ついにガルパン映画の続報を聞いて、ふと思い立ち執筆いたしました。
いつもよりオリ主要素多め&百合?&ヤンデレ?ですが、楽しんでいただけますと幸いです<(_ _)>
旋盤で削り出したパーツをノギスで確かめた祖父江はその満足のいく出来栄えに「おしっ」と頷いた。
熱い蒸気によって垂れ込めた陽炎の中、額に浮いた汗をグイッと乱雑に拭いながら車庫へと戻ると、御付の砂部が翳した日傘の下で優雅にコーヒーを嗜んでいたBC自由学園戦車道チーム隊長のマリーが(彼女にしては珍しいことに)その手を止めて「あら」と顔を上げたのだった。
「どうだったかしらソフィー?」
「ソフィーじゃねえって言ってんだろ」
マリーが口にした
「いつも通りパーツが2、3ヘタってただけだ。入れ替えりゃ問題ねぇよ」
「そう……」
けれど、それ以上特に何かを言うこともなく続けられた説明に、マリーは少しほっとした様に溜息を漏らした。
「これで……よしっ」
そんなマリーを横目に、慣れた手つきでパーツの交換を済ませた祖父江は彼女の愛車であるルノーFT-17の操縦席から這い出る。
「そんじゃ今から試運転に行ってくるが……」
「もちろん私も行くに決まってるじゃない」
「だよな」
いつも通りのすました笑顔に祖父江は肩を竦めると、再びするりとルノーFT-17の中に滑り込む。
「さ、出して♪」
「お願いいたします、ソフィー様」
「だからソフィーじゃ……まあ、いいか」
続いて乗り込んできた砂部にも抗議をしかけたものの、どうせ言っても聞かないのは分かっているため、祖父江は溜息を漏らしてルノーFT-17のエンジンをふかすのだった。
◆
夕陽に染まった岡山の郊外、人通りの少ない道を選びながら履帯を回していく祖父江。時折BC自由学園所有の農道に乗り入れて車体の塩梅を肌で確かめる都度に、固い椅子がガタガタとその衝撃を直に伝えてくる。
「ねえ、ソフィー」
「だからソフィーじゃねぇっての……」
と、いつも通りの作業の最中、不意に頭の上から降ってきたマリーの声に祖父江は訂正を入れつつも、普段とは少し違う雰囲気に内心で首を傾げながら意識をそちらへと向けた。
「なんかあったのか?」
「……次の無限軌道杯の対戦表はあなたも見たかしら?」
「ああ、そういや昨日だったな。まだ見てねえけど、それがどうかしたのか?」
「私達の一回戦の相手なんだけど、大洗女子学園に決まったのよ」
「ほーん……」
マリーの口から出た対戦校の名前に、祖父江は少し考え込む。
それは日本高校戦車道界に彗星の如く現れた公立校で、近年久方振りに復活したにも拘らず全国大会で見事優勝に輝いた話題校だ。
「勝てると思うかしら?」
「厳しいだろ」
マリーの問い掛けに祖父江は即断する。
正直、後ろに座るマリーの指揮能力やカリスマは普通に優秀だと思っている。しかし、相手の指揮官もまた天下の西住流息女だ。そうなると、鍵になるのは手足として動く隊員達の方だが、如何せんBC自由学園はその隊員達のチームワークが壊滅している。
原因は旧自由学園出身とBC高校の間で絶えず起きる軋轢で、しかも悪いことに各派閥のリーダー格である押田ルカと安藤レナが特に反目し合っているのだ。これではいくら戦車単位の練度がそれなりでも物の役には立たない。一応メカニックとしての意見を言わせてもらうのならば全車両がバラバラで隊列を組むだけでも一苦労な大洗よりもハード面では有利なはずなのだが、BC自由学園の仲の悪さはその有利を覆して余りあるというのが本音だった。
「そうよねぇ……」
内情を熟知している祖父江の率直な返答に、マリーはほぅ……と物憂げな溜息を漏らす。日々BC自由学園戦車道チームの指揮を執っている彼女としても実に頭の痛い話なのだろう。
「だが、手は打ってあんだろ?」
そんなマリーをちらりと見上げながら、祖父江は確信をもって問い掛ける。この小柄で一見おっとりとしたお嬢様な幼馴染が持つ、心身共に据わった腹と底抜けのワガママさを誰よりも買っているからだ。
「何か失礼なことを考えてないかしら?」
「まさか」
