悪魔の右腕を持つ者はこの蒼き世界で……   作:オーマジオウ良い奴説

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追記 mission0の書き忘れていた部分の追記を行いましたのでご確認ください。


Mission 1 仕事

 悪魔。その存在は18年前、アズールレーンが海で赤子を保護した頃から現れ始めた。悪魔の種類は多種多様、人形の悪魔もいれば犬のような形状の悪魔もいる。悪魔はアズールレーンの本拠地であるロイヤルとユニオンの大陸だけではなくレッドアクシズの本拠地である鉄血や重桜の大陸にも、そしてセイレーンの前にも出現するようになった。

 

 とは言っても現れていたのは僅かな時だけで4年ほどあまりで姿を見せなくなり、無論セイレーンや人間達はこの悪魔達を危険視していた為この様子に怪しんだ。

 

 人間達を軽視するセイレーン達でさえ悪魔を危険視している。その理由はそもそも悪魔という存在はこの世界の物ではないと知っているからだ。付け加え悪魔達は凄まじく上位の者達であれば同じく上の位に属するセイレーンや艦船達が束になって互角、またはそれ以上の力を有する。つまり下手をすれば自分達の計画や目的に危険を来すのだ、実際に邪魔をされたこともあり、それが忽然と姿を見せなくなったというのだから人間達もセイレーンもこの出来事には危機感を覚えていた。

 

 日もくれ暗闇とかした海の上空で二つの人影が蠢き、声を発する。

 

「ここ数年悪魔達は全くといっていいほど姿を表さなくなった、けど最近またその数を増やし妙な動きを見せているね。奴らなにか企んでるんじゃないのかい?」

 

「そうね。全ては18年前、あの忌々しい次元の裂け目によって産み出されたこと。嫌な予感がするわ」

 

「それは僕もさ、オブザーバー。でもさ、この悪魔達を利用することだって可能だろ?上位の悪魔のデータを取れば計画にも一歩近づけるかもしれない、そう思うんだ」

 

「上位の悪魔、我々の実験や計画に危険を及ぼす規格外の存在……そうかもしれないわね。でもそれよりも今はこれのデータの解析と修復をしましょう。それからでも遅くはないでしょう、アビス?」

 

 一つの影は自身の隣で青い光に包まれ浮かぶ刀身の折れた刀を見ながら笑みを浮かべた。

 

 

 

#

 

 

 

 レッドアクシズからの襲撃を受け、三日が経ったある日の朝。ネロはユニオンを総統する人間、指揮官のアレンに呼び出され何事かと思っていたが包帯で巻かれた己の右腕を見ながらこれのことかと一人納得しながら指揮官のいる執務室へと向かった。

 

 執務室前につくと扉を二三度叩きネロだとあいさつすると扉を開け部屋の中に入る。部屋の中はシンプルで奥に作業するための木製机が一つと座り心地の良さそうな椅子。そんな椅子に座り笑みを浮かべる白い軍服に身を包む男にネロは久しぶりと声をかけた。

 

「おう!久しぶりだなネロ!元気にしてたか?」

 

「まぁそれなりにな。んで用ってなんだよ、まぁおおよそこいつの事だろうけど」

 

 ネロはそう言うと共にアームスリングの中で右腕を動かし男、アレンはそれを見ながらあぁとその右腕は悪魔と関係のあるものだと言う。

 

 アレンの言葉に見た目もそれっぽいしなと自虐とも皮肉とも取れるような返事を返しそう言えばと思い出したように三日前の悪魔との戦闘で右腕が青い光を放っていたことを報告した。

 

「なるほど、憶測じゃなくマジに関わりがあるってことか……それ以外に変わったことは?」

 

「特にな……いや、そういや最近悪魔が出てくることが多くなってきたな」

 

「ほう、確かに各海域の調査に出ている艦船達からたまに報告は上がっていたからまさかとは思ったが」

 

