AZUR-TYPE   作:どんぐりあ〜むず、

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お久しぶりです。三ヶ月以上お待たせしてしまい、誠に申し訳ありません。どんぐりです。皆様、緊急事態宣言発令の中、いかがお過ごしでしょうか? 中にはもう学校が再開されるという方もいらっしゃるようですが…。

否定まではするつもりではございませんが些か無理をしているような気がしないでもない気がします。それぞれに事情があることは誠に承知の上ではございますが、まずは相次ぐ訃報や感染拡大の阻止の為にも、特段の事情の無い限りはどうか手洗いとうがい、いわゆる3密を避けて行動し、そして何よりなるべく不必要な外出は避けて自宅待機を徹底して下さい。大切なことがあるのは重々承知の上ではございますが、まずは目の前の皆様自身のお身体をご自愛下さいますよう、どうかお願い致します。

そろそろ本編に参りますが、前話にてサブタイトルの他、内容等を幾つか変更致しました。どの辺りがどう変わっているのかは、読んでみてのお楽しみに。まあ、話数は笑ってしまうくらい少ないのですが(というか、この状況でこのサブタイトルもどうかしてはいるのですが、何卒ご了承下さい……)。

では、どうぞ。


E.X.A1-2 不穏

 

 

–––––– 数時間前

 

 

「……以上が、この前確認された"例の"ヤツに関する報告よ」

 

 

 たった今読み上げた報告書をテーブルに置いて、桜色の髪の少女が顔を上げる。少女の名は"メンフィス"。ユニオン所属の、「軽巡洋艦(ライトクルーザー)級」に分類されるKAN-SENだった。彼女は、元は新たに建造されたこの洋上基地に配属される予定だったKAN-SENの1人だったが、その配属から遡ること数週間前から相次ぐようになった、「ある事件」の追跡調査を行うようユニオン本国の、それも一部の上層部からの命を受けたことで、結果的に急遽母港のNYシティ海軍基地を拠点に、その追跡調査という極秘任務に従事せざるを得なくなったのだ。

 

 今、メンフィスが読み上げていた報告書は、彼女達の配属が遅れた理由と、理由であるその「ある事件」の調査結果に基づくものであった。

 

 

「"未確認の巨大不明生物と、その出現に前後して鏡面海域内外などで、突如発生した大規模戦闘とセイレーン艦隊の壊滅"……、にわかには信じがたいな……」

 

 

 赤い軍服に身を包んだ女性、ロイヤル所属の「戦艦(バトルシップ)級」KAN-SEN「プリンス・オブ・ウェールズ」は報告を聞いて、訝しむように顔を顰めた。その一方で、同じくロイヤル所属のKAN-SENで、「航空母艦(エアークラフトキャリアー)級」に分類される淑女然とした白いドレスの女性「イラストリアス」が、メンフィスの報告にフォローを入れる。

 

 

 

「ですが、メンフィス様を含めた、何人ものKAN-SENの方々の配属が遅れたということは、それだけの事態が起きているということの現れ。そうなると、最初のうちは秘密裏に調査したいという気にもなりませんでしょうか? 実際、セイレーン艦隊の惨状については、この私たちも、目の当たりにしていない訳ではないのですし……」

 

 

 

 イラストリアスの言葉に、ウェールズは頭を抱えて頷いた。事実、ロイヤル側でも鏡面海域内外における、セイレーン艦隊の戦闘の痕跡を確認していた。しかもその大半が、発見された頃までには既に壊滅しており、それが半月という短期間だけでも、既に10件を遥かに超えていたことを、ウェールズやイラストリアスなどを含めたロイヤルのKAN-SENの中で、最早知らない者はいない。

 

 当然、ユニオンもロイヤルと同じタイミングでその事実を知り、下手に国民や各国を刺激せぬよう、あくまでも水面下で独自の調査を推し進めるよう努めていた。

 

