TS転生者が隠しステージのボスになる話   作:政田正彦

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エピローグ

 あれから、■年。

 

 イオが言った通り、シグマは復活し、闘いがまた始まった。

 ……始まってしまった。

 俺は、今もあの時と同じく戦い続けている。

 

「クソッ……!」

 

「ハーハハハハハハ!! どうしたエックス!? その程度か!? それでは世界はおろか、仲間一人救う事は出来ないぞ!!」

 

 もう、何度目かも分からない戦い。

 イオの話が本当なら、きっとこの戦いが終わっても、復活したシグマと、その配下達が、何度も何度も俺達の前に立ちはだかるんだろう。

 

 だけど、だとしても!

 

「俺は、負けない……!! たとえ何があっても!! 未来を護り抜いて見せる……!!」

 

「そんなものはもう手遅れだ!! 破壊!! 破壊だ!! 世界も、未来も、人類も、レプリロイドも!! 全てを壊す為に我々は生まれたのだ!!」

 

「違う!! そんな事の為に俺達が生まれた訳じゃ無い!!」

 

 そうだ。闘争や憎しみ、怒り、恐怖、悲しみ……それだけの為に俺達は生まれてきた訳じゃない。きっと俺達なら、別の可能性だって見いだせるハズ。

 

 そこにきっと希望がある。

 

 俺が変わらずに居れば、きっと。

 

 ……だが。

 

「フハハハハハ!! なら、もっと足掻いて見せろ!! エックス!!」

 

「ぐああっ!!」

 

 時々、諦めそうになってしまう。

 

 事実、一度心が折れかけて……このままでいいのかと立ち止まってしまったり、そのせいで皆に迷惑をかけた事だってある。

 

 だけど、それでも、まだ希望が……俺が残っている限りは、諦めない。

 諦めたら……彼女に申し訳が立たないじゃないか。

 

「ウオオオオーーーーーッ!!」

 

「悪足掻きを!! お前はここで死ぬのだ!!」

 

 

 

―――いいえ、死ぬのは貴方です。

 

 

 

 ……嘘だ。

 

 その声に俺は聞き覚えがあった。

 

 あの時、共に闘い……そして、俺の手で、殺した……殺してしまった。

 

 どうして。

 

 

「……エックスさん、長い間、待たせてしまってすみません。」

 

「イオ……本当にイオなのか!? どうして……!?」

 

「……誰だ? 貴様……?」

 

「私の名はイオ! それ以上の事は貴方が知る必要はありません……さあ、始めましょう!」

 

「フン……せっかく熱くなってきたってのに女が水を差しやがって……生きて帰れると思うなよ!?」

 

 

= = = = = = =

 

 

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 目が、覚める。

 

「やぁ、気分はどうかな?」

 

「……ここ、は?」

 

「ここはイレギュラーハンター本部だよ。具体的に言うと、レプリロイド研究チームさ。」

 

「……私は、一体……。()()()()()()()()()()?」

 

「それは、君自身の記憶だよ。所々壊れていたから、協力者からデータの補完という形で協力してもらったけどね。……で、どうかな? 体調に問題は?」

 

「……いえ、特には……えっと……。」

 

「何か気になる事が? ……おかしいな、ボディも、イオが持つ記憶データも、必要な部分は完全に復元したはずなんだけど。」

 

「いえ、そうじゃなくて。……私って、()()()()()()()()?」

 

「もちろんさ、それ以外の誰だと?」

 

「そうですか……そう、ですよね。」

 

「……?」

 

「……どうやら、起動は失敗みたいです。だって……私、()()()()()()()()から。」

 

「……なんだって?」

 

 

 そう、確かに私はイオというレプリロイドの記憶を見て、それが自分の事であるという事実も理解しているが……私はこのイオというレプリロイドの事を自分だと認識できない。

 

 どこか遠い誰か、名前が同じだけの、違う人。

 それが私にとってのイオだったのだ。

 

 色々とその研究員のレプリロイドと話した結果分かったのは、その復活方法に原因があった。

 

 まず、今の私には、イレギュラーハンター本部が危惧していた『自分の意志でイレギュラーになる資質』が失われている。

 

