IS/XU 《インフィニット・ストラトス/クロスユニバース》 A∞B   作:龍使い

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序章2話『かくて奇劇は開幕を告げる‐The Show Must Go On‐』

人は誰しも夢を見る。

一般人であれ、大富豪であれ、貧民であれ、賢者であれ、愚者であれ、誰もが夢を見ることが出来る。

人類みな平等とはよく言うが、この世で必ず平等である物は、この夢を見るという権利なのかもしれない。

 

さて、そんな平等に誰しもが見る夢……それはどんな夢だろうか? 

 

──自分の理想がかなった姿を映す夢? 

──現実ではありえない光景を見せる夢? 

──自分が自分ではない別人、あるいは別の物になる夢? 

 

おそらく十人に聞けば十通りの返答が返ってくるであろう。

そして共通しているのは……おそらくそれが荒唐無稽な光景を見る、という所だろうか? 

 

閑話休題

 

当然、表の世界に現れない、ないし表の世界ではその素性を隠している魔術師とて例外ではなく夢を見る。そう、見るのだ。

 

すこし話は逸れるが、こと魔術の世界において、夢はある種の重要な役割を持つともいわれおり、一般的な解釈として言えば、予知夢・夢占いなどがそれに該当する。

それが意図的あれ偶発的であれ、魔術師は夢を通じて自身より高位のナニカに接続(アクセス)し、啓示を得ているという事だ。

 

たかが夢、されど夢、と言ったところであろうか。

何せ一般人であれ、夢の内容が現実になったケースは稀ではあるが存在するのだから、より明確に、より深く高位存在に接続した魔術師の夢が現実になる確率は果たしてどれくらい高いだろう。

で、あるならば……だ。

 

──彼ほどの魔術師が……織班一夏(大十字九郎)が見る夢は、如何なる事象を表し、現実へ這い出てくるのか。それはかの邪神とて想像できないであろう

 

 

※ ※ ※

 

 

声が……()が聞こえる。

 

──祈るように(呪うように)     呪うように(祈るように)──

──祝うように(妬むように)     妬むように(祝うように)──

 

──響く声が(唸る声が)

──呟く声が(囁く声が)

──耳元で(遥か遠くから)

──希望を待つ若者の声で(終わりを待つ老人の声で)

──力強き男性の声で(蠱惑的な女性の声で)

 

──……誰かの名を呼ぶ、声が聞こえる。

 

 

※ ※ ※

 

 

「……あー」

 

ふと目が覚めて、気付けば自分はそんな声をあげていた。

あげようと思ってあげた声ではなく、なんというか、無意識に口からぽろりとこぼれ出たというか。

 

しばらくあーあー唸り続け、ようやく上体を起こし、今度こそ自分の意志でポツリと呟く。

 

「……なーんか、変な夢見た」

 

……軽く言っているが、夢の内容は何とも意味深かつ意味不明な物である。

なにせ、なんかよく分からない場所で、よく分からない様々な声にただ単に呼ばれるのだ。

 

年若い声や年老いた声、男性の声や女性の声でただただひたすらに、名前すら呼ばれずただただ招かれるその不気味さと言ったら。

 

ただ、その夢は確かに意味不明ではあったが、決して無意味だとは思わなかった。

確信はない。だが、限りなく確信に近い予感はしていた。

 

──きっと近々、自分はこの声の主に、夢の中ではなく現実で呼ばれ、招かれるであろう、と。

 

まるで自身が大いなる流れの中に巻き込まれ、流されていくかのように、それは荒唐無稽ながら自身の胸にすとんと嵌る感覚だ。

そんな感覚を抱く自分に、だいぶ感覚の錆が取れたなぁ、などと感慨深いようなそうでないような感覚を抱いていると、ふと扉をノックする音が聞こえる。

 

……はて? このような早朝に来客とは……ロクなモンじゃないなとこれまた確信めいた予感を抱く。

 

というか自分への来客があったときは大抵が厄介事が起こっている気がするのは気のせい……? 