「……」
「いだだだだ!?」
お陰で、祖父江は毎日フィジカル的にもメンタル的にもダメージが絶えないが。
「一応、下準備は済ませたわ」
「ゲホッ、そうかよ」
背後からの首4の字固めを解かれて、咳込みながらも祖父江は「まあ、そうだろうな」と内心納得する。
「なら仕方ねえんじゃねーのか? やることはやった訳だし」
「確かにそうだけど、少しでも勝利の可能性を上げるためには一つでも二つでも手を増やしたいところなのよ」
「さよか」
良くも悪くも勝利に貪欲な幼馴染に相槌を打ちながら、祖父江は農場外へと戦車を向ける。
「ま、頑張れや。俺も出来ることなら協力するからよ」
「
「お……」
そして頷きかけたところで、祖父江ははたと動きを止めた。
このわがままなお嬢様の幼馴染みとして生まれ落ちて幾星霜、彼女の手管は嫌という程に味わってきた。
首肯途中の頭を止めてギギギッと錆びたブリキ人形の様に頭の上を見上げる祖父江。果たしてそこには直前の物憂げな雰囲気はどこへやら、満面の笑みを浮かべるマリーの顔があったのだった。
(しまった!?)
その表情を見て己の失策を悟る祖父江。
「言っとくが、協力ってのはメカニックとしての範囲だからな!?」
「え〜、でも出来ることならって言ったわよ〜?」
猛烈な悪い予感に慌てて注釈を入れるが、幼馴染みからはわざとらしい疑問符が返ってくる。
「……ちなみに、何をさせる気だ?」
「よく聞いてくれたわ♪」
恐る恐る祖父江が尋ねると、マリーは待ってましたとばかりに砲手の砂部を愛用の扇子ではたく。すると「はいマリー様」という返事と共に頭の上から降ってきた何かが祖父江の顔全体を覆ったのだった。
「わぷっ!?」
「実はどうしても一人、腕の良い操縦手が欲しかったのよね♪」
そう言って屈託なく笑うマリーの下で顔を覆う布切れを引っ剥がす祖父江。改めて見てみれば、それは祖父江も見慣れた青と白の制服、というか、現在進行系でマリーと砂部が袖を通しているBC自由学園の制服だった。しかも、明らかにオーバーサイズで、男性の身体にもピッタリなだ。
「おい……まさか」
その布切れと直前のマリーの発言から、最悪の可能性に思い至り顔を青くする祖父江。一方のマリーの方はといえば腹立たしいくらいに底抜けの笑顔を向けてきている。だが、その笑顔が今の祖父江には悪魔のそれに見えて仕方がなかった。
「……ダメ?」
「あ、テメッ!?」
が祖父江が冷や汗を垂らすと、今度は即座に涙を浮かべるマリー。その躊躇無い泣き落としに、祖父江は思わず悲鳴を上げる。
「チィッ!?」
このままでは押し切られる! 今までの経験からそう予見した祖父江は即座に逃げを打とうとする。が、押し退けたはずのマリーの身体が蛇の様に絡み付いてきて、数歩進む間もなく草原の上に引きずり倒されてしまった。
「ね、やってくれるでしょソフィー?」
「こ、断ぐが!?」
「声が小さくて聞こえないわ。ねえ、もう一度言ってもらえる?」
(それはお前の裸締めのせいだろ!?)
首筋にミシミシと食い込んでくるレスリング仕込みのスリーパーホールドに、祖父江は内心で悲鳴を上げる。だが、藻掻こうがタップしようが、マリーの腕は一向に解かれる気配がない。
「わが……た」
「え〜?」
「わがっだがらぁ!」
「じゃ、決まりね♪」
万力の様な両腕から解放されて地面に手を突いてゼーゼーと酸素を取り込む祖父江。そんな祖父江にマリーは最高の笑顔でモチモチの頬を寄せるのだった。
◆
無限軌道杯当日、
(クソッ、マジでスースーする……)
先任の砂部に倣ってマリーに付き従う祖父江は、いつもの重厚で油に汚れたつなぎとは真反対の、ヒラヒラと頼りない純白のスカートに軽く絶望しながらも、なんとか愛想笑いを作っていた。
周りの女子生徒達は突如現れた見慣れない生徒の姿に首を傾げていたが、エスカレーター組はマリーの幼馴染みという紹介に直ぐ様疑問符を引っ込め、受験組もマリーが言うならまあいいかとあっさり受け入れてしまうのだった。
(なんで無駄なとこでカリスマ発揮してんだよ!?)
