さて、今回の物語ですが、以下がこれまでのあらすじとなります。
何とか"腐れセイレーン艦隊"を撃退し、廃墟の島の灯台に潜伏していたエンタープライズ達。しかしそこへ、謎の空飛ぶ輸送艦が現れ、彼女達を救出に来たという。しかも何故かその艦の長は、ロイヤルのKGV級ネームシップの名を名乗るのだが、果たして……?
一体エンタープライズ達を待ち受けているのは何か、そして一体アズレン世界に何が起きているのか。乞うご期待!
では、どうぞお楽しみに‼︎
–––––– 15分前・灯台島沖
嵐の吹き荒れる海上に浮かび、空を切り裂くように現れた、メタリックグレーで塗られた直方体の建造物を思わせるその謎の空飛ぶ
何故そのようなものを探しているのかについての理由は二つあった。一つは、乗組員たちはある『敵対的な生命体』の存在を追跡していた。それは、この艦の
だからこそ、一刻も早く彼女達は少女達、つまりは"エンタープライズ"らを早く見つけ出し、変異していないかどうかを知りたがった。要するに、無事を知りたかったのだ。
「……さて、そろそろ着くかな?」
デジタル腕時計を見ながら、赤い軍服姿をした金髪の女性が言う。訳あって今はこの艦の艦長代理を務めてはいるものの、元を辿ればこの世界の出身のKAN-SENであり、彼女以外の乗組員も皆同じKAN-SENだった。故に、本来ならこの艦とはなんら関わりのない存在なのだが、この艦を託した"とある人物"から使い方を学んでいるため、こうして件の2艦隊を捜しにきたのである。
「"ジョージ"さん、"アン"さんから連絡、です。後方にバイド体の反応があるとのこと、です。直ちに"エンジェル"さん達と一緒に押し留めるから早く救助してくれと言っている、です」
後方から現れた角を生やし、白いセーラー服を着た重桜の駆逐艦型KAN-SENの言葉に、ジョージと呼ばれた軍服姿のKAN-SENは溜息をついた。
「やれやれ、せっかくここに来るまでに残らず倒したと思ったが、予想以上のしぶとさだな…。まあ、まだこの戦闘に皆慣れていないからな。過ぎたことは仕方ない、早く"彼女達"を回収してあげよう」
「了解」
艦橋から姿を消す駆逐艦の少女を見届けると、ジョージは改めて、自分達の世界とは異なる技術で作られた艦のコンソールを見つめる。奴らの強かさときたら、セイレーンどころか自分達のそれを遥かに上回るかもしれない。あんなに凶悪でなければ、正直見習いたいくらいだと考え、やめた。奴らに、"優雅さ"どころか知的生命に必要な理性の欠片すらもないことは既に自明の理だ。あまり入れ込み過ぎると、碌なことにならない。
「……そうだ、考えない方がいい。少なくとも、この状況を打破できない今は、な。例え、何が有ろうと、彼奴らを葬れるなら、私は……」
そう呟くジョージを見て、オペレーター席に座っていたメイド服姿のKAN-SENは、ただ哀しげに見つめていた。
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「…これは、一体どういうことなんだ?」
浮遊する箱型の輸送艦の招きで、その艦内へと導かれたエンタープライズが、クルーたちに向かって言い放った最初の言葉だ。
目撃情報から、体育館のような見た目をしていると言われていたそれは、どちらかというと飛行場の小さな格納庫に見えなくもないくらい、意外なほど広く、外見と同様、実に機械的な内装をしていた。
この船底部分に黄色いコンテナのような形をしていて、巨大なハッチを携えた、"ヨルムンガンド級"と呼ばれるこの艦に乗り込んだエンタープライズ達だったが、ここに来ていきなり、コンテナ内部の、巨大なハッチの上で拘束されてしまった。しかもその乗組員達ときたら、どういうわけか見知った顔のKAN-SENが、本当に何人もいたのだ。これだけでも驚きに値するのに、そこでいきなり銃を向けられては、益々意味が分からなくなった。そして何より拘束してきたKAN-SENは、この艦の乗組員達は。
「ええと…、何で、同じロイヤルの人達と、重桜の人達が…?」
「……」
「どういうこと…?」
「まさか、叛乱……?」
「くっ、くく、くくく、クーデターじゃないのよ! て、て、テロじゃないのよ‼︎」
