偽盲目少女の修羅国生活   作:リーシェン

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また1ヵ月以上も間隔を空けてしまいすみません。
自分は筆が遅い&気分が乗らないとまったく書けない&時間がないため、今後も間隔を空けてしまうかもしれないですけど、どんなに長くても1ヵ月近辺で投稿したいと思っているので、気長に待って頂けると嬉しいです。
というか、週一とか毎日更新を数年も続けられる人って、どうやってるんでしょうね……?



10・街の変化、評価

□将都北門 【迎撃者】水無月火篝

 

「……ずいぶん、人が増えたな」

 

 【隠密子狐】を討伐して少し話をした後、俺は五人と別れて将都へと戻っていた。

 五人からは一緒に狩りをしないか?と誘われたのだが、今までの狩りでドロップした素材を売りたいのと、将都がどんな風に変化しているのかが気になったため戻ってきた。

 そうして〈緑花草原〉と繋がる北門から覗いた一日ぶりの将都は、人で溢れていた。

 道を往く人混みの密度が昨日と比べ物にならないほどだ。

 

 もちろん、この街が昨日まで栄えていなかったという訳ではない。昨日の時点でも十分に活気はあった。

 寂れた山村などでは、近くに名所などが見つかり訪れる人が激増する、ということはそれなりにあることだが、元々栄えていた都市部などではそのような現象は普通起こりえない。

 なにせ、元々栄えているということは、その場所には既に人を集める何かがあるということだ。

 “人を惹き付ける特産物や絶景”“有名人・偉人を過去に輩出した実績”“国家や都市間の移動に適した立地”など、その場所のブランドと言える代物。そういったモノがなければ栄えることなどできない。

 そして栄えているからこそ、仮に新しい何かが見出されたとしても、栄えぶりに大きな変化は生まれない。

 もちろん多少は増えるだろうが、それでも目に見えるほどに変化するのは稀――それこそ、今まで関わりのなかった数十の国々に注目されるレベルの何かがない限り――だ。

 元が10ならば50増えれば6倍になるが、元が1000であれば1.05倍にしかならない。そういうことである。

 

 そんな普通にないことが……ここ将都で起こっている。

 その理由は……とある“人種”がこの街に、いや、この世界に流入してきたからである。

 さてここで、人混みの服装状況を見てみよう。

 三分の二ほどは昨日も見た、着物や甲冑などの和服で統一されている。

 しかし残り三分の一は、ドレス、軽・重などの各種鎧、スーツ、旅人風の洋服、SFアーマー、全身タイツ、ガスマスクにパンクファッション、際どすぎるバニースーツ、腰に白鳥の首を取り付けたバレエ衣装(男)などなど、あまりにも統一感がない。……というか、後半酷すぎない?

 だが、俺はこの服装たちを見たことがある。

 それは、チュートリアルで渡されたカタログ。

 そう、ここに流入してきたのは〈マスター〉……現実からログインしてきたプレイヤーたち。その最初の服装は自由であるため、統一感など望むべくもないのだ。

 

 しかし……思ってたよりも多いな……。

 この展開は予想していたこととはいえ、それでも驚いてしまう。

 初期に選択可能な国家は7つ。恐らく偏りはあるとはいえ、七等分された上で街の人数の半分ものプレイヤーがログインしてくるとは……それだけ多くの人々が本物のVRを求めていたのだろう。

 また、MMO以外の要素を求めてきた人も恐らくいる。

 三倍時間があれば、時間がちょっとしかない休憩でも長く休めるだろうし、その他にも俺では思いつけないような活用方法もあるかもしれないしな。

 

 

 そんなことを思いながらも、俺も人混みに紛れ、統一感の不和に寄与する。

 とりあえず、冒険者ギルドに行くか。確か、冒険者ギルドではほぼ全てのアイテムを市場価格そのままに買ってくれると、茜ちゃんが話していたはずだ。

 もちろん市場価格なので、値崩れしている時はその値段でしか買ってくれないが、逆に言えば買い叩かれるということもないわけだ。

 商店によっては少し高く買ってくれる場所もあるそうだが、逆に騙されて安く買われてしまう商店もあるらしい。

 そういう被害にあわないように、初心者の内は冒険者ギルドやジョブギルド(専門的な物やジョブの固有の特性ゆえにギルドが欲しがっている物は、当てはまるジョブギルドの方が高く買ってくれる)に売り、目利きや見極めが出来るようになったらそういう商店を探すのが定番なのだとか。

