クロス・ボゥ
フラウの兄にしてアムロの幼馴染(年は一個上だけど気にしてはいけない)。
アムロ・レイ(♀)
もちろん髪の毛は天然パーマ。長さはミディアムぐらい。
連邦の〈白い悪魔〉そう呼ばれたMSのパイロットがいた。
パイロットの名はアムロ・レイ。
“彼女”は一年戦争と呼ばれた戦いでガンダムと呼ばれるMSに乗り、多大なる戦火をあげた。
それが軍人ではなく、元々は民間人というのだから、にわかには信じられない話だと人はいう。
だが、当時のジオン軍のエースであり後に永遠のライバルと呼ばれる〈赤い彗星〉のシャア・アズナブルと何度も戦い生き残ったと知れば、人は自然と納得した。
人々は彼女を英雄のように扱った。
アムロが女性ということと、〈ガンダム伝説〉のはじまりであるきっかけを作ったせいか、後世では女性が社会へ進出していく理由にもされ、ガンダムという名のMSが戦場において一つの象徴ともされるようになった。
しかし、そんなアムロ・レイの伝説には常に一人の男の存在があった。
男の名はクロス・ボゥ。
クロスを知る人間は彼を〈狂犬〉と呼んだ。
宇宙世紀0079。
二人の伝説がいまはじまろうとしていた……。
──繰り返します。住民の皆様は、指定された避難場所に避難してください……
「うるさいなもう。集中できないじゃないか」
まるでピアノを弾くような指捌きでキーボードを叩いていた手を止めて、少女アムロ・レイはモニターから目を離すことなく、ただ思ったことを口に出した。
先程の放送の内容はちっとも頭に入っていない。むしろ、作業妨害で怒鳴りたいぐらいだ。何度も何度も同じようなことを言っているのが、さらに腹に立つ。
せっかく自分だけの世界に入り浸っているというのに、それを邪魔をするのだから酷い話だ。なによりも、新しいプログラムの入力を間違えてしまうではないか。
アムロは一度口にしたあとは胸の内で何度も愚痴をこぼしていた
「ハロ、アムロ。ハロ、アムロ。アムロフクヲキロ。クロスガキタゾ」
SUN社製の市販ロボットのハロが母親のように言ってきた。いや、ハロはいい。ただ機械のように言うだけで腹は立たない。
これが彼なら……ちょっとうるさい、と思うぐらいだ。
「やあハロ。今日も元気だね。でも、服ならちゃんと……あれ?」
そこでようやく体がやけにスースーするというか、やけに空気に触れていような……そう、なんだかとても開放的な気分だということに気づいた。
顔だけを下に向ければ、シャツ一枚とパンツを履いているだけだった。
なるほど。これはたしかに開放的だ。
裸ではなく、シャツとパンツ一枚というのは、とても大切なことだとアムロは考えていた。つまり、生まれたままの姿をさらすというのは、変態だということだ。
しかし、シャツにパンツを履いていれば、ちゃんとした現代人ということでもある。
別にここは自分の部屋なのだから、どんな格好をしていても自由なのである。そこは、誰かに強制できるものではない。
父さんやこのコロニーの市長とか大統領だとか。どんなお偉いさんにだってボクは従わない。
そんな時、一階から慣れ親しんだ声が聞こえた。
「おーいアムロー。用意はできたかー」
そう。クロスだけは、ボクの例外だ。
彼はボクの幼馴染だ。いや、フラウの一個上のはずなのに幼馴染はおかしいような気がするけど、ボクらの間では問題ない。
例外というのは、ボクがクロスに対して人並みに以上に信頼を置いているというのもあるし、少なからずの好意というの抱いているわけだ。
とどのつまり、ボクことアムロ・レイはクロス・ボゥにはやはりというか、そうでもあるので従ってしまうのだ。
