××の先祖返りだった藤丸立香の話(未完)   作:時緒

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活動報告に2つほど書いて放置したものをちょっと修正して、活動報告に乗せてないけどなんとなくネタとしてあったものを付け足しました。

人魚要素は置いてきぼりですが、登場するぐだ子の言動が原作準拠ではなくこのシリーズの人魚ぐだ子なので話としては独立させずこちらに置いておきます。

本編は戦闘シーン諸々と某慢心王の再登場がつぎはぎ状態でひいこら言いながら手直し中。この度のピックアップで無事にインド兄弟も揃ったので頑張ります。



FGO×■■■■■(クロスオーバーネタ)

【FGO×名探偵コナン】

 

「日本だ……」

 

 行き交う人々の交わす言葉、電光掲示板に表示された言語。どれもこれもが骨身にまで染みついたものだ。すっかり英語生活が板についてきたといっても、母国語に無条件の安堵を覚えてしまうのは仕方ないことだと思う。

 

 しかし問題は、何故自分が今こんな既視感甚だしい町中にいるのかということだ。

 

「新宿、じゃない、よね。……何処かに案内板は……」

 

 人理は焼却から無事復活したものの、今度は約数か月前に漂白された。シオンと合流したことで定住拠点は得たものの、レイシフトはあまり自由に行えていない。辛うじて過去に修復した特異点の名残に降りられる程度で、今回も素材集めのため下総国に行く予定だった。

 

 が、実際はこの様である。

 

 遠くに見えるビル街を見ればそこそこ発展した都市だとわかるが、あの特徴的な形の都庁ビルも、いつかの時に某悪の教授が建てたバレルタワーも存在しない。丁度良くこの辺り一帯の案内板が道沿いに立っていたため、立香はいそいそとそれを覗き込む。

 

「べい、か……米花町……? べー、か……?」

 

 知らない町だ。しかし聞き覚え、見覚えはある。いやまさかそんな、そんな思いで近くにあった地下鉄駅の入口にもぐって路線図を確認すれば、出るわ出るわ知らない駅名や知らない土地名。新宿、渋谷、池袋、東京といった主要な駅は殆ど変わっていないが、明らかに余分なものがいくつも増えている。米花、米花東、それに杯戸、極めつけに東京ではなく東都。

 

「……」

 

 立香はとりあえず駅を出ると、すぐそばにあったカラオケ店に飛び込んで部屋にこもった。幸いにして室内に監視カメラの類はついていない。歌っているところを撮影するためのビデオカメラがテレビ上部についているが、作動してはいないようなのでこれは放置する。

 カルデアとの通信は、当たり前のように使えない。

 

「マスター、大丈夫ですか? 顔色が悪いようですが」

「アルジュナ!」

 

 突然背後から降ってきた声に飛びのけば、エキゾチックな美貌が穏やかに此方を見つめている。何故此処に、と思ったが今回のレイシフトメンバーの一人は彼だった。いて当然だし、いなくては困る。

 

「すみません、周りを見るに私の恰好は少々異質が過ぎるのではと思い霊体化しておりました。もう少し早く声をおかけすべきでしたね」

「や、それは全然いいっていうか……寧ろありがとう。でもこの先実体化したままにするなら服は変えた方が良いね。あと武器もヤバイ。此処は銃刀法が生きてると思う」

 

 あの狂った新宿ならいざ知らず、周囲の風景は平穏そのものだ。未だ帰れていない故郷を思い出して少し泣けてきそうだが、今はそれどころではない。あくまで特異点にいるもののとして行動しなければ。

 

「お金は多分使えると思うから、ちょっと買って……あ、でもサイズが分からないな。えーっと……他に誰か近くにいないのかな? 今日ちゃんとフルメンバーで来たよね?」

 

 分断されてしまっているとしたら、単独行動スキルをもっていないメンバーはいずれ強制退去させられてしまう。目の前にいるアルジュナこそがその単独行動持ちなのだが、他のメンバーはどうだったか……。

 

「……」

「うわっ、びっくりした。いるならいるって言ってよ巌ちゃん」

「その呼び名はやめろ」

 

 ぬ、と立香の陰から姿を見せる深緑の美丈夫。スーツもコートも紳士帽も同じ色で揃えていて、嫌味なほどに似合うがまるでその筋の親玉と言われても信じてしまいそうな顔つき。とても「がんちゃん」などという可愛らしい渾名は似合わないが、立香は特に気にしていない。

 

 それよりも、陰から突然出てくる芸当はレイシフト先でやるべきではないと思う。誰もいないカラオケボックスの中だからよかったが、往来でやったらSNSで拡散まったなしだ。……手品、で誤魔化せるだろうか?