と、そこまで考えて一夏の目から心の汗が流れ出て来た為に思考を停止。

これ以上はメンタル面によくないよ、うん。

 

とりあえず『脱ぎ捨ててあった衣服』を着込み、なんとか人前に出ても大丈夫なギリギリ最低ラインの体裁を整えて玄関のドアを開ける。

 

「新聞は間に合ってまーす」

「そんなこと言わないで、今契約してくれたらもれなくおねーさんが付いてくる……って何言わせるのよ織斑君」

 

【悲報】来客は生徒会長様【厄介事確定】

である。

 

もうね、一夏分かってる。

身分が上の人物が訪ねて来た時って大抵厄介事の持ち込みだって。

 

そんな事を思いため息一つ。

 

「……で、生徒会長様は何の御用で?」

「露骨なため息ねぇ……いや、まぁこんな時間に来て申し訳ないしこの案件を聞けばもっと大きなのつきたくなるかもしれないから文句は言えないのだけれども」

 

平身低頭と書かれた扇子で口元を隠しながら、申し訳なさそうに話す楯無に、一夏は「あ、これガチな奴やん」と冷や汗をかく。

普段は軽い感じに接してくる彼女がこうして殊勝な態度をとるという事は、つまるところそういう事である。

 

「そういうわけで、今回はわりとガチめな話だから、ちょーっとお邪魔させてもらってもいいかなーって。ほら、そういう話を廊下でするわけにもいかないじゃない?」

「え? あ、えーっと……」

 

マズい。

いや、別に部屋に上げること自体は問題ない。

そこは問題ないのだが……『今このタイミングで部屋に上げる』のは非常によろしくない。

とりあえずちょっとでも待ってもらえれば何とかなるのだが……

 

何を焦っているか? 

さっき脱ぎ捨ててあった服を着たって言ったよね? つまりそういう事だ。

 

あー、だのうー、だの唸っている一夏を見て、楯無はしばらくポクポクと脳内で木魚を鳴らし、そして思い至る。

 

「……あ、もしかして織斑君……」

 

そしてその言葉を発しようとしたときであった。

 

「ん……なんだ九郎、騒がしいな……」

「あ、ヤッベ……」

 

その言葉に一夏が振り返ると、そこには上体を起こし目をこすっているアルの姿が。

ちなみに、当然の如くアルの服もベッド脇に脱ぎ捨ててあり、そしてアルは今しがた起きたばかり。

つまりどういうことかというと……

 

「…………」

 

来客に見られちゃう、という事だ。

 

「あー、その、会長、とりあえず、あの、こういう事ですんで、いったん回れ右をして、すこーししてから再度訪ねてほしいんですが……」

「…………」

「あ、いや、寮でこんな事をしているのは、まぁ言い訳もできないわけですけど、ね、こちとら健全な男子なわけでして……」

「…………」

「だから、そこら辺を考慮して……会長?」

「…………」

 

見られた焦りからあれこれ言い訳を並べる一夏だが、楯無からの返事はない。

すわ軽蔑されたかと思いきや、どうにも様子がおかしい。

 

「会長? 会長さーん? たーてなーしさーん?」

「…………」

「これは……」

 

「……立って目を開けたまま気絶していらっしゃる」

 

 

※ ※ ※

 

 

陽光を反射し煌めく海原を眼下に、3つの影は空を駆ける。

視界に映るのはひたすらに広い海原とその果てに見える水平線。

陽光を反射とあるように天気は上々。

是非ともこのまま浜辺でバカンスと洒落込みたい位の晴天である。

 

──と言うか、本当に洒落込みたい。冗談抜きに。

 

「時は夏休み。学生は宿題に苦しんだり、現実逃避して享楽に興じたりしてる今日この頃、何故我々はこんな何もねぇ空を飛んでいるのでせう?」

 

影の内の1つが、ぼやくようにそう言い放つ。

全身が鋼い覆われている人型が放つ声は、男性の声。

まだ大人になりきっていない、しかし声変わりは既に済んでいるであろう少年の声だ。

 

「つかマジで何の変哲も無い海が広がってるばかりなんですが、そこら辺どうなんですかねぇ、会長殿?」

 

鋼の人型に会長殿と呼ばれたその影は飛行スピードを緩め自身の背後を飛んでいる人型に振り返る。

人型と違い、振り返った影の姿は見目麗しい美少女だとはっきりと分かる。

空色の髪を靡かせ、紅玉のような瞳は陽光を跳ね返す海が生み出す自然の輝きの中でもなお劣る事なき煌めきを放つ。

しかしそんな少女も決して生身その物とは言い難い。

その四肢は鋼に覆われ、胴は少女のスタイルの良いボディラインを露わにするかのようなボディスーツ。そしてそのボディスーツの要所要所も鋼に覆われている。

 

「何もなければそれはそれでそれでよし、なのよ織斑君。 少なくとも学園のセンサーが異常な反応を捉えたことは確かなの。ログにも残ってるしね。何もなければ何もありませんでしたで人は安心出来るし、何か合ったとしてもそれに対処してやっぱり人は安心できるのよ」

 

少女──更識楯無にその様な返答を貰った人型は、その言葉に納得する。

 

──まぁ、そう言う心理があるから探偵なんて商売が成り立ってた訳だしなぁ。

 

織斑君と呼ばれた人型──デモンベインを纏った織斑一夏は前世ともいえる自分の境遇を思い出し内心独り言つ。

なおその際の探偵稼業が繁盛してたかどうかはこの際問うてはいけない、イイネ? 