「なんだアムロ。用意どころか着替えてすらいないじゃないか。いや、悪い。もしかして着替えている途中だったか?」
「……知ってて言うくせに」
「ハハハ、そうでもある」
アムロの部屋に入れば、彼女は白のシャツ一枚に白のちょっと大人っぽいショーツだけの姿だった。
シャツは薄いのか彼女の未だ成長途中の胸のふくらみと、薄いピンク色のアレが見える。
別に戸惑ったりはしないしそれも当然のことだ。
アムロの服を用意しているのはオレであるのだから、一々頬を染めたりはしない。むしろ、顔を赤くするのはアムロだ。
シャツの裾を持って、年相応な恥じらいの素振りをして見せる。
そこがかわいいのだ。
(あぁ~今日もアムロはかわいいんじゃぁ……)
しかし、惚けているわけにはいかない。コロニー全域に避難命令が出されているのだ。
案の定アムロは用意などしていなかったので、予め持ってきておいたバッグに下着と衣類を詰め込みはじまると、彼女が服を着ながら聞いてきた。
「なんで荷造りするのさ」
「やっぱりアムロはオレがいないとダメなんだから。どうせ、さっきまでの放送がうるさくて耳に入ってなかったんだな」
「し、仕方ないじゃないか。新しいプログラムを作っていたんだから」
「知っている。まあ、それも少しお預けだ。なんでも軍の船が入港するから、それで避難するんだそうだ」
「ふーん」
そんなことをしている間に簡単に荷造りをすませられた。こんな短時間でできるのは、アムロの部屋の私物は全部把握しているし、掃除洗濯料理もやっているからできることだ。服だってちゃんと畳んでしまっている。
アムロの方に向けば着替え終えていて、くせっ毛というか天然パーマと呼ばれている自分の髪を必死に梳かしているが、天然の前に無抵抗で終わる。
(髪を梳かしているアムロは最高だぜ!)
普段はだらしないアムロであるが、そういう女性らしい素振りをしてみせれば、最高に可愛いのだ。女としては数段上である我が妹フラウには悪いが、ここだけはアムロが宇宙一だと思う。
そんな時、ふとアムロの服装に気づいた。スカートではなくズボンを履いてるのだ。
「にしても、この間新しいスカート買ったのに履かないのか?」
「だって、クロス以外に見られるのは恥ずかしいんだ」
「ぐふっ。なんてかわいいやつなんだ……」
「もう! 一々吐血しないでくれよ!」
「ああすまない。アムロがキュートすぎてついな。とにかく、下にサンドウィッチを作っておいたから、それを食べたら来い。ほら、ハロもいくぞ」
「イクゾ。イクゾ」
オレはバッグを持って先程よりも真っ赤なアムロを置いて先に家を出た。
クロスが車庫に停めてある車にバッグとハロを載せていていると、向かい側の家からハヤト・コバヤシが出ていくのが見えた。
そしてクロスは、今日も釘を刺しておくべくハヤトの下に向かう。同時に彼もクロスの存在に気づけば、その顔を引きつった。
ああ、今日もか。そんな顔だ。
「やあハヤト。お前もいまから避難か?」
「そうだよ、クロス」
彼はその肩に帯で縛った柔道着を抱えていた。
ハヤトはその若さにしてすでに柔道2段の腕前を持つ少年である。
「なあ、ハヤト。アムロがお向かいさんで、アムロが抜けていることをいいことに、イケナイことを考えていないよな?」
「そ、そんなことするわけないだろ! だれがアムロなんか」
「あん⁉ アムロがかわいくないっていうのかよ!」
「そんなこと一言も言っていないだろ!」
ハヤトは、クロスのこれがとてもきらいだった。彼のアムロに対する“お節介”は、このコロニーでは有名だ。
すべての事においてアムロを優先し、そのアムロが何らかの非を被れば、クロスは敵に対して容赦ない制裁を行うのだ。