そう叫び出したくなる祖父江だったが、事ここに至っては自分の尊厳を守るためにも疑念を抱かれる訳にもいかず、内心歯噛みしながら演技を続けていく。
「どうして私が頭を下げなきゃいけないの~?」
―ブチッ―
しかし、会場中央から聞こえてきたマリーの(演技とはいえ)高慢ちき丸出しな発言にとうとう堪忍袋の緒が切れる。
(後で蹴っ飛ばす。あのバカのでけぇケツをぜってぇに蹴っ飛ばす……)
そう固く固く決心しながら、祖父江は済ました幼馴染みの大きな尻を睨み付けるのだった。
◆
「んで、こっからどーすんだ?」
ボカージュに引かれたシートに胡坐をかいた祖父江は砂部が用意したケーキセットを自棄気味に掻き込みながらマリーを横目で睨み付ける。自分がこんな格好をする羽目になった原因であるマリーの懸念とは裏腹に、対大洗作戦は拍子抜けするほど順調に推移していた。
初手に仕掛けた高架の包囲網からこそ逃れられてしまったものの、次手として用意していたボカージュを拠点とする消耗戦は元々の数的有利もあって地味ながらも手堅く確実に大洗を追い詰めている。
「そうねえ……タイミングを見計らって、相手のフラッグ車を狙うべきかしら?」
「打って出んのか……もしかしてあの副隊長二人のせいか?」
「だって、城攻めは心を攻めるがなんとやらって言うでしょ?」
「確かに、本心から打ち解けた訳じゃねーからな……」
銀のフォークをくるくると弄びながら思案するマリーに祖父江も頷く。現状こそ息の合った連携を見せているBC自由学園だが、その友情の実態ははりぼても良いところ。より強大な外敵が現れたが故の呉越同舟が精々で、間隙を縫われれば砂上の楼閣よりも容易く瓦解するのは目に見えている。であれば、張り子の虎が有効なうちにチェックを掛けてしまう方が却って安全というのは分からなくない計算だ。
「幸い今のうちにはソフィーがいるわ。たとえ全国大会優勝校といえど、胸にナイフを突き立てるのもそう難しくは……」
「通信だな」
「「「……」」」
ポツリポツリとマリーが方針を固める中、突然鳴り響いた電話のベルに三人は顔を見合わせる。そして副官の砂部が受話器を取ること数秒、形の良い眉が寄せられるのと同時に、一番懸念していたセリフが飛び出してきたのだった。
―安藤隊を!!―
「!?」
「チッ」
虚を突かれて咽るマリーよそに、即座に皿とフォークを投げ捨ててルノーのエンジンを掛ける祖父江。最大車速で走り出すと、横切り様の車体にマリーがタタタッっと駆け登るのだった。
◆
結論から言うと、マリー達BC自由学園は大洗女子学園に惜敗を喫することになった。やはり敵計略により兵力を削られたのが痛く、失った数的有利を最後まで覆し返せなかったのが原因だ。
しかしそれでも最後の一台となったルノーFT-17の奮戦は凄まじく、物量差を逆転して押し寄せてくる大洗の包囲網を突破し、特攻してくるサメマークの菱型戦車や追走してくるライオン?マークのポルシェティーガー、更には王手をかけてきた隊長車であるあんこうマークのⅣ号戦車までもを撃破したものの、そこでとうとう矢玉が尽き、最期は一騎打ちとなったカメマークのヘッツァーに撃ち抜かれて幕となったのだった。そして現在、
「あ、あの!」
試合後に開かれたBC自由学園主催の両校交流会の最中、黙々と配膳を行っていた祖父江は不意に大洗女子学園の隊長に呼び止められた。
「何か?」
「祖父江さんですよね? ルノーFT-17の操縦手の」
「ん、ああそじゃねえ、そうですわ」
「やっぱり!」
頷く祖父江に大洗の隊長はパッと表情を輝かせる。
「さっきの試合のルノーFT-17の動き、本当に凄かったです! まさか、高校の大会でうちの母達みたいな動きをされる方に出会えるなんて思いませんでした!」
「そ、それは光栄ですわ」
「それで、お聞きしたいんですけど、祖父江さんてどちらで戦車道を学ばれたんですか?」
「えっと……」
「その、私も子供のころから戦車に乗ってたんですが、祖父江さんとの対戦をどうしても思い出せなくて……」
(そりゃそうだろーよ! 対戦以前にこっちは
「けど、あんな操縦技術を持つ方と対戦したことが無い訳もないし……」
「ソ、ソウデスカ……」
「あ、もしかして麻子さんみたいに高校から始められたんですか? それか留学で……」
「オ、オホホホホ、ド、ドウデショウ……」
自問するうちに興が乗ってきてしまったのか、次第にきらきらと両目を輝かせて身を乗り出してくる大洗の隊長に気圧されながら、祖父江は引き攣った作り笑いで何とか精一杯の裏声を搾り出すのだった。
(ぬおおおおおお! 助けろマリィィィィィィィ!!!)