 

「あ、でもその恰好ならまだ怪しくないよね。巌ちゃんちょっとあの向かいのブティック行って着替え買ってきてよ。巌ちゃんとアルジュナの分ね」

 

 幸いにして立香の今日の礼装はアニバーサリー・ブロンドである。いつもの礼装と迷ったのだが、礼装レベルを上げたいがために此方を選んだのだ。幸い、傍目にはちょっとクラシックなお洒落着にしか見えないので着替えの必要はない。

 

「何故俺まで」

「アルジュナくらいエキゾチックだと逆に『民族衣装』で誤魔化しがきくけど、巌ちゃんは無理。ぶっちゃけその顔にその恰好だと職質待ったなしだよ」

「ぶっ……し、失礼……」

 

 日本の警察は優秀なんだよ、と唇を尖らせる立香と、何とか誤魔化そうとしているようだが笑いを堪えきれていないアルジュナ。そんな二人にあとで覚えてろ、とそれこそヤのつく人のような捨て台詞を吐きつつ、大人しく霊体化する巌ちゃんこと巌窟王は、なんだかんだで面倒見がいい。

 

「よし、取り敢えず当面これで職質問題はオーケー。あとはうっかり入ったお店で事件に巻き込まれないようにしなきゃ」

「事件、ですか?」

「うん」

 

 きょとん、と少し目を瞠るアルジュナはちょっぴり幼げに見えた。立香は彼がいつも持っているガーンディーヴァが姿を消していることに今更気づく。

 

「あのね、私、この国の東京出身だけど米花町っていうのは聞いたことない。勿論東京の市区町村全部網羅してるわけじゃないけど、でも米花も杯戸も私は見覚えが無いし、駅でさっき見た路線にも幾つか覚えが無いのがあった。あと、そもそも東京はあくまで『東京都』であって『東都』なんて略さない」

「……なるほど、それこそ今回レイシフト予定だった下総国のような並行世界、ということでしょうか」

「近いと思う。ただその、米花って名前を全く知らないわけじゃなくてさ。……うん、巌ちゃん暫く戻らなそうだし、先にアルジュナに教えとくか」

 

 こく、と頷いた弓兵を向かいに座らせ(勿論扉のガラスからは見えない角度で)、立香はとつとつとこの『米花』について語り始める。

 

 某週刊少年漫画雑誌に連載されたそれは、その雑誌の中でも随一の長寿漫画で人気漫画である。

 平成のシャーロック・ホームズになるという夢を抱えた主人公は十六歳ながら数々の難事件を解決する少年探偵で、しかし彼は遊園地で幼馴染みとデートの途中、謎の男たちの取引現場を目撃したことで殺されかけてしまう。頭を殴られた主人公は謎の薬を服用させられ、気が付けば小学校一年生くらいの体型に若返ってしまっていた。

 

 以来、主人公は名を『江戸川コナン』というトンチキな名前に変え、幼馴染みの家に正体を隠して居候しながら、彼は探偵として様々な事件を解決している。悪の組織を壊滅させ、幼馴染みの元に戻るために。

 

「もう二十年以上続いてる漫画なんだけどさ……その漫画の主な舞台が『米花町』なんだ。……で、何が問題かっていうと、この街ってスピンオフでギャグ扱いされるくらい殺人事件が頻ぱ……」

 

『キャ――――――――――!!』

 

「……」

 

 あ、何だか嫌な予感。

 

『みっちゃん! みっちゃんしっかりして! どうしたの!?』

『ばか! 揺らすな!』

『警察だ! 警察呼んでくれ! おいヒデ! 何やってんだ急げよ!!』

『う、うん!!』

 

 隣の部屋からダイレクトに聞こえてくる、明らかにパニックになった若者たちの声。アルジュナ、と声をかけるより先に彼は霊体化してくれており、ひとまずほっと息をつく。

 

