「今、叫んだの、お前だな」
その声に、聞き覚えがあった。
昨日の演説で、今朝の校門で、ヘルメットをかぶってタオルを口元に巻き付けた姿。その中で唯一外に出ていた、その目は、あの時と同じように、まばたきをした。しなやかにまつげが揺れる――鳥肌が立った。
彼女だ。
俺は、コクコクと頭を下げ、彼女の問いに応える。すると彼女も、こくりと頷くと、言った。
「私の活動に、協力してくれないか?」
「もちろん」
俺は即答した。
彼女はその答えを聞くと、綺麗に笑った。
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ヘルメットとタオルで覆われた顔は今全てあらわになっていた。
貯水タンクと機械類の隙間から吹いてくる風に吹かれて、彼女の長くしなやかな黒髪がたなびく。目にかかった前髪を、その長くて細い指が払った。透明感のある肌の白さ。唇はほのかに紅く、少しだけ横に引き伸ばされて笑みをつくっていた。
ともすれば深窓の令嬢を思わせるその印象を、彼女の目は一太刀のもとに両断していた。力強さ。笑顔で細められているというのに、その奥にくすぶる
美少女という言葉は彼女には似合わない。
それが似合うとしたら一年J組――雪ノ下雪乃。彼女だろう。交友関係の狭い俺でも知る有名人だ。何度か見かけたことがあるが彼女の目にも力強さを感じた。だが目の前にいるこいつはもっと
「胸がスカッとしたよ。廊下から聞こえてきたんだ、やつらが遊んでいる声が。覗いてみれば、これみよがしに『青春』している。行き場のない怒りに胸が詰まっていたところだった。叫びたかった。だけど周りにはたくさん人がいたんだ」
彼女は握りこぶしを作って俺の胸にトン、としずかに当て、続けた。
「そしたら、叫びが上から降ってきたんだ。君の叫びだった。そして私の叫びでもあった。我々の絶叫だったのだ。次の瞬間、私は屋上へ駆け出していたんだ。そして君を見たのだ」
「気づいたら、俺は叫んでいたんだ」
「君には革命戦士としての資質があるようだ。私なんかよりもよっぽど……」
と、彼女は急に真顔になり、口に人差し指をあてた。
耳を澄ますと、荒々しい足音が聞こえてくる。
「きっと奴ら三人だろう。
そう言って、彼女は周りを見渡した。
ドアを身体で抑えるか? 運動部相手には無理だろう。なんなら女子にも負けるレベル。
貯水タンクに隠れる? いや二人で上がるのには時間がかかり過ぎる。
俺は彼女を見る。屋上には俺たち二人だけ。男女がいればそこに何かしらの意味を見出してしまうのが人間だ。高校生ならなおさら。
まったくこんな方法しか思いつかない自分が嫌で、そして好きだ。
社会的制裁はまぬがれない。多分退学になるだろう。一人なら無視かあるいは先生に報告するだろう。しかしあいつの後ろには二人の女子がいる。必ず俺に立ち向かってくるはずだ。そして彼女は被害者となり決して
時間がない。俺は意を決して彼女を見た。
彼女はうつむき、少し迷ったように目をつぶったあと、床を指さした。顔が少し朱に染まっているように見えた。
「ここに寝転ぶんだ。今すぐ」「えっ、ちょ」
俺の同意を得ることなく、彼女は俺の首を掴んで
そして、倒れた俺の身体に馬乗りになると、ブレザーの前を無理やり引き開け、ワイシャツのボタンに手をかけた。
「時間がない。すまん」
突然のことに思考がまとまらない中、屋上のドアが勢いよく開かれた。
先ほどのリア充三人組だ。その先頭を行く男はものすごい剣幕で、タコのように顔を耳まで真っ赤に染めていた。
「おいどこのどいつだ、今馬鹿にしやがったのは! 出てこ……」
息を切らしながら威勢よく叫んだ男のその声は、急に尻すぼみになった。
それは今まさに行為に及ぼうとしているかに見える我々の姿を見たからだ。
「ひっ」という情けない声とともに後ずさるその男に追い打ちをかけるかのように、彼女は極めて冷静に、ゆっくりと言った。
「あら、こんなところに人が来るなんて珍しい……見学していく?」
男は何も言えず唾をごくりと飲み込んで顔どころか首まで真っ赤にしていた。くっついてきた女子二人は、彼女の姿に
それを見送ると彼女は俺の身体の上から立ち退くと、乱れていたスカートを手で払って直した。
彼女の尻が乗っかっていた部分が、ほのかに熱を持っていた。そしてようやく、俺は今まで自分がどうゆう状況に置かれていたのかを、はっきりと理解した。このやり方は今まさに
俺はそれを咎めようと彼女に声を掛けた。
「お、おい」
「恥ずかしかった……」
俺はその声音と頬の色を見て、一瞬動けなくなった。
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臨機応変にも対処した彼女、それは八幡がやろうとしていたことでもあった。しかし恥ずかしがって顔を真っ赤に染める彼女に一瞬たじろぐ。あんな演説をたくさんの人がいる街中でやる少女なのか疑問すら覚える。間違いないことは彼女があの反恋愛主義青年同盟部という集団に属していることだ。
ついに彼女の正体が明かされる
次回彼女の名前は領家薫。
デュエルスタンバイ!