××の先祖返りだった藤丸立香の話   作:時緒

10 / 18
タイトルが全て。
ところでこのアメリカ特異点の被害、一体どんな風に穴埋めされたんでしょうね。
次の特異点は完全に無かったことになったようですが、こっちは違うみたいですからずっと気になってます。

大統領すら本来より早く死んでる(殺されてる)ってどんだけやねん。
流石ケルトやることが違う。

※ギルくんのスペックおよび宝具についてかなり捏造しています。ご注意ください。
※サーヴァントの負傷、さらっとですが人体欠損の表現があります。


虚偽は毒薬、真実は劇薬

 悲喜こもごものドラマはあったものの、当初の目的がまたひとつ無事に達成された。

 

 アルカトラズを初めとするカリフォルニア近辺はケルトから解放された。フィン・マックールとディルムッド・オディナには苦戦させられたが、彼らを打ち倒すことにも成功した。彼らはフェルグス・マック・ロイと同じくケルト主戦力の一人だったことは間違いない。ケルト側の全勢力は未だ不明だが、その一角が削れたとあれば士気も上がろうというものだ。

 

「結構面白い二人だったし、すごい強かったし、カルデアの召喚にも応じてくれないかなあ。女性陣にセクハラしたらその場で指を逆向きに曲げてやるけど」

「……私、先輩のそういうところすごく好きです」

「ありがと。私もマシュ大好きだよ」

 

 ラーマはすっかり全快し、主戦力として怪我を負っていたとは思えないほどの膂力を発揮してエネミーを蹴散らしてくれている。心理的にもかなり吹っ切れたらしく、そこのけそこのけとばかりに振るわれる剣は「成る程最初からセイバーだったのか」と納得してしまいそうになるほどの切れ味だった。

 

 ちなみにインド神話に出てくる主要な武器は、多くが弓矢である。ランサーで現界しているカルナも、本来は弓を使った逸話がかなり多い英雄だ。そんな彼がアーチャーではなくランサーなのは、単純にインドラから鎧の代わりに貰ったヴァサヴィ・シャクティが武具として一番強いからとか、まあ多分そんな理由だと思う。彼もクー・フーリンと同じく、自分の死やその原因に拘泥する質ではなさそうだから。

 

「問題は暗殺組だよね……まだ連絡ない?」

「はい。まだ……こちらからの連絡は控えるよう言われていますし、此方からの現状把握は難しいですね」

「ギルくんとのパスは切れてないからまだ無事だとは思うけど……首尾はどうだろうね。ケルト側にクー・フーリンと女王以外の隠し球がいたらかなり厳しいだろうし」

 

 というか、ケルト側にベオウルフがいた以上、他にもケルト以外の出自を持ちながらケルト側に与している英雄がいる可能性は低くない。逆に考えればケルトでありながら此方に味方をしてくれるケルト英雄もいるかも知れないが……希望的観測は持たない方が良いだろう。

 

「それにしても女王かあ。誰だろうね。影の国のスカサハ、その姉妹オイフェ、『クーリーの牛争い』の元凶メイヴ……候補としてはその辺かな。私らの知ってるクーが自分から味方するとなればメイヴだけはなさそうだけど」

 

 幾らクー・フーリンが徹底した仕事人とはいえ、自分が死ぬ原因になった女の下に侍るイメージは想像できない。否、ラーマを殺しかけた彼は王を名乗っているらしいから侍るのとは違うのかも知れないが、肩を並べるにしてもやはり師弟関係にあるスカサハや、敵対したものの最終的にクー・フーリンの息子を産んだというオイフェの方がまだ想像が容易い。

 

『つってもスカサハやオイフェがこんなバカ騒動起こすってのは想像できねえんだがな。あの二人はあくまで影の国の支配者で、こっち側にゃ然程興味は無ェ筈だ』

 

 通信越しにクー・フーリン(キャスター)が首を捻る。

 

「さっすが。当事者の意見は説得力あるね。じゃあクー的に女王メイヴと手を組む自分って」

『もっと想像できねえよ。それこそ聖杯使ってるって言われてやっと納得だ』

 

 即答である。あと口調がとても苦々しい。恨んでいるとか憎んでいるというわけではないようだが、やはり自分の死因には多少思うところがあるのだろう。腹から飛び出た自分の内臓を洗い清め、弁慶よろしく立ったまま死んだというケルト最大の勇士も、やはり女相手にはなかなかいつも通りとはいかないようだ。