 まあ、延々とギルドとしか取引しない人もいるらしいし……そこは人それぞれなのだろう。

 

 という訳で冒険者ギルドに向かっているのだが……うん、視られているな……。

 と言っても、ファンタジーラノベなんかによくある“暗殺者が主人公を狙っているのを察知した”みたいな感じではなく、ただ周囲から注目されているだけである。

 俺は生粋の陰キャであるため、他人からの視線には敏感な方だが……今のこれはそんなのなくても誰だって分かるだろう。

 なにせ……周囲の人混みのほぼ全てが、俺を見ているのだから。

 前回将都にいた時も同じような状況だったが……人の密度が増えたため、より迫力というか、圧迫感が増している。

 

 そして、そうやってこちらを見る人達には、左手に紋章――あるいは、卵型の宝石――を持つ者、〈マスター〉も含まれている。

 ふむ、現実のネットやテレビで美男美女を見慣れている〈マスター〉でも見惚れると……うん、すっごく嬉しい!

 この容姿は俺の生涯での最高傑作だ。それに見入って貰えるのは、作者冥利に尽きるというモノである。

 まあ、この至高の芸術品たる容姿に勝る現実の人間なんている訳ないからね!どんな女優だろうとモデルだろうとも!

 もし、この容姿に勝る……いや、この容姿と同等以上程度でも、現実で持っている人がいたら、俺はその人の奴隷にでも何でもなってやろうじゃないか!

 ……っと、ちょっと興奮しすぎたな。

 まあ、それだけ俺がこの容姿(作品)を気になっているということで。

 

 しかし、この容姿が美しい故に……嫌なことがある。

 それは、俺が見られることだ。

 ……先程と矛盾しているかもしれないが、それが俺の偽りのない気持ちである。

 俺はこの容姿(作品)を気に入ってる。だが、考えてもみてほしい。

 いくら自分の作品を気に入ってる作者としても“鑑賞される美術品そのものになりたい”という人がどれだけ居ると思う?

 つまり、そういうことだ。

 最初ログインしていた時は興奮から、周囲から見られることをそれほど嫌とは思ってなかった(男の欲望に満ちた視線は元々嫌だったけど)し、情報集めとかさっきの四人と話す時とかは有効活用していたが……ずっと見られていると、やっぱり嫌にもなってくる。

 どこかで顔を隠せるモノ――仮面とか、あるいは《認識阻害》的なスキルのついた装備品とか――を入手した方が良い気がする。

 ……唐突に、頭の中に“着ぐるみ”という言葉が浮かんできたが……いや、流石にこれはないな。第一、売ってもないだろうし……。

 

 

 と、どこかからの電波を受信していながらも、足は止めずに進み続け……ふと思い付く。

 そういえば、ティレシアスに看破機能も追加された訳だし、街中の人……特に、武芸者のステータスとかを覗いてみようかな、と。

 思い立ったが吉日、とばかりに早速、甲冑を着込んでいたり、刀を差していたりする人に焦点を当てて、《看破》を行っていく。

 ふむふむ……ざっと見た感じでは、300代が4割大、200以下が3割、400代が2割、500カンストが1割以下、という感じだな。

 

 ううむ……思っていたより、高レベルがいないな……。

 昨日茜ちゃんに聞いた感じでは、天地の高レベル割合はもっと多いと思っていたのだが……。

 あ、もしかして、この将都だからか?

 これも茜ちゃんに聞いたことだが、ここ将都は【征夷大将軍】が治める天地の中心地であると共に、戦の禁止区域であるらしい。

 もしどこかの大名家が「将都は本当の領地じゃないし、戦力があまりいない今がチャンス!」的な感じで将都を襲い【征夷大将軍】を倒して実権を握ろうとすれば、そのルールを破ったとして全大名家がこぞって攻め入り、全てを食い散らされることだろう。

 ついでに、【征夷大将軍】が負け戦になった時に将都に逃げ込んで、「ここは戦禁止だから、だれも攻めちゃだめだよ~」みたいにルールを盾にした場合も、全大名家に攻め込まれる大義名分が与えられるようだ。

 将都が戦禁止になった理由は諸説あるらしいが、「(一応)首都的な役割がある上、将都の民は【征夷大将軍】の領民ではないので、そこを戦場にするのは駄目だろう」ということで定められた説が一番有力らしい。

 そんな訳で、将都では禁止されているため戦が起こらず、戦が起こらないのなら、鍛え上げた武芸を使う場面が存在しないため、それを嫌って別の都に行く……と考えれば辻褄は合うな。

 

 

 ……しかし、さっきから《看破》していると、時々不可思議なことがある。

 《看破》した瞬間、武芸者が何かを察知したこのように、周囲を警戒するのだ。

 少し警戒した後は、警戒を解いてまた普通に歩いていくのだが……まさか、《看破》を察知しているのか?