メイドの格好をした者、軍服を着た者、和服を着た者……。服装は疎らながら、明らかにその場にはロイヤルと重桜のKAN-SENしかいないのだ。セイレーンの"再現"の為に作り出された、"駒"と呼ばれる存在だったならば、一緒になることもそう珍しい光景ではなかったかもしれないが、その表情に明確な意思が伺え、かつこのような場所に居合わせていること自体が、その駒でないことは明白だった。
「これは……⁉︎ ハーマイオニー、キュラソー、カーリュー‼︎ 一体どうしたというのですか! この艦は一体何なのですか! 何故貴女方が此処にいるのですか! 其れに何故私達に向けて砲を…⁉︎」
ロイヤルメイド隊内での同僚であるKAN-SEN達の姿を見て、動揺を隠しきれないベルファストだったが、そこで新たにある人物が姿を現す。
「その疑問には、私自ら答えるとしよう。ベルファスト」
声のした方向へと全員の視線が向かう。そこにいた人物の姿を見て、ベルファストは驚いた。
「キング・ジョージ様……‼︎」
「久しぶりだね、ベル。貴女とこうして会って話をするのも、リヴァプールでのセイレーン戦以来かな?」
現れたのは、儀仗兵が着るような赤い軍服に身を包んだ、ブロンドのロングヘアーが美しい女性だった。どことなく、母港にてエンタープライズ達の帰りを待っているプリンス・オブ・ウェールズにも顔立ちは似ているが、その彼女と違い、何処か余裕綽々な表情と雰囲気を醸し出している。そこでエンタープライズは気づいた、そうだ、確か彼女はウェールズの姉妹艦で、名前は…。
「貴女は、あの誉高きロイヤルの"騎士長"殿か?」
「おおなんと、そこにいるのはかのユニオンの"グレイゴースト"殿か。これは失礼した、私はロイヤルのキング・ジョージ5世級ネームシップ、"キング・ジョージ5世"だ。改めて宜しく」
何とも爽やかな挨拶だ。今この状況下でなければ好感が持てたかもしれないが、キング・ジョージ自身もまた目元が笑ってはいなかった。そのままジョージは続ける。
「せっかく会えたというのに、このような形になってしまい申し訳ない。いつも姉妹艦のウェールズが世話になっていると聞いてね、本当なら心ゆくまで皆さんを盛大にもてなしたいのだが、今回ばかりはどうしてもこのような対応をせざるを得なくてね……」
「前置きも謝罪も今はいい、それよりも今知りたいのは何故こんな船に乗っていて、重桜のKAN-SENと一緒になってこんなことをしているのかだ。一体この船は何なんだ、それにレッドアクシズである彼女らと一体何をしている? まさか、お前たち…」
「私達が重桜へと亡命を企ててのことかと問われれば、それは違うとお答えしよう、エンタープライズ殿。この私の身も心も、変わらず陛下に、ロイヤルに捧げている。レッドアクシズに与するなど、それこそあり得ない話だよ」
「なら……」
「ただし先にも言ったように、今回ばかりは違う。何しろこれは、セイレーンを超えるほどの、世界規模の危機的な状況だからね。だから今後、この世界がどうなるかもわからない。後で一から説明はするが、今は時間もない。 だから、これから私達が貴女方に施す"奴等"への対抗手段、謂わば今の我々にとっての"命綱"を、どうか受け入れて欲しい。拒否しても構わないが、その場合命の保証は出来かねることを覚えていて欲しい」
言い終えるなり、彼女をはじめとした乗組員達は、艤装の砲門などを構え直し、装填音まで響かせる。エンタープライズは訝しんだ。
(…セイレーンを超える、世界規模の危機的な状況だと? 一体何を言っている? 其れに"奴等"とは一体何のことだ? まさか、あの奇妙なセイレーン達のことか? この記憶喪失の少女の言っていた"バイド"と、あのセイレーン達と"奴等"が仮に同じ存在だとすると、対策とは一体……? まさか……)
未だ眠りについている白い少女を見やる。同時に、ジョージ達の提案を受け入れなければならないという気持ちと、言いようのない恐怖の感情が浮かんでくる。確かに、どうにかすればこの場を切り抜けて逃走するのも悪くはないかもしれない。だがそうすれば、必ず犠牲者を出す可能性がある上、それ以上に取り返しのつかないことになるかもしれないと考えたのだ。その上、仮にもしも、