 

「しかし、なんだか朝に……いや、今も朝って言えば朝だけど、とにかく朝になんだか衝撃的な出来事があった気がするわ」

「何もなかった、イイネ?」

「え? でも確かに」

「イイネ?」

「アッハイ」

 

人間忘れてたままでいいこともあるし、忘れられているならわざわざ思い出させてあげようとしなくていいことがあるのだ。

 

閑話休題。

 

楯無の葬られた記憶がよみがえることを阻止した一夏は、自分を含めた三つの影のうち最後の一つ……自身の後ろを飛行しているであろう存在が先ほどからひと言も言葉を発していないことに気づき、ハイパーセンサーで背後を確認。

自身の目の前に飛んでいる少女にぱっと見そっくりな少女──それもそのはず、目の前を飛んでいる楯無の妹である──更識簪は確かに自身の後ろを飛行している。

……どこかではぐれたなどと言うオチもなく、ちゃんとついてきていた。ついてきているのだが、理由は分からないが無言……いや、口が何かを呟くかのように動いているから無言という訳でも無いらしい。

 

「宿題終わらせてたのに……一日耐久マラソン……勇気王……黒鉄超人……お菓子も飲み物も準備済み……」

「あ(察し)」

 

……織斑一夏は、彼は何も聞かなかったことにした。

自身の前を飛んでいる少女にそっくりな、しかし目つきや体つきは明らかに違う少女……更識簪がぶつぶつと呟いていた言葉を聞かなかったことにしたのだが……つい先日終わったばかりの長年の姉妹間冷戦が再び勃発しないかが不安になったそうな。

いや、何も聞いてないんだけどね、ふと不安になってね!! (現実逃避

 

『三人とも、無駄話はそこまでにしておけ。もうすぐ目標地点だ』

 

ハイパーセンサー上に一人の女性の姿が映ると同時に届いた通信に、三人は表情を切り替える。

自分達がこうして夏休み返上でこのような哨戒行動をしている理由が、この先に居る、ないし在るかもしれないのだ。

 

ふと、一夏は何故自分たちがこのような事をすることになったのかを思い返していた。

 

 

※ ※ ※

 

 

──事の始まりは本日未明、IS学園の警戒レーダーが不可思議な反応を捉えたことだ。

 

レーダーに何の前触れもなく現れ、しばらく出現位置の周辺を移動したかと思うと、現れた時と同じように何の前触れもなく消失するナニカ。

出現する位置も、反応が消えるまでの時間もてんでバラバラなナニカ。

計器の誤報かと思われたそれは、しかしそのままにしておく訳にもいかない。

本当に計器の誤りであれば良いのだが、もしそうで無かったら? 

 

学園としてもここまでされて何も解明できませんでした! で済ませるわけもなく、元より済ませようとも思っていない。

何せここはIS学園。

全世界ありとあらゆる国からくる生徒を預かり、その中には国を担う国家代表やいずれ国を担う事になるであろう代表候補も生徒として預かっている場であり、また訓練用と言う名目で多くのISを所有し、代表や代表候補の専用機という形でもISが集う場である。

 

つまり何が言いたいかと言うと、IS学園と言うのはつまり何かあったらやべー事になる火薬庫と同義なのだという事だ。

当然そんなやべー火薬庫に勤める教職員は人一倍神経を使うし、このような小さな問題も決して見逃すわけにはいかないのだ。

 

更に言うとそんな火薬庫で今まで何度かトラブルが、それも学園行事と重なって起こっており、学園の危機管理体制に苦言が呈される中、このような小さな問題も見逃さない、ゆえに今までのトラブルは決して対策不足にて起きた物では無いと対外向けにアピールする狙いも無いわけではないという悲しい現実もあるわけなのだが……

 

閑話休題

 

そんな訳で哨戒の人員として白羽の矢が立ったのがIS学園生徒会長であり、ロシア国家代表でもある更識楯無、その妹である更識簪、そして現状世界で唯一の男性操縦者である織斑一夏である。

 

……先ほど国家代表等を預かっていると言っておきながら、なぜ当の代表達を哨戒に動員しているのか? 