 そうなるのは一部で、町民や〈マスター〉に《看破》をしてもそんな反応はされない。さらに言えば、武芸者の中にも反応しない人も、町民なのに反応している人もいる。

 その違いを知るため、注意深く観察していると……武芸者の中で反応している人と反応していない人、その違いと言えるモノを見つけた。

 

 それは“レベル”である。

 反応していない者のレベルは、最高でも200前後。

 それ以上になると、ほぼ全てが反応していた。先程言及した、見た目は単なる町民なのに反応している人たちも、戦闘系ジョブを持つ上で300~500とレベルが高く、一人だけだが、中にはレベル1225――超級職を持つ者もいた。

 それと、どれだけ高レベルであろうとも、生産系のジョブを持つ者は反応していなかった。

 最初は、戦闘系のジョブはレベルで看破を察知するスキルでも覚えるのかと思ったが……恐らく違う。

 昨日聞いた、スキルはジョブに紐づいているということと、レベルが170でも反応している人と、レベル230なのに反応していない人がいることが根拠だ。

 

 じゃあ何かと聞かれれば……恐らく、経験だ。

 レベル高い=経験豊富とは一概に言えないが、レベルが高い人の方が戦闘経験豊富な割合は多いはず。

 そして戦闘経験が多ければ、《看破》された数も多いだろうし、そうされた感覚を察知できてもおかしくはないはず。

 ……だって、天地の武芸者って強さと才能と頭がおかしいらしいし。茜ちゃん曰く、「大陸からやって来た人のほとんどはそう言いますよ~」だとか。

 それだったら、《看破》をスキルなしで察知してもおかしくないはず。まあ、《看破》された感覚知らないから、どのくらいの難易度かは分からないけど。

 そして、生産職の人は高レベルでも反応していない理由付けにもなる。

 いくらレベルが高くても、生産職なのだからそれは生産活動やジョブクエストで稼いだ経験値だろう。戦闘の回数もかなり少ないだろうし、反応などできる訳がない。

 

 でも……だとするとマズイな。

 今は特に問題になってないが、もし《看破》されただけで、「何見てんだよ、あぁ!?」って絡んでくるような輩に会ってしまったら面倒くさいことになる。

 そんな短気でいかにも小物そうな輩が《看破》を察知できるほどの力量を持てる気はしないが……人格と才能は関係ないからな……。リアルのあいつのおかげでよく知ってる。

 だから――《看破》がバレないように練習しようか!

 ……え?《看破》を控えればいいんじゃないかって?

 だって、《看破》するのすごい楽しいんだよ。色々なジョブが見られるし、見た目からは想像できないようなジョブとステータスだったりして、見てて飽きないから。

 成功できるかは分からないが……まあ、ものは試しだからな!

 

 

 そんなこんなやっている内に、いつの間にか冒険者ギルドの前に着いていた。

 ギルドの中に入るとやはり外と同じく、服装が景観と合わない〈マスター〉が大量にたむろし、昨日よりも密度が高まってる。

 むしろ、往来よりもその割合は大きい。

 まあ、当然だよな。

 こういうファンタジーMMOで最初に行うべき行動とは大抵、冒険者ギルドに行ってクエストを受けること。多くの人がそう考えるだろうからな。

 

 そんな人混みを縫いながら、受付カウンターを目指す。

 当然ここでも周囲から見られ、また誇りと嫌悪感の板挟みになりそうだったから努めて無視し、アイテム買い取りカウンターの最後列へ並ぶ。

 マスターが突如として流れ込んだためギルドの職員たちはてんてこ舞いのようだ。

 茜ちゃんを探してみると、カウンターで対応の真っ最中で、しかもそのカウンターには十数人が並んでいる。

 ううむ……茜ちゃんと話をしたいが、忙しそうだな……用もないのに話掛けられたら迷惑だろうから、止めておくか……でも、クエストを受けるついでにちょっと世間話をするくらいだったら、いいよね……?

