妖怪の賢者は茶を飲んで、そこへ旧友が訪ねてくる。
個人的にいいテンポで書けたので、読んでいただけたら幸いです。
ここはマヨヒガ。幻想郷の創設者であり、妖怪の賢者と謳われるスキマ妖怪・八雲紫の住まう場所。
今日も今日とて平和な日和。八雲邸の縁側にて、自身の式が淹れた茶を楽しむ。
「今日も平和ね~……」
平和、と言えば良かろうか。少し退屈と感じるところも彼女にはあった。
ここ最近は妖怪たちも異変を起こすことなく、博麗の巫女もまた暇そうにしていたのはつい昨日のこと。かと言って異変を起こされるのが喜ばしいかは別として。
ずず、と茶を湯呑から飲む。
「あら、茶柱」
何だかいいことがありそう、と小さな幸福感に満たされる。
何かいいこと。
例えば今晩のおかずが好物であるとか、いい夢を見るとか。
「おっひさー、ゆっかりーん」
「ぶほぉっ!!?」
例えば旧友が訪ねてくるとか。湯呑から。
突然の出来事に、八雲紫は女性らしからぬ反応と咽る苦しみを味わった。
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「粗茶でございます」
「ありがとー」
紫の式・八雲藍から茶を振る舞われる紫の旧友。
八雲邸の居間にて卓を囲んでいる八雲一家と来訪者。
その旧友と向かい合い、卓を挟んで紫は正座して座っている。その後ろに藍と藍の式・橙が控える。
「いやー、ほんと久しぶりだねーゆかりん」
「えぇ、本当にそうねクリス」
クリス。それが主の旧友の名かと藍は彼女を見る。
クリスという西洋的な名前の割に、外見からは一切西洋的要素はない。
髪は黒く艶やかで、身に着けているものは暗色だが豪華絢爛な十二単。強いて言えば肌は白いが顔立ちは東洋系、色白の大和撫子といった雰囲気である。
外見の年齢も見たところ、紫と同じほど。男の目を引く美女である。もっとも紫はそれ以上の時を生き、旧友であるクリスもまた同じであるかもしれないため外見からの推測ではあてにならないのだが。
「にしても、そこの式ちゃんにはお初だねー。紹介してよー」
にこにこと笑いながら言うクリス。それに対し紫は苦笑を浮かべる。
「紹介するわ。こっちがわたしの式の藍、こっちが藍の式の橙よ」
「八雲藍と申します」
「ちぇ、橙と申しましゅっ」
藍は主の旧友へとしっかりと名乗るが、橙は緊張のあまり噛んでしまった。
「よろしくねー、ランラン、チェンチェン」
「ら、ランラン?」
「ちぇ、チェンチェン?」
何故かあだ名を付けられ困惑する二人。何だかパンダのような名前だ。
何というか軽さにどう対応するのか迷うものなのである。
紫はクリスの様子にはぁ、とため息を吐く。
「百年ぶりなのに、あなた相変わらずね」
「ゆかりんはちょっと変わったねー」
「あら? そうかしら?」
「うん。ちょっと太った?」
―ピシィッ
場の空気が固まった。
女性への禁句、「太った?」をまさか大妖怪に言い放つとは式二人は思いもしなかった。
紫は頬をひくつかせながら、笑みを浮かべたまま会話を続ける。
「あ、あら? そうかしら? そんなことも一度も――」
「いやだって大妖怪に面と向かって言えるわけないじゃーん」
「き、気のせいよ。久しぶりだからちょっとそう思うだけで」
「ほっぺたが何かもっちりしてるし、お尻もちょっと大きくなってるように見えたよー。あとおっぱいはそのままだねー、そこも大きくしようよー」
「べ、別にそれで困らないわよ?」
「年がら年中寝てるから?」
「ぐふっ。や、やぁね。そんなことあるわけ」
「でも冬眠は? そのためにばくばく食べるでしょ?」
「いや、だか」
「食べるだけ食べて、寝るだけ寝て、それで動きはしないでしょ? 移動もずっとスキマでやってるし、そりゃ太っちゃうよゆかりん」
「ぐ、うぅ、何よ……久しぶりに会ったのにぃ……」
紫、撃沈。涙目である。