 

「オイフェはよくわかんないけど、スカサハが相手だったらヤバイなあ。あの人神話で負ける描写ないじゃん。寧ろ死んですらいないじゃん。ヘラクレスよろしく倒しても倒しても復活してきたらどうしよう」

「それは……あまり考えたくないですね。ですが可能性としてなくもないのが恐ろしいです」

『スカサハは基本不死だぜ。俺が生まれた時にゃとっくに自然に死ねるレベルじゃなくなってたからな』

「完っ全にヤバイ相手じゃーん! 全力で逃げたい。それでいくと一番勝ち筋があるのはメイヴかなあ。最悪でかくてかったいチーズ用意して頭にぶつけりゃワンチャン……いや流石に現実的じゃないか」

 

 何にせよ、今は暗殺組の結果を待つしかないだろう。

 アルカトラズから無事に脱出できた一行は、やれやれと互いに顔を見合わせた。今の自分達は西から見ても東から見ても敵だ。下手に動いて自分達の場所を知らせるのはよろしくない。エジソン側とはまだ交渉の余地があると信じたいところだが……。

 

「っ、通信が入りました!」

 

 ピピッ、と既に幾度となく聞いた電子音に全身の産毛が逆立つ。ぴりついた空気の中でマシュが通信機を取り上げた。

 

『あー、もしもし?』

「ロビンさん?」

 

 通信機から聞こえてきたのはジェロニモではなくロビンフッドの声だった。ひや、と背筋を冷たいものが流れる。ロビンフッドの声が切羽詰まっていることも嫌な予感を助長させてくる。

 

『作戦は失敗した。重傷者多数で現在逃走中。自由に動けるのは俺だけだ』

 

 周囲の温度が急に下がったような心地がした。気のせいだったのだとは思うが、心理状態が五感にも強い影響を及ぼすと言う悪例の勉強にはなった。

 

 

 

 ロビンフッドから指定された座標に近づくと、何やらキンキラしたでっかい何かが森に隠れるようにして鎮座していた。

 

「え、なにこれ」

 

 金ぴかなのは確実に某AUOの趣味と思われるが、何なのかよくわからない。首を傾げていると、金色の物陰から覚えのある緑色がひょっこり顔を出した。

 

「ロビン!」

「よっ。お役目果たせずすいませんね……見ての通り俺とおチビさんは無傷だ。…‥有難いことにな」

「本当にね。無事に帰ってきてくれて嬉しいよ」

 

 青い顔をしてぐったりしている子ギルが小脇に抱えられている。皮肉っぽさの中に口惜しさを隠すロビンフッドの軽口を真面目に返した立香は、死んだように眠っている子ギルの前髪を仰向けに寝かせる。

 

「ギルくんはどうしたの?」

「魔力の大量消費に身体がおっつかなかったんだよ。何せこのメンバー全員運んで逃げ回ったからな」

「ギルくんが? どうやって……」

「こ、これは!」

 

 訝し気に金ぴかの物体を見つめていたラーマが不意に叫んだ。

 

「ヴィマーナではないか! 何やら見覚えがあるとは思っていたが……いや、余の知るものとはかなり意匠が異なるがな。しかし驚いた、かの英雄王の蔵にこんなものまであるとは……」

「ヴィマーナっていうと、インド神話に出てくるよくわかんない乗り物のアレ?」

「そうだ。本来は水銀で動かすものだが、恐らく彼は自分の魔力をリソースに回したのだろう。如何な英雄王とはいえ身体は子供、この大きさのヴィマーナを動かすには並大抵のことではなかったに違いない」

「マジか」

 

 なるほど、だからこの状態なのか。念のため子ギルに令呪一画を渡しておいて本当に良かった。でなければ逃げ切ることは出来なかったかも知れない。

 

「お疲れギルくん。あとで労わらせてね」

 

 ちなみに大人のギルガメッシュの場合、礼として高確率で申し付けられるのは『余興』である。立香に一生縁がないであろうお高い美酒を口に運ぶ彼の傍ら、彼の気が済むまで延々と話を聞かされたり歌わされたりする。彼の冒険譚は面白くて楽しいのだが、後者はそろそろ持ち歌のレパートリーが尽きるので勘弁願いたい。