 

もちろん彼らだけに事を任せているわけでは無く、教員も彼らが向かっている場所とは別の反応があった地点周辺を調査するために出撃はしている。

してはいるのだが……やはりいかんともしがたい人手不足という壁。

調査範囲の穴を埋めるには人手が居る。そして教員の数も限りがあり、そしてその教員も全員が全員十全にISを扱えるかといわれると……そういうわけではない。

教員の中には整備方面の指導の為にいるという教師もいるのだ。

教師である以上、基本的な操縦はできるのだが……こういう場面で頼りになるかというと、それとこれとは別問題。

 

そんなわけで、人手が足りない、ならばどうするか…………悲しいが、最新鋭の剣を持っている、最も重要な守るべき存在である代表や代表候補に頼らざるを得ないのだ。

守るべきはずの代表や代表候補。それを抜きにしても自分たち大人が守るべきである子供を頼らざるを得ないこの状況に唇をかむ教師陣。

 

──せめて、どうか何事もなく事が終わりますように。

 

誰しもがそう祈る。

 

だが皮肉かな、古来より祈りという物は届かなければならない存在に届くことはなく……

 

『っ!? 織斑先生!!』

『どうした!』

『例の反応が……更識会長達がいる地点に!!』

『なんだと!?』

 

届かなくていい存在の元に届いてしまい、叶うことなく捨てられる物なのだ……

 

 

※ ※ ※

 

 

IS学園管制室からの通信は彼らの耳にも入っていた。

何せチャンネルは常に繋いでいたのだから。

 

「聞いたかしら二人とも。どうやら私たちがドンピシャだったみたいよ」

「わー、すっげぇうれしくねぇ」

「こういう不測の事態は特撮とかで見る側でいるといいけど、実際自分が遭遇する側になるとクソがって言いたくなるね」

 

簪さん、なんだかまだ闇ってません? 

と言える勇気がある存在はこの場にはいなか……

 

『簪、ふてくされているのも大概にせよ。その怒りはこれから来る招かれざる客にぶつければよいであろう』

「それもそうだね、アル。よーし、だれが相手でもぶっちKILLぞー」

 

否、いた。

我らが魔導書(グリモワール・ガール)、アル・アジフが。

 

「やだ……うちの妹、怖すぎ……?」

「(夏休み計画をつぶしちゃった)あんたも原因の一部やで」

 

やはり第二次姉妹大戦勃発は目前か……

などとふざけている場合でもなさそうだ。

先ほども通信にあった通り、おそらくこの付近に謎のの反応の正体がいるはずなのだから。

もっとも……

 

「でも、おかしいわね。ここは見ての通り海上。隠れる場所なんて海中位だけども……」

「海中をスキャンしても特に変わった反応はなし。海の中から奇襲、なんてお約束はないみたい」

「で、だ。管制室から送られてくる座標は、どうやら俺たちの文字通り目の前みたいなんだが……」

 

一夏の言葉に、全員で管制室から送られてくる座標を見る。

 

……何もない、ただひたすらに広がる青い空、どこまでも続く海。そしてそれらが遥か彼方で交わる水平線しか見えるものはない。

管制室へ問い返すも、現在進行形で反応はあるそうだ。

しかも、今までの様に出ては消え、消えては出てではなく、ただひたすらに同じ地点に反応があり続けているとの事。

 

『向こうの計器類の故障……ではない! 来るぞ!』

 

アルが紡ごうとした言葉をいったん止め、叫ぶ。

その瞬間、『空に亀裂が走った』。

 

比喩ではない。文字通りに、何もないはずの空中に亀裂が走り、あまつさえガラスを砕くような音さえしている。

 

「そっちのお約束かー。どっちかっていうとこういうのはアニメより特撮系のお約束だよね」

「のんきに言ってる場合ですか! こちら楯無! 反応の原因と思われる存在と遭遇! 管制室、聞こえますか!? 織斑先生!?」

 

楯無の言葉に、しかし返答はない。

 

『通信妨害、やってくれるな。どうせ映像も向こうには届いておらなんだろう』

「目と耳をつぶす、よくある手段ってな」

 

一夏はそう言い放つと、両手にクトゥグア、イタクァを呼び出す。

 

「んで、こうまでしてんだ。まさか出てくる相手のお望みはお手手繋いで仲良く握手、なわけねぇよな」

『やるならばお手手繋いで仲良く握手(殴り合い)であろうな』

「ずいぶん落ち着いてるわね! こんな状況だってのに!」

「『慣れ』」

「アッハイ」

『とにかく構えよ、小娘、簪。来るぞ!』

 

