「そう言えば教室で、変なあだ名がついてしまったな」
ほとぼりが冷めてから、領家はそう切り出した。教室内での俺と領家のアダ名はそれぞれ、「リア充♂」「リア充♀」となっていたのだ。もちろん初詣の日に遭遇した彼らが俺たちの間柄をおもしろがって広めたのだろう。
直截的すぎんだろ。
「どうせ……戸塚だっけかあいつが広めたんだろ」
「いや、彼ではないだろう。テニス部も来ていたということだからその中のだれかだろうな」
「は? 彼ってあいつは女だろ」
「戸塚くんは男だぞ。まあ外見だけ見ればそう思うかもしれないが」
なん……だと。確かに学校でもジャージ姿しか見てないし、てっきり女かと思っていた。
「まあ、俺のせいだな。なんかすまん」
「いや、謝ることはない、むしろこれは我々ににとって好適な隠れ蓑となるだろう。恋人とともに青春を謳歌するものが、どうしてこんな活動に身をやつすだろうか? 表の我々とこの地下活動とを結びつける見方は、完全に 断たれたと言っても過言ではないだろう」
「でも、クラスの奴らと話しづらかったり……」
「大丈夫だ、クラスに友人などいない」
大丈夫……なのか?俺が言えたことではないが。
「とにかく、こうして活動の地盤は着々と整ってきている。バレンタイン粉砕闘争までに、この土台を更に固めるとともに、さらなる勢力拡大を図っていきたいものだ」
領家の言葉に、俺は乗る。女児に言われたアドバイスを、活かすのだ。
「そのことだが、新たなる部員を獲得するための作戦を考えたんだ。聞いてくれるか?」
俺の言葉に、彼女の目がグン、と力をました。
「もちろん。君が精力的に活動してくれていることを、私は心から評価する!」
領家の顔が、パッ、と明るくなり目が輝く。やはり女児が言った通り、効果はかなりあるみたいだ。
俺は息を吸い、朗々と作戦を説明し始めた。
「一言で言えば、『放送室ジャック』だ。領家によって校門前での宣伝等精力的に行われたものの、未だ我々の活動が周知されているとは言い難い状況である、というのは議論の余地がないことだろう。
これまでの活動には、限界があった。その限界とはひとえに、それが行き届く範囲が狭い、ということだ。トランジスタメガホンによる拡声では、たかだか数十メートルが限界だ。全校生徒がそんなに密集する機会など、そうそうない。これを回避するには、よく行き渡るように『大声で』宣伝するしかない。とはいえ、メガホンの音量をなんとかして上げる、などといった解決策では一定のところで限界が生じてしまう。しかし、学校にはこの目的に対してぴったりの設備がある。校内放送だ。我々は放送室 を、昼休みの時間に乗っ取る。普段、昼休みには放送委員によって音楽がかけられているが、そこで宣伝を行うのだ。昼休みに外出している生徒は、かなりの少数派だ。ほとんどの生徒が何らかの形 で放送を耳にしている。したがって、空前絶後のアジテーション効果が得られることは、もはや約束されていると言っていいだろう」
俺の口上に、領家は口元をほころばせた。が、すぐに引き結ぶと、きっちりと疑問を投げ返してくる。「素晴らしいコンセプトだ。だが問題点がひとつある。放送が途中で遮断されてしまわないか、ということだ。職員室にも生徒呼び出し用の放送設備がある。もしその権限が強いのであれば、すぐに我々の演説は止められてしまうことになるだろう」
もっともな指摘だった。俺はその疑問に、答えていく。
「それについては確認をとってある。この学校は放送室と職員室の放送が別系統になっている。職員は放送室の鍵すら所持していない。これは大昔の闘争時の名残らしい。我々の公然アジトたるフラワーアレンジメント研究部 に、職員室とは独立に印刷機が備えられているのと同様の理由だ」
もっともこれは聞き耳を立てていた中で勝手に入ってきた情報だ。領家は俺の回答に満足したのか、満面の笑みで頷いた。
「これは我々の運動史上、類を見ない大作戦になるな。全校生徒の脳内には必ず、『反恋愛主義青年同盟部』の名が刻まれることになるだろう」
「この宣伝の効果でたくさん入部希望の同志が集うはずだ。バレンタイン粉砕も机上の空論ではなくなってきた」
俺の希望的観測に、領家は何度も頷くが、ふと何かに気づいたようにその頭を止めると、下から窺うように俺の顔を見た。その後、ぶんぶん、と頭を横に振る。
「どうした」
「いや、なんでもない。私の心の弱さを、断ち切っていただけだ!」
よくわからんが、まあいつものことだ。俺は気にせず、話を進める。
「決行は明日、昼休みでいいか?」「応!」