AZUR-TYPE   作:どんぐりあ〜むず、

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大変お待たせしてしてしまい、申し訳ありません。どんぐりです。この二ヶ月間、皆様はステイホームをしてきましたでしょうか? 漸く沈静化に向かい始め、経済活動も再開され始めたこのコロナパニックですが、まだ油断は禁物です。皆様どうか、引き継ぎ手洗いなどや3密にお気をつけて下さい。また適度に換気もしていただくようお願い致します。

ちなみに、今回は最後の辺りに謎の人物達が、会話のみという形で登場致します。誰が誰なのかがわかっていただければ幸いなのですが…(後、原作のように上手く表現出来ているかもちょっと自信がなかったりします。もしその辺りの言動等が不自然でございましたら、大変申し訳ございません)。それと、多分今回のサブタイトルにてお察ししていただけるとは思いますが、今回のお話で、遂に"ヤツら"が来ます。戦闘描写は久方ぶりなのもあり、少しばかり自信がありませんが、少しでも楽しんで頂けば幸いです。皆様の感想等をお待ちしております。


では、はじまります。


E.X.A1-3 異形

–––––– 数時間後

 

 

 結論から言えば、あの世界の終わりかと見紛うような光を見たエンタープライズ達だったが、幸いなことに誰一人として命を落とすことなく(そして誰一人として、己の角膜を失う羽目に陥ることなく)、目的の任務を遂行するべく行動を起こしていた。今はもう大丈夫だと思えた…、たった一つの不安材料を除いて。

 

 

 

「……なあ、姉ちゃん?」

「…なんだ?」

 

 

 

 先頭を走るエンタープライズに、ホーネットが尋ねる。まるで数年ぶりに聴く声のようだと、エンタープライズは思った。どのメンバーも、もう何時間も前から誰も声を発していない。奇妙な戦闘機のようなもの、赤や緑などの見たこともない色とりどりの不気味なメンタルキューブ、謎の記憶喪失の少女に、"あの光とその後に起きた出来事"など、あまりにも理解できない事象が相次ぎ、全員の頭の整理が追いつかなくなったからだ。理解できないことへの怯えか、または一旦は九死に一生を得たという余韻か、あるいはその両方からか、ホーネットがエンタープライズへ問いかける声は、どこか震えているようだった。エンタープライズは、ゆっくりと速度を落として妹の傍らに立つと少しだけホーネットへと顔を向けて、黙って顎を使って話を促す。それを見て、一瞬チラと後ろを見やってから、ホーネットはゆっくりと話し始めた。

 

 

 

「……ねえ、いくらなんでもヤバくない? アタシ、未だになんだかよく分からないんだけど、さっきのことも含めてさ? なんかおかしいって。絶対変だって。姉ちゃん、やっぱり皆にも説得してこの辺りでもう引き返そうよ。絶対にヤバいって! だって見たでしょ、あの子がまさかあんなことをしたうえに、あのセイレーン(・・・・・・・)だって……‼︎」

「何かと思えば、その話かホーネット。出来ることならお前たちを今すぐ基地へと帰投させたいのは、私だって同じだ。だが、事態は予想以上に悪い方向に向かっているのは確かだ。今ここで無闇に引き下がることこそ、悪手と言わざるを得ないよ」

「確かにそれはそうだけど! でもこのまま、これ以上先に進むのも危ないのも分かるでしょ? さっきから海の様子がおかしくなってる。鏡面海域の内側でも、その近くでもないのに波風が荒いし、昼間まであんなに晴れてたのに今は夕焼けどころか、夜空すらも見えそうにないくらい雲に隠れてて、しかも生あたたかくて雨の匂いまでしてくる! 挙げ句の果てには無線まで通じにくくなってるし! ねえ、せめて一旦どこかの島とかに行ってみて役に立ちそうなものを探したりとか、何かしらの作戦とかを立ててからとかでも遅くはないよ! 皆もそう思うでしょ⁉︎」

 

 

 ホーネットの呼びかけに驚いたのか、はたまた改めて指摘されたことで迷いが生じたのかもしれない。後続のどのメンバーたちも一瞬互いの顔を見合わせ、難しい顔つきで考え込み始めた。当然ながら、エンタープライズもその例外ではなかった。確かに、ホーネットの言うことももっともだった。例えこのまま闇雲に進んでも、状況が好転する訳でもなく、ましてや件のこの白い少女を基地に連れ帰るわけにもいかない。何処かで態勢を整える必要があった。最新の海図によれば、確かこの付近の海域には無人島があって、今はもう打ち捨てられた灯台があった筈だ。其処で一晩明かすべきかを考えていた矢先に、メンバーの中から手を挙げるものがいた。ジャベリンだった。