「おい、何があった」

「あ、巌ちゃんお帰り。悪いけどすぐ姿隠して。私ら全然関係ないけどヤバイことになった」

 

 冷や汗を浮かべる立香に訝し気な顔をしたものの、巌窟王は大人しくけぶるようにその姿を消した。手に持って行ったブティックの袋は一緒に消えなかったので、しかたなく拾って隣に置いておく。

 

「米花警察です! このフロアの皆さんは部屋から出ないでください!」

「部屋の扉を開けて固定してください! トイレも使わないで!」

 

 恐らく壮年であろう男の声と、はきはきとした若い女の声。どちらもなんとなく聞いた覚えがあるような、ないような……ああ、考えたくない。

 とはいえ言うことを聞かないという選択肢はなく、立香は大人しく扉を開いて適当に固定した。丁度先ほど怒鳴っていたらしい警察と思われる集団がのしのしと廊下を横切っていく。

 その中に恰幅の良いカーキ色のトレンチコートを纏った男と、年若いショートヘアの美人、それから顔立ちは悪くないが何処か気弱そうな青年がいたことを確認した立香は、はあ、と深い溜息をつく。

 

 やっぱ『名探偵コナン』じゃんか。

 

 立香はがっくりと肩を落とす。

 あの漫画はフィクション、そしてエンターテイメントとしてはとても楽しいが、現実を鑑みれば恐ろしく物騒でろくでもない世界だ。

 交通事故よりも殺人事件の件数が多い街なんて、実在していたら嫌すぎるだろう。

 

 

※他メンバーはアンデルセン、ロビンフッド、ジャック・ザ・リッパーを想定。続きを書くことがあったら出します。

 

 

 

【FGO×忍たま乱太郎】

 

 レイシフトで空中に投げ出された。いつものことである。

 令呪をもってサーヴァントに助けて貰った。いつものことである。

 地上に降りてカルデアと通信した。いつものことである。

 レイシフト先が予定と違っていた。いつものことである。

 

 つまり。

 

「もうこの手のトラブルはカルデア名物ってことだね」

 

 いちいち動揺する方が馬鹿を見る。現状把握の後にベストな行動をとるべし。

 

「流石はわたくしのますたぁ、これ以上惚れる余地も無いのに惚れ直してしまいそう……」

 

 ほう、と白い頬を紅潮させてすり寄ってくる清姫を「はいはいありがとう」と軽く撫でつつ、まずはぐるりと周囲を確認。舗装されていないわりに広い道。自然豊かで人工物は見当たらない。車が通った後もなければ人影も見当たらない。

 

「牧歌的だなあ……田舎なのか単に昔なのか……ロビンー、なんか見えない?」

「へいへい、ちょっと待ってくださいよ」

 

 今回のメンバー唯一の弓兵、ロビンフッドがきゅ、と垂れ目がちな瞳を細めて遠くを見つめる。立香は邪魔をしないようにまた周囲を見た。やはり人影はない。

 

「土が湿ってて草木が元気だ。風も湿っている。此処は雨の多い土地なんだろうね」

 

 太陽のような色の瞳を細めてエルキドゥが呟く。真っ白な貫頭衣がふわふわと風に揺れていて、そうしていると何だか妖精のようだ。ウルクのキレた斧などと言われていることも、そう呼ばれる理由も長い付き合いで理解しているが、それでも彼は基本的に穏やかな人柄をしている。立香にとっては重要な癒し要因だ。……たまにぶっ飛んでいて対応に困るけれど。

 

「まるで昔話の世界みたいね。ううん、グリム兄弟やアンデルセンのじゃないわ。マスターの生まれた日本のお話みたい!」

「あ、それはちょっとわかるかも」

 

 周囲の植物や湿った空気のせいだろうか。確かにナーサリー・ライムの言う通り、感じる雰囲気は西洋よりも東洋に近いように思う。昔々、から始まって、めでたしめでたし、で終わるやつだ。

 

「……子供だ」

「子供?」

「ああ、三人一列に並んで……ありゃキモノってやつか? マスター、此処は本当にアンタの故郷かも知れませんよ」

「マジかー。昔のことなんて高校の授業レベルしかわかんないんだけど」

 