いずれにせよ、断るという選択肢にメリットがないと、エンタープライズは考えた。考えて、一呼吸置くと彼女は言った。
「……わかった。貴女方の提案を受け入れよう」
「姉ちゃん⁉︎」
「エンタープライズ様‼︎」
「エンタープライズ!」
「ええっ⁉︎」
「理由、聞いてもいい?」
「もう何なのよさっきから! 誰かハムマンにも分かるように説明してよ‼︎ というかまだこの子目を覚まさないし! 私より色々大きいのになんで私に背負せるのよ! もう! 誰か何とかしてよ!」
「その代わり」
動揺の声を上げる僚艦達の声を抑えるように、エンタープライズは言った。
「……その代わり、貴女方の知っていることを、全て話してくれ。この船のことも、貴女方のことも、"奴等"…、あのセイレーン達に起きたことも」
その返事に、一瞬虚をつかれたような表情をしたキング・ジョージ5世だったが、直ぐに柔かな笑顔を浮かべた。まるで、その答えを待っていたと言わんばかりの表情だった。
「流石はユニオン最強の空母と言われるだけのことはある、貴女の強みとは正しく、幸運よりもきっとその機転と理解の速さだ。ハーマイオニー!」
するとハーマイオニーと呼ばれた、白髪でメイド姿をした巡洋艦型KAN-SENが、他のKAN-SENを伴いながら、7つの首輪のような装置を載せた銀色のトレイを持って、ハッチへと降りてくる。そしてエンタープライズ達の目の前まで来ると、その装置を首に取り付けていく。ハムマンやホーネットなどは、爆弾か何かと思ったのか最初こそは嫌がる素振りを見せたが、エンタープライズやベルファストが拒絶することなく首輪をつけられているのを見て、大人しくなった。
全員の首に装置が装着された正にその時、コンテナ内のスピーカーに通信が入った。
『ジョージさん、こちら綾波。先程瑞鶴さん宛に"サイレンス"さんから連絡が。"厄介者"を取り逃がしてしまい、今し方こちらへ向かっているそうです』
「そうか。仕留めきれなかったとなると、"スレイプニル"殿達に対応してもらうことになりそうだな。彼女達はまだ近くに?」
『はい、あと数秒で到着するそうです。それまでに戦闘の準備をして欲しいそうです』
「了解した。これからエンタープライズ殿達を連れて直ぐに戻る」
「……了解」
どうやら、"奴等"が此方に向かってくるらしい。そんなやり取りを見てエンタープライズは思わず出撃したいと言い出しかけたが、他ならぬキング・ジョージ自身に止められる。
「貴女が向かったところで、"奴等"に私達の攻撃は通用しない。というより、全ての物理攻撃が効かない。私達の武器では足手纏いだ」
「何だと⁉︎」
「残念ながら、今のところは"彼女達"に対応してもらうより他ないんだ。私達の"ベースキャンプ"で、今そのための新装備を作って貰ってはいるが、まだ完成していなくてね。兎に角、話の続きはCICで話そう」
そう言って、ジョージは通路のドアをくぐろうとしたが、そこで彼女を呼び止める声がした。ジャベリンだ。
「あのっ! キング・ジョージさんっ! 今のって、綾波ちゃんですよね……? 綾波ちゃん…、此処に、この船に…、乗っているんですか……?」
それを聞いたジョージは、微笑んで言った。
「そうか、君とラフィー君は綾波君に会ったことがあるのか。心配しなくていい、彼女もこの艦に乗っていて、今はメインブリッジにいる。積もる話もあるなら、まずはこの闘いを乗り切ろう。さあ、ひとまず今は急いでくれ」
そこまで言い切り、複雑そうな表情を浮かべるジャベリンが、納得するかしないかという様子を確認しないうちに、ジョージと乗組員に促される形で、エンタープライズ達はコンテナ内を後にした。自分達を待ち受けている危機とは、一体何なのか? そして、ジョージが"命綱"と呼んでいたこの装置とは何か? 全ての答えを知りたいと言う欲求が、彼女達の足を次第に早めていった。
……だが同時に、息を切らすハムマンの背中の上で、白い少女の意識が、覚醒に向かいつつあることを、まだ彼女達は知らなかった。
///////////////////////
[アンさん、現れた"バイド"はどんな奴なの?]