 しかし、あくまで水面下とはいえ、神出鬼没の怪物を見つけるのはユニオン本国のあらゆる捜索能力をもってしても難しく、漸くその犯人と思しき巨大不明生物の姿を捉えたと思えば、直ぐに逃げられてしまった挙句、不鮮明な写真を撮れたのがやっとという有り様であった。

 

 そして、尚も極秘裏に捜索を続けようとした矢先に、重桜からの"横槍"が入った。

 

 

 

「……新たに建造された、ユニオンとロイヤル、双方の国家によって運営されるこのアズールレーンの新設基地が稼働を始めた直後に、重桜の一航戦率いるレッドアクシズ艦隊が本格的に動き始め、アズールレーンに奇襲攻撃を仕掛けてきた……、そしてその混乱のなか、例の巨大生物の姿が、とうとう新設基地所属のKAN-SENはおろか、レッドアクシズのKAN-SEN達にまで目撃されてしまった……。調査結果の内容が芳しくなかったから、ホントなら、任務についていた私達の配属はもっと時間がかかる筈だったんだけど。大勢のKAN-SENに目撃されてしまったし、重桜と鉄血の奇襲攻撃のこともあって、そろそろ潮時だと考えたんでしょうね。……まあ、結局混乱は避けられていないみたいだけど」

 

 

 

 メンフィスはやれやれと肩を竦めて言った。重桜のオロチ計画が露呈して以降、これ以上は無用な混乱を招くと考えたユニオン政府はとうとうその重い腰を上げ、先日大統領発表という形で巨大不明生物の存在を各国に明らかにした。然し、その重い腰を上げるタイミングを間違えてしまったためか、今なお議会は紛糾していると聞く。

 

その内容もかなりのもので、やれ「みつかるかどうかもわからないデカブツ探しにかまけて、貴重な諜報活動を疎かにした」だの、やれ「こんなタイミングで発表とは何ごとだ」だの、「そもそも先の基地襲撃の責任隠蔽によるでっち上げでは無いのか?」だのと、散々な言われようで、中にはレッドアクシズやセイレーンとの蜜月を疑うような声まであった。他のアズールレーンの所属国家もまた同様で、現状ロイヤルだけがユニオンに一定の理解を示しているものの、立場は依然厳しいままであった。

 

 

 

「……で、漸く撮れた写真って言うのは、これだけなんだな?」

「ええ。偵察機が捉えたものだけど、直ぐに海中に潜ってしまって、咄嗟に撮れたのもその一枚しかないわ」

 

 

 

 ユニオンの軽巡級KAN-SEN、金髪サイドテールの少女「クリーブランド」が、メンフィスの提示した写真を手にする。

 

 写真は、とある無人島の沿岸とその沖合を真上から撮影した、やや解像度の悪い航空写真だった。島の周りの海を、白波を切り旋回しながら進んでいると思われる其れは、島から突き出た岩礁と比べても遥かに巨大な背鰭と思われたが、その大きさたるや尋常ではなく、"一つ"とっても岩礁の5倍もあろうかと思われた。そして、背鰭らしきものの数も当然一つではなく、2〜4個程のかなりの大きさのものが連なっているようにも見える。背鰭より下は海中に沈んでいるが、島の半分くらいはありそうな巨体が、海中に影として映り込んでいる。波や太陽光、そしてややピンぼけ気味な解像度が原因でクジラと錯覚していると結論づけるには、やけにはっきりとしすぎていた。

 

 

 

「う〜ん……。何処かで見たような気がするニャ……。はて、何処だったかニャ……? う〜ん……」

 

 

 

 数日前オロチ計画の真相を知ってしまったことでアズールレーンに亡命してきた、猫耳の目立つ重桜の「工作艦級」KAN-SEN、「明石」が頭を抱えて言った。その様子に、隣にいるホーネットが訊いた。

 

 

 