 以前飛ばされた下総は宮本武蔵が自分を拾ってくれたからどうにかなっただけなのに。立香は少し渋い顔をした。とはいえ今回はサーヴァント達が最初から一緒だし、難易度としては低いかも知れない。

 

「どうします? あと十分もすればこっちに来るだろうが、こっちからも向かいますか?」

「一本道なんだよね? じゃあこのまま待って捕まえよう。体力温存体力温存」

 

 無論、この場合温存するのはサーヴァント達ではなく立香の体力である。毎日の筋トレや戦闘訓練は着実に実を結んでいるものの、それでも英霊と比べれば全く大したことは無い。変に張り切っていざというときに動けなくなっては逆に足手纏いになってしまうということは熟知しているので、立香はとりあえず近くの木にもたれかかった。

 

「あ、見えてきたね。あれ?」

「ああ」

 

 やがて道のずっと向こう側に小さな人影が見えてきて、もう少しするとそれが三つあるのがわかってくる。ロビンの言う通り子供のようで、背丈は立香より頭一つと半分くらいは低そうだ。

 

「……変わった歌だね」

 

 三人そろって大声で歌っているそれは知らないものだ。手裏剣がどうの、と辛うじて聞こえた。流行りのアニメの歌だろうか。

 

「あ、とまった」

 

 じゃれてきたナーサリーを構っていると、だんだんと近づいてきていた歌が唐突に止まった。ちら、とそちらを見ればすっかり姿を視認できる距離まで来た子供三人、隠す様子も無く此方を見ている。

 

「見て二人とも、あそこ」

「わっ、きれいなおねーさんとおにーさんだ」

「いつもは変な爺さんとかオッサンなのにな」

「こら、きりちゃん」

 

 子供たちは内緒話を始めた。内容が駄々洩れの内緒話だ。声を潜めると逆に聞こえやすくなるというアンチテーゼは万国共通だが、しかしこれは単に彼らの声が大きいだけである。

 

「異人さんみたいだけど、どうする? 声かけてみる?」

「やめとけよ。ぜってー面倒なことになるぜ」

「言葉がわからないかも知れないよ。僕のうちにくる南蛮の人と全然違うカッコだもん」

 

 …………。

 

「声かけられたくないみたいだね」

「ですねえ、どうします?」

「んー。できれば此処で情報は得ときたいんだけど」

 

 ああもあからさまに嫌がられると、流石に堂々と話しかけるのは気が引ける。どうしたものかと首を捻る立香に、ロビンがこそ、と耳打ちした。

 

「三百メートルくらい先に男が一人。こっちにくるっぽいですよ」

「そう? じゃあそっちに聞こうか。あの子たちはスルーしよう」

 

 ちなみにこちらはちゃんと『内緒話』をしている。サーヴァント達は立香の言葉に頷くと、それぞれ座ったりそっぽを向いたりして敢えて子供達から意識をそらした。

 しほーろっぽー、とあの不思議な歌が再開し、一列に並んだ子供たちが立香達を通り過ぎていく。不自然なくらいまっすぐ前を見ており、此方と目を合わせないようにしているのが分かった。やはり声をかけなくて正解らしい。残念だが、まあ仕方ない。

 

「いっちゃったわ、マスター」

「いっちゃったねえ」

 

 まあ、仕方ない。

 立香はよいしょ、と木の根っこに座りなおした。さて、ロビンが言っていた男とやらが来るまでもう少し。

 

「あのぉー」

「すみませーん」

「……はい?」

 

 と、思っていたら、通り過ぎたはずの子供が戻ってきていた。顔を見る限り、とても気が進まなそうだが。

 

「あ、よかったあ、言葉通じるんですね。みんな異人さんみたいだから言葉が通じなかったらどうしようかと」

 

 明るい髪色に眼鏡の少年がほっと胸をなでおろす。……服装は古めかしいが、眼鏡をかけているということは裕福な少年なのだろうか。衣服のつぎはぎを見る限りそうは見えないのだが。

 

「いや、私はこの国生まれだよ。あとこっちの清姫も」

 

 気にはなったが、初対面で人さまの家の経済事情をあれこれ聞くのはマナー違反である。立香はゆるりと首を振り、腕にしがみつく清姫を指した。

 

「ええーっ!?」

「そうなんですか?」

「全然みえねー!」

 