『待って、確認します……。そうですね、汚染された"タブロック"だと思います。其れもバイド体としては、今まで私達でも確認したことのないタイプですね…。通常ならオレンジカラーが基本色で、近接型や重ミサイル攻撃型などは赤や緑色をしているんですけど、此の個体については青いし、武装の通常のミサイル系とも違う砲撃特化型のようです。しかもボスの護衛を無視してまで取り巻きと一緒に追撃しにきたみたいですね。ひょっとしたら、かつて連合軍が試作段階で廃棄した機体を汚染したのかもしれません…。其れにしてもこんなもの、一体どこで……』
『おぉい、アン。 何か知んねえけど、此奴護衛というか、随伴機連れてるってことは、バイドのコマンダーとかそんなのじゃねえのか? 普通のタブロックよりバイド係数高かったんだろ? だいたい、"ドプケラ"じゃなくて"ゲインズ"の後期型に"Uロッチ"が2機ずつなんて編成の時点でおかしいだろ。一緒にこの"バルムンク"で吹き飛ばしちまおうぜ』
『わわっ、駄目ですよステイヤーさん‼︎ 実戦配備型ならまだしも、試作型ですらまだ必要数が足りてないんですよ⁉︎ そんなに最初から使い過ぎたら……』
『うるせぇなパウ! アタシだって設備とか補給が充実してないことくらいわかってんだよ‼︎ でもやらなきゃしゃーねーだろォ! いいから早くバルムンク寄越せよ、でねーと先にオメーから撃ち落とすぞ‼︎』
『ひぃぃ‼︎』
『おいおい、2人ともそんな場合じゃないだろうに。アン、お前やエンジェル達はあとどのくらいかかる?』
『あのタブロック、かなりのやり手で…。今彼奴らのばら撒いた雑魚たちの処理をしているんですけど、此方の予想より大規模にやって来ています。バイド係数のことも考えると、やはり通常のタブロックではないかと……』
『了解、其方の対処は任せる。此方はジョージ達の護衛と、タブロック達の殲滅をはじめとくよ。…まあ、兎も角そういうわけでさ"瑞鶴"、大変恐縮だがヨルムンガンドのデコイシステムを"叩き起こして"くれないか? 此方は、今からお客の出迎えで忙しくなる。やり方は前に教えた通りだからさ。宜しく頼むよ』
[わかったわ"ボマー"、兎に角頼むわね]
『此方も了解しました。どうかご武運を』
通信を切って、周りにいたKAN-SEN達に指示を出すと、溜息を吐く。そして金属製の天井を見上げて、"瑞鶴"と呼ばれた、赤いドレスと翼のような着物を着た女性は言った。
「…さてと。私も急がないと。そろそろ忙しくなりそうだし。にしてもやっぱ、あんまり慣れないなあ。これ。口開かないでしかもたった数秒で会話出来ちゃうけど、なんかこれじゃないと言うか…。其れに…」
窓の外を見る。
すると、前方に艦と同じ大きさの光が生じたかと思うと、直ぐに光は形を変えて、形状も色も全く同じ艦が現れた。瑞鶴は思った、そもそもデコイとは一体何だっただろうかと。
「信号とかなら兎も角、なんか…、こう…、もう影分身だよね? アレ…。デコイってさ…、あんなだったっけ……?」
すると、通路へと続くスライドドアが開き、キング・ジョージとエンタープライズ達が姿を現す。最初はジョージに挨拶をした瑞鶴だったが、一緒に入ってきたのがエンタープライズ達だと認めた瑞鶴は思わず驚く。同時に其れは、エンタープライズも同様だったようだ。
