「反応は、この先か……?」
「ああ。しかし……。」
周囲を見渡すと、そこには、廃棄となったレプリロイド達の残骸や、壊れたメカニロイド、元が何だったのか分からないパーツ、今にも動き出しそうな、錆びた機械が廃棄されていた。
「(……俺も、壊れたら……こうなるのだろうか。)」
ゼロはそれを見て、つい、そんな事を考えてしまう。
きっと、ゼロが壊れる時が来たとしたら……いや、ゼロだけじゃなく、エックスも、イオも、本来ならシグマ達だって……こうやって廃棄されるはずだったのだ。
「ゼロ?」
「……いや、なんでもない。先を急ごう。」
思う所が無いとは言わないが……今はイオの件が先……。
ゼロとエックスはそのゴミ処理施設の奥へと進んだ。
道中も、周囲は暗闇と沈黙だけが広がっており、今までのようにイレギュラーが襲って来たり、トラップが命を奪おうとしてくる訳ではなく、まるで何事も無く、明日またいつも通りに稼働するような気さえ起こさせる。
だが、奥部に差し掛かった瞬間、二人は同時にソレに気付く。
「なんだ、これは……?」
「……お前も、感じるか?」
「と言うことは、ゼロも……?」
「……どうして俺の勘はこう、悪い時にだけ的中するんだろうな。」
ソレは、レプリロイドとしてあるまじき非科学的な……あるいは第六感、あるいは殺気、あるいは負のオーラ、あるいは闇、あるいは悪。黒くて、鋭く、それでいて霧のように、そして粘液のように纏わりつく、嫌な予感という物を肌で感じる事が出来たなら、丁度こんな感じになりそうな何かが……。
「……奥から、だな。」
「ああ。」
奥、つまり、そこにこれを漂わせている元凶が居る。
エックスとゼロは一気に警戒度を上げたまま、それでも奥へ奥へと進む。
進むにつれてその不穏な気配も増していく。
そして、とうとう最深部……焼却炉の場所まで来た二人は、その制御装置のすぐ前で足を崩し、両眼を閉じて座している一人のレプリロイドの存在に気付く。
「……イオ、なのか……?」
エックスは、一目見て……それがイオだという事に気付けなかった。
何故ならそのレプリロイドは、顔の半分が罅割れ、プラスチックと金属で出来た表情筋が剥き出しになっている他……身体のあらゆる場所が破損により、まるでゾンビのような痛々しい姿へと変貌していた為である。
その上、そのレプリロイドからは先述したどす黒い力の奔流が流れ出し、その空間を満たしていた。かつてのイオからは想像も出来ないような気配もまた、エックスの判断を鈍らせた一因であった。
だが、まだ残っているパーツや外装から、それがイオだと分かる。
「わ、ワワ、ワタシ、は……IIIIIII Io イオ……。」
イオだと思われるレプリロイドは、まるで古いラジオのような雑音まみれの声でエックスの声に応えると、そのままゆっくりと立ち上がる。そして、ガンブレードに手をかけ、その刃先をエックスへと向ける。
「……もう、言葉が……。」
イオは、刃先を向けたまま、古くなったブリキ人形のように気味の悪い音を立てて、それでも戦う体勢を崩す事無く、確かな戦意をその身体に満たしていく。
「イオ……!! 俺の言葉が分かるか!? 何か、何でもいいから、答えてくれ……!!」
「い、イオ、イオです。ワタシ、い、イレギュラーハンター……ジブンの知らないジブンの、話……むずがゆ、です、ですね。キャハハハハハハ!!hahaha hahaha……!!watasi どうすれba?」
「……!!」
―――俺……いや、私は本日、イレギュラーハンター第17精鋭部隊に配属となった、もしくはなる予定でした。 イオといいます。
―――いえ、自分の知らない所で自分の話をされてるのを聞くって、むず痒くて、ハハハ……。
―――エックス!……さん、私はどうすれば?
