明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

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More than Smiles

 白い息が透き通る夜をぼやかして頬を通りすぎる。ミルク色の時間が溶けて夜空へと染み渡る。僕たちのすぐ後ろにいた去年が遠ざかり、目の前には新しい年が迫ってきていた。

 まだ朝日には程遠く、けれど時間は確実にやってくる。何か始まるという感覚と、何かが終わる感覚が同居する中、僕たちはある場所を目指していた。

 

「ねぇ、今年こそあれ成功させましょ」

 

 時は大晦日、みかんの甘みを感じつつも白いの(アルベドとかいうらしい)を取りながら、年明けを待っていると、相棒がニヨニヨとしながら分厚い本を持ち出してくる。

 

「新年っていう特別な時間だから今回こそいけるわ」

「えーあれ、去年も失敗したじゃん」

「今年こそ行けるわよ。絶対に初日の出と一緒に雪を降らせるのよ!」

「まぁ、冬休みの自由研究のテーマも決まってないからいいけどさぁ」

 

 僕たちは都会に住む魔法使い。都会と言ってもロンドンとかじゃない。東京のどこかに僕らは住んで、ごくふつうの魔法の学校に通っている。場所? 教えたら退学なんだってさ。

 去年、僕たちはインスタ映えを狙おうと、初日の出と共に雪を降らせようとした。まぁ、結果は大失敗。大きな氷塊を頭上に創り出し、大きなたんこぶを作る羽目になった。

 そんな訳で今年はやるまいと思っていたのに、相棒はどうもやる気みたい。こちらも特に研究のテーマも決めてなかったので渡りに泥船ともう一度インスタ映えに挑んでみる。……ヘルメット持ってこう。

 

「んで、今回はどこで実験よ」

「前回はたぶん人混みとかノイズが多すぎたのよね、だから今回はノイズの少ない海でやりましょ」

 

 箒はこのまえ賭けレースをしたことがバレて取り上げられた為、仕方なくパスケースを手に取る。寒い寒いと文句を吐きながら潮の香りが舞い込んでくる駅に降り立った。

 でかいボストンバッグに、だぼだぼのローブ、三角帽子のかわりにヘルメット。そんな奇抜な格好も大晦日だから目立たない。……訳がないので少しばかりの魔法を掛けて。

 ホームには煌々とした明かり達が初日の出を待っていて、すこし目が痛い。ぞろぞろと降り立つ客達のあとにつき歩いていく。

 しかしまぁ、なんというか。 

 

「ノイズ多いじゃん」

「何でこんなに人いるのよ!? まったく世の中には暇人が多いわ!! 明日も奴隷のように働くんだから早く寝なさいよ」

「いや、明日は殆ど休みでしょ」

 

 金平糖のような星も、砂糖玉のような月も見えていた夜に僕たちは潜り込む。魔法使い達も、普通の人間も新年を迎える為に大忙し。ティーパーティーを何度やったって今この瞬間には敵わない。

 相棒はこの人いきれに嘆息をして、マジッククローゼットをゴソゴソとやり出した。

 

「仕方ないわねぇ。奥の手を使いましょうか」

「何する気?」

「貸してたものを返してもらうの」

 

 そうして取り出したのは、のりなれた魔法の箒。

 

「いや、流石にまずいでしょ。単純に違反だし」

「それはもう去年になる今年の話でしょ! 来年は違うかもしれない」

「来年の話をすると、鬼が笑うなんて言うけどさぁ……これは学校の鬼がキレるよ」

「ふふふふ……おかしな事を言うわね」

 

 相棒は一歩前に出て、こちらを振り向く。その顔にはいつものいたずらっぽい顔が浮かんでいて、もう止めるのは無理だと悟るのに時間はかからなかった。

 頼れるやんちゃ姫曰く。

 

 来年の話をすれば笑顔が増える。……それっていいことじゃない。

 

 だそうだ。

 

 結局、僕たちは薄いヴェールを纏った空へと躍り出る。二人乗りの箒はとても窮屈で、けれどその窮屈さは冬の寒さなんて無視出来る程に暖かい。

 

「ちゃんと魔導書暗記してるわよね!?」

「もちろん。とりあえず操縦に集中してくれない?? 怖いから」

「しかたないわねぇ……時間もないし飛ばすわよ!!!」

 

 ぐんぐんと歩く人を追い越し、風を追いかけて、そして陸地からも離れていく。後ろを振り返ると、どこもかしこも深夜だというのに灯りがついていて、まるで何色ものビーズを散りばめたみたいにキラキラと輝いていた。

 

 周りには暗幕を垂らしたような海原と、遠くに見える船の明かりがまるでランプのように穏やかに光る。

 

「ここならノイズも無いわね」

「さっむ。ここ尋常じゃないくらいに寒い!!」

「がたがた言ってないで始めるわよ。準備は?」

「もう、出来てる」

 

 空が白くなる始める中、僕はせっせと貯め込んで来たものを空へと放つ。

 

「朝4時に取ったサザンカと、シナモン、柚子、ついでにジンジャーも、そこに初霜の雫を三日三晩ぐつぐつと。そこにノースポールを突っ込んだものを」

「冬の精と、巡る季節に試練を与えるものよ。いくばくかの時間と微睡みを。赤子を揺らす揺り籠のように――」

 

 僕がせっせとボストンバッグからものを取り出しては空に撒く間、彼女はひたすらに呪文を唱えていく。光源もないのに、散らばった道具が光り出しては踊り始める。ラズベリージャムのような色になり始めた空を彩っては、浮かんで沈んで、そして輝く。

 

「もうすぐ来るわ!! ラスト!」

 

 最後の仕上げとばかりに、相棒が手を思いっきり振り全てのキラキラを天に掲げた。

 

 その瞬間、世界が黄金色に染まる。黄金の風が吹き抜けて、海原を走る。ぼやけた空が切り裂かれていってシルクのような滑らさをもった光が溢れていく。

 そんな中、僕たちは輝きに閉じ込められていた。粉雪が空を舞い、朝日を反射する。空中にダイヤを散りばめたようにキラキラと反射し、僕たちはそれに釘付けになる。

 

「ほ、ほんとに成功した?」

「ほらね、私達が進む限り時間もまた進むの。去年と、昨日と同じなんてありえないわ」

 

 彼女のパワーに感心しながら、僕は目的を果たさんとポケットをゴソゴソとやるが目当てなものが見当たらない。

 

「あ……スマホ忘れた」

「あらそう、じゃあ来年はきちんと撮れるようにしないとね」

 

 てっきり怒るのかと思っていたけどそんな事はなく、ただひたすらに誇らしげな彼女。それに見惚れそうになってしまい。あわてて茶化す。

 

「……来年の話をすると」

「魔法使いが笑う、でしょ?」

 

 彼女の言い分に感心と呆れが同時に来て、返す言葉が出ない。なので、あいさつでもと投げてみる。

 

「今年もよろしく。相棒」

「来年もよ。再来年もかしら?」

 

 そんな彼女らしい言葉に耐えられず吹き出すと、初日の出の効果なのかどうなのか、いつもより美しく見える彼女が微笑む。

 

「ほら、笑った。今年もいい年になりそうね」




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