そんなことでこのコロニーではこんな言葉が生まれた。
『アムロにさわるべからず。クロスにかかわるべからず』
それは、女こども問わず大人──たとえ相手が軍人だろうと関係ないのだ。
「あら、クロスくん。あなたもこれから避難するの?」
「あ、おばさん。ええ。これからアムロと一緒に」
「そう。相変わらず偉いわねえ」
割って入ったのはハヤトの母であった。彼女が現れるとクロスの顔は一変し、ご近所から評判のいいクロス・ボゥになった。
それが演じているのか、はたまた本当の姿なのかはわからない。
「それじゃあわたしたちは先に避難所に行ってるわね。ほら、ハヤトいくわよ」
「う、うん。じゃあまたあとで」
「ああ」
クロスは知らないことだが、こうやってハヤトが毎回嫌な目に遭った後は必ずのように、彼の妹であるフラウ・ボゥが慰めている。
彼女は彼女で苦労しているのだろうと、彼を知る住民全員が思うのは当然であったが、フラウもまたクロスの妹であることを誰もが無意識に忘れているのである。
また、コロニー内で比較的一番迷惑を受けている自分に声をかけてくれるフラウに対して、ハヤトが淡い恋心を抱くのは、とても自然なことであった。
「やってくる連邦の船に、おじさんが乗ってるんだろ?」
「らしいね」
避難場所へ向かう途中。アムロが運転する隣で、オレは彼女の父親であるテム・レイの話題を振った。案の定、アムロは久しぶりあう父親に対して、正反対の反応をしてみせた。
アムロは、テムおじさんがきらいなのだ。
「おじさんはアムロを大切にしているんだってことは、オレにだってわかる」
「ボクはきらいさ。女なのに、アムロって名前を付けられてさ、その上気づいたら自分のことを“ボク”って呼んでいるんだ。それは、酷いことだよ。親父は、男の子が欲しかったに決まってるよ」
「父親なら生まれる子供が、男の子を望むのはよくあることだよ」
「クロスもそうなの?」
「なんだ、生んでくれるのか?」
「……ばかっ」
「おっと」
車がさらに加速して、思わずシートに背中を叩きつけられた。アムロが怒ってアクセルペダルを踏んだのは、彼女の真っ赤な顔を見ればわかることだった。
アムロの年は15歳。16歳になれば結婚は法的には認められてはいるが、彼女に対して恋心なんてものを抱いてはいない。
それは、たぶん違うと思う。オレがアムロに抱くこの感情は、けして、恋なんてものではない……はずだ。
だから、アムロが本当に好きな人を見つけ、相手も同じように彼女を愛してくれる男であれば文句はない。
しかし、それはそれだ。
(アムロはオレが守護らねばならぬ)
おじさんにも頼まれたというのもある。
それ以上に宇宙一かわいいアムロを守護れるのは、オレ以外にはいないのだ。
ドォォン。
退避カプセルが轟音と一緒に揺れたのは、ほぼ同時だった。
これが、外で戦闘が始まったことを告げていることに気づていたのは、オレとアムロそれにフラウと数名の大人たちだった。
アムロは戦闘になれば、この退避カプセルでは持たないことを悟り、入港している軍の船に乗せてらうよう話すため、どこかにいるであろうおじさんを探すために外に出た。
テムおじさんの階級は大尉だったはず。なので、それなりの権限は持っている。
それは、ここの連邦軍のコンピューターをハッキングして知っているのは、アムロには内緒だった。
当然アムロが外に出れば、もちろんオレもついていく。
妹のフラウは「気を付けてね」と一言いうだけだった。
我が妹ながら兄をよく理解している。
外に出てすぐに目に入ったのが、ジオン軍のMSのザクなのはすぐにわかった。あれに、地球連邦軍は苦戦を強いられているのだ。