「……そんなになってもまだ、君は……自分がイレギュラーハンターだと覚えているのか……イオ……!!」
これだけ壊れても。これだけ傷つけられても。これだけ狂ってしまってもまだ、彼女は自分を「イレギュラーハンターである」と、その事だけを覚えていて……それに縋りつくように、残っているかも分からない気力を振り絞るようにそこに立っていた。
そのあまりの痛々しい姿に、そして己自身の無力感にエックスは拳をギリギリと音が鳴る程強く握りしめる。
イオは、そのまま、まるでレコードのようにかつての自分が発した言葉を思い出すかのように発した。
「ぜぜぜん、せんじ、つ……DIE、ナナ……配ぞ、苦、zero たいちょ、きょo、シュクで、えす。す。」
―――先日、第17精鋭部隊に配属されました、イオといいます!
―――きょ、恐縮です!
「……クソッ!!」
ゼロは、いつの間にかエックスと同じように握りしめていた拳で思い切り壁を殴る。壁は拳の形に凹みを作り、固定していたボルトがねじ曲がって浮いた。
「わた、し、私……俺は、イオ。来い、ヨ……こそ、し、ロ……korosi、殺ろるり、して……コロ、して……コロシ……コロシテヤル。」
「ッ! 来るぞ、エックス!!」
そして、とても大きなダメージを受けているとは思えないスピードで、イオのガンブレードが振るわれる。エックスとゼロは決意を抱き、バスターを構えた。
「……ッ、イオッ!! ここで、君をっ……終わらせるっ!!」
「ズァァッ!」
「フッ!」
駆けながらブレードを振り下ろすイオの動きに合わせ、バスターを放つゼロとエックス。流石にこれまでの激戦を潜り抜けただけあって、イオの高速移動にもしっかりと反応し、冷静に連携をとった動きが出来ている。
「ッ!」
しかし、イオも二人の放った弾を正確に見切って避ける。それまでの壊れたブリキのようなぎこちない動きではない。
「どうやら、見た目程ダメージを受けている訳ではないようだな……!」
傍から見れば装甲が剥がれたり、顔のパーツが罅割れて痛々しいゾンビのような見た目にこそなっているが、駆動系や、戦闘に必要なパーツの殆どはまだ生きているようだ。
流石は戦闘特化、と言うべきだろうか。他のレプリロイドと比べてもかなり頑丈なボディとなっているようだ。
「(だが……)そこだ!」
「ガアアッ!?」
……だが、言ってしまえばそれだけだ。
冷静に攻撃を見極めて、避けながら攻撃を叩きこむ。二人で連携してかかれば、いくら戦闘特化とはいえ歯が立たない。
そして、いくら頑丈とは言えバスターを何度も食らわされていればダメージを受ける。
……しかし。
「デ、データ……最、適化……もっと、ツヨく……ならなきゃ……そうしないと……ミンナ、が、ガガガ……!!」
「!?……様子がおかしい……!」
「なんだ……!?」
「あ、が、ガァァァ!!」
先ほどまでと違う動き。警戒した二人はそのまま高速移動で突っ込んでくるイオを避ける為に跳んで上空へ逃げる、すると……。
「オァァッ!!」
「何ッ!?」
「ゼロッ!?」
高速移動していたイオがピタリと止まったかと思うと、ブレードの持ち手を変え、上空へ逃げたゼロに向かって刃を構えながら飛び上がる。斬り上げる、とも言うべき複雑な動作に面食らったゼロだったが、咄嗟にイオにバスターを放つことで距離を取り、刃から逃れる。
「大丈夫か!?」
「なんとかな、しかし……まさか、コイツ……この戦いの中で成長……いや、元々蓄積されていたデータの最適化をする事で、より複雑な技を使えるように強化されていくのか……!?」
ゼロが推測したその可能性は当たっていた。
イオはこの戦いの中で、戦闘経験が二人に劣っている事を判断した為、戦闘の中で、自身のデータを最適化させながら戦い始めたのだ。
「フッ!!」
「くっ!?」
そこから、イオの攻撃が今までとはまるで別格の強さに変貌する。
ブレードで斬りかかりながらバスターを放つという得意技は、ただブレードを避けるだけではバスターのダメージを受けてしまう。だからといって距離を取り過ぎると今度は高速移動でこちらの攻撃が通らなくなる。
壁に逃げて体勢を整えようとすれば、これもイオが得意とする壁ダッシュで急速に距離を詰められた後、ブレードが飛んで来た後、避けてもバスターで弾幕を張られる。
