やはり反恋愛主義青年同盟部は間違っている   作:田んぼ二キ

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第一章-Ⅷ 恋愛という名の集団催眠と捻くれぼっちの邂逅

放課後、俺は領家に言われた通り、フラワーアレンジメント研究部の部室へと足を向けた。

 

といっても、それがどこにあるのか、はっきりいって分かっていない。俺の登校したころには既に仮入部が終わっており、運動部さえもなんとなくしか把握していない。それに文化部ともなれば、その実態を知らずに卒業する生徒も俺の他にもいるだろう。どちらにせよ部活に入るつもりはないのだが。

 

とりあえず文化棟に行けばいいか。

 

本校舎の向かい側。二階でつながれた文化棟は本校舎と同じく三階建てだ。二階は資料室や生物室や物置など一般の生徒はたまにしか行かない。

 

 

「一階から攻めてみるか」

 

 

部室棟の中は、雑多な音、匂い、ごちゃごちゃした配色の入り混じった、混沌とした場所だった。

部室に入りきらない機材などがはみ出ているから非常に歩きにくい。表札を頼りに歩いていたが、掲げられていない部屋がしばしばあったし、ぼんやりしているといま自分がどこにいるのかすら分からなくなりそうだった。

 

 

「よし、帰るか」

 

 

決断した後の行動は早かった。俺はすぐに二階に上る階段へと向かう。明日領家に会って改めて聞けばいいだろう。それに活動に協力するとは言ったが、反恋愛主義青年同盟部とやらに入るとは言っていない。俺は陰から見守らせてもらおう。比企谷八幡はクールに去るぜ……。

 

 

「何だ、早いな、もう来ていたのか」

 

 

登り切った先に領家が立っていた。

 

 

「ああ、もちろんだ。てっきりもう部室にいるのかと思った」

 

「そういえば君に場所を教えていなかったことを思い出してな、それでこうして迎えに来たというわけだ」

 

 

俺がしたり顔で言ってのけると、領家は何も気にしない様子で三階に足を向けた。俺が付いてきているのか確認もせず普通に進んでいく。このまま本校舎に帰ってもいいのだが、明日何を言われるのか分からない。とりあえず追いかけるか。

 

一階同様、三階も初めて踏み入れたわけだが踊り場まで上がると、階段の中ほどに「KEEP OUT」のビニールテープがX字にめぐらされていた。

 

『この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ』

 

こういった文言の張り紙や中身が黄色いペットボトルがずらりと並んでいる。さらには上階から「キョォォオロチュァァァァ‼」という奇声が聞こえてくる。世紀末だろうか。やばいやばい何がやばいって顔色一つ変えない領家が一番やばい。

 

 

「俺、階段を登ると死んでしまう病が」

 

「それでよく生きられてこれたな。そんなに危険なところじゃない。三階にはちょっと変な奴らが多いだけだ」

 

「ちょっとって……」

 

 

拡大解釈しすぎだと思う。日本語って素敵‼

 

後を追うと、三階は廃墟と呼んでしまってもいいような惨状だった。もう十年くらい掃除がされてないのでは、と思わせるような荒廃ぶり。

 

しかし、人の気配は感じられた。壁の内側、各部屋には多数の人間が蠢きひしめき合っている、そんな生活感が横溢している。

 

廊下には人が無造作に寝転がっている。

 

通路を行ったり来たりしながら、定期的に奇声を発する男子生徒。先ほどの声の主だろう。

 

 

「彼はこの学校の風紀委員なんだ。他の役員があまりにも仕事をしなさすぎて、彼にすべての労働が押しつけられた結果、狂ったのだ」

 

 

領家は淡々と言った。

 

それがあまりに自然だったから思わず見逃しそうになる。

 

 

「それは、大丈夫なのか、風紀委員の活動の方は……?」

 

「現状の活動など、教師陣の傀儡にすぎない。人員は必要ないくらいなんだが、偽りの達成感を与えるために仕事を割り振られている。なくても誰も困らないのに」

 

「なんだそれ……」

 

 

俺が驚愕しながら彼を眺めていると、領家は手を引いた。

 

 

「さ、ここだぞ。一応、尾行られてないかみておけ」

 

「尾行って……」

 

 

そう言いながら、俺は後ろを見る。寝袋にくるまっている男が廊下の脇にいるだけだ。

 

