ぼくときみのかくれんぼ   作:善吉

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第2話

02

 

「シュウくん。いろいろあったけど、きみと仲良くなれて、うれしいよ」

 

「それはもう何度も聞いた。いいからさっさと進め」

 

 冷たい潮風が頬を撫でる。朝から引っ張り出してきたために、隣の彼はいつも以上に目つきが悪い。多分視線でひとりくらいなら殺せるんじゃないかってくらい目つきが悪い。

それでも付き合ってくれるのだから、うぬぼれではなく、彼は僕に甘いと思う。

 あれからというものの、例のお店に通いつめてこの男、シュウ君と仲良くなったのだ。

 あの時は必死すぎて何も思わなかったが、ピアノの音を聴きたかったのにアコーディオンって……、と突っ込まざるを得なかったけど、マスター曰くなんでもいいからお店で音楽を聴かせてやりたかったらしい。うっかり涙を零してしまい、せき止められていた涙腺が、まさに崩壊したようにぼろ泣きをしてしまい、結局そのままお店で眠りについてしまったのだ。

め、迷惑すぎる客だ…。そして目を覚ませば、知らない一室のベッドにいて。取り乱した様子の僕をあきれた視線で落ち着かせてくれた。どうやら店じまいのタイミングでシュウ君は起こしてくれたらしいが、うんともすんとも言わない僕にしびれを切らして、背負って連れてきたと。つまるところ、店内でボロ泣きした迷惑な客の面倒を見てくれたのだ。シュウ君の部屋に厄介になったのである。

 

「あのときのお前は目も当てられないくらいだったからな。店の前に捨てておこうかとも迷ったぐらいだぜ」

 

 シュウ君に言わせると、どうしようもないボロ泣きクソ野郎(これでもオブラートに包んだ表現にしている。彼のスラングはなかなか過激だ)はたいそう傑作だったらしく、いまでもネタにされる。

 

 彼は、目的があってわざわざグリーンカードもアメリカ国籍もとったらしい。こんなとき、僕は親族にアメリカ国籍を持った人がいてよかったとつくづく思う。

シュウ君は本命までのつなぎとして、あのバーで働いているとのこと。ちなみにアコーディオン演奏ができるってことで、なかなか割にイイらしい。それほど彼の演奏は素晴らしいのだ。

 もしも同じクラスにいたら、どちらかといえば図書委員タイプの僕と(実際学生時代の委員会活動は図書委員だったし)、一匹狼のヤンキータイプであろう彼で「えっ。あいつらって仲がいいの?」と驚かれてしまうような組み合わせだけど、ちょこちょこあっているうちにいつの間にか仲良くなっているのだから、人生何が起こるかわからない。

 

 一度、怪しげな密売人のチャイニーズが、いたいけな少年に恐喝しているように見えたのか、職質されたときは大爆笑した。彼と僕の年はそう変わらないはずなのに、どうしてこうも勘違いされるのか。僕の容姿の問題ではなく、彼の目つきの問題だと思いたい。

 

 面倒くさがりというわけではないが、基本的にシュウ君はオフの時は部屋に篭っているようだった。最初のうちはそれに付き合って、のんびりだらだらごろごろと一緒に過ごしていたが、最近では、無理やり僕が引っ張っていっては有名どころを見て回っている。図書委員タイプだけど、アクティビティな図書委員なのだ。旅行も観光も大好きである。

 

それに、こっちにいるんだから、もしも突然シュウ君のご家族がアメリカに遊びに来た時に、観光の一つでも案内してやれないでどうするんだ!と説得をすれば、不機嫌そうな彼は(無言で頭をつかまれ、鳥の巣のように髪を乱されたが、)しぶしぶ付いて来てくれるようになったのだ。

本日も、約束の時間まで寝こけていた彼を起こし、終点のサウスフェリー駅で降りる。

 そしてとにかく海に向かって岸壁沿いを歩き、バッテリパークの見晴らしのよい海沿いまで出ると、本日の目的であるスタチューオブリバティー、世界を照らす自由こと自由の女神像がもう遠くに見えた。観光地としてはコテコテの名所である。

 覚悟はしていたが、もうとっくにクラウンへの入場チケットは売り切れていたため、島への入場のフェリーチケットのみ。

 観光地でとにかく人が賑わっているためスリも多いらしい。チケットブースでお金を払おうと財布を用意しようとした時に、見つからず焦る。するとシュウ君のポケットから僕の財布が出てきた。僕が気づかないうちに財布をスられたらしいが、シュウ君がスりかえしたらしく、いつもの「もっと警戒心をもて」という小言をうけながら財布を返された。

 フェリーで揺れることだいたい20分くらい。船に弱いことを知っている彼は下船後にコーヒーを買ってくれた。

 

「船酔いするのがわかっているのに、ユーリのその行動力はどうにかならないのか」

 

「えへへ。今日は酔い止めを忘れちゃって。それに数十分程度なら大丈夫だよ。さすがに数時間以上の移

動ってなるといろいろ覚悟をしなきゃいけないけど」

 

 言葉自体はすこしぶっきらぼうだが、心配しているのはしっかり伝わってきたので、へらりと笑えば、また髪の毛をぐしゃぐしゃにされた。

 

「そういえばね、ようやく決まったんだ。…出版」

 

「そうか。なら今日は祝いだな」

 

 両親が共に亡くなってから、僕はそのままアメリカにいる祖母の家で、厄介になっていた。

音楽の神様は微笑むことはなかったけれど、かわりに美術の神に愛されているのね、と笑った両親の言葉通り、幼い頃から描き続けていた絵が、偶然にもおばあさまのお客様の目に止まり、いたく気に入られ、そのままパトロンとして支援させてほしいとお話を受けて、今に至る。個展を開かせていただいたりする中で、あるパトロンのお孫さんが誕生日を迎えると知り絵本をプレゼントをしたら、知らぬところで多大な評価を受け、この度めでたく出版に至ったのだ。

 

「もちろん乾杯はありがたくいただくけど、君のそのウイスキー党には付き合いきれないからね。手加減してくれよ」

 

「ユーリが弱すぎるんだ」

 

「いやいやシュウ君がザルなんだよ……。あのペースで付き合ったら、死んじゃうって」

 

「死なない程度に、手ほどきしてやるさ」

 

 僕は駆け出しの作家、彼は仕送りもいっさい受け取っていない身。

そのため、金銭の余裕は互いにない。だから酒盛りをするときは大概、彼の家におじゃまをする。がらんとして、余計なものどころか必要なものも欠けた部屋だけれども、備え付けの棚を開けると、これでもかというくらい酒瓶が並んでいるのを僕は知っている。そして彼はいっとうウイスキーを好んで飲むことも。

 酒盛りをする口実ができたからなのか、それとも僕の出版を心から喜んでくれているのか。

先ほどとは打って変わって、機嫌が上昇した彼に引きずられるようにサクサクと観光を終わらせられ、フェリーに押し込まれた。うぷ。

 

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