目の前の亀裂は徐々に大きくなっており、そしてあろうことか亀裂の端々から空間が割れ落ちている。

 

ありえざる光景。その光景が今、目の前に広がってる。

そして、亀裂の拡大が止まり、しかし割れて零れ落ちる空間の欠片は増えていく。

割れた先は……一見すれば無。

 

本来向こうに続いているはずの空はなく、かと言って別な何かがあるわけではない。

どこまでも吸い込まれそうな空虚が、空間が割れた先に続いている。

 

……否、アレは無ではない、むしろ逆だ。

『ありすぎる』のだ。

絵の具の様々な色を考えなしに混ぜれば黒になるように、一見すれば何もないように見えるその空間は、まるで煮えたぎる混沌のスープの如く、様々な可能性、要素が混ざりに混ざった結果生まれているものだ。

 

そんな混沌の釜から現れうるのは、果たして邪神か、それに連なる物か、はたまた全く未知なる存在か。

 

……瞬間、かん高い破裂音が響き渡り、何者かが亀裂が入った空間を砕き、飛び出した。

そして同時に銃声。

銃声の発生源は……一夏が駆るデモンベインの左手に握られた冷たき銀の回転式拳銃、イタクァだ。

 

引き金を引くことにより落ちたハンマーが雷管を叩き、発生した火花が薬莢内に収められた火薬、そして火薬に混ぜられた霊薬『イブン・ガズイの粉薬』を励起。瞬く間に響き渡った六回の銃声(ガン・ハウル)と共に放たれた46口径弾が、まっすぐ楯無へ向かっていた何者かへと寸分たがわず突き刺さる。

 

「ぼさっとすんな! やられちまうぞ!!」

「っ! ごめん、助かったわ!」

『相変わらず未来予知じみた勘をしておるな! 彼奴が空間を割るその瞬間にすでに動くとはな!』

 

かつて、かの魔人の母をして称賛せしめた勘はいまだ健在なようだ。

すぐさま拡張領域からクイックローダーを取り出しイタクァをリロード。その際にも決して先ほど飛び出してきた『ソレ』からは目を離さない。

 

──『ソレ』は、まるで赤いカマキリのような見た目をしていた。

4本の脚を持ち、前脚2本は体の正面へ構えた鎌となっている。ざっと見ると、赤という体色が特徴的なカマキリだ。

……ただし、ISを纏っている自分たちとほぼ同じか、一回り大きいそいつを、果たして本当にカマキリと呼んでよければ、だが。

 

「んだよあのデカさは。ダーウィン博士だってびっくりの進化じゃねぇか」

『邪神の眷属……ではなさそうだ。だが、まっとうな生命でもあるまいて……ええい、よく分からん! なんだ彼奴は!?』

「さぁな。だが、なんだっていいだろ? それに大事な事はしっかりと分かるしな」

「その心は?」

 

何時の間にか一夏の傍まで来ていた簪が問う。

それに対し、鋼鉄の貌の奥で獰猛な笑みを浮かべながら一夏は答える。

 

「とりあえずあいつは敵だって事は明確だろ? そいつさえわかりゃ十分だ」

「おk把握。分かりやすくてとてもよき。それではいざ行かん……死にさらせやゴルァ!!」

 

一夏の言葉を聞いた瞬間、簪は今までのややぼんやりした表情から牙をむいた獣のような獰猛な笑みを浮かべ、薙刀携えいざ突貫。

よほど夏休みの計画を壊されたのが気に食わなかったようだ。

 

『……とりあえず小娘、汝は事が終わり次第即刻簪に謝罪をすべきだな、うむ』

「同感。さっさと謝った方が身のためだぜ? 会長」

「そうね……夏休みだったんだものね……予定、あったわよね……」

 

第二次姉妹大戦を回避できるか否か……それは原因の一つである楯無がうまく簪の許しを得れるかにすべてがかかっていた。

 

 

※ ※ ※

 

 

『ソレ』は、どことも知れぬ空間、いつとも知れぬ場所から彼らを見ていた。

 

……否。その表現は完全には正しくないだろう。

 

確かに、『ソレ』は彼らを見ていた、見てはいたのだが……その実思考の大半を占めるのはその中でも一人……否。『一人と一冊』、であろうか。

 

「う~ん、流石流石のお美事美事。やはり完成された剣という物はかくも美しく、かくも猛き物、か……ああ、羨ましいねぇ。きっと『ボク』はあの剣の完成を、そこまでいかずとも完成するその直前を目の当たりにできたんだろう、それはなんて……羨ましいことだろうか」