 子ギルはそこのところ少しは手加減してくれると信じたいが……さてどうなるやら。考えるのが少し恐ろしい。

 

「マスター、マシュ、助手を頼みます」

「いえっさー」

「はい! お任せください!」

 

 手袋を外したナイチンゲールが何処にしまっていたのか分からない救急箱を取り出す。それより宝具を発動した方が手っ取り早いとか言ってはいけない。

 

「あ、アタシもやるわ! 何を手伝えばいいの!?」

「その前にまず手の消毒を。爪や指の間も勿論ですが、手首の際、肘まで洗ってください」

 

 数日前に笑って別れたメンバーの殆どは半ば意識が飛んでいた。ラーマのように心臓を抉られた者がいないのが奇跡と言っていい。しかしジェロニモは右肘から下が無いし、左の太ももの肉がブロックのように削られている。内側だったら出血多量で即霊基消滅していただろう。ビリーは左の肩が骨ごと消えて辛うじて皮膚と肉数センチで腕と胴体がつながっており、ネロは真っ白なウェディングドレスの殆どが赤黒く染まっていた。

 

 それにしても、

 

「これ、ゲイ・ボルグの怪我じゃなくない?」

 

 ラーマを殺しかけた猛毒と呪いが無いのもそうだが、傷口の形が知っているものと違う。えげつないものなのは間違いないが、これは無数の棘で射抜かれたというより、太いネジが周りを巻き込みながらめり込んでいったもののような。

 

「ご明察だ、マスター。ワシントンにいたサーヴァントはたったのは三騎、狂王クー・フーリン、真名が呼ばれてなかったがピンクの髪に白い服の女……女王だな、んでもって――」

「アメリカに由来がある人?」

「いや、それは全然」

 

 一通り消毒と止血(そして治癒スクロールの使用)を終えたサーヴァント達の口に赤い薬剤を突っ込んだ立香が首を傾げる。うんざりとした顔のロビンフッドは酷く疲れているようだった。

 

 改めて、彼らの傷を見てみる。

 

 ゲイ・ボルグは強力な武器だが、あくまで対人宝具だ。伝承には投げれば三十の鏃となって敵に降り注ぐとあるが、リーチそのものは槍である。

 対して子ギルが逃走に使用したヴィマーナは『思考と同じ速さで動く』と言われている。光学迷彩や通信傍受といった様々な機能を持ち、攻めるにも逃げるにも守るにも適した要塞めいたオーバーテクノロジーの産物である。子ギルが十全にその機能を引き出せなかったとして、すぐさま高速で飛んで逃げられれば此処までの手傷は追わなかったのではないだろうか。

 

「由来はないっすよ。ただ今回召喚されてるメンバーを考えるとさもありなんって感じっすね」

「……よーし、先に聞こう。そいつのクラスは? 出身は?」

「インド生まれのアーチャーっすね」

「うわあ答え聞きたくない」

「現実を受け入れないと」

「わかってる! わかってるけど心の準備させて! あと一分!」

「地味に律儀っすねアンタ」

「人類最後のマスターは誠意と茶目っ気と冗談で生きてます!」

「結構駄目じゃねーか」

 

 ぺしり、とギルガメッシュに比べればなんでもない力で立香の頭をはたいたロビンは、緩んでいた口元をようよう引き締める。

 

「アルジュナ。マハーバーラタの大英雄だとさ」

「一分待ってって言ったのに」

 

 なんとなく予想出来てはいたが、聞きたくなかった大英雄の名前。立香はがっくりと肩を落とした。彼女としては個人的にいつか彼をカルデアに呼びたいと手ぐすねを引いていたので、この対立図は全く不本意である。

 

「マハーバーラタの大英雄がなーんでケルト行っちゃうかなー。あんな好青年風に書かれてるのに何があったの? 遅めの反抗期? 盗んだバイクで走り出すには七千年遅かったんじゃない?」

「俺に聞かれても」

「だよねー」

「ていうか七千年前にバイクないでしょ」

「ヴィマーナがあったならバイクくらいあったかもよ?」

 

 そんなことはどうでも良いとして。

 

「…………こうなると、もう私達だけで動くのは無理だね。何が何でも西側の協力を取り付けないと」

 