 

「よし、大丈夫だな」

 

 

彼女は廊下の両方を眺めて確認してから、カギを差し込んだ。表札には、確かに「フラワーアレンジメント研究部」と書かれている。

 

 

「しかし、そのなんでフラワーアレンジメントなんだ。領家は花が好きなのか?」

 

「……ただのダミーだよ。ここは反恋愛主義青年同盟部の表のアジトだ」

 

 

そう言うと、彼女はドアを押し開けた。

 

中からは、乾燥した、土埃の匂いが抜け出ていった。その空気にむせそうになりながら、俺は中を眺める。

 

そこには旧式の印刷機、大量の紙、インク、ヘルメット、そして角材と鉄パイプが……。

 

 

「おい、早く中に入れ!」

 

 

領家に言われ、俺は慌てて中に入り扉を閉めた。

 

部室の中はさらに埃臭い。窓から差し込む陽だけがただ一つの灯り。フラワーアレンジメントというだけあって本棚には一応花に関する書籍が並んでいるのだが、その棚にしても大体の書籍は『革命家のための兵学教程』『歴史に学ぶ武装蜂起』『拷問の基礎』など物騒なタイトルが並んでいる。

 

それ以外の場所には大量の角材に、べこべこにへこんだ金属バット、頭頂部がぽっかりと割れて謎の赤色色素でその周りが縁どられているヘルメット。

 

 

「そう固くなるな。これは大昔の名残だ」

 

 

この物騒な部屋に似つかわない笑顔。いや浮いているのかどちらにせよ、そのアンバランスさに俺の心は揺さぶられた。

 

 

「そういう時代もあったのだ。この文化部室棟自体が、そんな運動の置き土産だと伝えられている」

 

 

俺が絶句していると、領家は部屋の中央に据えられていた長机を回りこんで、一番奥に置かれていた椅子に座りこんだ。

 

 

「まあ、比企谷くん座りたまえ」

 

 

その促しに従って、俺は机の長机の真ん中付近にあった椅子に、腰かけた。

 

 

「ようこそ、反恋愛主義青年同盟部の公然アジトへ。君のこの運動への参加を、私は心から歓迎する」

 

「ちょっと待ってくれ、まだここがどういう組織なのかが全然わからないんだが……」

 

「何を言っているんだ、君は自らやって見せたじゃないか。あの憎くおぞましきリア充どもに『叫び』の鉄槌を振り下ろし、一挙にして奴らをその夢想的な幸福から引きずり下ろしたじゃないか」

 

「我々の組織は、恋愛信奉者たちが気づかぬうちに陥っている幻惑から目を覚まさせ、世界を正しい方向へと導くためにある。君は組織に身を置く前に、身を以て、その運動をやってみせたのだ。真の活動家と言って差し支えないだろう。私は君の勇気ある行動に、本当に感動した」

 

「ど、どうも……」

 

 

あまり褒められる人生ではなかったから、こうして素直に褒められるのは少し気分がいい。こいつのように別に大層な思想があったわけではない。ただ単に目の前のリア充に嫌気がさしただけなのだ。

 

それにしてもと思う。部室のこの惨状とこの組織を考えると、構成員は多いのだろうか。

 

 

「なあ領家、『我々』って言ってるけど、今日はまだ集まってないのか?」

 

 

その問いに領家はぐっと、苦い顔をした。

 

下を向き、ぼそぼそと答える。

 

 

「ま、まだ……その……」

 

「え?」

 

「……まだ、二人しかいない」

 

「お、おう」

 

 

俺も含め三人か……一度も見かけることはなかったから裏工作でもやっているのだろうか。

 

 

「なんだ、その、頑張っているな。領家と、もう一人は誰なんだ。同じクラスの奴か?」

 

 

領家は伏せていた顔を少し上げ、上目遣いになってこちらを見ながら、机の下にあった手を引き上げた。人差し指は俺の方を指していた。

 

 

「私と、比企谷、ふたり……」

 

「じゃ俺帰るわ」

 

 

そう言い残して荷物を引き上げ帰る。やはり比企谷八幡はクールに帰るぜ。

 

 

「比企谷くん、待ちたまえ、待て、待て! 待って……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

やってるねい。俺ガイル完七月に決まって完全に別作品に熱入れてたので久しぶりにこっちでした。

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