内心、いつ正体がバレてもおかしくない状況にダラダラと冷や汗をかきながら必死に幼馴染へとSOSを送る。が、
「~♪」
当のマリーはといえばケーキの方に夢中らしく、次から次へと砂部が供する菓子の山をパクパクと掘削している。
(クソッ、使えねぇな!)
「っと、そろそろお暇させてもらおっか!」
しかし、その終わりの無いと思われた絶望の時間は大洗女子学園の方から聞こえてきた会長と呼ばれている生徒の号令によって終わりを迎えたのだった。
「あ、はーい! すみません祖父江さん変なこと聞いちゃって」
「いえ、どうぞお気になさらずに」
(よし乗り切ったあああああああああああ!!!)
間一髪で解放された祖父江は内心で盛大に安堵する。
「次は絶対に負けないわ!」
「はい! また対戦する時を楽しみにしてます!」
そして、いつの間にか積まれたケーキを平らげて爽やかに挨拶を交すマリーと相手チームの隊長。そんな彼女達の姿を見送ったところで、祖父江は不意にブルッと身震いをしたのだった。
(わり、マリー)
(あら、どうしたの?)
(ちょいションベン)
(もう、デリカシーが無いわね)
(仕方ねぇだろ、こっちは弾薬と燃料が尽きるまで走り回った上に給仕のしっ放しだったんだぜ?)
(分かったから、早く行ってらっしゃい)
反駁する祖父江に、プクッと頬を膨らませたマリーはシッシッとペットを追う様に扇子を払う。なんだかんだで育ちの良いお嬢様の反応に肩を竦め、祖父江は急ぎ荷物の影に滑り込むのだった。幸い、ここなら物陰で海にも面しており、男の祖父江なら用を足し終わるのに十秒とかからない。
その油断が最大の失敗だった。
「「「「は?」」」」
「あ……」
祖父江がスカートをたくし上げてトランクスを引きずり下ろしたのと殆ど同時にぷかぷかと遊泳してくる一隻のボート。そこで釣り糸を垂らす個性的な風貌をした四人の女子生徒と偶然にもばっちりと目が合うのだった。
「「「「……」」」」
「……」
広がる沈黙、
「「「「……」」」」
「……」
下りる視線、
「「「「……」」」」
「……」
そして、
「「「「……い、」」」」
「っ」
「「「「いやあああああああああああああ!?!?!?!?」」」」
夕陽に焼けた水平線を駆け抜ける絹を裂く様な悲鳴。
「サメさんチームの皆さん!?」
「どうかされたのですか!?」
「すごい悲鳴だな……」
チームメイトの絶叫に、慌てて埠頭から顔を出す大洗の面々。
「ナ、ナマコ……」
そんな仲間達の姿に、へたり込んだ戦車長のお銀が手を広げる。
「ナマコ?」
その意味不明な発言に首を傾げるみほ。
「こ、これくらいのナマコ……」
「えっと……?」
お銀の言葉に頷きながら同じく手を広げるラム。そして、
「股の間からこれくらいの……」
「……!?」
続くフリントの言葉に、麻子が何かに気が付いた様にハッと目を見開く。
「おい、それって……」
「もしかして変質者!?」
「「「!?!?!?」」」
麻子に次いで気が付いたらしい沙織の発言に、あんこうチームの残りの面々も顔を強張らせる。競技の性質上、女の園となりがちな戦車道の大会ではそういう人間の話も聞かないではない。
「「「「……!!」」」」
まさかと思いみほが目を向けると、サメさんチームはブンブンと勢いよく首を縦に振る。
「み、皆さん取り敢えず直ぐに学園艦へ!」
続く指示に頷いて、すぐさまえっちらおっちらとボートを漕ぎ出すサメさんチーム。
「あ、でもBC自由学園の人達も!」
「そ、そうでした!」
ただ、そこでハタと気付いた優花里の言葉に、みほも慌てて頷く。
「その変質者はどっちに行きましたか!?」
「「「「!!」」」」
そして響いたみほの声に、サメさんチームは無言で並べられた貨物の奥を指差したのだった。
「ありがとうございます!!」
彼女達の答えに短く礼を言って駆け出すみほ。
「おいおい、追い駆けるのか?」