 

 

「あの……、すみません。私も、ホーネットさんの言う通りにした方がいいかなー、なんて」

「ホーネットに賛成だ。あたしもなんだか怖くなってきた。確実にもう、ボルチモア達を探すどころじゃなくなってきてる。この辺で一旦対策を取るべきだよ」

「万一に備えて、此方も屋外キャンプ用の装備を用意して参りました。野営ならいつでも」

 

 

 次々とあがる声に続いて、「は、は、ハムマンもさ、賛成なのだ…。も、もう、無理……」という息を切らすような声があがる。ラフィーと共に、少女の両腕を肩に回して連れているハムマンだった。光と爆音を完全には防ぎきれなかった為か、未だそのダメージが抜け切れていない。そのためか他のメンバーと比べても、間髪入れずに軽く100回も出撃した後のような顔つきをしていた。顔に出てはいないが、ラフィーとて同じことだろう。二人そろって共倒れしそうな様子でもあった。二人の肩に両腕を回された少女は、相も変わらず意識はなかった。昼間の出来事以来、ずっと昏睡しているのだ。あれほどの事態を引き起こした以上、放っておくという選択肢がないことはもはや自明の理ではあったが、かと言ってこのまま連れ回るのもそろそろ限界なのは、素人でも分かることだった。

 

 

「……此処から数マイル離れた先に灯台の島がある。ひとまず、今日のところは其処で夜を過ごそう」

 

 

 エンタープライズの言葉に、次第に疲労の色の混じった同意の声が上がる。その様子を見て、エンタープライズはどうしてこうなったのかと、厚い雲に覆われた暗い夜空を見上げ、昼間の出来事を思い返した。

 

 

 

 

 

///////////////////////

 

 

 

 

 

 そもそも、少女があのチェレンコフ光のように光るクロキッドの散弾銃*1によく似たエネルギー砲は、最初からエンタープライズ達を狙っていたわけではない。だがその閃光は、轟音は、そしてその威力は、セイレーンや彼女達の技術を解析したレッドアクシズらの所有する、どんな光学兵器よりも苛烈で、凄惨極まるものだった。十戒のように切り開かれ、その余波で巨大な壁の如き波を打つ水面(みなも)や、地上に太陽が現れたのかと錯覚するほどの強烈な光と爆音が、何よりの証左であった。爆風と波に呑み込まれなかったのが、不思議なくらいだった。

 

 エンタープライズ達は、暫しの間平衡感覚を失って海上に倒れていた。一切の音が消え、目の前が一瞬ホワイトアウトしたが、回復するのにさほど時間はかからなかった。だが視力が戻ってきた途端、またしても意味不明な事態が起きた。

 

 

 謎の白い少女が、かなりのセイレーンの戦闘機とたった一隻の量産型の駆逐艦を相手に戦っていた。それだけならまだ良かった。KAN-SENかどうかは疑わしいが、自分達やセイレーンに近い存在と思しき彼女ならセイレーンの量産型艦隊と戦っていてもおかしくはない。ましてや彼女は、その記憶に残ってこそいないが、明らかに何処かで戦闘を行った痕跡まであったのも、それを裏付けている。

 

 

 

 問題なのは、彼女と、そしてセイレーン達の様子が可笑しかったということだ。まずセイレーンの量産艦は、真っ先に少女へと襲い掛かったが、どういうわけか砲撃をせずにいきなり体当たりを仕掛けてきた。突進してくるその様は、艦船というよりは鮫やモビー・ディックが、飢えと血の匂いを満たすためにダイバーや帆船に襲い掛かろうとしている様子にしか見えない。それ程までに、船としてではなく魚や鯨が、洋上を泳いでいるようにしか見えなかった。

 

 次に不可解だったのはセイレーンの戦闘機で、此方も何故かエンタープライズ達KAN-SENの持つ動体視力を持ってしても追いつかなかった。まるでユニオン映画に登場するニンジャのように、残像すら残さないか、或いはコマ落としのごとく姿が消えたと思えばいきなり別の場所に移動しているのだ。そのうえ、量産艦も戦闘機も、有り得ない程の砲撃や機銃掃射を少女へと浴びせているのだ。

 