 

映像越しに見る剣を、『ソレ』はまるで愛おしい物を見守るかのような慈愛の笑みで、宝物を前に浮かべる強欲な笑みで見つめ続ける。

 

「だが、残念かな、生憎と此方は君たちの担当ではなくてね……此方の担当してる『彼』はきっと、君たちの様に完成はしないだろう。だが……その不完全さこそがより愛おしい物でね、此方としては『彼』の物語、可能性こそを見届けたいんだ」

 

瞬間、今まで浮かべていた笑みを消した『ソレ』に、燃える三眼が浮かぶ。

 

「故に、悪いけど今ここでキミに勝たれるととても困るんだよね。だから、大変申し訳ないけども……深淵(キズ)を刺激させてもらおうかな? 誰にも知られたくない、知られるはずのない、君たちだけの過去。誰に慰められる事もない、慰めてもらう事の出来ない、拭えない後悔……それを突かせてもらおう」

 

三眼がその指をすっと上げる。指が指し示すは……映像に映る『魔を断つ剣』。

 

「これやると『ボク』に気付かれる可能性が大きいんだけども、キミがあまりに善戦して……否、それ止まりならいいさ。しかし、もし勝ってしまったら……そうなればせっかくの御伽噺が崩壊してしまうんだ」

 

 

──だからまぁ、悪く思わないでほしいものだね……『大十字九郎』君? なぁに、心配御無用さ……キミたちが望む御伽噺の一つを拝めるんだ、それも最前列のチケットでね……チップには十分だろう? 

 

 

※ ※ ※

 

 

咆哮、咆哮、咆哮(銃声、銃声、銃声)! 

 

剣たる鋼が持つ二丁の銃が銃声(ガンハウル)にて空気を震わせる度、一匹、また一匹と『ソレ』らは淡い粒子を銃創からこぼし、消滅していく。

 

「うわぁ、流石一夏。私たちが必死に一体撃破するうちにその倍以上撃破してる」

「そんな事よりも、こいつらがまるでどっかから集まってきてるかのようにわらわら出て来た事の方が私は気になるけどね」

 

そう、戦闘を開始した際は一匹だったカマキリモドキだが、しかし気づけばわらわらうじゃうじゃと。

 

「これが黒くてカサカサと動く究極生命体Gだったら即死だった……危ない危ない」

「やめて簪ちゃん怖いこと言わないでというか想像しちゃったじゃない手が震えてきちゃったわよどうしてくれるのよ」

 

ちなみにゴキブリは恐竜が生まれる遥か古代から生存しており、しかも体の基本的な形や構造はそれほど変化していないらしく、ある意味完成されていたそうな。

そしてその体長は50cm以上にも育つ種類がいたとかなんとか。

 

閑話休題。

 

ふざけた様な事を言いながらも、それでも楯無、簪はカマキリモドキを着実に討伐していく。

だが、彼ら3人の闘いをあざ笑うかのようにカマキリモドキはその数を増やしていく。

 

「ちょっとちょっとちょっと! 流石に数増えすぎでしょ!? キリがないじゃない!!」

「手を動かしても動かしても、それどころか足を動かしても全然終わりが見えない……!」

『こやつら、何を狙っておる! 意地でも目的を達成しようとしておるのはわかるが、その目的が皆目見当もつかん!!』

「教えてくださいお願いします! とか言っても教えてくれなさそうだしな!」

 

少しずつ、しかし着実に包囲網を狭められ、追い詰められていく3人。

やがて、楯無が簪に背中でぶつかった。

 

「っ! 簪ちゃん、大丈夫?」

「私は大丈夫……」

 

そこで簪はふと思う。

 

──自分は誰とぶつかった? 

──姉だ。

──じゃあ、同じく追い詰められているはずのもう一人はどこだ? 

 

視線を巡らせ、件の人物を見つける。

だが……彼は自分たちとは離れた場所で囲まれている。

 

……そう、彼だけが、一人でカマキリモドキに……! 