そんなみほに並びながら眉を顰める麻子に、みほは「他の人達の迷惑になる前に捕まえないと」と呟きながら決然とした面持ちで頷く。
「確かに、下手をすれば1年生の子達やBC自由学園の皆さんにまで」
「神聖な戦車道の大会を穢すことは許せないであります!!」
「そうよそうよ!! とっちめてやらないと!!」
そんなみほの言葉に同調する華、沙織、優花里の三人。麻子としても言わんとすることは納得できるのか「危なくなったら逃げるんだぞ」とだけ返して、変質者が逃げた方へと全力で走るのだった。
「あら? どうかしたのかしら?」
「あれ?」
が、そんな変質者の逃げ込んだ通路に五人が飛び込むと、そこに立っていたのはロールした薄金髪の女子生徒とその御付の三人だった。
「あ、あの、今ここに誰か来ませんでしたか!? そ、その、変質者みたいで!!」
「!?」
つっかえつつもみほが発した言葉に、僅かに瞳を揺らす御付の一人。
「いえ、あなた達と別れてからずっとここに居たけど、誰も見てないわよ?」
しかし、隊長のマリーから返ってきたのは“NO”の一言だった。
「え、そんなこと……」
ゆるゆると首を横に振るマリーに、信じられないといった表情で呟く優花里。しかし、疑おうにもキョトンと小首を傾げるマリーの表情に嘘はなく、そもそも彼女達が変質者を庇う理由も思い浮かばない。
「えっと……もしかして、あの子達の勘違い?」
顔を見合わせあった五人のうち、最初に口を開く沙織。
「いや、白昼夢だとしても四人同じ内容とは考え辛いぞ」
そんな沙織の言葉を一旦は否定する麻子。
「ですが、こちらに来ていないとなりますと……」
「どこか、途中で別の方向に逃げたということでありますか!?」
そして二人の言葉を引き継いでハッとなる華と優花里。
「???」
「あ、あの! 今言った変質者の人なんですが、逃げられちゃったみたいで!!」
あんこうチームの面々のやり取りに疑問符を浮かべるマリーに、みほが結論を告げる。
「もしかしたらまだこの辺に隠れてるかもしれないので、マリーさん達も気を付けてください!」
「ふむ、分かったわ。教えてくれてありがとう。それで、その変質者の特徴は何かあるのかしら?」
「えっと……あ」
頷いたマリーの質問にみほはハッとなり、そしておずおずと手を広げる。
「あの、これくらいだそうで」
「これくらい?」
「その、ナマコが……」
「ナマコ……」
「でしたね」
「ああ、ナマコが……」
頷きつつ、顔を赤らめながらみほに倣う他のあんこうチームの姿に、マリーはうむうむと眉を顰める。
「……取り敢えず、うちの隊員達にも伝えさせていただくわね」
やがてマリーが頷くと、曖昧に頷き返したあんこうチーム達はどこか気まずそうに笑いつつ自校の学園艦に引き返すのだった。
◆
「……行ったわね」
いそいそと去って行ったあんこうチームの背中が見えなくなったところで、マリーがポツリと呟く。
「わりぃ、助かった」
そんなマリーに、祖父江は珍しく心からの礼を口にした。
「あら、何勘違いしているのかしら、このおバカさんは?」
が、その瞬間、真冬の荒波すら生ぬるく感じれるほどの冷え切った声が、突如祖父江の耳朶を打ったのだった。
「は? っ!?!?」
直後、ドンッと襲ってくる強い衝撃。その一撃に吹っ飛ばされた祖父江は訳も分からないままピンク色の布切れの中に突っ込んだのだった。
視界を占める桃色の天幕とふわりと背中を受け止める柔らかなクッション、そして全身を包み込んでくるマリーが好きな甘い香水の匂いに、そこが彼女愛用のテントの中であることを理解する。
「な、何しやがr!?!?!?!?」
突然振るわれた暴挙に、流石に抗議の声を上げようとする祖父江。だが、その言葉は紡ぎ切られる直前にボスンッと襲い掛かってきた腹部への圧迫感によって強制的に中断されたのだった。
(ヒ、ヒップスタンプ!?)