 しかも恐ろしいことに、少女の方は無表情のまま、そんなセイレーン達の苛烈な攻撃を前にしているにも関わらず、セイレーン達と同じか或いはそれ以上の速度と、彼女の持つ奇妙な艤装のどこかに取り付けられているらしい機銃を持って、互角以上に渡り合っている。被弾した戦闘機が、1秒足らずに次々と屠られ、海面に落ちることなく空中で爆散していく。

 

 その時点でエンタープライズ達は理解が出来なかった。どう考えても、セイレーンの上位個体以上の戦闘能力だ、量産型であんな性能を発揮するとは。もし自分達が相手をしたなら今頃海の藻屑と化しているに違いないがしかし、何故今の今まであれほど滅茶苦茶な力を持って自分達に挑んでこなかったのだろうか?何よりも、あんなセイレーン達と互角以上に渡り合っているあの少女は、一体何者だというのだろうか?

 

 

 

 彼女達がそう考えていた矢先に、少女と戦闘機達が、不意に一瞬動きを止めた。その時になってからやっと、何故セイレーンの方の様子が可笑しくなったのか、その理由が理解できた。

 

 

 

 其れは、"セイレーンの姿をした何か"と言い表すより他ならぬ、奇怪な生命体だった。フジツボや目玉を思わせる肉腫が機体の表面に取りつき、張り巡らされた血管と共に、気味の悪い音を立てて脈動していた。また、機体そのものの異常も著しく、人間を思わせるような、骨張った腕や、ドドメ色で、奇妙にうねる粘液塗れの触手などが4、5本以上も生えたものもあり、かと思いきや機首の方にワニや恐竜のような口が生じ、牙だらけの乱杭歯からは、不気味な鳥の声とも、不愉快な金属音ともとれないような、

 

『ギャッ、ギャッ、ギイイイイ……』

 

という聞きたくもない異様な鳴き声が響き渡る。駆逐艦の方も、片側だけみれば正常な見た目をしているのに、裏側を覗いてみれば、航行不能なまでに船体が大きく抉れているにも関わらず、肉色の断面が痙攣し、てらてらと光っていた。其れに加えて、少女とセイレーン達とはかなり離れた距離にいるエンタープライズ達だったが、甘ったるく酸っぱいような、もっと言うなら肉の腐ったような、何とも言いがたい吐き気を催す臭いが、遠く離れていても強烈に漂ってきた。

 

 後ろからハムマンやホーネット達の引きつった悲鳴が聞こえる中(この時、一度ハムマンは目覚めかけてはいたのだが、目の前にセイレーンのような気持ち悪い何かを見てしまったせいで、ショックのあまりまたしても気絶してしまった)、胃にこみ上げてくるものを必死に堪えながら、エンタープライズはふらつく足取りで彼女らとの距離を詰めようとした。このまま戦い続ければ、いずれにせよ少女も消耗してそこをつけ込まれるのではと考えたのか、セイレーンを倒さねばならぬという自らの強迫観念か、或いは、怖いもの見たさで、このセイレーンの姿をした怪物達をもっとよく見てみたいとでも考えたのかもしれない。後から考えてみても、エンタープライズは、何故あの時自分が迂闊にも武器も構えずに近づこうとしたのかを疑問に思ったが、結局その理由は彼女自身にも最後まで分からなかった。

 

 

 

 エンタープライズの、彼女らしからぬその迂闊な行動が誰にも気づかれることなく未遂に終わったのは、二度目の青白い爆発がセイレーンのような何かに炸裂したのが原因だった。エンタープライズはそのまま勢いよく後方へと吹き飛ばされた。水しぶきが雨のように降り注き、日光で煌めく中で少女を見上げた時には、もう何もかもが終わった後だった。あちこちで、黄金色に輝く光の粒子が立ちのぼり、陽の光を浴びては消えていた。よく辺りを見渡すと、いつのまにかセイレーンの駆逐艦も海上からその姿を消していた。

 

 

 その代わり、先程まで浮かんでいたはずの海上には、一際大きな光の粒子の群れが、霞のごとく空中へと消えてゆくのがみてとれた。

 

 

 

 もう撃破してしまったのか、エンタープライズがそう考えた時だった。

 

 一瞬の間で、いきなり白い少女の、しかもセイレーンの上位個体の量産体以上に、感情を全く感じさせない無機質な顔が突如目の前に現れたと思うと、少女はエンタープライズに驚く間も与えぬうちに、彼女のその綺麗に整った顎を片手で掴み、顔を間近に近づけると、その光の灯らない目でエンタープライズを覗き込んだ。

 

 

「姉ちゃん⁉︎」

「エンタープライズ様‼︎」

「寄せっ…、来るんじゃないっ……‼︎」

 