 とはいえ、何の手土産もない状態でエジソン側と組むことは出来ない。エジソン本人はだいぶ面白人間だが、話をした印象は如何にもゴーイングマイウェイで視野狭窄気味だった。若干伝記で読み取ったイメージと異なるが、訴訟王だの告訴王だの言われている人間はあのくらい我が強いものなのかも知れない。

 ブラヴァツキーもカルナも、エジソンの意思をまげてまで此方に協力してくる見込みは薄い。特にブラヴァツキーはかなりシビアに此方を見てくるだろう。何ならノコノコ顔を出した時点で此方を「ケルト側のスパイ」とみなしてくるかも知れない。

 

 有体に言って、八方ふさがりだ。

 

「それほどでもないぞ?」

「へ?」

 

 ふわ、と不自然な風が髪を擽った。

 目の前に赤……いや、深い赤紫色の影が広がる。ぱちりと一度瞬きをする間に、白い肌に深紅の瞳をした美女が目の前で仁王立ちをしていた。

 

「わーお、美人さん」

「……ふ、なんだ。素直な娘ではないか。過酷な状況にいる割に擦れておらんようだな」

 

 おかしそうに微笑んだ女性は、本当に美人だった。系統としてはクール系といえばいいのか、しかしうっすらと浮かべた微笑みからは何処か慈愛も感じる。真っ直ぐに伸びた髪は服と同じ赤紫色で、これが風に揺れると絶妙に美しい。冷たいよりも鋭いという印象。体のラインがぴったりと浮き出た服装には何処か見覚えがある。

 何より、携えたその真っ赤な槍は、そして通信機越しに聞こえた『ゲッ』というクー・フーリンの悲鳴が示す意味は、

 

「あの、もしかして、ケルトのスカサハ……さん? 影の国の?」

「うむ、よくわかったな。流石は馬鹿弟子のマスターと言ったところか」

『スカサハだって!?』

 

 ぴぴっ、と電子音と共にロマニが割り込んでくる。女性……スカサハは少しだけ眉を顰めた。どうやら通信機と、ロマニの声がお気に召さなかったらしい。

 

「あのアーチャーにそこのサーヴァント共が捕まるようなら手助けでもと思ったが、不要だったな。何分こちらは徒歩だ、追いつくのに少々時間がかかった」

「……そこから見てたのか」

 

 ならもっと早く助けてくれれば、とロビンの顔にはありありと書かれている。怪我の具合からわかっていたが相当危なかったようだ。

 

「あの、貴方はケルト側じゃないんですか? ケルトっていうか、あっちのクー・フーリンの」

「無論。だが私は……」

「そこの一行、話し込むのは一旦やめておけ。大群が迫っておるぞ」

「わお」

『え!? あ! 本当だ! 周囲に敵性反応多数!!』

 

 ガサリと敢えて立てているのだろう足音と共にもう一人槍を持った人影が現れた。今度は年若い男性だ。赤茶色の髪を束ねた中華服の男。知らない顔だ。そして神性は感じない。しかしその眼光はスカサハに負けず劣らず鋭い。中国の武将の英霊だろうか、それとも。

 

「マスター、指示を!」

「あ、ごめん。……ええとスカサハ様、これ、手は貸してもらえる?」

「一旦はな。だが積極的な助力はせん。私は影の国の女王にして戦士を教え導く者、此度はお前のマスターとしての資質を見てやろう」

「あ、そういうやつ? おっけー、わかりました。慣れてますんで大丈夫です。そちらのお兄さん、ええと」

「ランサー、李書文よ。若い者は知ら――」

「別方向にビッグネーム来た! ええええ本人? ほんとに? 写真とぜんっぜん印象違う!」

「……何だ、知っておったか」

 

 近代も近代すぎる英霊だ。ビリー・ザ・キッドも大概だが、李書文は1930年代まで生きた近現代屈指の武術家である。予想外過ぎて寧ろスカサハよりインパクトが強い。立香は思わず前のめりになりかけ――自分の頬を叩いて頭を切り替えた。

 

「ええっと、色々聞きたいことも言いたいこともあるけど一旦お預けで! 今動ける全員、戦闘準備お願いします!」

 

 

 

「えっ、メイヴ?」

「ああ。……なんだ? もしや既に因縁でもあったか?」

「いえ別に。ただ、アルスター・サイクルの内容的に彼女が黒幕の可能性低いねって話をしてたから」

「スカサハさんが敵だったらどうしよう、という話もしました」

「ほう、なるほどな」

 