「あ、ジョージさん。今戦闘準備を……、って! エンタープライズ‼︎ アンタも生きてたの⁉︎」
「お前は…! 確か重桜の……‼︎」
「重桜航空戦隊所属の五航戦、翔鶴型空母二番艦の瑞鶴よ。やっぱり生きてたのね、グレイゴースト!」
「ああ、残念ながらな。とはいえ、今は貴女と争うつもりはない」
「確かに、アンタとはやり合いたいけど! 今はそんなこと、私だって理解してるよ! 伊達に彼奴らとかち合った訳じゃないんだから。まあ、無事で何よりよ。今アンタに死なれちゃ困るし……」
「ん? どういう意味だ?」
「こっちの話よ、気にしないで。それよりジョージさん、そろそろ奴等が現れるみたい。その関係で今からボマーたちから先に仕掛けるそうよ。こっちはもうデコイを起動させたから、後は後退するだけでいいんだけど…、どうする?」
「後退は正しい判断だよ、瑞鶴。今は武器もレールガンくらいしかないし、その上まだ修理が終わってないからね。なるべく早く安全圏にまで離脱しよう」
「了解」
そのようなやり取りを終えた途端、後ろから何者かの呻き声が聞こえる。ハムマンのいる方角だ。全員が振り返ると、ハムマンに背負われた少女が、ちょうど目を覚ましたようだ。背負われた少女は寝ぼけながらも、自分がハムマンに背負われていることに気づき、謝罪と同時に素早くハムマンから離れた。「気にしていない」というハムマンだったが、その息も絶え絶えな様子に少女のみならず、ノーザンプトン達や乗組員のKAN-SEN達が介抱を始める。そこへ、1人の人物が少女に話しかける。キング・ジョージだ。
「こんにちは、お嬢さん。私はキング・ジョージ5世。この艦の艦長代理を務めている。誠に僭越ながら、お名前をお伺いさせてもよろしいかな?」
「あっ、えっと…」
「済まない、キング・ジョージ。実は彼女は記憶喪失で、自分の名前すらわかっていないんだ……」
「そうだったのか? 私はてっきり、彼女も"R戦闘機"の1人で、彼女に助けられた時に貴女方もそのことを知ったとばかり……」
「"R戦闘機"? 一体何だ其れは?」
エンタープライズがそう聞き返した瞬間、艦内に警報が鳴り響く。
同時に、艦橋内の大型スクリーンに映像が映し出される。雷雨と暴風吹き荒れる暗い海を、脚や腰などに、まるでKAN-SENの艤装のような何らかの装置を装着した謎の少女が3、4人ほど映り込んでいる。映像は、その中の1人の持つカメラから出力されているようだ。まるで見たことの無い艤装ばかりだ、というよりあの白い少女にそっくりじゃないか、とエンタープライズが考えていると、身に付けている少女達の殆どは『E.A.A.F.』と書かれた、白地に青い腕章を付けていることに気づいた。そして何より彼女達の腕章には、其れとは別に奇妙なエンブレムも縫い付けられていたのだが、そのエンブレムは、あの白い記憶喪失の少女の用いていた球体のような兵器とあの戦闘機に酷似した絵が、見慣れぬ文字とともに描かれている。
("E.A.A.F."? "R-99"? "オペレーション・ラストダンサーズ"? 一体何なんだ?)