幼い頃から取っ組み合いのケンカの度に、幾度となく受けてきたマリーの得意技。
「ちょ、どういうつもりだマリ」
「……」
「!?!?!?」
その肉厚なお尻による大質量の一撃に涙を浮かべながらも彼女を睨み付けようとしたところで、鼻先まで迫ったマリーの表情に息を呑んだのだった。
そこにあるのは満面の笑み。いや、形の上ではそうなのだが、三日月の様に細められた瞼の奥に宿るのは目の前に居る存在を今にも飲み込まんとするドス黒い負の感情だった。
(こいつ、完全にキレてやがる!?!?)
幼馴染である祖父江でも数える程しか見たことのないマリーの本気の激情。その数度目を突然向けられ、祖父江の本能が最大ボルテージでアラートを上げる。
昔、彼女が楽しみにしていた最後の一切れをこっそり摘まみ食いしたのがバレた時と同じ目を前に、何とかマリーの拘束を振り解いて逃げようとする祖父江。
「!?」
だが、それより先に口元へと押し付けられた柔らかい感触と、唇を割り入ってくるざらざらとした軟体動物。
ぢゅるるるるるるるっ!!
「!?!?!?!?!?」
それに舌先を絡め捕られ、更には締め上げる様にして唾液を啜られる感覚。
「ごゆるりと」
(ちょ、待っ!?!?)
どこか遠くで聞こえた砂部の声に必死に手を伸ばそうとする祖父江だったが、その手はマウントポジションを取るマリーに捕まり、ボスッと羽毛布団に抑え込まれてしまう。
「……ねえ、ソフィー?」
やがて、永遠に続くかと思われた口淫が終わり、ちゅぷっという粘性の音を立ててマリーの唇が引き剥がされる。だがそれは解放を意味してはおらず、彼女の表情の中には未だ激情が渦巻いていた。
(そういや、笑顔って本来は攻撃的なものだっけ……)
自分と彼女の唇の間にとろりと架かった唾液の糸を見上げながら、祖父江は現実逃避の様な感想を抱いた。
「私、自分のケーキを他人に摘まみ食いされるのが一番嫌いなの」
その宣言に、「それは知ってる」と思いながら死刑の執行を待つ祖父江。
そんな彼のスカートの中にマリーの小さな手が差し込まれ、トランクス越しにギュッとそれが握り締められる。
「だから、今日という今日は誰がソフィーの持主なのかを徹底的に躾けてあげるわ」
「ぐっ!?」
そして這いずり回る蛇の様に纏わり付いてくるマリーの手淫。元よりフィジカルで勝る彼女に、急所を抑えられた祖父江は身を捩るしか出来ない。
「大好きよ、ソフィー♥」
ベロリと舌なめずりをし、レスリング仕込みのグラウンドテクニックで祖父江に躍りかかるマリー。
(んんんんんんんんんんっ!?!?!?!?)
わがままな女王陛下の喰い荒らされる一人の男子高校生の悲鳴を聞いたのは空を漂うカモメの群れだけなのだった。
【おまけ】
―無限軌道杯2回戦①―
「さ、服を脱いでソフィー」
「なに言ってんだてめぇ!?」
バラ風呂に入ろうとするマリーの言葉に、祖父江は悲鳴を上げた。なお、外の押田と安藤は見て見ぬふりをしている。
―無限軌道杯2回戦②―
「ZZZZZ」
「ぐ、ぐるじ……」
寝入ったマリーに抱き枕にされる祖父江。なお、外の押田と安藤は(ry
おわり!!