偽盲目少女の修羅国生活   作:リーシェン

10 / 42
8・〈マスター〉接触

「ん、あれは……」

 

 奥義(偽)の発動でテンションの上がった俺は、出現率の高い【小鬼】に加え、この〈緑花草原〉に出現する魔獣【大鼠】と【灰狼】をサーチ&デストロイ!していたのだが……サーチ中に、今まで見なかったものが見えた。

 

「マガネ、そっちに一体行った!ごめん!」

「大丈夫ですよ。《私の手にかかれば人形に》!……ふふ、これでまた手駒が増えましたね」

「おい、お前が操作しないせいで棒立ちになってるぞ!あ、やべ、霧鮫の方に抜けちまった!」

「こ、怖い……で、でも!エヌちゃん、お願い!」

「分かっている。だが、その代わりに搾り取るぞ、マスター!《二対の神水(アプスー・ティアマト)》、《交わり産まれる神性》!」

「くぅ……」

『グゥアァアアア――ッ!!』

 

 つまりは、他の人間である。

 5人の男女と数体の獣、3匹の【小鬼】が、10数匹の【小鬼】と戦っていた。

 人間は一人を除いて、左手の甲に紋章があるからプレイヤー……〈マスター〉だ。

 

 1人目は、“人と天地を繋ぐ大樹”の紋章を持つ銀髪碧眼の女性。顔は欧米人と日本人のハーフっぽい。《看破》によると名前は甦能彩夏……なんて読むんだ?ジョブは【隠密】、レベルは12である。

 小刀を持って前衛を張っているが、【小鬼】を一体後衛に抜かしてしまっている。

 

 2人目は、“人形を操る手”の紋章を持つ黒髪黒目の青年。中肉中背で、どこかぱっとしない雰囲気だ。だが、得体の知れない何かを持ってる……気がする。名前はマガネ。ジョブは【傀儡師】、レベルは10。

 後衛に抜けた【小鬼】が彼に近づくが、なにがしかのスキルを使われると、動かなくなってしまった。その【小鬼】は【人形化】という状態異常にかかっている。よく見てみると、人間と共に戦っていた【小鬼】の3匹かにもかかっていた。

 

 3人目は、“闘技場で向き合う戦士”の紋章を持つ、金髪に紫のメッシュが入った女性。顔は美人、なのだが……なんというか、違和感がある。まさに造られた、って感じだ。メイキングで弄って失敗したのだろうか?そして、その所作や話し方がすごく男っぽい。男らしい女性、というレベルではなく、完全に男。まさかこの人も……いや、まさかな。名前はイリス。ジョブは【剣士】、レベルは13。

 彼女?も【隠密】の子と共に前衛をやっているが、今は【傀儡師】の彼に注意を飛ばしている。その言い方と、先程まで動いていた【小鬼】が止まっているところを見ると、どうやら【傀儡師】の彼は【人形化】しているモノを操れるらしい。それが、近づいてきた【小鬼】に対処していて滞ってしまったみたいだ。しかし、そんなことを言っている内に、彼女?も【小鬼】を一体抜かしてしまっていた。

 

 4人目は、“水から浮かび上がる粘土板”の紋章を持つ、黒髪銀眼の少女。前髪で目を隠していて、5人目の女性の後ろでオドオドしている。名前は霧鮫。ジョブは【陰陽師】でレベルは14。

 近づいてくる【小鬼】に気圧されていたが、決意を込めて――5人目の女性に頼んでいた。一瞬、いや自分はやらなんかい、と思ってしまった。 

 

 5人目は、唯一紋章を持たない、蒼髪緑目の女性。その堂々とした態度からか、すごい高貴な雰囲気が漂っている。

 紋章を持たないってことはティアンのはずだが……《看破》では、【水成神母 エヌマ・エリシュ】とTYPE:メイデンwithガードナーというものが見えている。

 これからして、もしかしてこの女性はエンブリオなのか?メイデンというカテゴリー、ダッチェスから説明されてないけど、説明されたガードナーもあるし……よく分からないな……。

 それはともかく、彼女が一つ目のスキルを宣言すると、両手に2種類の水が生まれた。さらに、【陰陽師】の少女の紋章から現れた水もそこに合わさる。その後、2つ目のスキルと共にその2種類の水を混ぜ合わせると……水の中から蒼い毛並みの巨狼が現れ、近づいてきた【小鬼】を噛み殺した。