 そう言ってアレンはしばらく黙ってネロの右腕を見つめると口を開いた。

 

 「急用だネロ、お前さんにはこれから悪魔の姿が目撃されたとされる島の調査に行ってもらいたい。できるか?」

 

「待て、調査には行くのはいいがあいつらは俺の前にしか現れないんじゃなかったのか?」

 

「本当に希にだったからあえて言わなかったんだがな、多くなってきたとあれば話は別だ。先に言っておくべきだったが前線に出ている一部の艦船が悪魔の存在を認知している」

 

「そう、か」

 

 アレンの態度と言葉に何処か喉に異物が引っ掛かったような感覚を覚えるネロ。ネロのぎこちない返事を聞くと扉をノックする音が部屋に響きアレンは入れと声をかける。言葉にしたがい扉は開き、そこには栗色の髪をしたサイドテールの白いマントを羽織る少女が立っていた。

 

「クリーブランド?なんでここに」

 

「委託の報告だよ、それよりネロこそなんでここに?」

 

 ネロは最近会ってなかったからあいさつしにと言葉を返しクリーブランドは怪しむように眉を潜めながらそっかと言ってアレンに委託の報告をした。アレンはご苦労とクリーブランドに労いの言葉を掛けると

 

「ふむ、そうだな……クリーブランド、帰ったばかりで申し訳ないが君も急用だ。これからネロと共にとある島の調査に出向いて貰う」

 

 アレンは付け足してネロに勿論クリーブランドは悪魔については知ってると一声かけ安心させる。

 

 クリーブランドは別に構わないというと指揮官であるアレンにどこの島に行けば?と調査の場所を聞く。アレンは少し待ってくれと机の引き出しから地図を取り出すと指を指した。

 

「これからネロにはクリーブランドと共にこの島に向かってほしい」

 

「あーここってなんか遺跡みたいなのがあるってジャベリン達が言ってた島じゃなかったっけ?」

 

「あぁ、恐らく悪魔達はその遺跡を拠点、またはそこに集まっていると見られる。調査の目標は悪魔の数の把握、戦闘はなるべく避け観察だ」

 

「なるほどねぇ、分かったよ」

 

 一瞬、ほんの僅かな一瞬だったがネロはクリーブランドが浮かない顔を浮かべたのを見た。なぜそんな顔をしたのかは分からないがクリーブランドは前線で活躍する艦船の一人、そのため悪魔関連でなにかあったのかとネロは推測した。

 

 アレンはそれじゃ船はクリーブランドの艦船で、調査のため二人とも準備してくれと言って二人は頷き了解と言うと執務室を後にした……とネロが部屋を出る直後アレンがネロを引き留めると

 

「お前の右腕だが襲撃を受けたあとで皆の士気に関わるからまだ内緒だ、落ち着き次第とお前の気持ち次第でそいつについては明かせ」

 

 ネロはアレンの言葉に分かったと一言返事をすると部屋を後にした。

 

 

#

 

 

 自室の寮にて、ネロは調査に出発するための準備をしていた。とはいっても余計な荷物はあまり持っていかずブルーローズの銃弾と二年ほど前に艦船用に開発された大型の剣を自分好みに魔改造した愛剣、レッドクイーンと暇を潰すためのスマホとヘッドホンくらいなのだが。(余談だが遠距離でやり取りする艦船には剣は不要と今は廃棄されていたりする。ネロが持っているレッドクイーンはその廃棄されたのをかっぱらった物だとか)

 

 レッドクイーンの入ったユニオンの紋章の描かれた身の丈程ある縦長のアタッシュケースをネロは手に持ち背負うと部屋を後にし手配された船へと向かった。とその道中

 

「おはようございます!ネロさん!」

 

「ネロ、おはよう」

 

「ん?あぁジャベリンとラフィか」

 

 紫髪の少女、ジャベリンと自分と同じ銀髪でツインテールの少女、ラフィに会った。彼女達はちょうど1ヶ月程前に建造された艦船でネロとは二回ほど食事に言ったほどの仲である。