 

 助けに来ようとするホーネットとベルファスト達を、苦し紛れに止める。この少女や先のセイレーンの姿をした何かの正体が不明な以上、自分と同じ二の足を踏ませる訳にはいかないというエンタープライズなりに考えてのことだった。

 

 顔を覗き込んでくる少女に負けまいと、同じように少女を睨みつけるエンタープライズだったが、無表情の少女はお構いなしにエンタープライズの顔を左右にゆっくりと動かして観察する。この少女は一体、何がしたいのだ? あの怪物の仲間とでも思い込んでいるのだろうか? 冷静に分析しつつも、エンタープライズがこの少女の、深淵を見ているかのような瞳に対して得体の知れない恐怖を感じ始めた時だった。

 

 

 

 

 

『ギイイイイイイ』

 

 

 

 

 突如エンタープライズと白い少女の間に割って入るように、肉腫まみれの戦闘機が襲い掛かる。少女はエンタープライズを突き飛ばし、武器を構えることなく立ち尽くす。不味い、いくらなんでも距離が近すぎると考えたエンタープライズは、思わず叫んだ。

 

 

「いかんっ、逃げろっ!」

 

 

 エンタープライズの背後で悲鳴や怒号が上がる中、怪物が怒りの咆哮を上げて、少女に飛びかかる。だが相も変わらず、少女はフリーズしたかのように棒立ちになったままだ。エンタープライズは、力を振り絞って倒れたままだった己の身体を半分起こして、少女の代わりに迎撃しようと自身の艤装である艦橋型の洋弓を構え、弦を引こうとした。

 

 

 

 だがその行為も、結局徒労に終わった。何処からともなく現れた光る何かが、襲い来る化け物に勢いよく真上から落ちてきた。化け物は消えた。いや、この際消し飛んでしまった(・・・・・・・・・)とでも言うべきか。或いは、喰われた(・・・・)と言った方が正しいかもしれない。

 

 

 

「何…、あれ……?」

 

 

 

 誰がそのようなことを言っていたのかは分からない。多分ホーネットだったかもしれないし、もしかしたらジャベリンやノーザンプトン達かもしれない(ただし、百歩譲ってハムマンは無いだろう。この時彼女は光と爆音のせいで、怒った蟹のように気絶していた)。だが今となっては、そのようなことはどうでも良かった。理解出来ない事なんてもうこれっきりだろうと考えていたエンタープライズですら、まるで意味不明なものが目の前に現れたからだ。

 

 

 

 其れは球体だった。琥珀色に輝く、人間サイズの巨大な太陽のような球体。白亜のアンテナのような長い棒型の機械が4つ、球体の後部から飛び出している。ピンポン球に針金を4本ずつ均等に挿したら、似たような形になるかもしれない。その意味不明な物体が、凄まじい速度で突っ込んできて、敵機を消滅させた…。いや、喰った(・・・)

 

 

 

 球体はそのまま、ゆっくりと回転しながら、優雅にも弧を描いて少女の背中と艤装の、僅か数十cmのところで停止した。背後に取り付いた其れは、少女の動きに合わせて球体も全く同じように動いている。間違いなく少女の艤装なのだろうがしかし、このような奇怪な物体は見たこともなかった。

 

 

 

 球体が取り付くと、少女がエンタープライズ達の方へと向き直った。海上を歩きながら近づき、やがてエンタープライズの目の前まで来ると、光る散弾銃を彼女に向ける。エンタープライズ達が身構えるのに対して、少女はというと、ずっと棒立ちになって銃を構えたままだった。その時、エンタープライズは少女の赤く輝く瞳が、僅かに揺らめいでいるのを見た気がした。悲しみのあまり涙を浮かべているわけではない、どちらかといえば、カメラの奥のレンズが動いているかのような…。

 

 

 

 そこまで考えていたまさにその時に、少女は糸が切れたように、エンタープライズへと倒れ込んだ。突然のことにエンタープライズは、「うお」と驚いたが、そのまま少女を受け止める。背中の球体は消えていた。主人が倒れたと同時に、いつの間にか姿を消していた。状況が上手く飲み込めなかったが、どうやら勝手に気絶したようだ。球体が消えたことと、武器を構えておきながら、いきなり気絶するというのはなかなか不自然な気がしたが、ひとまずは安全になったと見ても良いだろう。

 

 

 

「……皆、もう大丈夫だ。少し近くまで来てくれないか?」

 

 

 

