した。1972年の答申でも伏屋~金山の計画はあったものの、この時は名古屋線の輸送量が逼迫していなかった事や金山の開発が行われていなかった事から興味を示さなかった。

 それが、1989年の京阪名古屋線と桜通線の直通開始によって大きく変わった。今まで国鉄・JRを除いた名阪間の移動は近鉄:京阪が12:8だったが、直通から2年後には9:11と逆転された。元々、運賃では京阪の方が(名阪間で380円)、時間では近鉄の方が有利だったが(最速同士の比較で15分)、特急の久屋大通乗り入れと名古屋線の大改良によって、時間的優位はほぼ無くなった。また、栄と淀屋橋という名阪のビジネス街同士が結ばれた事で、ビジネス利用者の多くが京阪に移った事も逆転された理由だった。。

 近鉄は巻き返しの為、金山線と直通して都心部への乗り入れを要望した。答申時、金山が新たなターミナルとして整備され副都心として整備されつつあった為、そこへの乗り入れにより利用者も見込んだ。

 近鉄のアプローチによって、名古屋市も金山線の建設に動いた。1994年に戸田~大曽根の免許を取得し、1997年に工事が開始した。工事開始直後にアジア通貨危機・極東危機と重なった事で工事は停滞したが、2001年から工事のスピードは早められた。

 

 2005年3月20日、戸田~新栄町が開業した。同日、名古屋線との直通運転が開始された。当初はこの時に全線開業する予定だったが、工事に手間取った事、愛知万博へのアクセスルートとする為に途中開業となった。開業日は開催5日前と、正にギリギリでの開業だった。その後、残る新栄町~大曽根が2008年3月23日に開業した事で金山線は全線開業した。

 大曽根からの延伸構想は存在し、答申時は志段味線を金山線の延伸扱いとする事や、名古屋空港への延伸が考えられた。しかし、需要が限定的な事、名鉄が反対している事などから、延伸は非現実的である。名古屋市から出る事、名古屋市がこれ以上の地下鉄建設を考えていない事から、構想以上の域を出ない。

 

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 万博直前に開業した事で、利用者輸送の特需の恩恵を受けた。開業前の一日の平均輸送人員を20万人を想定していたが、開業初年で23万人を記録した。翌年は落ち着いたものの、それでも18.5万人を記録し、その後も順調に増加した。金山・栄へ一本で行ける事によるアクセスの良さによって、金山線・名古屋線沿線の開発や再開発が進んだ事が利用者増加に繋がった。また、高畑で連絡する東山線、荒子で連絡するあおなみ線からの利用者が一部移転した事も要因だった。

 全線開業時には34万人になると想定されたが、32万人とやや少なかった。名城線や名鉄瀬戸線と並行しており、移転する客が少なかったのが要因だった。

 だが、金山線が全線開業した事で名古屋線沿線から名古屋市の主要部へ一本で行ける事で名古屋線沿線の価値が更に上昇した。それに伴い、沿線にマンションが多数建設されるなどして利用者が増加し続けた。利用者の伸びは年々増加し、2019年には37万人を記録している。

 

 開業時のダイヤは、データイムは1時間に10本、ラッシュ時は1時間に15本だった。その後、沿線の開発が進むと増発され、2020年現在ではデータイムで1時間に12本、ラッシュ時は1時間に16本となっている。

 直通運転は開業時から行われたが、開業当初は1時間に2本だけで、残りは戸田で接続というダイヤだった。直通先は検車場のある富吉までだった。名古屋線の線路容量に余裕が無い為であった。

 全線開業時のダイヤ改正で1時間に4本となり、既存の2本は直通先が近鉄四日市までのびた。増便された2本の内の1本はラッシュ時は富吉発着の普通だが、データイムは新栄町~宇治山田の特急となる。金山線内の停車駅は金山だけであり、新栄町に新たに特急発着ホームが設けられた(スペースそのものは開業時から存在)。戸田は運転停車のみで、客の乗降は出来ない。

 その後、2013年の名古屋線の戸田~近鉄弥富の複々線化と近鉄弥富~近鉄四日市の交換駅増設が完了した事によるダイヤ改正では1時間に6本と更に増便され、新設された2本は津新町まで直通する急行となった。新設された急行は「直通急行」という名称であり、名古屋線内を急行運転し、金山線内は各駅停車となる。また、通常の急行と異なり戸田に停車する。

 