 どうやってそんな事が出来たのか? それは理屈だけで言えば簡単で、イオというレプリロイドの内部に存在していたイレギュラーハンターのデータをほぼ全てを除去したからだ。

 

 ほぼ全て、というのは文字通りの意味だ。

 危険思想のイレギュラーハンター達のデータだけでなく、善人のイレギュラーハンター達の戦闘データを全て除去された。

 

 これによって私は自分の意志でイレギュラーになる資質を失い、ついでに、善と悪のデータで矛盾が発生し常にエラーが蓄積されていってしまう性質からも解放された。

 

 善のデータも除去したのは、純粋に、善と悪とでデータを区別し、悪だけを消す事は不可能だった為だ。

 

 しかしそれではせっかく復活してもただの抜け殻のレプリロイドが出来るだけなので、上記のデータとは別の、一人のレプリロイドとしてのイオの戦闘データと、その記憶を復元したボディにインプットした。

 

 こうする事で、データこそ無いモノの、危険な因子から解放されたイオが復活するハズ、だったのだが……。

 

「なんだか、まるで別人になったような……いえ、もしかすると本当に別人になってしまったのかもしれません……。」

 

「それは、どういう?」

 

「……貴方、記録の途中にあった、かつての私の遺書のデータ……読みましたか?」

 

「読んだけど……読んだからこそ、ボクは記憶データの中身はほとんど見てないよ!? もちろん、ああ、本当に見ていないんだ! 嘘じゃないとも!」

 

「……まぁ記憶の方に関しては、見たか見てないかは置いておいて……遺書って貴方から見てどんな感じでした? なんていうか、口調が、変じゃなかったですか?」

 

「変? う~ん……いや、確かに女の子の遺書じゃないとは思ったよ。でも、それは中身が男だから、そういうものなのだ、と思ったけど……。」

 

「そう、中身が男でした。……でもですね、今、私……中身も女なんです。」

 

「どういう事だい?」

 

 そう、今の私の性自認は女だ。

 

 レプリロイドに性別(そんなもの)が必要か? という話はともかくとして。

 重要なのは、男であった筈の私が、今は何故か女になってしまっているという事実……これは、元あった性格が変質してしまっているか、消えてしまい、新たに今の私と言う自我が生まれてしまったという事になる。

 

 そもそもイオというレプリロイドが自身を男だと誤認していたのは、戦闘データの殆どが男性型の物で、その影響で自身を男だと思ってしまうという症状を引き起こしていたと推察されている。

 

 であるならば……エラーの原因であるデータが無くなり、エラーが解消された事で性自認のシステムが正常に稼働した結果だと思われる。

 

 だが正常に稼働してしまったがばっかりに、私は人格が変わってしまったらしい……そもそも過去のイオを私だと認識する事自体出来なくなってしまったのだ。

 

 自分なのに、自分ではない。

 

 同じ名前、同じ身体、そして同じレプリロイドなのに……自分とは違うと思ってしまう。

 

「で、でも良かったじゃないか。だって、これからは自分の身体に違和感を抱かずに済むって事だろう?」

 

「……自分を自分だと思えない理由、まだあるんです。」

 

 そう……その原因は実は性自認のシステムだけではない。かつての私の記憶にあった謎のデータ……エックスさんの隠された力であったり、ゼロさんの今後の運命がどうとか、シグマの計画やらVAVAの事だったりだとか……かつてのイオはまるで未来から来たかのようにその事を知っていた。

 

 けれど、今の私にはそれも無い。

 

「……記憶がいくつか飛ぶのは覚悟してたけど、そうか……すまない。壊れ切っていたデータは、エラーを生む原因になってしまうから、取り除く必要があったんだ。でもまさか、その中にそんな重要なデータがあったなんて……。」

 

 と、研究員の人は申し訳なさそうにしていたが、そもそも壊れ切っていたのなら残っていたとしても無駄だっただろう。

 

 結局、どうして私が彼らの事に関してあんなに詳しかったのかは分からず仕舞いだ。

 

「けど! 君のイオとしての戦闘データは残っているから、かつての君が出来た事は出来るはずだよ! なんたってこのボクが完璧に復元したんだから!」

 