そこまで疑問を浮かべたところで、エンタープライズの思考は途切れた。キング・ジョージが肩を叩いてきたからだ。ジョージは言った。
「……たった今向こうから連絡がきたよ。残念ながら、このまま戦闘になる。こちらから巻き込んでしまい、大変申し訳ないがこのままあともう少しだけ付き合ってくれないか?」
「何⁉︎ ということは、後退する暇はないということか‼︎」
エンタープライズが思わずそう言ったが、当のジョージ本人はというと、何処か余裕ありげに言った。
「いや、多少の危険は伴うが、むしろ良い機会とも言えるね。彼女達とあの化け物どもが、一体何者で何処から来て、何の目的で動いているのか…、口で説明するよりも直接見る方が早い」
「だが其れでは…⁉︎」
「危険を承知なのは分かる。だが、今はデコイも起動していて、おまけに彼女達もいる。出会ってからまだ日は浅いがね? 其れでも貴女方よりは我々の方が、彼女達との付き合いは長い。……大丈夫さ、勝つよ」
エンタープライズには、キング・ジョージが最後のに言った、「勝つよ」の一言は、妙に気迫が掛かっているように聞こえた。その理由が何なのかを考えられないうちに、
「ロボット……?」
後ろの方からそういう声が聞こえた。スクリーンに映る巨大な5つの人影は確かに、生物ではなく明らかに人型の人工物だった。中でも特に大きいのは、画面中央に魔王のように居座る機体だ。全身が青く、緑色のバイザー型モノアイが特徴の鉄の巨人は、両腕や両肩が巨大な砲身と化し、全身に小さな大砲が幾つも取り付けられていた。あれではナイフもフォークも握れないねえ、というホーネットの場違いな冗談が聞こえた気がしたが、直後に画面上で青白い球形の爆発が起きると、すぐさま其れは驚愕の声に変わった。
何が起きたのかは、スクリーンの視点が変わるとすぐに理解した。とうとう謎の4人組が攻撃を始めたらしい。目に見えないほどの速度で加速しながら、さまざまな色の光弾や、機銃弾や誘導弾を次々と発射する。特に誘導弾は、先程の青白い球のような爆発を起こすものが非常に強力なようで、4人組の1人の長身で、銀髪のロングヘアーをした少女の持つ大型ランチャーから撃ち込まれているようだ。
「始まったな。順当に行けば、あの機動兵器達を沈黙させられるかもしれないが、さて……」
だがジョージの言葉とは裏腹に、敵もまた隙が無く、4人からの砲撃が一瞬止んだと見るや、すぐさま随伴機と共にさらに強力に見える、オレンジ色のエネルギー弾を発射する。だが少女達は、航空力学も何もありはしないと言わんばかりに、あり得ない挙動で人型兵器を追い詰めていく。ある者は急加速からの急停止、ある者は高速のまま空中で90度の直角から急降下や急上昇、ある者は跳ね回るような動きとスピードで、1秒も経たないうちに回転しながら高空と海面を行ったり来たりを繰り返す。エンタープライズ達には自分たちの見ているものが信じられなかった。ある者は絶句し、ある者は自分の頬をつねる。またある者は、唖然とした表情でスクリーンを見つめている。エンタープライズは訊いた。
「……一体、アレは、何だ?」
「"22世紀からやって来た遭難者"……、彼女達が自らそう名乗ってるわ」
「22世紀だと?」
ジョージの代わりに答えた瑞鶴に、思わずそう聞き返す。瑞鶴は続ける。
「詳しいことは分かんないけど、事故で流れ着いて来たって話みたい。数年前にも、ウチのところでも似たようなことが起きたのよ。だから一応、ことこういうことには慣れてるつもりだったんだけど…」
「今回は此方の予想以上に、かなり厄介なことになった、です。油断したら、死ぬ、です」
脇の方から近づいてくる声に、全員の視線が向かう。白髪のポニーテールに、セーラー服を来た色白の少女は、ジャベリンとラフィーのよく知る人物だった。
「綾波ちゃん!」
「綾波…」