 

「……っ!! お姉ちゃん! あいつらの目的は多分一夏!!」

「なんですって!?」

 

簪の言葉に、楯無も一夏を見やり、彼が陥っている状況から簪の言葉が事実だと確信する。

そして当の本人は……もちろん相手の狙いは自分であろうことはわかり切っていた。

なにせ、あからさまに自分と楯無、簪を引き離そうとして来ているのだ。この男が分からないはずがない。

 

もっとも……わかったところで対処ができるかと言われれば、否と言わざるを得ないのだが……

 

「で、どうするよ。ニトクリスの鏡でも使ってみるか?」

『どうであろうな……本来の物なら通用するであろうが……D.Ex.Mを起動させてない今だと通用するかわからん。彼奴等がISの様にハイパーセンサーで周囲を認識しているなら話は別だがな』

 

モードD.Ex.Mを起動していなければデモンベインの武装はあくまで本来のデモンベインの模倣。

魔術によってなされていた事を可能な限りIS関連の技術に落とし込み、再現した物止まりなのだ。

 

「ま、やれるだけやるしかねぇだろ。もしかしたらやってるうちに打ち止めになるかもしれねぇしな。冷静に行こうぜ。文科系らしくくな」

『肉体派め』

「肉体派文科系だ」

 

軽口を相棒とたたき合い、一夏はクトゥグアとイタクァを構える。

そしてその銃口から暴虐の塊が再び放たれようとしたその時であった。

 

『故に、悪いけど今ここでキミに勝たれるととても困るんだよね。だから、大変申し訳ないけども……深淵(キズ)を刺激させてもらおうかな? 誰にも知られたくない、知られるはずのない、君たちだけの過去。誰に慰められる事もない、慰めてもらう事の出来ない、拭えない後悔……それを突かせてもらおう』

 

──忌まわしき、狂ったフルートの音色が響く。

──闇の奥、深淵から響く声がする。

──その声が一夏の……否、『九郎』の記憶を刺激する。

 

「……な」

『馬鹿な……彼奴は……!!』

そして、闇が見せた光景に一夏とアルはは絶句する。

 

──それは、『大十字九郎』の後悔、ともいえるものであろうか。

──目の前で引き裂かれるはらわた、そこから這い出てくる獣。

 

それを想起させるほどに、『ソレ』は……あまりにも彼女に似ていたのだ。

 

「エ……エンネア……?」

 

一夏の言葉に、見せられた光景に映る少女が一夏を見やる。

その口が、何かを呟くが、その声は聞こえない。

此方の声は聞こえ、向こうの声は聞こえないのか、はたまた元々こちらの声も向こうに届いてはいないのか、それはわからない。

 

だが、それはさして重要な事ではない。重要な事は……

 

戦場で、一瞬とはいえ動きを止めてしまったという事だ。

 

「……ん! おり……ん! 織斑君!!」

「っ!?」

 

楯無の声に正気に返る。一夏から……『九郎』からすれば自身のトラウマをえぐる姿を見せられていた。

同じ場面を見ているアルも、その光景に言葉を失っていた。

だが、はたから見れば何事もないはずなのに急に動きを止め、普段であればそれを諫めるパートナーさえ黙り込んでしまったという形なのだ。

当然、自身も戦闘しながらも楯無と簪は一夏へ呼びかけを行う。

もっともその言葉を一夏が認識できたのは……どうしようもなく致命的なタイミングになってからだったのだが。

 

「ぐが……っ!?」

 

目の前にはカマキリモドキ。

そのカマキリモドキは一夏に体当たりを敢行し……そして一夏にぶつかった後もその勢いを決して緩めることはなく、まるで彼をどこかへ連れて行かんとするかの如くむしろその速度を上げていった。

本来の一夏であれば反応し、回避するか迎撃するかと対処できた……だが、あの光景が彼を一瞬ではあるが縛り、彼がカマキリモドキに反応するという可能性を奪い去った。

 

「んの……野郎!!」

 

せめてもの抵抗に悪態をつくが、言葉でこの状況が変わるわけでもない。

背中から衝撃。

何かにぶつかったような、否、何かがぶつかってきたかのような、肺から空気が逆流するほどの衝撃をくらい一夏の意識は闇に沈んだ。

 

 

※  ※  ※

 

 

「一夏! お姉ちゃん、一夏が!!」

「分かってる! んの! どきなさいよ虫モドキ!!」

 

当然、一夏がカマキリモドキに連れていかれる場面は彼女たちに見えていた。

だが、それだけだ。見えているだけで、対処できたわけではない。

 

彼女たちは確かに舞台に上がっていたのかもしれない。

だが、彼女たちの役割は……どうしようもないほどに傍観者の役だった。

 

そして、彼女達は割り振られた役の通り、それを観る。

一夏を連れたカマキリモドキが、現れた時と同様に空間をガラスの様に砕き、現れた時と同じように混沌の中へと一夏ごと入り込んでいくその光景を。

 

「……い、いち……か……?」

「何が……起こったの……織斑君は……?」

 

