「240㎜と60㎜の装填は終わったんだろ?!」
コックピットの中から外にいる整備員に向けて俺は叫んだ。
それはいま乗っているモビルスーツのガンキャノンの固定武装の弾薬のことだ。これがなければこのガンキャノンはただのいい的になるだけの鉄くずだ。
「いまやってるでしょうが!」
「こっちだって慣れない作業で精いっぱいやっている!」
「急いでくれよ! 敵は……待っちゃくれない」
モビルスーツの傍で作業をしている数名の整備班から怒りが混じった声が返ってくる。だからといってこっちもそれに反応していては作業は進まないので大人しく返事を返す。
「ちっ。ガキが偉そうに」
「まったくだ。ザクを倒したからってよ」
だが、向こうは大人の割には感情をうまくコントロールできずにいた。
「――これが正規兵かよ」
愚痴を吐きつつもコンソールパネルを操作しながらガンキャノンの最終調整を行う。
なぜ俺がガンキャノンに乗っているのか。それは単に正規のパイロットがいないのとガンダムを動かしザクを撃破してみせてしまったからだ。
先の戦闘でザクを倒した俺とアムロを迎えたのは驚愕と疑惑の眼差しだった。
まさかガンダムのコックピットにいるのが正規のパイロットではなく民間人で、さらにそれが男の膝に女を乗せていればそうもなる。
そこでひとつのミスを犯してしまったのがすべての始まりだ。
『お前がガンダムを動かしたのか?』
「俺達二人でやりました」
『冗談を言うもんじゃない』
「女がモビルスーツを動かしちゃいけませんか」
「そうです。彼女……アムロがこれを動かしました」
『アムロ? きみが?』
「ボクがアムロでいけませんか!」
「落ち着けアムロ」
そう言って頭を撫でながら落ち着かせた。
アムロはコンプレックスというか女だからという差別に敏感に反応してしまう。さらにどういう訳か俺は……大人しく彼らと話していた。
自分はただ補佐をしていただけでちゃんとガンダムを動かしたのはアムロだとも言ってしまった。
その後、彼らは鵜呑みこそしなかったが一人で操縦してみせるアムロを見て納得してるように見えた気がする。
アムロはサイド7に残ったモビルスーツやその他のパーツをガンダムを使って破壊するよう命令され、俺はホワイトベースに残り唯一稼働可能状態にあるガンキャノンの調整を自ら買って出た。
そうしなければならないと思ったのはすぐ次の攻撃が来る、そう直感が囁くのだ。
「きみがクロス、クロス・ボゥか」
コックピットの前から声がしたので顔をあげると、そこにはノーマルスーツを着こんだ見覚えのある男が立っていた。
たしかガンダムに乗っていた時に通信してきた男だったはずだ。
「あんたは……」
「ブライトだ。ブライト・ノア」
「で、そのブライトさんが俺に何の用だい?」
「この目でガンダムを動かした人間を見たいと思うのは変か?」
「さっきも言っただろ。俺じゃなくてアムロだって」
「それなら尚更おかしいな。ならばなぜガンキャノンの整備を手伝っている。協力は感謝する。だが、ただの民間人がモビルスーツの整備はおろか動かすことなどできんよ」
「マニュアルを読めば誰だってできることです」
実際にそうだしガンダムを動かしてみてだいたいのことは理解できた。これもアムロが機械好きなのも幸いしたのも大きい。
あとは何となくわかるのだ。
しかしブライトは納得していないようだった。
「それができれば誰も苦労はしない。まあいい……クロス、きみはどうしてそこまで冷静なんだ。みんなジオンの攻撃に怯え戸惑っている。オレ達軍人だって浮足立っているっていうのに」
「冷静じゃなきゃアムロを護れない。けど、いまの俺は苛立ってるんですよ」
「その気持ちはわかるよ」
「ジオンにじゃない。自分にです」
「自分?」
俺はアムロを戦わせて、名前も知らない奴らの命令に従わせている。大切なアムロをモビルスーツになんて乗せて戦争をさせているのだ。
自分がガンダムを動かしたと言えばよかったのに言わなかった。
なぜ? そうしなくてもよかったはずなのに、そうしなければいけなかったと何かが囁く。
それが一体なんなのか。それが怖くて、それに逆らえない自分が憎い。
「兎に角俺は――」
「……どうしたクロス?」
その時身体の全身に電気が奔った。
これはサイド7にいた時から起きる感覚。つまり、アムロを脅かす敵がいるということ。
だがこれは……今までに味わったことのないものだ。
「敵だ……敵がくるぞ、ブライト!」
「敵? クロスなにを――」
『総員に通達! ジオン兵が潜入! 空いている者は総員武器を持って迎撃せよ! 繰り返す――』
「クロス、オレはブリッジに戻る。お前は」