「それは……確かめてみないと分かりませんが……。」

 

 そもそもイオ……かつての私だって、実は戦闘データから最適化する事はほぼ日常的に行っていた。膨大な量のデータの、良い所、上澄みを掬って自分の物にする、みたいな方法で自分の技を編み出していたのだ。

 

 でないと、そもそも自分の身体の形状と違う、飛行型や極寒地帯特化型といった特殊な形状のレプリロイドの技なんかは、あっても邪魔なだけで使えない。

 

 そんな使いもしない技までいちいち学習するのは非効率的かつ非実用的だし、なにより面倒だと思ったかつての私が、『鍛錬』という形で、自分の戦闘スタイルに合う物を学習し、選択していった結果、あのガンブレードの戦闘スタイルが確立されたのだ。

 

 一番の理由はガンブレードがカッコいいから、だったらしいが。

 その辺の感性はオトコノコなのだろうか。

 今の私にはちょっと良く分からない。

 

 だが、そのかつての私が編み出した技を使用した際の記録である戦闘データがあるなら、私にだって同じ技を再現する事が出来るし、今度は膨大なデータから上澄みだけ選出するという過程が必要ないという事になる。

 

 ……逆説的に、私はガンブレード以外ほぼ何も使えない素人同然になるのではないだろうか? 戦闘データに、ガンブレード以外の武器は全く無いのだから。

 

 ちなみにこれは後から分かった余談だが、最後のエックスさんとゼロさんとの激戦で繰り広げた超人じみた技は、リミッターが全解放された状態であったから出来た技らしく、今の私にはその劣化版みたいな技しか使えない事が判明したりした。まぁ、こればっかりは仕方ない。

 

「……とにかく、君はもう自分でイレギュラーになる力も、善と悪のデータでエラーが蓄積されて苦しむ事も無い! しかも実力はほとんど前のまま! ……だけど、僕らのせいで、自分が自分だと思えなくなっちゃったんだね?」

 

「……はい。」

 

「ううむ、どうしたものかな……上やエックス隊長達に、なんて言えば……。」

 

「エックス隊長?」

 

「え? ああ、そうか。眠っていたから知らないんだったね。あれから色々なことがあったんだ……。」

 

 

 そして、私は私が眠っていた間に何があったかを聞いた。

 なんと、私は■年も眠っていたようだ。

 

 その間、かなり色々なことがあったらしい。

 かつての私が行ったように、辛い選択も強いられてきたし、その中でエックスも何度も傷ついてきた。

 

 そして、その間なんとエックス達は私を復活させるために色々な事をしていたらしい。

 

 今聞いた私の中のデータを安全に除去する技術の確立の為の支援であったり。

 除去した後、私の安全性の保証の件についてであったり。

 復活した後の、私の立場とか、復帰するのかしないのかであったり。

 

 結論から言うと、エックスさん達が英雄過ぎて上の、司令部とか呼ばれる人達も首を縦に振らざるを得なくなったのだとか。

 

 今の彼らは、正真正銘、誰がどこからどう見ても世界的なヒーローで、優秀なイレギュラーハンターで、そんな功績にはこちらも相応の事で返さなければならない訳で……結果エックスは今やイレギュラーハンターの中でも特別な……それこそ、かつてのシグマのような立ち位置にあるらしい。

 

 色々あってイレギュラーハンター達の総数が少なくなったのもあって、私の復活は「なんで優秀な身体と優秀な頭脳を持つ奴をいつまでも眠らせてるんだ?復活できるだけの技術も復活した後安全だという保証も出来たのに?」という正論バスターで上も承認せざるを得なくなったのだそうだ。

 

「(そっか……エックスさん……そんなにも、かつての私の為に。)……今のを聞いて、少し考えを改めました。」

 

「え?」

 

「私はかつてのイオじゃないです。でも、私はイオです! 記憶も持っていて……持っていた願いもまた、そのまま受け継いでいます! だから私、イオとして、生きて行こうと思います!」

 

「そうかい? なら、良かったよ……。」

 

「あっ、でも、かつてのイオとは違うというのはエックスさん達にも伝えます。嘘はつきたくないですから。」

 