 

 〈マスター〉は増えても、まだフィールドから狩りに帰ってきた人は少ないらしく、アイテム買い取りカウンターの列は短く、さらに言えば8割はティアンのようだ。

 そのおかげで待ち時間は非常に少なく、それほど経たないうちに俺の番が回ってくる。

 

「次の方……っ……それでは、アイテムをどうぞ」

「はい」

 

 昨日見ていたからか職員としてのプライドか、少し固まるだけで普通に対応してくれる受付嬢さん。正直、今の俺にはすごく嬉しい。

 促された通り、カウンターの上に、アイテムボックスから〈緑花草原〉で狩った【大鼠】【灰狼】の毛皮と牙と爪と尻尾、【小鬼】の角と持っていた武器、【隠密子狐】の尻尾を取り出す。

 ……ちなみに、最初の【小鬼】の角と小太刀は記念に取っておいてある。あれらは恐らく、俺がデンドロを続ける限りはずっと持っていることだろう。

 

「えっと、【大鼠】の毛皮が5つ、牙が3つ、【灰狼】の毛皮が6つ、牙が2つ、爪が3つ、尻尾が1つ、【小鬼】の角が27本、あとは刀に槍に弓……状態が悪いし、ここら辺は【小鬼】のドロップかな……?それに、【隠密子狐】の尻尾ね……」

 

 受付嬢さんが真剣に査定してくれているのを、ぼうっと眺める。正直、やることがないからな……。

 っと、査定が終わったみたいだ。

 

「これら全部で、5320リルですね」

「……高い、ですね」

 

 その金額は初期配布分を越しており、予想を遙かに上回ってる。

 

「いえ、妥当ですよ。【大鼠】、【灰狼】、【小鬼】の素材は大体一つ50リルで、それらが47。一つ一つの振れ幅を考慮して、2420リル。そこに武器全体で350リル。それに、【隠密子狐の尻尾】が1550リルですね」

「……え、最後だけ桁おかしくないですか?」

「そう思われるかもしれないですが、これが相場なんですよね。【隠密狐】系の素材は《隠形の術》や《隠蔽》、《偽装》などの有用な装備スキルのついたアイテムの素材となるので需要が高いのですが、一定以上の《隠密感知》や《心眼》スキルがないと討伐が困難になので、供給もとても少ないのです。

 おかげで全体的に値段が上がっていまして、しかも【隠密子狐の尻尾】はレアドロップなので、その分お値段も高くなっています」

「へえ……」

 

 確かに、言われてみれば納得だ。

 《隠蔽》系のスキルは誰にだって有用だからな。奇襲に使うのも強敵から逃げるために使うのもできる。

 しかも、誰にだって有用ってことは、モンスターからしても有用ということだ。それを駆使する相手では対策できるスキルがなければ苦戦もするだろう。

 しかし【隠密子狐】ってこんなに価値高かったのか……調べたことの中には素材の相場がなかったから知らなかった。

 けど、俺は【ティレシアス】のおかげで超絶楽に倒せるし、それでこんなに高く売れるんだったら……これは【隠密子狐】狩りの始まりか?

 いや、それは金に困ったときにしよう。まずは色々な場所に行ったり、色々なモンスターを倒したりしたいし。

 まあ見かけたら最優先に討伐するけど!

 

「ただ、これは売らないほうが良いかもしれません」

 

 そう言って受付嬢さんが指差したのは、今話題に上がっていた【隠密子狐の尻尾】である。

 

「え、でもこれ、一番高いんじゃ……?」

「はい。ですが、それよりもこれは自分で持っていて、装備への加工を依頼した方が良いと思います。正直、ここで売って一回だけのたかだか1000リルを得るよりも、《隠形の術》などの装備スキル持ちの装備にした方が、後々の狩りなどの収入で考えれば格段に得です」

「なるほど……」

 

 それは、確かに。

 《隠密》系のスキルの有用性はさっき確認した通りだし、それがあれば狩りも捗るだろう。

 それに。

 この素材があれば、ギルドに来る前に考えていた《認識阻害》付きの装備に加工できるかもしれない。そう考えれば、これを手放すという選択肢はない。

 

「分かりました、そうします。教えて頂いてありがとうございます」

「ギルド員をサポートするのが受付嬢の仕事なので、お礼は大丈夫ですよ……ああ、それと」

 

 カウンターの内側からリル硬貨を取り出して小袋に入れつつ、そう言ってにっこりとほほ笑む受付嬢さん。

 

「茜ならもう少しで休憩時間入りますから、その時に声を掛けてみて下さいね。あの子も貴方と話したくてうずうずしているようですしね」

「…………」

 

 投下された発言のあまりの衝撃に、小袋を受け取って顔に笑顔を張り付けたまま固まってしまう。

 な、何でバレてる……!?