「もしかして、オロチ計画に関わる代物、とか?」

「まさか! 其れはありえないニャ! いくらなんでも濡れ衣ニャ! 確かにオロチ計画の詳しい概要までは分からないけど、そもそも此れは曲がりなりにも"生き物"ニャ。KAN-SENならともかく、こんな、『御神木』とか島ぐらいありそうなUMAみたいなのを作り出せるような度胸と技術なんて、軍備やオロチにリソースを削ぎ過ぎた今の重桜にはないニャ。セイレーンも被害を受けたとなると、彼奴らの差し金というには多分論外だろうし……」

 

 

 

 『御神木』とは、レッドアクシズの二大盟主国の一つであり、極東の島国国家『重桜』の国土を覆い尽くす程の大きさの桜の巨木、重桜という国名の由来にもなった『御神木・重桜』のことである。

 

 

 

「……でも、身に覚えがあるかもしれないのね?」

 

 

 

 ユニオンの所属で明石と同じ工作艦級KAN-SEN、「ヴェスタル」の一言に、明石は自信なさげに頷く。

 

 

 

「でも、全然思い出せないニャ。何か引っかかるんだけど…」

「まあ、今すぐ思い出せないなら無理しなくても良いさ。気楽に行こうよ」

「ええ。確かに重桜や鉄血、其れに壊滅したセイレーン艦隊に謎の生物と、立て続けに不安な事象が相次いでいますが、そんな時だからこそ、『優雅たれ』の精神で御気を強くお持ちくださいませ、明石様。普段通りの現金な貴方様なら、きっと明確な答えを見つけられる筈ですよ」

「現金って…、それ寧ろ貶してないかニャ? ベルファスト……」

 

 

 

 でも、とクリーブランドとベルファストのアドバイスに考え込む明石を尻目に、ウェールズが立ち上がって言った。

 

 

 

「よし、状況は理解した。ただ、なるべく助力は惜しまないつもりではあるが、現在こちらはレッドアクシズ艦隊の襲撃に加え、オロチ計画の対策などでそれ以上身動きが取れない。もしかすると期待に添えないかもしれないが…、それでも?」

「構わないわ。兎に角、今現在動けそうな娘達を呼ん、」

 

 

 

 「…でくれないかしら」の声は、勢いよく開かれた扉の音でかき消されてしまった。入ってきたのは、メンフィスと同じく捜索任務に参加していて、配属の遅れたKAN-SENの1人、「軽空母(ライト・エアクラフトキャリアー)級」KAN-SEN、「インディペンデンス」だった。

 

 

 

「メンフィス! メンフィスはここか!」

「何よインディペンデンス? 貴女、ノックもしないでドアを開けて、人の話を遮る悪癖でもお持ちだったかしら?」

「冗談なら後にしてくれ! それより、別働隊が…」

「何? ボルチモア達がどうかしたの?」

「其れが……」

 

 

 

 何かをヒソヒソとメンフィスに耳打ちするインディペンデンスだったが、その内容を聞いたメンフィスの顔色が驚愕に変わる。メンフィスはすかさず部屋の隅にまで移動すると、ついてきたインディペンデンスに言った。小声で聞こえ辛かったが、ホーネットには辛うじてその内容が聞き取れた。

 

 

「……それ、本当なの? 何かの間違いじゃなくて?」

「私も最初はそう思ったさ。だが見つからなくなる直前に、奇妙な戦闘機と、空を飛ぶ体育館のような物体を見たという報告が上がったんだが…、突然通信が途絶えてな……。調べてみたら、どうも報告した直後に、セイレーンのものとは異なるパターンの空間異常か何かに巻き込まれたみたいなんだ」

「じゃあ、未だに」

「ああ、MIAだ。痕跡すら見当たらない。今残りのメンバーと基地の何人かで、周辺の海域を捜索しているんだが…。すまないが、基地のKAN-SENの何人かにも話をつけてくれないか? とてもじゃないが、範囲が広すぎて人手が足りない。君の助けだって必要だ」

