「ロンドンに行きたいかー!?」
麻菜が盛大に声を掛けた。
それに追従するのはマシュとノリがいい一部のサーヴァント達。
「というわけで、第一回チキチキロンドン大炎上、特異点もついでに修復するよ、に参加するサーヴァントを10名決定したいと思う! 司会は私、ダ・ヴィンチちゃんが務めるよ! ではまず手元のしおりを見てくれ!」
盛り上がる会場にオルガマリーは白い目だった。
「何なのこれ」
「僕もよく分からないけど、まあ、いいんじゃないかな……」
ロマニの答えにオルガマリーは溜息を吐く。
虞美人と項羽はこのふざけた集会には不参加である。
彼女が良からぬものを感じ取ったらしく、絶対に行ってはダメですと項羽を説得したのだ。
なおロマニは先程の会議室での件をオルガマリーから直接聞き、マシュの寿命が大幅に伸びたことに喜んでいた。
そうしていると、サーヴァントを決定するので来て欲しいと麻菜からの
「とりあえず、しおりを見てみよう」
「ええ、そうね……」
2人が手元のしおりに目を落とすと、そこには色々と書き込まれていたが、一際目を引いたのは大文字で書かれていた箇所だ。
攻撃目標
大英博物館、ロンドン橋、時計塔など
作戦名:第二次ゼーレーヴェ
「ちょっと待って! 何よこれ!? いつからウチはナチになったのよ!?」
「あ、これ知っている……あの漫画だ……」
「ロマニ!?」
2人のやり取りは会場の喧騒にかき消される。
「ここで審査員の我らがマスター、麻菜から一言!」
「諸君! 私は戦争が好きだ! 私に付き従うサーヴァント諸君! 10名という狭き枠だが、許して欲しい!」
「はい、どうもありがとう! で、先発隊と本隊に分かれるよ。先発隊は3人から4人ってところだ! マシュは無条件に同行するけど、彼女は10人の枠とは別枠なので大丈夫だ!」
ダ・ヴィンチの言葉に大いに沸くサーヴァント達。
とはいえ、オルガマリーもロマニもそれらが一部のノリの良い連中だけであることがよく見えた。
カーミラやメディアなどそれなりの数のサーヴァント達がテンションについていけていなかった。
しかし、そんな彼らの手元にもしおりがあり、ちゃんとしおりの中身を読んでいるらしいことが見受けられた。
「といっても、自己アピールなんてやりだしたら時間がいくらあっても足りないから、麻菜がこの場で独断と偏見と直感で決めるよ!」
「この会場に私達がいる意味あるのかしら……」
「まぁまぁ……ほら、パーティー編成とか改めて提出しなくてもいいし……」
呆れるオルガマリーに前向きなロマニ。
そうこうしているうちに、麻菜による発表が始まった。
「1番目は……玉藻!」
よっしゃー、と拳を天高く突き上げる玉藻。
本人としても絶対呼ばれるという確信はあったが、それでも嬉しいものであった。
「当然ね」
「当然だねぇ」
オルガマリーもロマニも同じ感想だった。
玉藻は全力でなくても、権能により何でもできるのだ。
純粋に知識も豊富であり、何が起こるか分からない特異点ではこれ以上頼りになるサーヴァントもいないだろう。
「2から5番目。セイバーのアルトリア・オルタ、セイバーのアルトリア、ランサーのアルトリア・オルタ、ランサーのアルトリア」
「おっと、いきなりのアルトリア達! 麻菜、どういう理由で?」
「イギリスといえばアーサー王なので」
「なるほど! 確かに!」
麻菜の理由にずっこけそうになるオルガマリーとロマニ。
「6番目と7番目、ジャンヌ・ダルク! ジャンヌ・オルタ!」
「やりましたよ! オルタ!」
「ちょっ! 抱きつくな!」
抱きついて喜ぶ白いジャンヌと抱きつかれたのを引き剥がそうとする黒いジャンヌ。
ダ・ヴィンチが同じように理由を尋ねる。
「ちなみに理由は?」
「2人共、フランス人なので。イギリス出身サーヴァントに何かないかなって。過去の因縁的に」
ないでしょう、とオルガマリーは否定する。
ロマニは苦笑しながら、そんな彼女を宥める。
「8番目……メディア!」
「何でかしら、すごく嫌な予感がする……」
メディアは名前を呼ばれた瞬間に直感した。
どこかで見たようなパターンだ。
しかし、彼女の呟きは聞こえず、麻菜は理由として魔術の腕と知識を挙げていた。
だが、歴戦の魔女はそれは嘘ではないが本当でもない、と即座に見抜いた。
「……この間、セイバーのコスプレをさせたのを根に持っている……? いえ、コスプレはこれまでも彼女はノリノリだったし、その後の体液とかの採取も同意の下だし……」
ブツブツと呟くメディア。
何だかんだと彼女が麻菜のような美しい少女を愛でないわけがなく、様々なコスプレだったりとか洋服をプレゼントとしていたり、単純に魔術的な実益と趣味も兼ねた体液などの採取を行っている。
麻菜の体液は魔術師からすれば素材として垂涎モノであり、たとえ1滴であれど、とんでもない魔力を秘めているのだ。
勿論、体液だけではなく髪の毛やら爪やらも。
「くそっ! 何でメディアなんだ! 私だって! そりゃ体型は……でも、テクニックなら……!」
メディアの横ではキルケーが地団駄を踏んでいた。
まだあと2枠あるが、自分より先にメディアが呼ばれたことが何となく気に食わなかったのだ。
「9番目、哪吒」
哪吒は呼ばれたことにはにかんだ笑みを浮かべた。
その表情を見てしまった黒髭が胸キュンしてしまい、気持ち悪い笑みを浮かべたが、即座に隣にいたマルタに制裁されて床に沈んだ。
残るは1枠。
これまで呼ばれたサーヴァントを総合すれば全体的にバランスが良いパーティーに仕上がっている。
故に最後は誰にも可能性があった。
単純な戦闘力をより分厚くするか、あるいは後方支援や補助を分厚くするか、もしくは偵察の為にアサシンクラスが呼ばれる可能性もある。
「最後は……スカサハ=スカディ!」
「ふふん! 当然だ! やはり汎人類史のスカサハなどとは格が違った!」
ドヤ顔のスカディはスカサハに対し、挑戦的な言葉を投げかける。
しかし、スカサハは動じない。
「私はこれまで何度も特異点に麻菜と共に赴いたからな。たまには行き遅れに譲ってやってもいいだろう」
「あ? ババア、凍らせるぞ?」
「黙れ、婚期逃し。燃やすぞ?」
睨み合うスカディとスカサハ。
一触即発と言っても過言ではないが、そんな状態を麻菜が放っておくわけがない。
「スカディ、私があなたを貰うから安心して。スカサハ、あなたは永久に私の先生だから安心して」
突拍子もない発言だった。
とはいえ、それが喧嘩はするな、という仲裁発言であることくらいは受け取れる。
もうちょっとマシな言葉がありそうなものだが、麻菜なので仕方がない。
ふん、と互いに顔を背けるスカディとスカサハに麻菜は笑ってしまう。
「あ、ダ・ヴィンチちゃん。10人で満足するようなあなたではないわよね?」
「当然さ。今もなお、超特急で作業を進めている。11人目、12人目が投入できる日も近いよ」
「それは良かったわ」
麻菜は満足げに頷きながら、告げる。
「それじゃあ、ロンドンの特異点の解決している間に11人目を投入できるようにして頂戴」
「任せてくれ」
ダ・ヴィンチは力強く頷いたのだった。