 俺、ずっと目を閉じて前を向いたままで、茜ちゃんを見てたのはティレシアスでなんだけど……!?

 ……って、茜ちゃんがうずうずしてる……?

 バッと身体ごと横に振り向き(ティレシアスで見てるので実質意味ないことには後で気付いた)茜ちゃんの受け持ってるカウンターを見ると、対応の合間にチラチラとこちらを窺っていた茜ちゃんと目が合う。

 その途端、あわあわと焦りだし、慌てて対応に専念しようとする……が、それでもこちらが気になるのか、チラチラと視線を向けてくるのを止めなかった。

 

「~~~~~ッ!」

 

 そのあまりの可愛さ、いじらしさに、思わず言葉すらも失ってしまう。

 なに、なにあの可愛い生き物!?破壊力53万くらいあるんだけど!?

 

「では、そういうことなので、茜をよろしくお願いしますね?これからも仲良くしてあげて下さい。……では、次の方どうぞー」

 

 俺の動揺などに関せず、マイペースに業務を続けようとする受付嬢さんの声にハッとし、カウンターの前から、ヨロヨロと覚束ない足取りながらも身体を退かす。

 ……とりあえず、お座敷でクエスト物色しつつ、ちょっと休むか……。

 

 

□冒険者ギルド 天地本部ギルド長【超書士】大森 藍

 

 

「……ふふっ」

 

 私は受付業務をこなしながら、目の前の人にすら聞こえないくらい小さく笑みを溢した。

 ちらりと目線を動かせば、しきりに時計を確認している()と、お座敷でクエストカタログを、一見するとクールそうに、よく見るとそわそわとしながら眺めている美女が見えた。

 その光景にまた微笑が浮かぶ。

 

 一昨日、茜から「今日、凄い人と友達になったんだ!」なんて唐突に言われた時は、流石に困惑してしまった。

 詳しく聞くと、冒険者ギルドに登録しにきた女性と友達になったらしい。その女性は、“人間とは思えないほど美しく”“失礼なことをされても笑って許すくらい心が広い”なのだとか。

 それを聞いていて、「あらあら、この子も意外にミーハーなのね」みたいな微笑ましさとか「美人局的なあれじゃないかしら?」みたいな不安とか、色々考えたけど、一番は「この子も友達を欲しがってくれたんだ」という安堵だった。

 

 茜は自分から志願し、平民としては早い年齢である10歳頃から受付嬢になった。

 その理由について茜は、両親である私と鏡也さんの影響であり、私達が仕事する姿に憧れたのだと言っていた。いつかは私達を超えたいとも。

 子どもが自分たちに憧れ、同じ道を志してくれるというのは、親として誇らしいことで、普通は喜ぶべきことなのだろう。

 確かに、私達もその決意を喜びもした。しかし同時に、許容できないという気持ちの方が大きかった。

 

 茜はあの頃、まだ10歳だ。

 分別が付かないほど幼くはないが、自らで考える力を得てからそれほど経っておらず、その能力も磨き切れてはいない。

 その決意は、“両親がやっているから”というだけであり“自分がやりたいから”という気持ちが欠けているのではないのか、もう少し人生経験を積んだ上で“本当にやりたいこと”を見つけさせた方がよいのではないか、そう悩んだ。

 けれど、家族3人で何度も話し合った結果、私達二人はその決意が“自分のモノ”であると確信して、それを許可した。

 

 そうして【書士】に就いて受付嬢になった茜は、常人を遙かに上回る才能と熱意により、瞬く間にギルド職員の中で『超期待の新人』というポジションとなり、5年経った今では、まだ15歳という若年でありながら一流のギルド職員と認められいる。

 