「ガンキャノンを急がせればいいんだろ!」
「そうだ!」
ブライトはそう言うとブリッジに戻り俺もまたコックピットに戻って作業を再開した。最終調整を急ぐために手を動かしている時に違和感を感じて思わず手を止めた。
右手は不自然なほどに震えていた。
「……怯えている? 俺が?」
「ハァハァ……っ!」
トリガーを引いてビームライフルが発射される。ザクを一撃で仕留めることができる強力な武器だが、目の前の赤いザクには一撃も掠ることすらできない。
「なんで……なんで当たらないんだ!」
『落ち着けアムロ! 敵はあの赤い彗星なんだ。きみが敵う相手じゃあない!」
「このっこのっ!」
先程のザクは一撃で落とすことができたのに、この赤いザクはなんで落ちないんだ! スピーカー越しにブライトの声は聞こえるが、一体なにを言っているのかまるで聞き取れない。
「うわぁあああっ!!」
敵の攻撃を受けてしまうがガンダムの装甲なら耐えられるという安心感がまだボクを錯乱する一歩手前に繋ぎとめてくれている。
けど、怖い。
こちらの攻撃が当たらないのもある。けれど、それよりももっと怖い感覚を味わっているのだ。コロニーの時はクロスがいたけどいまはいない。それが一番の理由だ。
クロスがいればどんな時だってなんとかなった。彼が後ろから声をかけさえしてくれたから、あの時もガンダムを動かして見せた。
いつも守ってくれていたクロスがいないということが、ボクを不安にさせる。
怖いよ、助けて……助けて……。
「助けてよぉクロス!!」
涙で歪んだ視線の先に赤い目が光った瞬間、光の弾が目の前を通った。同時に待ち望んだ彼の声が耳に届いた。
『大丈夫かアムロ?!』
ガンキャノンの背中にあるキャノン砲は見事敵の赤いザクをガンダムから離すことに成功した。当たればラッキーだとクロスは思ってはいたが当然のことながら当たることはなかった。
「アムロは下がれ!」
『で、でも……』
「お前だ。そうかお前なんだな!」
アムロの言葉を聞かずクロスはガンキャノンを赤いザクへと奔らせた。手になにもなく、あるのは基本兵装であるバルカンとキャノン砲のみ。
クロスはバルカンで牽制しつつガンダムとの距離を離しながらザクへと迫ろうとする。
対して新たな援軍にザクのパイロットである赤い彗星ことシャア・アズナブルも驚きを隠せずにいた。
「ええい、敵の増援だと?! 白いヤツのほかに赤いモビルスーツもあったのか!」
シャアもまた敵のモビルスーツガンキャノンが白いモビルスーツと違ってそれが支援機だとその形状を見て予想はついた。
だが、その支援機がこうまで接近してくるのは恐ろしいぐらいに不気味であった。
「お前の存在はアムロによくない……よくないんだよ!」
クロスの手は未だ震えていた。だが、それは彼にとってレーダーの役割を担っている。手が震えている時、それはアムロによくないことが起きる予兆なのだ。
だからクロスは目の前のザクのパイロットがアムロにとっていけない存在なのだと教えてくれている。
「攻撃が恐ろしいぐらいに鋭い。なんだ、このパイロットは……連邦にはこれほどのパイロットがいたというのか!」
「なにが赤い彗星だ。どう見たってピンクだろうが!」
「それになんだこの寒気は。私が……怯えている?」
「くそっ、こいつ……重い!」
シャアは慣れた操作で攻撃を躱す中、クロスはガンキャノンの反応が鈍いことに苦戦していた。
ガンキャノンは中距離支援機でありガンダムのように前に出て接近戦をするモビルスーツではない。
それもあるがクロスの反応速度は予想以上で、ガンキャノンは彼の反応についてこれないでいた。
「状況はこちらが不利、か」
パイロットとしての技量は自分が上であるが、モビルスーツの性能差とすでにザクを3機も失ってしまったという状況を重く受け止め、撤退することを決断した。
クロスは後方に下がるザクを追おうとするも機動力では負けており、聞き覚えのある声が彼の行動を止めさせた。
『深追いするなクロス! あのシャアを退けただけでも大したものだが、お前とアムロが束になっても勝てん相手だ』
「けど、アイツはここで仕留めなきゃいけないんだ!」
『甘ったれるな! モビルスーツを少しうまく扱えるだけで戦争になど勝てるものかよ!」
「だが!」
『アムロを守りたいというなら、傍にいてやれと言っている」
「っ――了解した……」
ブライトはブリッジにいるフラウやセイラにミライといった彼を知る者達からその人となりをすでに聞いていたので、クロスをどう扱えばいいか自ずと理解しはじめていた。
対してクロスはブライトのおかげで冷静になり、いまになってアムロが泣いていることに気づいた自分に腹を立てるのであった。