「そんな、いきなりそう言われても! 協力はしてくれるとは言っても、どう考えてもここの基地だってそんな余裕がないのは事実なんだし、第一協力してくれそうなKAN-SENなんて…」

 

 

 

「おお? やあ、久しぶりだな。メンフィスにインディペンデンスじゃないか。どうしたんだ? 2人とも、まだ本国にいるんじゃなかったのか?」

 

 

 

 執務室のドアの開く音と共に現れたのは、日課である基地周辺の哨戒を終えて戻ってきた、"グレイゴースト"の異名を持つ、ユニオンの航空母艦級KAN-SEN、「エンタープライズ」だった。最近、ロイヤル所属で、その女王を務める戦艦級KAN-SEN「クイーン・エリザベス」の命で、エンタープライズの身の回りの世話をするようになったベルファストが、いつもと違い出迎えに来なかったことを不審に思い、彼女の同僚であるロイヤルのKAN-SEN部隊、通称「ロイヤルメイド隊」にベルファストの居所を聞いて、基地の中枢にあたるこの部屋、執務室を訪れたのだ。

 

 

 

「エンタープライズ様! もうお戻りになられたので?」

「ああ、ベルファスト。先程無線でウェールズ達が私を呼んでいると聞いてな。早めに切り上げてきたところだが……、遅刻したかな?」

「いえ。充分間に合っているわ」

 

 

 

 エンタープライズを含めた全員が、声の主を探して視線を泳がせる。

 

 

 

「エンタープライズ」

 

 

 

 声の主は、他ならぬメンフィスだった。彼女は決意と覚悟、焦燥と不安がない混ぜになったような表情で言った。こうなったらダメ元だが、歴戦かつ仲間想いで、頼り甲斐のある彼女ならば…。

 

 

 

「お願いが、あるんだけど……。協力、してくれないかしら? 貴女の助けがいるの……」

 

 

 

 

 

 

 

///////////////////////

 

 

 

 

 

 

 

––––––現在

 

「……で、そこからボルチモア達が行方不明になってしまったって聞いてさ? その直前に彼女達の艦隊が謎の戦闘機の目撃情報を寄越してきてたから、その消えたと思う場所の近くに来たら、君がいたってワケ。まあ、姉ちゃんまで付いてくるとは思わなかったけどね」

「気が動転して、既に前衛にジャベリンとラフィーの2人にベルファストもいたのに、仲間の危機だと言わんばかりに、何故か非番だったノーザンプトンとハムマンまで第一艦隊の枠にして絶対連れて行くと言い出した妹がいたら、誰だって心配するものだろ? そもそも、メンフィスに直々に頼まれたのは私の方だ」

「おかげで、"寧海"と"平海"の饅頭、食べ損ねたのだ……」

「結局その場に現れた明石に渡しちゃったもんな……。嬉しそうだったから、もう気にしないけど」

「きっと、今度店に来た時にまけてくれるかも知れませんよ?」

「あの守銭奴がそんなことをするとは思えないんだけど…」

 

 

 

 エンタープライズ一行は、目の前に現れたKAN-SENと思しき白い少女に、ここは何処で、自分達が何者で、何の目的で此処に来たのかを説明していた。最初、新たなセイレーンでも現れたのかと戦々恐々としていたのだが、件の少女はといえば、

 

 

 

「はあ…。アズールレーン、というのですか…。すみません、聞いたこと、ないですね…。セイレーンも、レッドアクシズも、覚えていない…、というよりは聞いたこともないですね…」

 

 

 