ザクなのか、それとも連邦軍の流れ弾ならぬ流れミサイルが近くにあった場所に直撃し、先程すれ違った連邦軍人を巻き込んで、大きな爆発を起こした。
その際、どこから飛んできた分厚い説明書らしきものをアムロが手に入れると、彼女はそれに夢中になった。
アムロは、機械オタクだ。彼女が持つハロも、よく改造して他の既存品とは比べれものにならに性能を持っている。
だからだろうか。ページをめくるたびに中身を理解してしまい、周りが戦闘中にも関わらず夢中になってしまうのは。
「すごい。親父が夢中になるわけだ」
「腕の中で暢気なことを言うんじゃあないっ」
オレはアムロを抱えて走っている。途中、フラウと母さんと合流していまは港に向かっていた。
港に大きな荷物──主に重機や大型トレーラ──―を運ぶエレベーターの前に数台の大型トレーラーが停まっていて、エレベーターと港の玄関でもある搬入口に“赤い機械の塊”が入っていくのが見えた。
その下では宇宙服を着ている数名の人間が見え、アムロが叫んだ。
「父さんだ。クロス、父さんがいる!」
「本当なのか?」
「あれは、父さんに決まってるよ!」
「わかった。フラウ、お前は母さんと一緒に港にいくんだ」
「わかったわ」
フラウは、兄であるクロスはおろかアムロに対して、その行動を止めようとはしなかった。二人の母親でさえも。
それは、クロスだからという安心のあらわれであり、アムロは彼がいるから安心という今までの経緯があるからだった。
「父さん! 父さん!」
「いいから早くトレーラーを動かせ! ん? アムロじゃないか。それにクロスくんも。早く避難しなさい」
「お久しぶりです、おじさん」
「父さんは、人間よりこんなモビルスーツが大切なんですか!」
「だめです大尉! エンジンがかかりません!」
「仕方ない。私が牽引車を持ってくる。二人も早くホワイトベースに行きなさい」
「ほわいとべーす?」
「港にある軍艦だ。クロスくん。娘を頼む」
「はい」
そう言っておじさんはどこかへ行ってしまった。
アムロも最初は父の背中を見つめていたが、自然とそれはトレーラーに乗っている連邦のモビルスーツに目が向いていた。
「アムロ、もういこう。フラウが待って──!!」
オレは咄嗟にアムロを抱きしめながら地面に伏せた。同時にまた、流れ弾が着弾して、粉々になった土の塊が空から降ってきた。
アムロを守護るために常に鍛えてきたこの体が、真の意味でその役割を果たしている。
「く、クロス。平気かい……?」
「……問題ない。早く港に急ごう」
「う、うん」
「兄さん! アムロ! 早く港に──」
「フラウ!!」
爆音。
また、流れ弾が近くに着弾した。それは、フラウが港に続く道路を走っていた場所だった。フラウは最初の爆発でこちらに気づき、心配になってそこを離れたから、助かったのだ。
オレは叫びながら倒れたフラウを腕に抱いて、何度も叫んだ。冷静ではなかった。生まれて初めて、妹が死ぬかもしれないと思った途端、平静を装うことなどできなくなっていたのだ。
「に、兄さん……」
「よかった……ほんとうに、よかった」
「兄さん……母さんは……」
「見るなフラウ。見ちゃ、いけない」
「兄さん、母さんは!」
フラウが後ろを振り向かないように、強く抱きしめた。
見せるわけにはいかないのだ。母さんはオレの目の前にいる。けど、流れ弾が着弾して、他の人達の死体の中に、母さんの死体があっても。
死体は五体満足だった。それを幸運と呼ぶべきなのか、不幸なのかはわからなかった。
フラウもそれを理解し、涙を流した。オレもまた声を抑えながら涙を流した。
ドォォン!