 車輛は、桜通線で使用している6000形を基とした5000形が投入された。軌間・車両長(※3)・電圧などの共通点が多い為である。

 だが、6000系は1987年運用開始の為、15年以上経過している事から、新技術が多数導入された。また、建設費が高騰した事から、車輛の製造コストを下げる為に直線が多用されるなどした。前面も変更された為、寧ろ史実の7000形(上飯田線用車輛)に近い形となった。

 

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 金山線の戸田~丸田町の工事が始まった翌年、東部線の建設計画が浮上した。1997年に2005年開催予定の万博が愛知県で開催される事が決定した。極東危機で開催が危ぶまれたものの、最終的に当初の予定通りに開催される事となった。愛知万博開催決定によって、愛知県における交通・都市などの各種インフラ整備、新都心開発が促進された。金山線建設もその一環である。

 桜通線が開業したものの、東山線の乗車率は依然として180%台を記録していた。また、名鉄名古屋本線の混雑緩和も進んでおらず、愛知万博開催による中京圏再開発構想によって沿線の再開発が進み、乗車率がオイルショック時の180%台まで悪化した。他にも、東部線沿線予定地の名古屋市西部の渋滞の緩和、笹島貨物駅跡地の再開発促進などから東部線の建設計画が浮上した。

 この時は、名城線と金山線の建設を優先した事から具体的な動きとならなかったが、1999年に東部線に関する予算が組まれた。その結果、採算性が確認された事から、2001年からルートの策定が行われた。

 2003年に本陣通~名古屋大学までのルートが定められた。須ヶ口から名鉄の地下を通り、新川の手前で県道59号線に入る。五条川と合流する手前で南に進路を変え、庄内川の下を通って名古屋市に入る。本陣通から南下し、東宿町で東進して中村日赤で東山線と連絡する。中村日赤から県道190号線に入り千成通2丁目で市道岩塚牧野線を東進、太閤三丁目で南下して笹島に至る。笹島から名古屋高速5号万場線・2号東山線の地下を通り、吹上を出たら2号東山線から離れて名古屋大学に至る、というものになった。

 

 だが、残る須ヶ口~本陣通と名古屋大学~岩崎台のルートについては確定していなかった。前者は清須市の意見が統一されなかった事、後者は東山線と近過ぎる事が懸念された為である。

 須ヶ口~本陣通は清須市の為、名古屋市だけでは調査が出来なかった。清須市と共同して調査する予定だったが、清須市内で終点を須ヶ口にするか枇杷島にするかで統一されていなかった。須ヶ口案は「答申でそうなっている以上、それ通りに建設するべき」、「名鉄のバイパスという目的がある為、起点は名鉄の駅が望ましい」というものだった。枇杷島案は「清須市役所へのアクセス改善」というものだった。

 名古屋市は清須市に「2年以内に意見の統一が出来なければ、清須市への延伸は白紙とする」と警告したものの、2年経過しても意見は統一されなかった。結局、東側の終点は名古屋市と清須市の境付近の本陣通となった。

 

 名古屋大学~岩崎台は、答申案では星が丘を経由する事になっているが、答申通りだと東山線に近過ぎる事、東山動植物園の地下を通る事などから反対意見も多かった。代案として、「名古屋大学から再び2号東山線に入り高針出入口まで東進し、そこから県道59号線に入り、高針橋東で東進し、以降は市道沿いに高針・岩崎台に至る」という通称・2号東山線ルートが出された。

 他にも、「高針から南下し、国道302号線・国道153号線を経由して赤池に至る」通称・赤池ルートも考えられた。この場合、東山線の支線として星が丘から分岐して高針・岩崎台に至る路線を建設する事になっていた。

 最終的に、答申内容から大きく外れない事、距離が数百m短くなる事、建設が比較的容易と見られた2号東山線ルートが採用された。この区間のルート変更の願いが行われ、2005年に認可された。

 

 2008年、東部線全線の免許が認可された。工事が認可され、着手されたのは2012年となった。東部線の規格は、東山線や名城線と同じ1435㎜・直流600V・第三軌条方式となった。車輛の規格統一やトンネルの小型化による建設費・導入コストの削減を狙った。

 工事が始まると、笹島~吹上は道路の下を建設すれば良いので大きな問題は無かった。だが、須ヶ口~笹島と吹上~岩崎が難工事となった。これらの区間は狭い道路の下を通る事が多い為、土地収用や工事に制約が大きく、工事に着工するまでに時間が掛かった。

 