 ね、と顔を見合わせる立香とマシュ。するとスカサハはまた少し笑ったあと、僅かに苦い顔をして詳細を語ってくれた。

 

 このアメリカ全土を巻き込んだ戦争の発端は聖杯を手にした女王メイヴであり、万能の願望器に彼女が願ったのは、自分にとっての『理想の王様』を体現した勇士クー・フーリンである、というのが彼女の推測だった。それを裏付けたのはロビンの証言で、彼の目から見たメイヴ(曰く、ピンクの髪に白い服の女)は女王を名乗りつつも実態はクー・フーリンに傅いている様子だったという。

 

「なーるほど、やっぱりクーの気の迷いじゃなくて聖杯かあ。ジャンヌの時と同じだね。あっちでもこっちでも拗らせててなんだかなーって感じ」

 

 立香は今カルデアに来てくれているジャンヌ・ダルク・オルタのことは個人的に大好きだが、彼女が生まれる原因となったジル・ド・レェ(キャスターの方だ。カルデアにも彼はいるがクラスはセイバーである。ジャンヌが関わらなければテンションは基本的に低い)の諸々には苦い思いを抱いている。

 ジャンヌの突き抜けた精神性を理解せず(或いは理解した上で丸ごと否定した)、自分の都合の良い『ジャンヌ・ダルク』を生み出した彼の所業は、言葉を悪くすればただの自慰行為だ。巻き込まれた二人のジャンヌこそが被害者だろう。

 

「やっぱりあんまり理解は出来ないなあ。クーはクーだからいいと思うんだけど」

 

 そして、メイヴもやっていることは彼と同じだ。違いがあるとすれば、ジル・ド・レェはあくまで生み出したオルタをジャンヌの代替品として扱っていたのに対し、メイヴは本来のクー・フーリンと狂王が別物であると認識した上で、本来のクーを切り捨ててオルタを選んだことだろう。

 手に入らない、思い通りにならないクー・フーリンはたとえ本物でも要らない。自分には相応しくない。もっと自分好みで、都合がよく、自分の理想を体現したクー・フーリンを本物にする……とんでもない話だが、ある意味清々しいとは思う。賛同は一生出来ないが。

 

「お前は随分と我が弟子に信を置いているようだな、マスターよ」

 

 スカサハが愉快そうに立香を見下ろす。

 なるほど流石はクー・フーリンの師匠。槍の切っ先のように真っ直ぐ此方を見つめてくる。何か試されているようだが、意図は分からない。立香は特に考えず答えることにした。

 

「クー『も』信じてますよ。うちに来てくれたヒト達みーんな、こんな勝ち目の薄い戦いに挑んでる小娘の賭けに乗っかってくれてるんですから」

 

 呼んだ私が信じなかったらとんだ事案ですよ。

 そう言ってにへらと笑った立香に、スカサハは満足げに微笑んだ。

 

「強い目をしておる。マシュよ、良いマスターを得たな」

「はい、自慢のマスターです」

「他にいなかっただけですけどね。で、お二方はこれからどうするんですか? 私達としては勿論、一緒に来てくれるならとても有り難いんですけど」

 

 ケルト屈指の女傑スカサハと、神秘の消え失せた二十世紀において『神槍』と畏れられた李書文。ともにランサーというクラスの偏りを差し引いてもおつりがくる戦力だったが、生憎とふたりが返した答えはともに『No』だった。

 

 スカサハは「この争いは神が介入すべきでないとみなした」ため、李書文は「自分の戦意を抑え込んで行動を共にする自信がない」ため。

 第三者からすれば「そんな勝手な」と言えなくもないが、どちらも当事者からすれば至極真面目なものだ。曲がりなりにも決定権を持つマスターとしても、この状態の二人を無理矢理引き込むつもりはない。そもそもそんな力は何処にもないのだが。

 

 だが、収穫は多くあった。少なくとも二人はケルト側に与するつもりはなく、また此方の敵に回るつもりはないという。相手のクー・フーリン(以後クー・フーリン・オルタと称する)は聖杯から生まれたもので単純な実力はスカサハを凌ぐという情報は絶望要素だが、何も知らずに挑む羽目にならずにすんだことはプラスだった。

 

「あくまで儂の見立てだが、あの発明王、何かに憑依されているな」

 