 才能については、事務系ジョブでカンストした鏡也さんと、書士系統超級職【超書士】に就いている私の子供であるから当然とでも言える。

 しかしその熱意は、完全にあの子だからこそのモノだった。

 毎日毎日の仕事に熱心に取り組み、残業も積極的に買って出て、休みの日も一日中勉強漬けの生活。

 超級職に就けるほど他者よりも多くの研鑽をした私からしても、異常なほどだ。

 けれど、やらされているのならともかく、自分から望んでやっているのだから止めることなどできない。

 本人もその生活を充実としたものと感じ、楽しんでいるのだから問題などない……ある一点を除けば。

 

 それは、茜に同世代の友達が出来ないこと。

 茜も受付嬢になる前、寺子屋に通っていた時代(その頃から茜は頭が頭抜けて良く、私達が教えていたりもして、寺子屋で習う程度は習熟していたけど、社会勉強として通っていた)にはいたけど、休みも仕事を優先するせいで遊ぶ時間を取れない・取らない茜から、遊び盛りの友達は離れて行ってしまった。

 「正直寂しいけど、私にはこっちの方が大事だから」。それについて聞いた私への、茜からの返答であり、これは偽りのない本心だろう。

 寂しさを感じないわけではないけど、それよりも自身の仕事と夢を優先し、感情を押し止める。

 それは、一人の人間としては立派で理想的な在り方だろう。

 しかし、それをまだ十代前半の少女である娘がしていると思うと……正直、不似合いにしか感じられず、どこかで潰れてしまうのではないかと、そう心配で仕方がなかった。

 

 だから、そんな娘が、仕事中だというのに自分から友達になりにいったと、それほど友達になりたい人に会えたのだと、それを知った瞬間、心の底から安堵してしまった。

 

 もちろん、その人物が“美人局”などの目的で近づき、【魅了】などで娘を誑かしていないかどうか、“真実を書き記す”ために【超書士】に備わった《真偽判定》レベルEXや《看破》レベルEXに、長年の受付業務やギルド長としての経験から研ぎ澄まされたスキルによらない技術で徹底的に調べるつもりではあったけど……それも、〈マスター〉急激増加のせいで足りない人手を埋めるためにこなしていた受付中に相対したことで必要なくなった。

 

 彼女ならば大丈夫。

 ギルド内に入ってきて、密集している〈マスター〉に少し圧倒された後、まず茜を探し見つけた彼女は、少し名残惜しそうにそちらに意識を向けながらもこちらに向かってきた。

 彼女は両眼を瞑っているため、“口ほどに物を言う”と称される目を見れず、一見意思や感情を読み取り辛い。

 しかしその一方、それ以外の口元や表情筋、雰囲気などはむしろ読み取り易いため、ある程度相手の意思を読むことをしてきた人間ならば普通にできるだろう。私と話す時には、全身がまるで統一された機械のように制御され、各段に読み辛くなったから、もしかしたら気が抜けているとそうなるのかもしれない。

 

 そうした読み取れた、彼女の茜への感情には……悪意も下心も存在せず、ただひたすらの“親愛”や“友愛”――好意しかなかった。

 受付としての対応を終えた後、カマかけのため茜の話題を出してみると、それに対する反応は、あたかも自身の好きな人を母親に当てられた思春期の男子のような、微笑ましさを感じるモノで、そこに虚偽はなかった。

 それで、「ああ、この子は良い子なんだな」と確信した。

 だから、茜のことを頼んだ。この子なら、茜の良い友人にもなってくれるだろうから。

 休憩に入った瞬間に入り寄って行く茜と、近づいてくるのに気づいた瞬間、完璧な美女といった風に雰囲気を変えた彼女が視界の端に見え、今度は誰でも分かるほどの微笑みを私は浮かべたのだった。

 




【超書士(オーヴァー・スクリブナー)】
書士系統超級職。ほぼMPとDEXしか上昇しない。
作中で言及された《真偽判定》や《看破》の他、書類作業を効率良く行うための《高速思考》や書類を早く書き上げるための《速記》など、多数の汎用スキルレベルEXを持ち、机仕事により肉体を酷使してもその影響を受けづらい《諸業務剰》という、社畜のためのような悲しい奥義がある。
主に冒険者ギルドや武士ギルドなどの大手ギルド職員がなることが多いが、それは就職条件の一つに、大規模の組織における事務仕事が必要となるからである。


それと、読者の方に言っておかなければいけないことがあるので、活動報告の方を覗いて頂けると嬉しいです。
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