 

 総評すると、それなりに強い。

 個々人の強さもある程度あるし、連携も取れてる。ただ、それぞれあまり戦闘に慣れている感じがなく、そのせいで敵を抜かしたり、他への支援を途切らせてしまったりしている。

 けれど、それをどうにかできているし、初心者とすればこんなものなのだと思う。

 ただ、最後の蒼狼だけは別だ。あれ、どう考えても初心者が使役できるレベルではない。今も無双しているし。

 

 苦戦しているようなら手伝おうかとも思ったが……その必要もなさそうだ。

 他のプレイヤーと話してみたいから、遠巻きに見て、戦闘が終わったら声かけてみようか。

 

 

□□□

 

 

「やっと終わったわ……」

「今回は数が多かったですからね」

「あー疲れた!休もうぜ!」

「だ、だね。エヌちゃん、ありがとう」

 

 【小鬼】10数匹を殺し、傀儡となっていた4匹も殺して戦闘を終わらせた後、〈マスター〉の四人はいかにも疲労困憊といった態で、草原に腰を下ろしている。

 だが、エンブリオ(推定)の女性だけは違かった。

 

「別によい。だがマスター、休むのはまだ早いぞ」

「え?」

 

 エンブリオの女性が、とある方向を……俺が歩いてきている方を指差す。

 それで、四人も近づく俺のことを認識したらしい。

 慌てて立ち上がり、【隠密】と【剣士】は刀を、【傀儡師】は手――恐らく【人形化】のスキルの発動準備――を、【陰陽師】とエンブリオは蒼い獣たちを――それぞれの武器を向けてくる。

 ……なんか、俺が襲撃をかけようとしているみたいだな。そんなつもりはまったくないのに。

 

「えっと……敵意はないです。武器を下げてくれると助かります」

 

 俺の顔が見え、声も届く距離になった所で、昨日柚芽や茜ちゃん相手にやった様な女性風の口調、声の出し方、表情や仕草を、昨日よりも念入りに意識して話しかける。

 昨日会ったのはティアン……NPC(ノン・プレイヤー・キャラ)だが、今からコミュニケーションを取ろうとしているのはPC(プレイヤー・キャラ)。柚芽たちは恐らくネカマなんて知らないだろうが、この人たちはネカマがあるということを知っている。俺の言動が男っぽかったら、すぐさまネカマのレッテルを張られ(事実だが)、掲示板とかで吊し上げられる。そうなったら、プレイヤーとの交流なんかできなくなる……!

 ああ、考えるだけで震えてきた……。

 

「……え、かわ……!?」

「「ふぁ…………」」

「分かりました。ほら、三人とも」

「……え、ええ。ほ、ほら!ぼーっとしてないで、だいt……じゃなくてイリスと霧鮫も!」

「はっ……う、うん」

「お、おう」

 

 俺の顔を見て、【隠密】【剣客】【陰陽師】の三人が固まる。

 うんうん、分かる分かる。俺の最高傑作と言えるこの顔の造形を他人として急に見たら、俺だって固まるだろうからな。

 だが、【傀儡師】の彼だけは一切動じず手を降ろし、他の三人にも促している。

 ……別に反応して貰えなくて残念って訳じゃないけど。じゃないけど……ここまで反応されないと,こいつ、人間か?と思ってしまうのも無理ない、はず。

 彼の促しに再起動した三人も、武器を降ろす。

 よし、戦うことにはならないようで一安心だ。

 

「戦闘でお疲れの時にすいません。他のプレイヤーと話をしてみたかったのですが……」

 

 口でそう言うと同時に、「相手を気遣いながらも、少し寂しそうな」表情を意識して作る。

 

「い、いえ!全然大丈夫ですよ!」

「そ、そうです!」

 

 うわ、チョロい。

 【剣客】と【陰陽師】が即刻前のめりで承諾してきた。

 こんなんだと将来が心配になるな、赤の他人だけど。

 

「あ、あなたたち……まあ、話すことに異議はないけど」

「そうですね」

 

 【隠密】の娘も俺と同じことを思ったのか2人をジト目で見たが、話すこと自体には賛成のようで、【傀儡師】も賛同している。

 それじゃあ、初のプレイヤーとの交流だな。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。