 ……元気な子達だ。そしてとても変わっている。ちょっぴり失礼だが素直なんだと思うことにしよう。寧ろ変に嘘をつくと清姫が火を噴くので正直なのは良いことだ。

 

「まあ私らの恰好はどうでもいいとして、何か用? 君達、話しかけられたくないんじゃないの?」

「ぎくぅ!」

「どっ、どどどどどおどどど」

「どうしてそれを?」

「どうしてもなにも」

 

 あれほど大きな声で言いあっていたから、てっきり此方に聞かせて牽制しているのだと思っていたが違うらしい。なるほど、言っちゃアレだが彼らはちょっぴりアホの子でもあるようだ。

 

「あの、おねーさんは何か困ってることがあるんじゃないですか?」

「で、丁度良く歩いてきた見知らぬよい子に助けて貰おうと思ってませんかぁ?」

「きりちゃん!」

「……強いていうなら道を聞きたいな、くらいには思ってたけど」

 

 幾ら何でも見知らぬ子供にいきなり頼みごとをするような不調法はしないつもりであるが、こんな言い方をするということは彼らにとって見知らぬ大人に何か頼まれごとをされるのが日常ということだろうか。

 立香が首を傾げると、子供たちは全く違う系統の顔に同じような、目からうろこがぽろっと落ちたような顔をして見せた。そんなに驚かなくても、と思うが、彼らにも何か事情があるのだろう。

 

「おねーさん、道を聞きたいって、何処に行きたいんですか?」

「迷子なんですかぁ?」

「道案内ならお駄賃くださーい」

「きーりーちゃんてば!」

「お駄賃かあ」

 

 リーダー格の少年に諫められながらも手を出す吊り目の少年。幼いせいもあるが、中性的な美人さんだ。顔に似合わず苦笑いするほど現金だが、立香としてはこういう態度は嫌いじゃない。

 お駄賃、と言われてなんとなくポケットを漁ってみるものの、生憎と飴玉しか出て来なかった。丁度三つあったので一つずつ、包みを破いてから手に乗せてやる。

 

「お金は持ち合わせてないからこれで。案内はいいから、一番近い人里の方向を教えてくれる?」

 

 厳密にいえば二十一世紀日本で使われている通貨は持っているが、彼らの恰好を見る限りそれは多分出さない方が良いだろう。仕立てや着古しの具合に差異はあるものの、彼らの恰好は明らかに現代のそれではない。

 

「えっ」

「それだけでいいんですか?」

「わっ、この飴玉おいしーい!」

 

 何故か驚く眼鏡くんと吊り目君。そんな二人をそっちのけで、ぽっちゃりした少年は早くも飴をかみ砕いている。他二人が着古した着物を着ている反面、彼だけは如何にも綺麗な格好をしている。家庭に随分と経済格差が見えるが、彼ら自身は気にしていないようだった。

 

「ほんとにいいんですか?」

「あとでアレコレ言ってくんのナシっすよ?」

「言わない言わない。ほら早く食べちゃいなって」

 

 それにしても、どうやら彼らは余程『他人の困っていること』に悩まされてきたらしい。ほんとに? ほんとにいいの? と何度も聞いてくる彼らにいいから、とこちらも何度も返し、大雑把な道を教えてもらう。

 

「ありがとう、助かった。多分もう会わないだろうけど、何処かで縁があればいいね」

 

 少年たちは見たところ魔術に縁もなさそうだし、道の反対側に行けば本当にこれきりだろう。……そんな風に思うこと自体がただのフラグであったのだと立香が思い知るのは、何とこの翌日のことである。

 

 

※こちらも去年連載終わっちゃいましたねー。書き手の初恋は土井先生でした(どうでもいい)

 

 

 

【FGO×ハリー・ポッター】

 

 映画で観たのとそっくりだなあ。

 少しずつ全貌をあらわした巨大な城影をぼんやり見つめ、藤丸立香はそっと溜息をつく。体の成長に備えて用意した大きめのローブは少しばかり重たく、気を付けていないと袖や肩がずり落ちてしまう。

 

『大丈夫か、マスター。惚けているようだが』

「ん、へーき。あんまり想像の通りだから逆にびっくりしちゃって」

『そうか。体調が悪くなったならすぐに言え』

「ありがと、カルナ」

 