また、爆発した。
戦闘は続いていて、まだここは安全ではない。
「フラウ、走れ……走るんだ!」
「でも、かあさんがぁ……」
「オレの妹だろ! いまは、走れ! 港にいくんだ!」
「あぁ…………」
フラウのお尻を叩いて、彼女はふらつきながらも港へと向かった。
それを見届けてアムロの方に振り向けば、彼女も涙を流してくれていた。
アムロはなんていい子なんだ──そんなことを思っている暇は、いまはなかった。
オレは怒っていた。アムロの次に妹のフラウを泣かせる奴が二番にきらいだったから。
この時、オレとアムロは何故か連邦のモビルスーツがあるトレーナーへと戻っていた。理由はわからない。もしかしたら意味なんてなかったのかもしれない。
「こいつ、動くぞ……!」
モビルスーツのコックピットに被さっていたシートをどかして、中を除きこんだアムロが言った。
先にアムロが乗り込み、続いてコックピットに入るが……狭かった。当然だ。モビルスーツとは本来一人乗りなのだ。
「仕方ない。アムロ、オレの膝の上に乗れ」
「わかった」
恥じらいもなにもなくアムロは素直にオレの膝に座った。彼女の柔らかいお尻の感触が伝わってくるが、いまは浸っている時間はない。
アムロは分厚い本──恐らくこのモビルスーツの説明書──を読みながら計器類に手を触れていく。
ハッチを閉じ、コックピットブロックをモビルスーツに同期し、モビルスーツ──説明書にはRX‐78‐2ガンダムと書いてあった──を起動させた。
こうも簡単にできたのは、予めガンダムがアイドリング状態だったのが功を奏した。
起動したことにより、正面左右のモニターがついて外の映像が映し出された。メインモニターにはザクがいて、モノアイがこちらに向いた。
「しょ、正面だ!」
アムロは叫び、レバーを握り、レバーにあるボタンを押した。
それは、アムロが無意識にやった行動だということは、クロスには理解できてしまった。
ガンダムが放つ頭部のバルカンは、ザクの上を通り過ぎていく。ロックオンもしていないし、まして、いまだトレーラーに寝ているのだから、当たるわけがないのである。
「落ち着くんだ、アムロ!」
「わかってる……立て、はやくっ……!」
「デニム曹長。敵のモビルスーツが動き出しました!」
「なに? みんな部品ばかりだと思っていたが」
「いえ、まだうまく動けんようです!」
ザクのパイロットであるジーンは上官であるデニム報告すると、モニターの向こう側でぎこちない動きをしているガンダムに向けて発砲した。
だが、ガンダムの装甲はザクマシンガンの120㎜ではびくともしない。
「やめろジーン! 我々は偵察が任務なんだぞ!」
「何を言っているんです! ここで倒さなければますます──おおっ⁉」
「立った……立った、のか……⁉」
「アムロ、ザクがもう一機増えた!」
クロスが叫んだ。
一人用のコックピットにもう一人増えれば、パイロットを固定するベルトが伸びるはずもなく、アムロはクロスの手にその身を預けていた。
アムロは再びボタンを押してバルカンを撃ったが、先程と同じようにザクの上を飛んでいく。
ガンダムの頭部バルカン砲は60㎜口径で、弾数は片側50発の計100発。対空防御や牽制用が目的であるが、ザクⅡ相手にも十分匹敵する威力は持っている。
が、アムロはただやみくもに撃っているだけで、その効果は一度も発揮できず、ついには弾切れになった。
「弾切れ⁉」
「落ち着けアムロ! く、くるっ」
「ああっ!」
その時、二人が見たのはザクマシンを構えながら迫るジーンのザクだった。直接ではないがモニターが映し出すその光景は、二人が恐怖に飲み込まれるには十分すぎる映像だった。
「へ、へへ、怯えてやがるぜこのモビルスーツ……」
ジーンは相手のガンダムの僅かな動きを見て、そう感じったのは正しかった。現にアムロとクロスは怯えていた。