 2015年3月22日、最初の区間である笹島~名古屋大学が開業した。その後、2016年12月18日に中村日赤~笹島と名古屋大学~牧の原、2018年3月18日に豊公橋(開業前に本陣通から改称)~中村日赤と牧の原~高針、2019年11月17日に高針~岩崎台が開業した。

 当初予定だった清須市側では、豊公橋から須ヶ口駅・清須市役所を経由して枇杷島駅のバスが名古屋市・清須市・名鉄バスが共同運行する事で対応した。このバスが便利だった為、須ヶ口延伸は白紙となった。

 その為、岩崎台延伸を以て東部線は全線開業した。

 

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 開業したものの、利用者は決して多いとは言えなかった。開業当初の一日の平均輸送人員を16万人と見込んでいたものの、実際は10万人に僅かに満たない数字しかなかった。その後も利用者は延びているが想定よりも鈍く、2019年では見込み・27万人に対して19.5万人となった。

 東山線のバイパスとして建設されたものの、名古屋市の主要部から外れている事がネックだった。主要部に行くには、他の路線に乗り換える必要があった。当初は笹島へのアクセスとして期待されていたが、あおなみ線が開業した事や近鉄の米野駅がささしまライブ24地区へのアクセス駅として整備した事などから利用者が延びなかった。

 また、JRとの乗換駅が存在しない事から、旅行客やビジネス客など外部の利用者が増加しなかった。新幹線で訪れるなら東山線か桜通線を、京阪沿線なら桜通線を、近鉄沿線なら金山線を利用する為、わざわざ東部線に乗り換える利用者は少数だった。

 

 一方で、沿線の中村区から名古屋大学へ一本で行ける事となり、沿線で再開発を兼ねた学生向け賃貸住宅の整備が行われる様になった。乗り換え無しで行け、東山線や名城線程混雑していない事から、通学し易いと見られた。名古屋市も混雑緩和の観点から、この動きを歓迎した。

 利用者はそこそこ増えたが、東山線・名城線ルートと比較すると3:7と依然として多くなかった。名駅や栄といった繁華街を通らない事が理由だった。

 それでも、沿線の再開発が進んだ事は事実であり、特に今まで軌道系交通手段が無かった香久山・岩崎地区の再開発が進んだ。また、鉄道が開通した事で高齢者の安定した交通手段の提供となり、高齢者向け施設の建設が進んだ。

 

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(名古屋市営地下鉄金山線)

↑近鉄名古屋線に乗り入れ

・戸田

・榎津

・前田西町

・野田二丁目

◎高畑:名古屋市営地下鉄東山線

◎荒子:名古屋臨海高速鉄道あおなみ線

・松葉公園

・八神町

・八熊通

◎金山:名古屋市営地下鉄名城線・名港線、JR東海道本線・中央本線・名古屋環状線、名鉄名古屋本線・押切線

・向田橋

◎鶴舞:名古屋市営地下鉄鶴舞線、JR中央本線・名古屋環状線

◎千代田:名古屋市営地下鉄東部線

◎新栄町:名古屋市営地下鉄東山線

・平田町

◎森下:名古屋鉄道瀬戸線

◎大曽根:名古屋市営地下鉄名城線、名古屋ガイドウェイバス、JR中央本線・名古屋環状線、名古屋鉄道瀬戸線・小牧線

 

(名古屋市営地下鉄東部線)

・豊公橋

・豊国神社

◎中村日赤:名古屋市営地下鉄東山線

◎太閤通:京阪名古屋線

・千成通

◎ささしまライブ:名古屋臨海高速鉄道あおなみ線、近鉄名古屋線(米野)

◎名駅南:名鉄押切線(水主町)

◎大須観音:名古屋市営地下鉄鶴舞線

◎矢場町:名古屋市営地下鉄名城線

・丸田町

◎千代田:名古屋市営地下鉄金山線

・御器所

◎吹上:名古屋市営地下鉄桜通線

・南明町

・大島町

・伊勝町

◎名古屋大学:名古屋市営地下鉄名城線

・東山動植物園

・藤巻町

・牧の原

・高針橋

・高針

・極楽

・岩崎台




※1:本編の『番外編:日鉄財閥が支援・設立した鉄道会社(近畿②)』と『番外編:戦後の日本の鉄道(東海)』参照。
※2:本編の『番外編:戦後の日本の鉄道(東海②)』参照。
※3:この世界の近鉄は早くから阪神と直通している為、車体長は19mとなっている。京阪も、輸送量強化から18.5mから19mに拡大している。

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