ACfAヤンデレ集   作:粗製のss好き

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遅くなってしまい大変申し訳ありません!


リリウム・ウォルコットの場合:5

 

 

 結局のところ、ダイキ・イシザキとメイ・グリンフィールドの関係は続くことと相成った。

 

 最低でも週に一度は共に任務をこなし、その後に飲み会を開く。そのこと自体はダイキがメイと出会った当初から何も変わっていない。ただ昔と違うのはよりスキンシップが多くなった事。

 

 手や体に当たるないし触れる事はもはや当たり前。会話もプライベートな内容が増えた。恐らくは()()()の出来事が関係しているのだろうとダイキは直感していたが、心当たりがないのも事実だった。大体彼が起きた頃にはメイは帰宅していたので、当然と言えば当然である。まさか一人の女性が自殺しようとしていた事など夢にも思わないだろう。

 

 とはいえダイキにも交際関係にある女性がいる訳で。彼は改めてそのことを打ち明け、メイに過剰なスキンシップは控えるように伝えた。しかし驚くべきことに彼女は面と向かって、蠱惑的に微笑みながら「愛人でもいい」と答えたのだ。

 

 当然、ダイキは反応に困った。愛人云々に忌避感があったからじゃない。メイの目がリリウムに近しい本気(マジ)を越えた熱を孕んでいたと感じたからだ。

 

 そして情けないことに、彼女に気圧されたダイキはこの曖昧な関係にケジメを付けられないでいた。

 

 「……まいったな」

 

 自室の椅子にダラリともたれかかるように腰かけながら、ダイキはそうつぶやいた。

 

 メイ・グリンフィールド。地毛だという緑色の髪が特徴的な女性である。冷静な口調とは裏腹に実直で豪快な性格を持つ彼女は、ダイキにとってこの荒廃した世界で数少ない()()無条件で信頼できる人間である(因みに他には王小龍とかメノ・ルーがいる)。

 

 だから彼はメイの告白を大変光栄に思っていた。不純に聞こえるかもしれないが、もしリリウムと交際してなければ彼女の恋心に応じていたかもしれないくらいに。

 

 しかしそれが意味するのは、順番が違えばリリウムの想いには応じなかったかもしれないという事である。ともすれば彼は己の恋人であるリリウム・ウォルコットに対する愛情が酷く陳腐に思えてしまった。醜いと理解していながら余すことなく自分の全てを吐露した彼女に、不義理を働いているのではないかと。

 

 彼は最近、そんな事ばかりを考えている。仕事にも影響が出そうな勢いで思い詰めており、それはもう周囲から心配される始末である。そうして周囲に迷惑をかけていると自覚すると、それが更に情けなく思えて彼の心はかつてないほど圧迫されていた。

 

 「顔向けできねぇなぁ」

 

 加えて、もう三日ほどダイキはリリウムと会ってない。メイとの関係に折り合いをつけるまで、リリウムと一緒にいる資格がないと考えたからだ。彼女にもメールでその事を伝えた。返信はただ「お待ちしております」の一言で、特に追及してくる事はなかった。そのことを怪訝に思う余裕すら今の彼にはなかったのである。

 

 「どうすっかなぁ」

 

 しつこいようではあるが、ダイキ個人としてはメイを好ましく思っている。仕事の相棒としては非常に頼りになり、プライベートでは食事を共にする仲だ。嫌いになる要素などどこにもない。

 

 しかし異性として好意を抱いているかどうかとなると、それはまた別の話だった。

 

 何故なら元々ダイキは極力メイを異性と意識しないようにしていたからだ。彼は前世の教訓からサークルや会社など、とにかく自身が所属するコミュニティの中では恋愛をするべきではないと持論を持っていた。破局すれば、そのコミュニティ内でずっと肩身の狭い思いをすることになる。その事を彼の前世の友人が教えてくれた。だから彼はメイをあくまで仕事仲間として接する事を心がけたのである。ダイキ自身は兎も角、メイが嫌な思いをしないために。

 

 しかしそれを知ってか知らずか、彼女の距離感は良くも悪くも近すぎた。当初ダイキはメイの距離感を信頼の表れだと考えて自分を律していた。そこには己の勘違いでメイを不快な気持ちにさせる訳にはいかないという彼なりの配慮が起因していた。だがその考えそのものがメイのアピールを全て袖にしていたのだから、なんとも皮肉な話である。

 

 そして先月の自棄酒混じりの大告白。それでダイキはようやくメイを一人の女性として認識してしまった。だがそのころには既にリリウム・ウォルコットという大切な隣人がいて、筋を通すのであれば彼は昂然たる態度で断りを入れるべきだった。とはいっても彼女に冷たい対応をするのは彼の性格上許せることではなく、どうにも優柔不断な性質が彼の決断を鈍らせる。

