「……誰が得をするのか。『誰も得をしない』。一見すると、それが正しい答えに思える。もともとは単なる繁殖のための性欲が定住が進み文明が発展するにしたがって、ゴテゴテといろいろな修辞で飾られ始めた。孔雀の羽で自らを飾り立てるために、恋愛主義者は余剰時間を繁殖準備、つまり恋愛のために注ぎ始めた。それはいつしか商売になった商売人が得をするのか? 資本家が得をするのか? 否、彼らもこの泥沼にはまりこんでいるのだ! もっといい服、もっといいレストラン、いいホテル……そうして際限なく、自分自身で作り出した空虚な妄想に、我々のすべての生産性は回収されてしまう。
我々は当初、この泥沼状態は人類が自らつくりだしてしまったものだと考えていた。しかしそれにしては出来過ぎている--まるであらかじめプログラムされていたかのように。
環境を改変させ、自らにはそれとは気づかないように『恋愛』にはめ込んでいて、そして他の地球生物とともに絶滅させる。これは侵略に他ならない! 人類は、地球外生命体によってこの惑星に送り込まれた、ウイルスにほかならないのだ!
もう一度言おう!
繁殖衝動を克服せよ!自己解決の手法をもっと洗練させろ! 対象は異性だけじゃない!百合にときめけ! 動物にも器官はある! もっと奇抜な発散の手法を開拓せよ!
この呪われた人類という生物種を我々の世代で終わりにするために!」
俺が頭を抱えたその後も彼女は同様の内容を繰り返した。
通りすがりのカップルたちは、
「うわ、なんか変なことやってる」「かわいそうだね、こんな日に」
などといい、腕に巻きつき巻きつかれながら街へ、駅へ吸い込まれていった。
しかし彼女の演説に聞き入っている独り身の人たちも少なからず存在した。トンデモな内容ながら彼女の熱量にどこか人を惹きつけるものがあった。
最初は「女子高生が変なことをやっている」とスカートをのぞきに行った人たちもだんだんと彼女の声にひかれ最後には
「リア充爆発しろ!」
の大合唱まで起こり、神聖なはずのクリスマスイブの夜はあまりにも異様な熱狂に包まれていた。
しかしそんな状況に国家権力が黙っているはずもなく、すぐに制服警官がやってきた。彼らは拡声器を手にオブジェに立っている彼女に対し、言った。
「君、困るよ。公共の場でこんなことをやられたら。今すぐやめなさい!」
それに対して彼女は憤然として、
「リア充の手先め! 必ずや全非リア充の怒りを込めた階級的鉄槌が振り下ろされるぞ!」
そう絶叫するやいなや、彼女はひらりと客車の上から飛び降りた。
「おい、こら!」
警官がすぐに追う。
しかし、群衆の中に入り込んでしまった人間を、この混雑の中で追いかけるのは不可能だった。彼女は目立っていたが、制服の姿であったため果たして彼女は雑踏の中に消えてしまった。
俺は持っていたケ〇タを持ち直して、踵を返した。平静を装ってとぼとぼと家路に着く。普段なら書店に寄って新刊を買いあさるところだが、そんな気分にもなれなかった。
「お兄ちゃんおかえりー」
小町の声にハッとさせられる。いつの間にか帰り着いていた。
「ああ、ただいま」
小町にケ〇タを渡し、部屋に戻りベットに横になった。
俺の思考はあの狂騒と彼女の弁舌に支配されていた。頭の中では馬鹿なことだと分かっていた。だが彼女の言葉が俺の心にしこりとして残った。