その光景に衝撃を受け、動きを止める更識姉妹。

しかし、彼女達が一夏と同じ運命をたどることはなかった。

 

まるで自分達の仲間が目的を達成した事をしっかりと確認したといわんばかりに、カマキリモドキは次々とその姿を消していく。

……更識姉妹(傍観者)には目もくれず、ただただ去っていく。

 

そして残ったのは、傍観者を演じた姉妹と、そこで戦闘があったなど信じられないほどの静寂だった。

 

『……! お……し……! おう……ろ! 応答……! 応答しろ! 何があった! 織斑の反応が消失している……!? 織斑は……一夏はどうした!! 更識姉! 更識妹! 一夏はどうしたぁ!!』

 

起こった出来事を必死に受け入れようとする姉妹の耳に、今更つながった通信から千冬の悲痛な叫び入り込んだ。

 

 

※  ※  ※

 

 

「……は?」

 

そしてその光景を見ていた影が一つ。

その影はモニター越しにその光景を最初から最後まで見て、そしてしばらく黙り込んだ後、天井を見上げ大きく深呼吸。

そして再びモニターへ視線を戻す。

 

……さっきまで見てた光景と変わらない。

 

「……は?」

 

声がワントーン低くなる。

眉間にしわが寄り、目の奥が熱くなってくる。

喉から何かが上り詰めてくる感覚に、それを押しとどめようと体は反射を起こすが、しかし理性がその反射を押しとどめる。

そして、喉から上がってきた物が口から吐き出された。

 

「……っざけんな……ふざけんなよおい!? どこのどいつか知らないけど、なぁに人の主演男優と主演女優かっさらってくれてる訳!?」

 

一度堰を切ったら、もう止まらない。

 

「どこのどいつ!? 一体どこの阿呆が人の脚本台無しに……!」

 

燃える三眼をいつも以上に燃やし、ありとあらゆる手段を用いて下手人を探す。

 

そして、それに気づく。

常人では気づけない、闇の痕跡。

それは……とてもなじみのあるものだ

 

「……なぁるほど……お前か……『僕』……!!」

 

そういうと、その影……篠ノ之束は立ち上がり、扉へ向かう。

 

「……さすがにこれを見過ごす……んなわけないでしょうに」

 

そうつぶやくと、扉を開き、部屋の外に出る。

しかし、部屋につながる廊下に、彼女が姿を現すことはなかった。

 

 

※  ※  ※

 

「……さて、これで舞台の幕は上がる。ありふれた悲劇(けつまつ)ではなく、可能性が切り開く御伽噺(えんもく)の舞台がね。

だからまぁ、出来れば大目に見てほしいところなんだけども……」

そう言いながら微笑む三眼は虚空を視つめる。

「大人しく帰しては、くれないよねぇ……『ボク』?」

三眼が見つめる先、本来なら何もないソコに、一人の女性が現れる。

微笑む三眼とは対照的に、怒りと戸惑いと……そして疑問が入り混じった感情を、視線として投げかける。

「あっはははは……慌てて飛んできたのにその感情。それでも一流劇作家のトリックスターかい、『ボク』――いや、篠ノ之束?」

 

その言葉に、束は顔を顰めた。

微笑む三眼、複雑な感情を織り交ぜた憤怒で睨む女性――篠ノ之束。

「さてそれじゃぁ、対話(はなしあい)と行こうじゃないか。時間が許す限り付き合うよ、『ボク』?」

視線を受けてもなお自然体を崩さぬ三眼、その様子に束は口を開き……

 

さぁさぁそうして出会った二人は、果たしてどのような言葉を交わしたのか。

それはさして重要ではない。この物語の本筋ではないのだ。

なにせ彼女たちは主演ではない。助演ですらないのだから。

『今はまだ』、と付くのだろうがね?

 

だからこそ、彼女達の交わした言葉を『今』、知る必要はないだろう? 

 

──なぁ、モニター越しの諸君? 君達はそう思わないかい?




はい、諸々の事情でむっちゃ遅くなったIS/XU序章2話、ようやくの投稿です
もうお久しぶりとか言える義理ないな、うん(汗

今回の話は、「インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也-」の作者クラッチペダルさんが担当し、細かい部分で俺や相方が補正に関わってたりします。
謎の襲撃者に連れ去られた九郎ちゃんとアルがどうなるか、そして篠ノ之束と邂逅した三眼の存在は、追々こちらでも書いていきたいと思います
草案はどうにかあるから、担当来たら早めに仕上げたいなぁ、マジで(汗

ではでは
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