藍と橙はどうすべきかと困惑。というか、この人本当に旧友か?、と思い始めている。
「ま、挨拶はこれぐらいにして」
「今のどこが挨拶なのよぉ……」
クリスに対して恨めしそうに言うが、言われた本人はどこ吹く風。
「あ、あのクリス、様でよろしいでしょうか?」
「んー? 何かなランコちゃん?」
「ランコ……? あ、いえ、あなた様は紫様の旧友であるということは、あなた様も同じく大妖怪、なのでしょうか?」
「いや、違うよ」
返されたのは否定。大妖怪ではないという返答。
「ていうか、あたし妖怪じゃないし」
「……って、えぇ!? 違うんですか!?」
「うん。あたし悪魔」
悪魔。その言葉に藍と橙は固まる。
紫を見ると、若干涙目の困った笑顔。
「えっとね、彼女の名前は窮利易子と言って――」
「クリエキス……? て、紫様もしかして」
「そー。お察しのとーり、あたしは造物大女王。異境の十一の魔王を束ねる第一魔王なのだー、うははー」
何とも軽い自己紹介。しかし内容はそんなに軽いものでなかった。
その名を聞いて藍は慄く。しかし橙は分からぬらしく、頭に?を浮かべている。
「藍様、クリス様はそんなにすごい方なのですか?」
「あ、あぁ。橙は知らないんだね」
そう言えば教えていなかったな、と説明を始める。
ここ幻想郷のように隔離された世界というものはいくつか存在する。その中の一つが異境。それがクリス――造物大女王の住まう世界。
幻想郷が妖怪の理想郷であるとするならば、異境は悪魔の楽園とでも言うべき場所。
異境には住まう悪魔を束ねる十二の棟梁――魔王が存在する。
第十二魔王・川辺敵冥。
第十一魔王・三本団左衛門。
第十魔王・北海悪左衛門。
第九魔王・羽山道龍。
第八魔王・焔野典左衛門。
第七魔王・山本五郎左衛門百谷。
第六魔王・神野悪五郎日影。
第五魔王・野閒閇息童。
第四魔王・神野長運。
第三魔王・積陰月霊大王。
第二魔王・無底海太陰女王。
そして第一魔王・造物大女王。
この十二の魔王が異境を束ね、そのうち別格とされる造物大女王と無底海太陰女王の二人。第一が魔王を束ね、第二が補佐をするという形で異境の世界は成り立っている。
しかし、皆悪魔であるため基本的に自由人。趣味ややらかすことが災厄振りまくなどといった実に迷惑極まりない輩なのである。ちなみにその輩筆頭が大造物女王であったりする。
ひとまず自分の知っていることを橙へと教える。
「つまり、クリス様はその異境というところでの紫様なのですね!」
「うん、そんなとこー」
「す、すごい方なのですね! そうとは知らずご無礼を……」
「ははー生贄となることで許してしんぜよーう」
「えぇっ!?」
生贄、という言葉に橙が泣きそうになる。
紫はため息を吐きつつ、クリスへと話を続ける。
「そんな意地悪しないでちょうだい。で、何か用があってきたのかしら?」
「うん。二つあってね。久々にゆかりんをいじめたくなっちゃてさー」
「もう、それに関してはツッコまないわ。あなたそういうことのために百年ぶりの再会果たすものね」
「悪魔ですので。てへぺろろ」
「はぁ……。それで? もう一つは?」
「山本の阿保を探しに」
「……え?」
クリスの言葉に思わず固まる。
「ごめん。何を探しに?」
「山本の阿保」
「……山本五郎左衛門?」
「うん」
山本五郎左衛門。異境の第七魔王。
それを探しに、幻想郷へ。
「何かさー、神野ちゃんに負けてこき使われてたからさー。仕事さぼって、何か災厄振りまいたる、てこっちに逃げたみたい」
「……ここに?」
「うん」
「幻想郷に?」
「うん」
紫は固まる。藍と橙も固まる。よくわからないがとてつもなくまずいことになりそうだと直感でわかる。
それに対して、魔王の責任者はこう言った。
「許してね? てへぺろりん」
賢者の怒号が響いたのは言うまでもなし。
ちなみに魔王の名前ですけど、私はまったく読めません。