 1970年のイギリスに、アジアン、特に日本人はまだ多くない。ちらちらと此方に注がれる視線は少し気になったが、もとより大勢のサーヴァントを引き連れる過程でそういったものには慣れている。それに、同じ船に乗った多くの生徒は、隅っこのアジアンよりも城やその周囲の風景、不思議な生き物たちに夢中だった。

 

 船を降り、巨体を揺らして先頭を歩いていた男から、細長く厳格な印象の女性に引率が引き渡される。彼女の恰好や顔かたちは、まさに非魔法使い――マグルが想像する魔女そのものだ。声も凛としていて、如何にもキャリアウーマンといった印象を覚える。

 

 ルビウス・ハグリッドと、ミネルヴァ・マクゴナガル……うん、思ったよりちゃんと覚えてる。

 

 此処に来るまでに必死で整理した登場人物相関図と時系列を頭の中に思い描き、それでも表面上は何事もない様子でついていく。長々と歩かされた先にあった大広間で、物語本編でヒロイン、ハーマイオニーが蘊蓄を述べていた『大空が映し出されているかのような天井』を堪能した。

 

「魔術師の世界もこのくらい平和ならいいのにね」

『まったくだ』

 

 はあ、という盛大な溜息は霊体化している孔明のものだ。時計塔講師である彼は、恐らく立香の知る中で最も現代魔術師の悪辣さに明るい者の一人である。根源とやらに至るためには何をしてもかまわない、とごく自然に考える者の多い魔術師の中には、こんな風に見る人の眼を楽しませる術、という発想は如何にも乏しそうだ。

 

「まあ、此処も外は平和じゃないんだけど」

 

 近年でも屈指の大ヒットを遂げた、王道ファンタジー小説『ハリー・ポッター』シリーズ。その、或いは類似した世界が今回のレイシフト先だった。ただの特異点ではなく亜種特異並行世界、と呼ぶ方が正しい。大まかな歴史こそ変わらないものの、立香達の暮らす世界より少しだけ神秘が近い世界だ。

 そんな世界にわざわざ英雄王が蔵に有する若返りの霊薬まで飲んで子供となりこの魔法魔術学校に入学した理由は……勿論、特異点の原因解明および聖杯入手のためである。

 

「思うんだけどさあ、エミヤ」

『何だね?』

「あの組み分け帽子って、洗浄魔法とか色々あるのになんで誰も綺麗にしてあげないんだろうね」

『……さあ、何故だろうな』

 

 マクゴナガル教授の注意事項を右から左に流し(実際、浮かれている新入生の多くは殆ど真面目に聞いちゃいない)、いよいよ映画や小説でも一番の見せ場であった組み分け作業に映る。ファミリーネームの頭文字Aの生徒から順番に呼ばれる仕様なので、Fの立香は結構前の方だ。

 ハッフルパフから始まり、グリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフ、ハッフルパフ、スリザリン……小説でも映画でも幾度となく出てきた四つの量の名前が順不同に叫ばれる。帽子の破れ目が口になっているようだが、あれを塞いだら一体どうなるのか気になって仕方ない立香である。

 

「ブラック・シリウス!」

 

 ざわ、と緑と銀、そして蛇の寮生を中心にさざめきが広がった。黒い髪に黒い瞳の、如何にも元気そうな美少年が緊張した面持ちで歩いていく。あの少年、あの名前は知っている。主人公ハリーの名付け親、そしてその父ジェームズの親友。物語のキーパーソンの一人だ。

 少年は緊張した指先で帽子を摘まみ、被る。しかし数分経っても一向に寮が決まる気配は無く、今年初めての組み分け困難者の出現に周囲はひそひそとあれこれ言い合いを始めた。

 

『グリフィンドール!!』

 

 長い時間をかけてやっと呼ばれた寮に、ざわめきが一気に喧噪へと変わる。スリザリン寮の方から女性の悲鳴さえ聞こえて、見れば少年に何処となく似た美少女が地団太を踏まんばかりの勢いで立ち上がっているところだった。

 寮監らしい老齢の教師がすっ飛んできて、周囲の生徒たちと一緒に何とか彼女を鎮めようとしている。

 

「静粛に! 組み分けはまだ終わっていませんよ!!」

 

