MAN OF THE STEEL 作:COTOKITI JP
『廃域』。
それはあの化け物達が大量発生してから凡そ二ヶ月ほど経ってから見られるようになった。
地面は焦げている訳でもないのに真っ黒に染まり、所々に赤黒く、大小様々な未知の物質で構成された結晶の様なものが生えている。
そしてそこには大抵、大量かつ強力な化け物が潜んでいる。
廃域の発生条件は不明、突然なんの前触れも無く発生し、凄まじい速度でその範囲を広げて行く。
そのせいで廃域の渾名は
人々はその黒波だけを唯一恐れ、日々を過ごしていた。
ひょっとしたら自分の足元に発生するかもしれない。
安全圏が崩壊するかもしれない。
黒波に対する恐怖は、恐らく何よりも大きかった。
「……ま、間違いねぇ……廃域だ……」
地面を埋め尽くす炭のような色の粉を手で掬いながら、アリフは言った。
その顔には驚愕と、焦りが混じっていた。
真っ黒に染められた大地、砂漠のサボテンのようにあちこちの地面から突き出ている謎の結晶。
モズは
廃域はとてつもない化け物が出るとの事なので周囲を警戒していたのだが、モズはすぐ目の前に結晶があるのを見つけた。
結晶があるとは話には聞いていたが、触れてはいけないとは聞いていないので恐らく大丈夫だろうと足を踏み出す。
ゆっくりと近場にあった人一人位のサイズの結晶に歩み寄り、その手で触れた。
遠目に見れば確かに見た目は結晶だが、これは結晶と言うには表面がやけに凸凹している。
触った感じもまるで岩に触れているかのようだった。
岩、と言ってもザラザラとした感触ではなくどちらかと言うとつるつるしていて滑らかな感じがした。
面白そうなので採取してみたいが、生憎それが出来るような道具は持ってきていないし、それにこの岩は話に拠れば硬すぎてドリルどころか爆薬すら通じないそうだ。
肌触りを充分に堪能した後は岩の見た目をじっくりと観察する。
色合いは、全体的には黒いが内部が赤くなっているのが見て取れた。
その不思議な岩をじっと見つめていると、突然その岩が発光し、目が眩むほどの赤い光が発せられてモズは思わず顔を両腕で覆った。
「うおっ!?」
「モズ!どうした!?」
突然の光と呻くモズに、アリフとリーシャは駆け寄って来た。
かなりの光量だったから失明を心配しているのかもしれない。
幸い目が眩んだ程度なので、視覚にはさほど影響は無かった。
「大丈夫かよオイ?」
心配そうにしているリーシャと顔を見合わせ、大丈夫だと平気そうに返す。
そうすればリーシャとアリフも安心したように溜息を一つついた。
「ビビったぜ……てっきり大爆発でも起こるのかと思ったぞ」
「一体あの光は……?」
あの光はモズが手を触れてから間も無く突如発生した。
岩を構成している物質が人体と接触して何かしらの反応を起こしたのでは、と自分なりに推測してみるが、どの道今は原因は不明だ。
しかし、少し気になる所があった。
光が発生した時、気のせいかは分からないが岩が発光するのと合わせて
恐る恐る自分の腕を確認してみるが、特に何も無かった。
やはり気のせいかと自己解決し、光の事は頭の片隅に追いやった。
そんな中でたまたま人工物を遠くに見つけたのはリーシャだった。
「なぁ、あそこになんか無いか?」
指を指した方角に双眼鏡を向け、その人工物の正体が明らかになる。
「おい……ありゃコンボイじゃねえか?」
「本当か?」
アリフから双眼鏡を受け取り、モズも確認するが、MBTが二両に輸送用の大型トレーラーが一両。
間違いなく今回の標的だったコンボイだ。
何故、こんな所で止まっているのかは、近付いて見てみれば直ぐに分かった。
MBTは二両共内部から発生したと思われる謎の赤い結晶によって内側から破壊されていた。
片方は砲塔が結晶によって引き剥がされて内部が結晶に埋め尽くされているのが見えた。
どう見ても動ける状態ではないので脅威がいなくなったのは有難かった。
「こりゃひでぇ、
「だが、トレーラーは運転席が潰れただけで荷物は無事みたいだな」
アリフが口に咥えた煙草にライターで火をつけようとすると、火打石を回す前にその手をモズによって掴まれた。
「なんだよ?」
「地面をよく見ろ」
地面に視線を移すと、モズが止めた理由が分かった。
大破したトレーラーやMBTから燃料が漏れ出していたのだ。
既に気化しているのか、地面に燃料が溜まっているのは見えなかった。
しかし、気化したガソリンは空気よりも重く、そこらの地面で滞留しているのは間違い無かった。
「あっぶねぇ……危うく吹っ飛ぶ所だった……」
そう言いながらそそくさと煙草とライターを仕舞うアリフを見て、モズは顔には出さずとも安堵した。
モズとて三人諸共爆散は御免だ。
「やっぱり貨物室は鍵が掛かってる。 爆薬を持って来てくれ」
「あいよ」
トラックの荷台からIEDを取り出したアリフはリーシャに向かってそれを投げ渡す。