 そして、李書文からもたらされたこの情報はまさに値千金だった。

 あの如何にも暴走状態といった感じの態度はエジソン像と全く親和性がないわけではないが、それでも違和感を覚えざるを得ない。極めて高い観察眼を持つナイチンゲールもその結論を後押しした。

 となれば、やることはもう決まってくる。

 

「あれは発明王エジソンというにはあまりにも異質すぎる。サーヴァントとしての知識を紐解く限り、彼はあそこまで非合理的ではなかったはず」

「まあ変だよね。エジソンって人間が本当に合理的かは置いておくとしても」

「で、あれば病です。治療しなければなりません」

「私の見解は聞いてないんですね婦長、そのスタンス突き抜けてて好きですよ」

 

 バーサーカーに話は通じない(真理)。立香は特に気を悪くせずけらけら笑った。

 

「負傷者組は動かさない方が良いから……エリちゃん悪いけどお留守番してくれる? 私達が戻るまでネロたちを守ってあげて欲しい」

「仕方ないわね」

「ロビンは護衛よろしく。ていうかなるべく戦闘避けたいから色々お願い」

「へいへい。分かりましたよっと」

 

 気絶したままの子ギルはカルデアに返し(ヴィマーナも一緒に消えた)、一同は再び西の『アメリカ合衆国』を目指す。目的は共闘……は、一旦置いておくとして、まずは治療だ。これはもうナイチンゲールのしたいようにさせるべきだろう。

 

『何が何でも西側の協力を取り付けないと』

 

 先ほど零した独り言は紛れもない本音だった。だから次に彼らと相対した時、立香は此方の利を優先した発言しか出来ない。虚言や当たり障りのない言葉では、恐らくあのエジソンには届かない。カルナもブラヴァツキーもそれは的確に見抜くだろう。

 思えばあの三人は、後世に語り継がれる名声とは裏腹に、その他大勢の第三者から蔑まれる人生を歩んだ者達だ。カルナは身分故に武勇を評価されず、ブラヴァツキーはSPRに苛め抜かれ、エジソンは言うに及ばず。そういう相手に、「善人」の皮を被って耳触りの良いことをまくしたてるのはマイナスにしかならない。

 

 それこそナイチンゲール、バーサーカーとして顕現するに至った彼女の、患者の治療と治癒だけにすべてを注ぐ言葉でなくては。

 

「そんなだから同じ天才発明家として、二コラ・テスラに敗北するのです、貴方は」

「GAohoooooooooooooooooooooooooooooo!?」

 

 と、思っていたら彼女は予想以上にやってくれた。間違いなくトーマス・アルバ・エジソンという人間の心を叩きのめす一言をぶちかまし、歴代大統領の意思(と書いて怨念)に乗っ取られつつあったらしい彼に凄まじい衝撃を与えた。

 その代わりに彼の霊基はちょっと危ないところまでいったが、最終的に正気に戻ったらしい彼はカルデアと共闘することを決めてくれたので結果オーライだろう。

 

 そして、

 

「副大統領って大体フィクションですぐ死ぬか騒動の黒幕かだよね……いや、いいんだけどさ」

「せ、先輩! 大丈夫です! 先輩が副大統領なら寧ろ主役が副大統領です!」

「ありがとうマシュ。……まあそれだけじゃないんだけど、それはいいや、うん」

「?」

 

 曲がりなりにも地下牢で「う○こ味のカレー」呼ばわりした側なんだよな、こっち。……と、かつての自分の発言を顧みたマスターは、人知れず少しだけ反省したのであった。 




>最悪でかくてかったいチーズ用意して頭にぶつけりゃワンチャン

まあメイヴちゃん通常攻撃で飛んできたチーズ蹴っ飛ばしてるんですけどね!
メイヴちゃんの男性特攻と単体宝具にはいつもとてもお世話になってます。
マリーちゃんの全体方具+性別不問の魅了といい感じに差別化出来ててとても良き。

いつの時代も女王(王妃)は強い。はっきりわかんだね。

それにしてもアメリカ編のアルジュナはエジソンに負けず劣らず拗らせてて面白……いやいや大変ですね。

ウルーピーの祝福的なスキルを実装した水着アルジュナ待ってます。
ていうか男性サーヴァント霊衣とか礼装だけなのさびしい。グラブルを見習ってちゃんと新規鯖として独立してほしい(強欲)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。