重桜艦隊所属の特型駆逐艦KAN-SEN、"綾波"は一瞬だけジャベリン達を見やると、何かを言いたげな表情を浮かべたが、直ぐにキング・ジョージと瑞鶴へと向き直って言った。
「レールガンの復旧が終わったです。でも、あくまで応急処置なので、長いことは戦えない、です」
「ありがたい。少なくともこれで彼女達の足手纏いに成らずに済むだろう。後は邪魔にならないように……、ん?」
そこまで言ったところで、急にジョージが耳の裏に指を当てて黙り込む。通信が入ったようだ。また何かあったのか、エンタープライズがそう訊かないうちに、スクリーンの映像にも変化が起きた。
5体いた人型兵器が白く光り始めたのだ。エンタープライズ達は最初、自爆するつもりなのかと考えた。だが、それを踏まえても可笑しなところがあった。光る人型兵器達が一箇所に集まり始めたからだ。
『おい、やべぇぞ! 此奴らタブロックでもゲインズでもねえ! コイツは……⁉︎』
「総員退避! 至急体制そのままで後退‼︎」
驚きのあまり初めて声を上げた謎の4人組の1人の声は、同時に発したキング・ジョージの声と被る。だがジョージも4人組も、そのことに気づかないほどの緊迫した様子を見せていた。
「一体何だ…?」
「エンタープライズ様」
疑問を浮かべるエンタープライズだが、突然のベルファストの声に注意を向ける。そしてそこで、ベルファストの顔が戦慄と驚愕に染まっていることに気づいた。再び、ベルファストが口を開く。
「アレを…」
スクリーンを指差して言うベルファストにつられて、エンタープライズは映像を見やる。既にロボット達の姿は無く、代わりに丸く光る何かへと変化していく。やがて光が収束していくにつれ、其れがどのような姿をしているのか、エンタープライズにも理解出来た。そして、
「何だ、アレは……」
エンタープライズには分からなかった。理解できなかった。何故なら光の中から現れたのは、機械とも生物とも思えないような、紫色の水饅頭のような物体だったからだ。半透明で、内部に目玉のような器官を一つだけ、まるで細胞核のように佇ませたそれは、異質さのみならず言いようのない恐怖を煽っているように感じられた。
(一体、これは、何だ? 私達は一体、何と戦っているのだ? 一体何故、こんなにも『恐ろしい、戦いたくない』と感じるんだ?)
エンタープライズの頭が混乱寸前に陥る中、スクリーンから怒号が響き渡った。
『畜生、なんてこった! メーデーメーデー! 此方ストライク・ボマー‼︎ 敵はタブロックにあらず、敵は"ファントム・セル"‼︎ 繰り返す、此方ストライク・ボマー‼︎ 敵はタブロックにあらず、敵は"ファントム・セル"‼︎ 総員、直ちに此れを撃破せよ‼︎ 繰り返す、総員、直ちに此れを撃破せよ‼︎』
如何でしたでしょうか? 感想・批評等宜しくお願いします。ミリタリーについてはまだまだ勉強中の身の上、どしどしお願い致します。
尚、本作に初めて登場したR戦闘機ですが、キャラクターイメージとしては以下の通りになります。
ステイヤー(イメージ:某URAファイナルズの黄金の不沈艦)
パウ(イメージ:某まん丸お山に彩いれた人)
ボマー(イメージ:某転スラ主人公)
アン(イメージ:某アクトレスの宇佐元アナウンサー)
になります。ステイヤーについては、何故この配役なのかという理由としては、彼女ことゴル○が何故かゲーム「FALLOUT」シリーズの武器、ヌカランチャーを持って寝起きドッキリをしようと暴れる"悪夢?"を見て思いついたからで、今となってはいい思い出です。どのR戦闘機の擬人化かについては、また次回にでも明言させて頂きたいと思います。しかし、またいつになるやら…(遠い目)。あ、因みにチョイ役みたいに登場したタブロックさんは本作オリジナルのモデルである、"重砲撃戦特化型"になります。また機会があったら別の形でまた出していきたいな、と思います。最後に、エンブレムのデザインはイリーガルミッション版を元にイメージしています。
では、また次回もお楽しみに!