 

 結局、このややこしい事態は自分が人の心を理解できなかったせいで起きてしまった。少なくともダイキはそう結論付けていた。

 

 「……ああ、全く」

 

 悪態をつきながら、テーブルに置かれたコップにビールを注いだ。そしてソレを豪快にも一気に飲み干すが、喉に突っかかる違和感はまるで消えなかった。

 

 彼自身、自分が難儀な性格をしている事を自覚しているのだ。メイを捨てて、リリウムを大事にすればいい。それが普通であると分かってはいても、実行する勇気がない。いやソレを勇気とは呼べないとすら考えていた。

 

 しかし、かといってどうすればいいのかも分からない。なんせダイキの恋愛経験はほぼゼロに近い。大学時代に恋人という名ばかりの関係を一度経験したのみで、社会人になってから色恋沙汰とは無縁だった。また、この世界に転生してからそのキャリアが更新された試しもない。加えてスマートな解決策が思いつくほど上等な頭を持ってるわけでもない。

 

 もはやお手上げである。ダイキがそう思っていた時、「ピンポーン」と自宅のインターフォンが鳴った。

 

 「ん? あーちょっと待ってください」

 

 基本的に企業に所属するリンクスはその所属する企業の領域内で生活する。したがってダイキはBFFに与えられた物件に住んでおり、そこに尋ねる者もまたBFF社員もしくはGAグループの者である。したがって彼は来訪者の確認を特にすることもなく、不用心にもそのまま玄関を開けた。

 

 するとそこには―――

 

 「ごきげんよう。ダイキ様、お久しぶりですね」

 

 彼と恋仲にあるリリウム・ウォルコットが息を呑むほど綺麗な佇まいで一礼していた。銀の光沢を放つ彼女の頭髪は家の明かりに照らされてより一層輝きを増しており、人形みたく整った美貌と合わさって浮世離れした美しさを備えている。

 

 まるで予想していなかった来訪者に、ダイキは思わずたじろいでしまった。その隙にリリウムはそそくさと家主の許可なく部屋に入り、そのまま彼を()()()()()

 

 咄嗟に受け身をとれたのは、彼が反射神経に優れたリンクスだったからだ。或いはそれを見越してリリウムも力加減をしていたのかもしれない。何にせよ、二回りも小さい少女に覆いかぶさられた30近くのオッサンという奇妙な構図が完成した。

 

 「……ああ。元気だったか?」

 

 彼が非難の声をあげる事はない。寧ろ三日ぶりに見るリリウムの顔を見て安堵すると同時に、罪悪感をダイキは感じていた。

 

 「元気に見えますか?」

 

 リリウムは何の感情も窺わせない顔つきで答えた。しかしほんの僅かに目つきが鋭くなっており、ダイキは自分が彼女から非難の視線を浴びている事を認識した。

 

 「すまん」

 

 「その様子では、未だにご自身を責めておいでのようですね」

 

 「……責める?」

 

 彼女の言葉の意味が分からずダイキは反唱するようにつぶやいた。すると彼女はやはり顔色を変えずに、顔だけを近づけて耳元でささやく。

 

 「私は貴方様をお慕いしております」

 

 ゾクリと、ダイキは身を震わした。ねっとりとした彼女の発言はあまりに扇情的で、一瞬で頭の中が真っ白になる。しかしそこは歴戦のリンクス、すぐさま思考があらぬ方向に向かわぬように落ち着きを取り戻した後に彼はこう返した。

 

 「知ってるよ」

 

 「ではダイキ様は?」

 

 リリウムの問いかけに、ダイキは彼女と全く同じ事を伝えようとした。しかし最初の一言を発音する寸前になって、彼は口を閉じてしまった。果たして自分は本当に、リリウムを愛していると思っているのか。先ほどまで頭の中で渦巻いていた疑問が、ここにきて彼を蝕んだのである。

 

 「そうですか」

 

 無言になったダイキにただリリウムは頷く。そして彼の首元にあった首輪にそのしなやかな指で触れ、そのまま強く締めた。

 

 「———っぐ、っぶ」

 

 ダイキは気管を圧迫され瞬く間に呼吸が出来なくなる。反射的にリリウムを退けようと腕が乱暴に動きそうになるのを、理性で()()()。そしてその苦しさを受け入れるように、彼はリリウムを優しく抱きしめた。

 

 「ああ」

 

 嬉しそうにリリウムはほんの僅かに微笑む。そして彼女は呼吸困難に陥ったダイキの口に、そっと自らの唇を落とした。

 

 

 




この作品は約束されたハッピーエンドをお届けするつもりです。
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