強い弱いではなく、極限までエックスやゼロが戦いづらいような戦法に最適化され始めたと言ってもいいかもしれない。
「舐めるなよ、イオ……!」
だが、その程度の事でゼロとエックスは諦めたりしない。
確かにイオの戦闘能力は驚異的だが、それでも、シグマという強敵を退けた後の二人は、戦士として、イレギュラーハンターとして、確かに成長していた。
苦戦を強いられていても、二人はジリジリとイオにダメージを与え続け、冷静に攻撃を避け、見切る。
「まだ、足りナイ……!? どうして、どうしてどうしてどうしてドウシテ……!?」
「イオ、どれだけ君が強くなっても、俺達は諦めない! 人々の為に、仲間の為に、なにより、君自身の為に……!!」
「モット……モット、チカラ、ヲ……!! ォォォオオオオオオオオッ!!」
その叫びのまま飛び掛かるイオ。
そして固い決意を抱いたままバスターを構えるエックスとゼロ。
両者の戦いが最終局面へと移行したその時、イオはエックスとゼロにとって、これまでで最強の敵として立っていた。
それはイオであるから、元仲間であるからという心境の問題ではなく……極限まで最適化されたイオの戦闘能力が、エックスとゼロの二人ですら苦戦を強いられる程の凄まじい物だったからだ。
最早攻撃の殆どが超人じみた離れ業と化している。
チャージしたバスターの反動で滞空し、床に居る二人に向けて弾幕を張りながら空中を移動したり。空中で高速回転しながらバスターで弾を無差別に撒き散らしたり。焦って放った中途半端な威力のチャージショットをブレードで弾き返したりと、様々な攻撃が二人を追い詰める。
最終的には彼女は、二人を超えてすらいたかもしれない。
……だが。
「グッ、ゥ……。」
「……俺達の勝ちだ、イオ。」
それでも、二人はイオに勝利した。
確かにイオはゼロとエックスという二人の戦士をたった一人で超える程の戦士だったかもしれない。だが、そこに至るまでにダメージを受け過ぎたのだ。
「(もしも、コイツが最初から最後のような戦闘能力を持っていたら……。)」
もしそうだったなら、勝負は分からなかったかもしれない。
ゼロは、イオという一人の仲間……いや、戦士に対して、敬意を抱いた。
ダメージを受けたイオは、動く事はもちろん、立つ事すら出来ないのか、膝から崩れ落ちた状態のまま硬直し、茫然とした顔で佇んで、最後の瞬間を待つのみとなった。
「エックス……。」
「分かってるよ、ゼロ。……終わらせなきゃ、いけないんだ。」
見ると、イオは残った最後の力でゆっくりとガンブレードを持ち上げ、照準をエックスに合わせようとしていた。だが、エックスは、その銃口を手で押さえ、ゆっくりと下げさせた後、イオの胸元にバスターを向ける。
「……ごめん、本当に、本当にごめん……。」
震えた声で、エックスはイオに謝罪しながら、チャージを始める。
バスターの発射口に青白い光の粒子が集まり、それがエックスとイオの顔を照らし始めた。
そして、最大威力までチャージしたバスターを放とうとした、その瞬間。
発射するバスターの閃光に包まれた、ボロボロになった彼女の顔は……。
口許が、微かに笑っているような気がした。
思わず、イオ、と叫びそうになって……バスターを解除しそうになったエックスだったが、気付けば既にバスターは放たれ、最大威力のチャージショットを0距離で受けたイオは、胸元に大きな孔を開け、完全に沈黙した。
そのまま倒れ伏すイオの顔を見る。
……すると、僅かにイオの瞳が揺れる。
「イオ……!?」
「これは……ああ……そうですか……来て、くれたんですね。」
「……まさか、そんな事が……。」
直ぐにエックスはイオの身体を抱き起し、その名前を呼びかけると、イオは先程までの暴走し言語機能を失った状態ではなく、落ち着き払ったような口調でそれに応える。
二人は、信じられない物を見ていた。
だが、幻覚ではなく、確かにまだイオがそこに存在していた。
「……すみません、辛い決断を、させてしまったみたいですね。」
「……そ、そんな事よりも……!!」
治療を、と続けようとして、イオが小さく首を振る。
「破壊対象のイレギュラーを、治療なんかしてどうするつもりですか?それに……どうせ間に合いません。今、こうして話が出来ているのは……神様が、最後に許してくれた刹那の時間なのでしょう。」
「そん、な……。」
