「ん、あれは……」
奥義(偽)の発動でテンションの上がった俺は、出現率の高い【小鬼】に加え、この〈緑花草原〉に出現する魔獣【大鼠】と【灰狼】をサーチ&デストロイ!していたのだが……サーチ中に、今まで見なかったものが見えた。
「マガネ、そっちに一体行った!ごめん!」
「大丈夫ですよ。《私の手にかかれば人形に》!……ふふ、これでまた手駒が増えましたね」
「おい、お前が操作しないせいで棒立ちになってるぞ!あ、やべ、霧鮫の方に抜けちまった!」
「こ、怖い……で、でも!エヌちゃん、お願い!」
「分かっている。だが、その代わりに搾り取るぞ、マスター!《
「くぅ……」
『グゥアァアアア――ッ!!』
つまりは、他の人間である。
5人の男女と数体の獣、3匹の【小鬼】が、10数匹の【小鬼】と戦っていた。
人間は一人を除いて、左手の甲に紋章があるからプレイヤー……〈マスター〉だ。
1人目は、“人と天地を繋ぐ大樹”の紋章を持つ銀髪碧眼の女性。顔は欧米人と日本人のハーフっぽい。《看破》によると名前は甦能彩夏……なんて読むんだ?ジョブは【隠密】、レベルは12である。
小刀を持って前衛を張っているが、【小鬼】を一体後衛に抜かしてしまっている。
2人目は、“人形を操る手”の紋章を持つ黒髪黒目の青年。中肉中背で、どこかぱっとしない雰囲気だ。だが、得体の知れない何かを持ってる……気がする。名前はマガネ。ジョブは【傀儡師】、レベルは10。
後衛に抜けた【小鬼】が彼に近づくが、なにがしかのスキルを使われると、動かなくなってしまった。その【小鬼】は【人形化】という状態異常にかかっている。よく見てみると、人間と共に戦っていた【小鬼】の3匹かにもかかっていた。
3人目は、“闘技場で向き合う戦士”の紋章を持つ、金髪に紫のメッシュが入った女性。顔は美人、なのだが……なんというか、違和感がある。まさに造られた、って感じだ。メイキングで弄って失敗したのだろうか?そして、その所作や話し方がすごく男っぽい。男らしい女性、というレベルではなく、完全に男。まさかこの人も……いや、まさかな。名前はイリス。ジョブは【剣士】、レベルは13。
彼女?も【隠密】の子と共に前衛をやっているが、今は【傀儡師】の彼に注意を飛ばしている。その言い方と、先程まで動いていた【小鬼】が止まっているところを見ると、どうやら【傀儡師】の彼は【人形化】しているモノを操れるらしい。それが、近づいてきた【小鬼】に対処していて滞ってしまったみたいだ。しかし、そんなことを言っている内に、彼女?も【小鬼】を一体抜かしてしまっていた。
4人目は、“水から浮かび上がる粘土板”の紋章を持つ、黒髪銀眼の少女。前髪で目を隠していて、5人目の女性の後ろでオドオドしている。名前は霧鮫。ジョブは【陰陽師】でレベルは14。
近づいてくる【小鬼】に気圧されていたが、決意を込めて――5人目の女性に頼んでいた。一瞬、いや自分はやらなんかい、と思ってしまった。
5人目は、唯一紋章を持たない、蒼髪緑目の女性。その堂々とした態度からか、すごい高貴な雰囲気が漂っている。
紋章を持たないってことはティアンのはずだが……《看破》では、【水成神母 エヌマ・エリシュ】とTYPE:メイデンwithガードナーというものが見えている。
これからして、もしかしてこの女性はエンブリオなのか?メイデンというカテゴリー、ダッチェスから説明されてないけど、説明されたガードナーもあるし……よく分からないな……。
それはともかく、彼女が一つ目のスキルを宣言すると、両手に2種類の水が生まれた。さらに、【陰陽師】の少女の紋章から現れた水もそこに合わさる。その後、2つ目のスキルと共にその2種類の水を混ぜ合わせると……水の中から蒼い毛並みの巨狼が現れ、近づいてきた【小鬼】を噛み殺した。
総評すると、それなりに強い。
個々人の強さもある程度あるし、連携も取れてる。ただ、それぞれあまり戦闘に慣れている感じがなく、そのせいで敵を抜かしたり、他への支援を途切らせてしまったりしている。
けれど、それをどうにかできているし、初心者とすればこんなものなのだと思う。
ただ、最後の蒼狼だけは別だ。あれ、どう考えても初心者が使役できるレベルではない。今も無双しているし。
苦戦しているようなら手伝おうかとも思ったが……その必要もなさそうだ。
他のプレイヤーと話してみたいから、遠巻きに見て、戦闘が終わったら声かけてみようか。
□□□
「やっと終わったわ……」
「今回は数が多かったですからね」
「あー疲れた!休もうぜ!」
「だ、だね。エヌちゃん、ありがとう」
【小鬼】10数匹を殺し、傀儡となっていた4匹も殺して戦闘を終わらせた後、〈マスター〉の四人はいかにも疲労困憊といった態で、草原に腰を下ろしている。
だが、エンブリオ(推定)の女性だけは違かった。
「別によい。だがマスター、休むのはまだ早いぞ」
「え?」
エンブリオの女性が、とある方向を……俺が歩いてきている方を指差す。
それで、四人も近づく俺のことを認識したらしい。
慌てて立ち上がり、【隠密】と【剣士】は刀を、【傀儡師】は手――恐らく【人形化】のスキルの発動準備――を、【陰陽師】とエンブリオは蒼い獣たちを――それぞれの武器を向けてくる。
……なんか、俺が襲撃をかけようとしているみたいだな。そんなつもりはまったくないのに。
「えっと……敵意はないです。武器を下げてくれると助かります」
俺の顔が見え、声も届く距離になった所で、昨日柚芽や茜ちゃん相手にやった様な女性風の口調、声の出し方、表情や仕草を、昨日よりも念入りに意識して話しかける。
昨日会ったのはティアン……
ああ、考えるだけで震えてきた……。
「……え、かわ……!?」
「「ふぁ…………」」
「分かりました。ほら、三人とも」
「……え、ええ。ほ、ほら!ぼーっとしてないで、だいt……じゃなくてイリスと霧鮫も!」
「はっ……う、うん」
「お、おう」
俺の顔を見て、【隠密】【剣客】【陰陽師】の三人が固まる。
うんうん、分かる分かる。俺の最高傑作と言えるこの顔の造形を他人として急に見たら、俺だって固まるだろうからな。
だが、【傀儡師】の彼だけは一切動じず手を降ろし、他の三人にも促している。
……別に反応して貰えなくて残念って訳じゃないけど。じゃないけど……ここまで反応されないと,こいつ、人間か?と思ってしまうのも無理ない、はず。
彼の促しに再起動した三人も、武器を降ろす。
よし、戦うことにはならないようで一安心だ。
「戦闘でお疲れの時にすいません。他のプレイヤーと話をしてみたかったのですが……」
口でそう言うと同時に、「相手を気遣いながらも、少し寂しそうな」表情を意識して作る。
「い、いえ!全然大丈夫ですよ!」
「そ、そうです!」
うわ、チョロい。
【剣客】と【陰陽師】が即刻前のめりで承諾してきた。
こんなんだと将来が心配になるな、赤の他人だけど。
「あ、あなたたち……まあ、話すことに異議はないけど」
「そうですね」
【隠密】の娘も俺と同じことを思ったのか2人をジト目で見たが、話すこと自体には賛成のようで、【傀儡師】も賛同している。
それじゃあ、初のプレイヤーとの交流だな。