 端的にいえば、彼女は記憶を失っていた。自分の住んでいた場所や所属はおろか、名前も、好みの食べ物や映画も、それどころかこの世界の歴史や常識すら知らないと語っており、KAN-SENはともかくとして、ユニオンやロイヤルなどのアズールレーンや、重桜や鉄血のレッドアクシズ、更にはセイレーンすら知らないというなどという有り様であった。見たこともない艤装を身につけていることから、彼女がKAN-SENなのは間違いないが、記憶喪失のKAN-SENなどに会うこと自体初めてだったエンタープライズ達は、面食らいながらも、少しだけセイレーンの演技の可能性を疑いつつ、出来る限り刺激しないよう打ち解けようと試みることにしたのだった。無論、行方不明になったボルチモア達を、彼女が手にかけた可能性(・・・・・・・・・・・)も念頭に入れて、だが…。

 

 

 

「そういえば、まだ重桜や鉄血がまだアズールレーンにいたころに、鏡面海域を通ってやって来たとか言う、自分達を"女神"だとか"トスカーナ"だとか、そんなことを名乗ってたとかいう人達がいなかった? もしかしたら彼女もそうかもしれないよ、姉ちゃん!」

「アレは都市伝説の類いじゃなかったか? 仮にそうだとしても、彼女は自分の生まれた場所すら覚えていない。記憶喪失が本当だとしたら、探しようが無い」

「あの、本当に何も覚えていないんですか?」

 

 

 

 議論を重ねるホーネットとエンタープライズ達を傍に、ジャベリンが少女に訊いた。か細く、弱々しい声で「ええ…。でも……」と言った少女は、そのまま話し続けた。

 

 

 

「……でも、一つだけ、覚えていることが」

「何なのだ?」

「とても怖くて、辛くて、苦しくて、痛くて……。大勢の人達の悲しみと、絶望……。貴方達の言う、セイレーンよりも多分恐ろしい存在……。其れを終わらせる使命を…、"奴等"を倒さねばならないという使命を、私が負っているということ……」

「ぷはぁ〜。……其れで、その"やつら"って、だれだかわかる?」

「ラフィーちゃんいつの間に酸素コーラを…? というかそれ本当に酸素コーラ⁉︎ ラベルとボトルが何時もと違うよ⁉︎」

 

 

 

 ジャベリンの突っ込みを静止して、記憶喪失の少女が答えるのを、ラフィーは待った。同じく、他のKAN-SENも少女に注目する。

 

 

 

 

 

 

 

「……"バイド"。奴等が、"私の敵"が、そう、呼ばれているという記憶だけ……」

 

 

 

 

 

 

 

 それきり黙ってしまった彼女に、全員が考え込んだ。

 

 

 

「明石が何時も店の従業員の募集をしていた、アレか…?」

「いやいやいや、アレは『アルバイト』の『バイト』でしょ…」

「スマホとかコンピュータの容量のことでしょうか…?」

「それも『バイト』。どっちみちバイドじゃない」

噛みつく(bite)という意味でもないのだ?」

 

 

 

 見当違いな意見を述べる僚艦達を、ベルファストとエンタープライズが抑えて言った。

 

 

 

「まあ待つんだ、皆。混乱するのは分かるが、一旦落ち着いて整理しよう」

「確か、"バイド"と申されましたね? 貴女様が絶対に倒さねばならない敵で、其れは私達の敵、"セイレーン"よりもはるかに危険な存在であると……、そう仰いましたね?」

 

 

 

 ベルファストの問いに、少女が頷く。

 

 

 

「あ、はい……」

「何か、他に覚えていることは、無いか? もし君のいう敵という奴がいたのなら、私達はその対策について講じねばならない。落ち着いて、ゆっくりと喋ってくれて構わないから、聞かせてくれないか?」

「もしお辛いようでしたら、今すぐにとは言いません。無理をなさらずに……」

「ああ、いえ。多分、大丈夫です。はい……。えっと、バイドについて覚えていること……」

 

 

 

 考え込み始めた少女を見ながら、エンタープライズとベルファストがお互いに相談し合い始める。

 

 

 

「……どう思う?」

「はい…。かなり不自然な点が多過ぎますが、少なくとも現状嘘をついているとは思えないような口ぶりです。ところどころの仕草を見ても、怪しいところなど何も感じられず、むしろ辿々しさしか感じませんが、ただ……」