 

 ネロは二人に軽く挨拶を交わしそれじゃと船へ向かおうとするがラフィに待ってと言われ足を止めた。どうした?とラフィに質問すると何処かいくの?と大型の黒いアタッシュケースを見ながら答える。

 

「仕事だよ」

 

「なるほど、でもネロ右腕折れてる」

 

「そうですよ!そんなネロさんに仕事させるなんて、私指揮官に文句行ってきます!」

 

「おいやめろやめろ、別に右腕が折れてようが仕事は出来る、軽く終わらせて帰ってくるから心配すんな」

 

 仕事だと言うネロに心配そうにするラフィとそんな状態のネロさんにと怒るジャベリン。ネロは心配をかけないようにすぐ帰ってくると言い聞かせ安心させる。

 

「じゃあネロさん、帰ってきたら私とラフィちゃんとお出かけしてください!」

 

「なんでそうな……あー分かったよ。もう行くからじゃあな」

 

 渋々と言った感じの返答であったがどこか満足したようすのラフィと同じく満足したようすの約束ですよー!とこちらに手を振るジャベリンを尻目にネロは待ち合わせている場所へと走っていった。

 

 それからクリーブランドと合流しネロとクリーブランドはクリーブランドの艦船に乗り込むとクリーブランドは艦を出航させた。

 

 航海中暇だったネロは船内で首から下げていたヘッドホンを被り曲を聞きながら着くまでの時間を浪費していた、対してクリーブランドはネロとは違い戦いに来たわけではないが海は彼女にとって戦場、気を抜くことなくしっかり周囲を見回しつつ先へと進んでいた。

 

 そんな時だった。甲板に現れたのだ、人形の悪魔達が。クリーブランドは自身の武器である艤装を展開しようとしたがネロが乗っていることを思い出してその考えを止め叫んだ。

 

 あまりに大きな声でヘッドホンを貫通して聞こえた叫びと右腕が光を放つのを見てネロはすぐさまヘッドホンを取っ払いレッドクイーンを持ち艦内から出ると来やがったかと悪態を付きながら懐からブルーローズを取り出し甲板でクリーブランドに襲いかからんとする悪魔に向かって引き金を引く。銃声と共に眉間に二つの穴が空いた悪魔は後方へ吹き飛ぶ。悪魔はまたしても複数、それも以前よりも少し数が多くいた。だが以前とは違い今回は愛剣であるレッドクイーンを持参しているためネロにとってなんの苦もない。寧ろ悪態を付いておきながらクリーブランドには悪いが暇潰しが出来てネロは内心ラッキーとすら思っていた。

 

 剣先を鉄の床に突き立てバイクのグリップのようにレッドクイーンの柄を捻りイクシードを吹かす。剣身が熱で赤くなると共にネロはクリーブランドの前へ飛び出し立っていた悪魔数体を凪ぎ払った。イクシードが火を吹きその威力を増加させ強力な火力で凪ぎ払われた悪魔達は海へと吹き飛び落ちていく。

 

 背後から不意を突こうと他の悪魔が奇襲するも虚しく軽く避けられ頭に銃口を突きつけられブルーローズからの弾を直接撃ち込まれ力無く倒れ伏す。ネロはその敵の様を見ながらブルーローズを仕舞い空に投げていたレッドクイーンを片手でキャッチして

 

「これで最後か?なんだ拍子抜けだ」

 

「後ろだネロッ!!」

 

 と次の瞬間ネロに向かって黒い何かがとてつもないスピードで飛びかかった。クリーブランドの声で気付き咄嗟に後ろへと振り返り間一髪黒い何かの攻撃を回避し、なんだ……?と気配を感じさせずに襲ってきた黒いそれを見つめる。黒いそれは虎のような姿をしていて、威嚇するかのように喉を鳴らしネロを獲物を見るかのようにその赤い瞳で睨み付ける。ネロはこいつはそこらの雑魚とは違うと理解する、しかし逆に雑魚相手で少々飽きが来ていたため黒い虎は絶好の暇潰しの道具という認識で挑発するように来いよ猫野郎!とレッドクイーンの柄を捻りイクシードを吹かしながら言い放つ。