 マクゴナガル教授が手を叩いて生徒たちを諫めた。声高な声は一旦止んだものの、動揺は未だ収まりを見せない。それでもある程度静かにはなったので、彼女は再び生徒名を読み上げる作業に戻る。

 スリザリン、ハッフルパフ、ハッフルパフ、グリフィンドール、スリザリン、レイブンクロー、グリフィンドール、ハッフルパフ。

 

「エヴァンス・リリー!」

 

 赤い髪の見事な少女が小走りに出てきた。緑の瞳が魅力的で、大人になればさぞや美人になるだろうと思われる。エヴァンス、は確か主人公の母の旧姓だったはずだ。となれば、彼女がリリー・ポッター……死してなお物語で重要な役割を果たし続けた愛の体現者というわけである。

 

『グリフィンドール!!』

 

 ブラックの時と違い、ただ拍手によってのみ彼女は寮に迎えられた。誰かが「ほら見ろ! 僕が見込んだ通りだ!」と叫ぶのが聞こえた気がしたが、たいして重要ではないのでスルーする。

 彼女の後はグリフィンドールが二人続き、そしてレイブンクローが一人、スリザリンが一人決まった。アルファベットはEからFに代わり、そろそろか、と立香は軽く拳を握る。

 

「フジマル・リツカ!」

『呼ばれたぞ、マスター。頑張りたまえ』

「帽子被るだけなのに?」

『強いていうのなら、頭の中を覗かれすぎないようにだな』

「何それこわい」

 

 さて、悪ふざけはこの辺りにしておこう。あまりのんびりしていると怒られそうだ。そして入学初日から叱られては悪目立ちしてしまう。これは良くない。

 立香はほてほてと広間の中央に出ると、緩慢な動作で帽子をかぶった。子供の頭には大きすぎるサイズのせいで、ずる、と目元まで隠されてしまう。

 

『ふむ、奇妙な経歴、稀有な出自、数奇な運命とそれにそぐわぬ柔軟な魂……異邦の術師よ、よくぞ参った。ホグワーツはそなたらを歓迎しよう』

「思ったより全部バレてる件」

 

 ホグワーツこわいな、と立香は冗談めかして呟いた。しかし内心は冗談どころではない。思ったよりも組み分け帽子の声音が友好的だから我慢しているだけで、本当なら即撤退行動をしているところだ。

 

『構えることは無い。私は古くからの盟約によりホグワーツを守護する者。形は違えど理を守る者相手に牙をむくことは無いよ』

「ならいいんですけどね」

 

 まあ、此方も聖杯が見つかれば長居する予定はないのだが。

 

『さて、では寮を決めねばな。…………ううむ、難しい』

 

 まるでひょうきんなピエロがこれ見よがしにそうするような声で、帽子はうんうんと唸り始める。

 

『勇気がある。強大な敵に立ち向かう勇気。目的のために命を懸ける勇気。それでいて慎重でもある。無謀に前に出ることはしない分別がある。そして時に狡猾、悪性を許容し、見て見ぬ振りもする。しかし本質は善性。悪を否定せぬ善。……勤勉でもあるようだ。深い知識を求めるだけでなく、実感を重要視する。人間理解への強い欲求、そして他者への許容、寛容、曖昧模糊でもある。難しい、これは難しい』

「一つ希望を言っていい?」

『うん? なにかね?』

「あんまり他の寮と喧嘩したくない」

 

 これからは基本的に学校のスケジュールに沿った生活をする反面、聖杯探索のために時には規則を破る必要がある。万が一の時のために人間関係は出来る限り円滑にしておきたいのだ。特に、この時代のように『わかりやすい恐怖』が身近にある場合は。

 

 組み分け帽子は立香の言い分に少し驚いたようだったが、『なるほど、では君はこうだ』と面白そうに笑った。

 

『ハッフルパフ!!』

 

 黄色と青の寮生たちがわっと拍手をする。立香は来た時と同じようにゆっくり帽子を取り、継ぎ目を一撫でしてからテーブルに戻した。

 

 

※カルデアのマスターはどの寮適正もあるかと思いますが、本連載のぐだ子はグリフィンドール(勇気)かハッフルパフ(寛容)で迷った結果後者となりました。




話として独立する場合は別にページを分けます。
多分ネタどまりなのでこれも供養ということでひとつ。

次こそ本編あげたいなあ……。
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