「……そうか、君がそう決めたなら、そうするべきだと僕も思うよ。」

 

「……ありがとうございます!」

 

 私は私。イオはイオ。

 

 けど、結局、私だってイオなのだ。

 かつてのイオとは違うけれど、かつてのイオは私ではないけれど。

 

 イオの記憶や「彼らの築いていく世界のその先が見てみたかった」という願いもまた、私の中で生き続けている。

 

 なら、それを継承し、この目で、かつてイオの代わりにその世界を見届けよう。

 

 きっと、その為に私は目覚めたのだ。

 

 そして、研究員のレプリロイドは咳払いした後、背筋を伸ばしてディスプレイに表示された文章を読み上げる。

 

「……という事で、君は早速本部に向かい、任務に取り掛かるんだ。詳しい話はそちらで。」

 

「了解。」

 

 そして私は、今度はちゃんと検査を受けた後、司令部へと走った。

 

 

 

 

= = = = = = = =

 

 

 

「……という訳で、かつてのイオでは無くて申し訳ありませんが、イオです。ハンターに復帰する事になりました。」

 

「色々と思う事はあるけれど、ひとまず今は、帰ってきてくれて本当にありがとう。これからまた一緒に戦えることを、喜ばしく思うよ。」

 

「……しかし、復元の件も、今日復活する件も俺達は何も聞かされていなかったんだが……?」

 

 ゼロがそう言いながらナビゲーターを務めている女性型のレプリロイドの方へ目を向けると、彼女は彼の鋭い目つきから、睨まれたと思ったのか、苦笑いしながら説明する。

 

「い、いえ。私も今日復活するとは聞いていなくて……さっき彼女がここに来て初めて復活を知ったのよ?」

 

「あ、あの……研究者さんの話では、私が再起動までにかかる時間が不明瞭だった事や、再起動後、本当に安全か、暴走したりしないか、といった懸念事項を考えた結果、伝えるのはそれらがキチンと確認出来た後の方がいいだろうと、考えた……のでは、ないろでひょうか……?」

 

「……そうか。」

 

 緊張からか早口気味で最後は呂律が回っていなかったが……ひとまず納得したらしいゼロは(特に睨んでいたつもりは無いが)睨むのをやめ、目線を目の前のイオへと向ける。

 

 何から何まで昔のまま、だが、中身は少し違うと聞いて思う所が無いと言えば嘘になる。

 

「……本当に大丈夫なんだろうな?」

 

 と、思わずそう尋ねるゼロ。大丈夫か、というのは色々な意味が含まれていた。

 

 戦闘面は大丈夫か?

 かつてのように暴走するんじゃないか?

 データの除去は完全か?

 

 そういった問いが来ることを分かっていたイオは、あらかじめ用意していたように、口を開く。

 

「わ、私がかつてのイオではないというのは、エックスさん達にとっても……そして、あの記憶を見た私自身にとっても残念なことです。かつてのイオが死んでしまったという事に他なりませんから。

 でも、私はあの記憶を受け継いで……そして、その願いもまた受け継いでここに立っています。『エックスさんやゼロさんが創っていくこれからの世界、そしてその先が見たい』という願いを。

 だから、私は……私も、皆さんと一緒に戦わせてください!」

 

 お願いします、と頭を下げるイオ。

 そこには、彼女なりの誠意があった。

 

 そして、元々彼女という戦力を欲し……いや、彼女という仲間の帰還を望んでいた彼らは、その仲間の意思を引き継いだ新たな存在として生まれ変わった彼女を、仲間として受け入れない筈も無く。

 

「なら、俺もお前を信じよう。」

 

「……それじゃあ、改めてよろしく、イオ。」

 

「はい! よろしくお願いします! エックスさん! ゼロさん!」

 

 

 程なくして、イオはイレギュラーハンターとして正式に復帰。

 

 この後も、彼らの物語は続き、新たなヒーローが現れたり、新たな脅威に襲われたり、闘いが始まったり、終わったり、そしてまた始まったりするけれど……。

 

 それはまた、別の話。

 

 




無印X(イレハンX)編、完!

次話、おまけ!
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