「"ただ"?」

「はい。ボルチモア様が率いていた、ユニオンの捜索隊の皆様が行方不明になられた件に、何らかの形で関わっていることだけは間違いないでしょう。問題は…」

「"記憶喪失"…、か…」

「確かに、今現在各国で計画されている"未成艦"などのようにカンレキの存在しないKAN-SENなどが、将来的に記憶喪失という形で出現する可能性もあるのではないかという話までは聞いたことはございます。然し目の前のこの方は、艤装一つ取ってみても、私達アズールレーンやレッドアクシズ、その他の国々は愚かセイレーンによるものではないことから、間違いなく私達のカンレキに由来するものでは無いという有り様…。そして何よりも気がかりなのは記憶喪失のこの方の、ただ一つ覚えていた言葉……」

「"バイド"か……」

 

 エンタープライズの言葉に、ベルファストが頷く。彼女達にとって、全く聞き覚えの無い其の言葉を初めて聞いた時、何故か言い様の無い悪寒が背筋を走った気がした。改めて口にしてみて、再びその得体の知れない不気味な感覚に、気のせいだとエンタープライズは被りを振った。

 

「記憶喪失どころか、本当にKAN-SENなのかどうかすら分からないかもしれない……。これだけ取ってみても、前例が無さすぎる。やはり彼女はKAN-SENでは無いのか……?」

「そもそも先程の色とりどりのメンタルキューブらしき物質からして、見たことのないものばかりです」

「セイレーンの新兵器のだけでなく、また新たな敵の可能性も、疑わねばならないようだな…」

 

 

 

 話し込んでいたためか、2人は気づかなかった。考え込んでいた筈の少女の瞳孔が限界まで開かれ、そしてその視線がエンタープライズら2人や他のメンバーではなく、何故か無表情のまま一点のみを見つめはじめた。

 

 

 まるで、"何か"に取り憑かれ、意識を乗っ取られたかのように。

 

 

 先に異変に気づいたのはホーネットだった。

 

 

「ね、姉ちゃん……?」

「ん? ああ、後にしてくれホーネット。今はまだ……?」

 

 

 だがホーネットの指差す方向を見て、エンタープライズは眉をひそめた。

 

 少女の瞳孔が、目一杯に見開かれている。そしてその視線の先は、どういうわけか遥か彼方の地平線に向けられている。

 

「おい、どうし」

 

 指先だけを小刻みに震わせ、無表情ながらも瞳孔を開ききった少女の様子に、ただならぬ気配を感じたエンタープライズは言いながら、その肩に手を置こうとした。

 

 

 

 

 

 少女が動いたのはまさにその時で、腰の右側にマウントされていたショットガン状の武器を残像すら残さず構えて、躊躇うことなくかつまるで最初から狙いが付いていたかのように発砲した。

 

 

 

 

 

轟音と閃光、衝撃波と津波がエンタープライズ達を襲い、地平線の遥か彼方にいて通常ではあり得ない速度で迫っていた、彼女達のよく知る敵の姿をした"何か"が跡形もなく吹き飛ばされたのは、その直後だった。




感想、評価よろしくお願いします。尚、本作におけるアズールレーンの世界観や時系列は、アニメ版第6話から7話の間でかつ、重桜でのみ過去のネプテューヌ など他作品コラボイベントが発生しており、クロスウェーブも、ゲーム・アニメ版合わせて設定を少しだけ変更した上で、現段階では少し未来の話にしようという流れになっております。また「謎の巨大不明生物」につきましては、某皆大好き1000%社長宜しく10話前後迄にはその正体を明らかにしたいと思います(ネタバレ予想厳禁ですよ?)。何卒、これからもこのどんぐりと本作と休載分2作もろとも、生暖かーい目で見守って下さいますよう、宜しくお願いします。

では、また次回にでも。

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