彼は至近距離でマシガンを発砲すべくさらに距離を詰める。
そして、コックピットに照準を合わせた時、クロスの手はアムロがレバーを握る手に被さっていて、二人は一緒にガンダムを動かした。
──これが、はじめて二人で行う(モビルスーツで)共同作業だった。
ガンダムはザクマシンガンを押しのけ、ザクの頭部──人間でいう口──を掴み、引き裂いた。
「ああっ! うわあああ!!!」
「こ、これが連邦のモビルスーツの威力なのか……! ジーン、大丈夫か⁉」
「は、はい。メインはやられましたが、補助カメラで、なんとか」
「よし。スレンダーのとろこまでいけ。援護する」
「りょ、了解」
ジーンは倒れたザクを起き上がらせ、補助カメラを使ってメインモニターに映像を回して、デニムのザクの補佐に合わせてスラスターを吹かせ、ジャンプをした。
「逃がすものかーーー!」
「アムロ、ビームサーベルだ!」
「これだね!」
「そうだ!」
アムロとクロスは、ガンダムを理解し始めていた。クロスは、アムロが説明書を読んでいる時に一緒に見て覚えたのだ。
ガンダムはビームサーベルを抜き、飛んでいたジーンのザク目がけて跳躍し、その際デニムが援護するが当たらず、そのままガンダムのビームサーベルはザクを胴体から斬り裂いた。
「うわああああ!!!」
ジーンが恐怖に怯え叫ぶ声は、二人には聞こえるはずもない。
ザクのメインエンジンが爆発し、巨大な閃光と爆音を立てながらコロニーに穴を開けた。
この時、アムロの父テム・レイはその余波でコロニーの外に放り出されたことを、アムロはおろかクロスにも気づくはずがなかった。
モビルスーツのメインエンジンをやれば、コロニーに穴を開けるほどの爆発を起こすことを二人は瞬時に理解した。
「アムロ、またエンジンを爆発させれば、いくら巨大なコロニーとはいえ空気がなくなる!」
「じゃ、じゃあ、どうしたらいいのさ!」
「コックピットだけを狙うしかない」
「で、できるの……」
「やれる、アムロなら」
「クロスがそう言うのなら、間違いはないんだね」
クロスの手を通じて、アムロは彼の気持ちを理解した。クロスもまた、震えているのだ。
確証はない。けど、二人ならできる。震えながらもそれだけは間違いないのだと、アムロはクロスに包まれながら一人ではないことに安堵し、迫るザクを捉えた。
「ええい! よくもジーンを!」
デニムの動きは、二人にとって僥倖だった。彼は、左肩のスパイクアーマーを向けながら迫っていた。マシガンが効果がないと悟り、デニムは格闘戦に持ち込もうとしたのだ。
だが、デニムはどういう訳か跳躍した。
それは、フェイントだったのか、それとも蹴りを入れようとしたのかはわからない。
確かなのは跳躍したことで、ガンダムがビームサーベルを構えた位置にコックピットがあったことだ。ビームサーベルの刃が、伸びる位置にデニムは機体を動かしてしまったのだ。
それを見逃すクロスとアムロでなかったのが、彼の不運だった。
「いまだ、アムロ!」
「うん!」
ビームサーベルはコックピットごとデニムを焼き殺し、ザクは機能停止した。二人はザクを爆発させることなく、敵を無力化してみせたのだ。
初のモビルスーツ戦において二機のザクを撃破。
これが、二人の初陣であり戦果だった。
この時、宇宙世紀0079年9月18日。
アムロ・レイとクロス・ボゥは、これから続く長きにわたる戦いに身を投じることをまだ知らなかった。
次回予告。
アムロとクロスは、やって見せてしまった。
モビルスーツを動かし、ザクを二機撃破してしまえば、大人たちはそれを認め受けいれるしかない。
そして二人はアイツと出会ってしまった。
赤い彗星のシャアに。
次回「ガンキャノン出撃」
クロスはアムロを守護れるのだろうか。