 少女を抱えて立ち上がるエンタープライズに、艦隊の面々が駆け寄ってくる。まだ顔色は悪かったが、皆一様に張り詰めた糸がほぐれたような面持ちだった。ホーネットが言った。

 

 

 

「心配したよ姉ちゃん! ねえ、大丈夫……?」

「ああ……、心配ない。ひとまずはな」

 

 

 

 咳き込みながらもそう返したエンタープライズは、胸の中で眠る少女に視線を落とす。先程の暴れっぷりが嘘のように思えるほど、落ち着いた寝顔だった。

 

 

「……この子、一体どうするつもり? 放っておくのは間違いなく駄目なんだろうけど、どう考えてもさ……」

「ああ。下手をすれば、私でも敵わないだろうな……。彼女は明らかに、私たちKAN-SENやセイレーンすらも上回っている。何もかもが、大きく逸脱しすぎている」

「これは、とても厄介なことになったね。エンタープライズが敵わないのなら、私たちだって…」

「ええ。下手をすれば、全滅は免れないでしょう。その上、あのセイレーンのこともあります」

「何だったんですか、あのセイレーンの量産型は? あんなの、まるで、まるで……!」

「生きてた。多分、夢じゃない。とても臭かったから」

「ハムマンは…、ってああまだ気絶したままか……。というか、どう見てもセイレーンって言うより、何か別の生き物だった! ただひたすら気持ち悪かった! 姉ちゃん、一体アレは何だったのさ⁉︎ 私達の世界で、今何が起きてるの⁉︎」

 

 動揺が広がり、誰もが怯える中で、エンタープライズは両手を上げて全員を落ち着かせた。

「皆、落ち着け。落ち着くんだ。今慌てたところで、何も解決はしない。いいか? 私も含めて、皆は彼女とあのセイレーン達を見て混乱したのは分かる。正直なところ、私にも何が起きているのか、全く理解出来ない。アレがなんなのか、この少女が何者なのかを突き止めない限り、私達は基地に帰るどころか、生き残ることすら難しいだろう」

「つまり……、このまま前進するしかない。そういうことでしょうか、エンタープライズ様?」

「残念ながら、今は……、な。ひとまずハムマンが回復するのを待ってから出発だ。この少女に関しては…、何が起きても構わないよう、互いの間隔を開けて交代で運ぼう。皆、それで構わないな?」

 

 ベルファストの問いかけにそう答えたエンタープライズの言葉に、ハムマンと少女を除いた全員が顔を見合わせた。納得していないような顔つきではあったが、全員の意見が一致するのに然程時間は掛からなかった。最後に、エンタープライズは胸の中で眠る少女を見た。あのセイレーンは何だったのか、この少女は何処から現れ、何の目的があって私達の前に現れたのか……。未だに謎が多い。だが一つだけ分かっていることがある。

 

 

(この世界で、何か良くないことが起きている。セイレーン以上の、何かとてつもなく恐ろしいことが。今の私達に出来ることは、まずそれが何なのかを突き止めることにあるかもしれない。もっとも、手遅れでなければいいのだが……)

 

 

 それからエンタープライズ達は、何事もなかったように静まり返ったその海域を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

///////////////////////

 

 

 

 

 

 

–––––– 数時間前、何処かの領域

 

 

 

ーー⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎、いるー?

 

ーー⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎ね、何が起きているの?

 

ーー問題なら起きてるけどー?

 

ー⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎は?

 

ーーさあ? でも、油を売ってるわけじゃ無さそうだけど。

 

ーー不味いわね……、⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎に続いて彼女まで……。今は《タイプ・G》だけでも手一杯なのに、あの漂流者共とその愉快なお土産たちのおかげで、悪い意味でこっちの計画が狂いそうだわ……。

 

ーーで、どーすんのさ?

 

ーー引き継ぎ、⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎を探して頂戴。私は⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎を動かせないかどうか聞いてみるわ。このままだと計画を……、前倒しする必要があるかもしれないわね

 

ーーちょっとちょっとー、⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎のこともあんのに、これ以上やっていけないんですけどー?

 

ーーいいからやりなさい、⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎。今ここで手を打たないと、あの余所者達のせいで私達がこの時代に来たことが無意味になるわ。

 

ーーそんな、無気にならないでよ〜。ま、私も彼奴らがどの程度か知りたいから、ちょっくら行ってくるわ。じゃ、いってきまーす。

*1
アズールレーン世界における『レミントン』や『ウィンチェスター』製散弾銃に相当するもの。この世界では、ユニオン製の通常の銃火器類なども主にクロキッドが製作していることになっている

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