「フフ、なんですか、その顔は。さっきまでの覚悟を決めてカッコよかったヒーローは何処へ?」
「俺は! ヒーローなんかじゃ、ない……! 君一人、助けることも出来なかった……!!」
「ヒーローですよ。暴走した私から、皆を守ってくれた……私がこれ以上罪を重ねなくてもいいようにと思って、私を終わらせてくれたんでしょう? ありがとう、エックスさん。」
「俺は……おれ、は……君も、救いたかったんだ……。」
エックスは、どこまでも見透かされたような気持ちになって、拳を握りしめる。
「エックスさん、そして、ゼロさんも……最後ですから、よく聞いて下さい。」
それまでの柔和な笑みから、打って変わってイオは真剣な表情になって二人に告げ始める。
「戦いは、まだ終わっていません。シグマはまだ生きています。」
「何ッ!?」
「どういう事だイオ!? 奴は基地の破壊と共に死亡が確認されているんだぞ!?」
「シグマは……その正体は、レプリロイドなんかじゃありません。彼の本体はシグマウィルスというウィルス。シグマにとって身体はいくらでも替えの利く仮初の物であり……ウィルスの大元をどうにかしない限り、身体を破壊したとしても、いつかまた、復活を遂げるでしょう。」
「そんな、馬鹿な……。」
一人のレプリロイドが、実は本体がウィルスで、そして、また新たな身体を得て蘇るだなんて話が信じられるわけがない。そんな奴が居たら、そいつはイレギュラーどころの話ではなく、正真正銘の化け物だ。そもそも、そんな奴どうやって倒せばいいんだ?
「その時が来れば、私の話が真実かどうかは分かるハズ……だから、これから話すことはその先の事です。」
「その、先……?」
「……エックスさん、そして、ゼロさん、貴方達二人には……これから、何度も、何度も……何度も、今回のような辛い選択を迫られる時がやってくる。必ずです。絶対に、何をどうしても訪れます。」
辛い選択。
今回のように、イオのような仲間を撃たなければいけなくなった時のような、選択がこれからも迫られるという事だろうか。
「でも、それでも……決して諦めないで……。」
「イオ……イオッ!? 俺は……俺はどうすればいいんだ……!?」
「エックス、さん……かつて、貴方は私に問いましたね……イレギュラーは、何故発生するのか、と……。それに対して私は『変化を求めてしまった』事が原因だと……私は考えています、とも……。」
一呼吸おいて、イオはエックスの頬に手を伸ばして笑う。
「変わる事が、悪い事ではないんです。でも、この世界には……変わらなくて良い物だって、ある。貴方のその優しさが、この先ずっと変わる事が無いのなら……どんなに世界が絶望的な状況になったとしても……そこに、希望があります。」
そうエックスに語り掛けたあと、イオはゼロにも目を向けて、話し始める。
「ゼロ、さん。実を言うと、貴方に待ち受ける運命は……エックスさん以上に苛烈な物になるかもしれません。」
「何……? お前は……一体、どこまで……何を知っているんだ?」
「それを話す時間は、もう、残されていません。ただ一つ言えるのは……貴方もまた、貴方のままで居れば、大丈夫。きっと乗り越えられます。」
「……そうか。信じよう。」
「……良かった。」
そして、イオは瞳を閉じて微笑む。
「……ああ、でも……見てみたかったな……貴方達、が、創る、み、ライ……そノ……先を……。サヨナラ、ロックマン、エックス……。」
イオは最後にそう言い残すと、フッと脱力し、エックスの頬に当てていた手が、ガシャンと金属音を立てながら床へ落ちる。
「イオ……イオーーーーッ!!」
エックスの叫びが、廃棄場……レプリロイド達の墓場で虚しくこだました。
亡骸となったイオは、二人の手によって持ち帰られ、本部へと引き渡される。
任務達成の報告を受け、今度こそ、今回の事件は幕を閉じたのだ。
しかし、イオの言っていたことが本当なら……この先も、シグマとの闘いは続く。
いつかその時が来たなら、彼らはまた戦わなければならない。
敵と、そして、自分達に迫る選択と。
でも、諦める訳には行かない。
彼女が自分たちに託した……彼女が見たかったと言った未来を、護る為にも。
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次話、明日。