 

 挑発に乗ったのか黒い虎は威嚇する獣のような声を鳴らしながら一歩前に出ると、瞬時にネロに飛びかかる。ネロはそれを読んでいたかのように避ける、だがなんと黒い虎が目の前に来たと同時に巨大なハリセンボンのようなものに体の形状を変化させた。突然のことで何とかレッドクイーンでガードしたものの針の何本かが身体に突き刺さり血が流れる。走る痛みに舌打ちをするネロであったが仕返しと言わんばかりにレッドクイーンを背負うとブルーローズを取り出し銃弾を数発浴びせた。

 

「平気かネロ?」

 

「問題ねぇ、かすり傷だ。それより下がってろ」

 

 心配して駆け寄るクリーブランドに下がれと言って黒い虎がブルーローズの銃弾で怯んでいる隙に膝を付いていたネロは立ち上がる。ネロはクリーブランドが艦内に逃げたのを確認すると使うか、そう呟きアームスリングから右腕を取り出すとその包帯をほどいた。

 

 封印が解かれたようにあらわとなった自身の右腕。

 

 その姿は表面に朱色の硬化した鱗のようなもので覆われ裏は黒い鱗で覆われ、表のほうに縦と横のラインが引かれたように青白い光を放つ肌が露出しラインは手の甲まで続き手のひらからも青白い肌が見える。

 

 包帯が解かれ露出した異形の右腕は青白い淡い光を漏らし禍々しい雰囲気を漂わせる。ネロは右腕を上げ軽く手のひらを開いたり閉じたりすると直ぐに黒い虎に視線を移しを睨み付ける。黒い虎は露出された異形の右腕を目撃し警戒しているのか一歩後ろに下がった。

 

 ネロは逃がすかッ!とその右腕を突きだし飛びかかる、しかし速さに長けている黒い虎はネロよりも素早く動き避けると攻撃の機会を窺うように睨み付けながらゆっくりとネロの回りを歩き始める。

 

 避けられたことに舌打ちをするとネロもまた睨み付け攻撃の機会を窺った。レッドクイーンを振るっても当たらないと分かりブルーローズと右腕での撃破を試みる。残っている銃弾を全て打ち出し直ぐにリロード、隙を見ては右腕で殴りかかったがどれも当たらず寧ろ黒い虎の形状変化によるカウンターを貰う。しかし銃弾自体は何発か当たっておりダメージは着実に溜まっていった。

 

 無論このままでは不味いと考えた黒い虎はその体を液状へと変化させ凄まじい速さで移動しネロに接近、液状から次は巨大な口へと変化し食いちぎらんと襲い掛かった。だがその瞬間ネロはイクシードをMAXにまで溜めておいたレッドクイーンを背から抜くと素早くその巨大な口に何度も叩き付けた。黒い虎は間近まで接近し攻撃の真っ最中だっためイクシードによって強化されたレッドクイーンの猛攻をもろに受け怯む、ネロはその隙に右腕を伸ばし現れた右腕のオーラのようなもので掴み上げ床へと叩き付けた。右腕のパワーは凄まじく叩き付けられた黒い虎は液状となって飛び散り中心にコアのような球体をさらけ出した。

 

「なんだこりゃ?心臓か?」

 

 ネロは恐らくこいつは黒い虎の心臓部だろうと考えレッドクイーンで切りつけ、破壊した。しっかりそれが砕け散ったのを確認すると包帯を回収、とその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネロ……?」

 

 そこにはネロの変貌した右腕を見つめるクリーブランドが立っていた。


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