杜撰な爆発物の扱いを特に咎めること無く貨物室の扉に手際良く仕掛けると起爆装置のスマートフォンの電源を付けた。
「よし、離れろ、吹っ飛ぶぞ」
設置の終了したモズ達は急ぎ足でトラックを動かし、砂の盛り上がった場所の裏に隠れた。
アリフが自分のスマートフォンを取り出し、起爆装置の電話番号に電話をかける。
一回目のコールとほぼ同時に遠くから大きな爆発音が聴こえた。
「こっからスピード勝負だ!さっさと奪ってトンズラするぞ!」
モズの携帯に犠牲になってもらった事に感謝しつつ、アリフはアクセルをふかした。
爆発で扉の破壊された貨物室に駆け込み、モズが拳銃を構えながら中をフラッシュライトで照らした。
しかし、そこにあったのは支援物資などでは無かった。
金属管やら配線やらに覆われた鉄の柱の様な機械があるだけだ。
これにどのような意味があるのかは分からないが、モズ達の目標ではない事は確かだった。
「なんだぁこりゃ?」
「何かの機械……みたいだな」
「デカイな…4,5mはあるぞ」
その謎の機械のスケールは圧倒的であり、見上げる程とまではいかなくとも視界に収まり切る事は無かった。
貨物室の中心まで進むと、もうさいけっかんのように張り巡らされた金属管と配線の中に一つ、何かが埋め込まれている窪みがあった。
よく見てみればそこには赤色に妖しく輝く石があった。
いや、具体的に言えばあったと言うよりかは
「何なんだこれは……」
赤色の宝石のとも結晶とも言える見た目の石をまじまじと興味津々で見つめるリーシャと半ば警戒しつつ観察するアリフの姿がそこにはあった。
「おい、どうするんだ? 早く決めないと新手が来るぞ」
モズの問い掛けに対するアリフの答えは思いの外早かった。
「……今回はハズレだな。 帰ることにしよう。」
アリフの目付きから滲み出ている警戒心を感じ取ったモズは迷い無く彼に賛同し、リーシャも渋々帰ることにした。
「さっさと帰───」
何かが弾ける音、貨物室に飛び込んでくる何か。
これらを聴覚で、視覚で感知したモズの行動は早かった。
「伏せろっ!!狙撃されてるぞ!!」
二人が瞬時に伏せた事を確認すると、貨物室の壁に開いた穴を見た。
銃弾は右の壁を貫通し、左の壁までもに風穴を開けていた。
これを見てモズが導き出した答えは一つ。
「相手は12.7mmクラスかそれ以上の対物ライフルを持ってる!こっちは撃たれ放題だ!!」
「クソっ!貨物室から急いで出ろ!!」
次々と飛び込んでくる銃弾を間一髪で躱しながら、何とか貨物室から脱出することが出来た。
しかし、貨物室を出て早々に待ち構えていたのは複数人による機関銃の一斉射撃だった。
「あーチクショウ!!隠れろ!ミンチになるぞ!!」
銃弾の嵐の中を這って進み、漸くMBTの残骸の裏に隠れた。
数百発もの銃弾がレオパルトの装甲に阻まれ、激しい火花と共に跳弾する。
反撃する暇も無い弾幕にモズが歯軋りしていると、リーシャから悲鳴にも近い声が上がった。
「アイツら無反動砲を持ってる!!この戦車ごと俺達をぶっ飛ばすつもりだ!!」
「あー!!もう勘弁してくれぇ!!」
文句を垂れている間にも発射されたHESHがレオパルトの側面を貫き、炎上し始めた。
「このままだと弾薬庫に引火するぞ!逃げろ!!」
エンジンから出火したレオパルトを棄て、別の遮蔽物を探そうとしたその時だった。
けたたましい金切り声にモズ達の動きが止まり、敵の銃声も止んだ。
その金切り声は、モズのとっては余り聞き覚えの無い物だったが、声の様子からしてマトモな奴では無いことは確かだ。
何よりも一番驚いたのは
「アイツら! 地面から出てきやがった!!」
その化け物は地面から生えてくるという事だ。
人型だが、体毛は一切なく、灰色の体に細々とした四肢、四対の目に、肉食獣のような牙の生えた大きな口を持っており、人とは似ても似つかなかった。
ソレが数百匹単位で群れを成してやってきたのだ。
またもや相手の発砲が始まったが、今度は狙いはモズ達ではなくあの化け物のようだった。
「こんな所にいる訳にもいかねえ!アイツらの所へ行くぞ!!」
「何言ってんだ馬鹿!!相手はこっちに銃口を向けて来た敵だぞ!?」
「そんなこと気にしてられるか!!どの道早く動かないとアイツらの餌食だぞ!!」
「あぁー!クソ!!どうなっても知らねえぞぉ!!」
モズがテクニカルの銃座に付き、リーシャは荷台でその援護、アリフは嫌がってた割には自分から運転席に乗り込んでいた。
ハンドルを切り、相手の方へと全速力で車を走らせる。
徐々に距離が縮んでいき、相手の人数が7人だというのが分かる程には近付いた。
そして幸運な事にも相手は撃ってくる様子は無く、隊長らしき兵士がこちらに手を振り、明らかに援護を要請していた。
「どうやらアイツらも同じ考えだったみたいだな!!」
テクニカルを彼らのすぐ傍に止め、モズは重機関銃、『Kord』を構え、チャージングハンドルを右手で引き、初弾を薬室に込めた。