……1年かけて12話しか進んでない上に、作中時間がまだ2日目ということに、自分の筆の遅さにちょっと愕然としました。
今年は、もうちょっと早く書きたい……
□【迎撃者】水無月火篝
「そこのお店のポーションは、回復量は普通なんですけど、クールタイムが短いんですよ。あちらは逆に、クールタイムが長い分だけ回復量が増えていますね」
「お店によって色々と違いがあるんですね」
「他店と差別化するため、それぞれ、独自の【レシピ】を開発していますからね」
「あ、あそこのお店、街の人に聞いて槍を買いに行った所ですね」
「へぇ、その人、見る眼がありますね。それほど広まってないんですが、あそこの職人さん、かなりの腕前ですよ。私も覇漣さんにお聞きするまで知らなかったんですが」
「隠れた名店ってことですか……」
覇漣さんの工房を後にした俺たちは、まだ茜ちゃんの休憩時間に余裕があるということで、南区に来ていた。
美少女二人が和やかに笑いながらウィンドウショッピング。俺の塗りつぶしを消して俯瞰視点にして見れば――うんうん、なかなかに絵になる光景だ……話している内容が、戦闘用の薬品とか武器の話でなければ。
いやまあ、仕方ないっちゃそうなんだけどね?ここは現代日本じゃないし。
とか考えている時、ふと、とある店の前に人だかりが出来ていることに気付いた。
人だかりというか、大勢が列をなしてるのか?
その先にあるのは……え、まさか!?
「……あの、あれって……」
「ん?……ああ、あれですか」
指を差しただけで、茜ちゃんには何のことか分かったらしい。
その店に足を進め、普通の視界でも“それ”が見える位置まで来る。
“それ”は、レバーがついた透明な四角いケースであり、中に丸いカプセルが収められた機械。
現実においても目にしたことのあるそれは……。
「ガチャ、ですよね……」
それは、お金を入れて景品を得る、ごくありふれたモノ。
だが、まさかデンドロの中でこれを見ることになるとは思わなかった。
「これ、何ですか?」
「〈修羅の奈落〉っていう神造ダンジョンから出土したアイテムですね。……あ、神造ダンジョンって分かりますか?」
「いえ……」
「では、ダンジョンの説明からにしましょうか。
一般的にダンジョンと呼ばれているのは、正式には“自然ダンジョン”なんです。モンスターの巣だったり、洞窟や廃棄された砦にモンスターが住み着いたり、誰の手にもよらずに偶然出来上がった危険な場所を呼称している訳ですね。
一方、“神造ダンジョン”は、モンスター溢れる危険な場所であることは同じなのですが、その性質はまったく異なります。
まず、中では周期的にモンスターが
また、神造ダンジョン内部には宝箱が生成されます。その中からは、武器防具やポーション、マジックアイテム、はたまた家具や建材などが出てくることが確認されていますね」
聞いていた限りはむしろこっちが普通のダンジョンっぽい……のだが、それはあくまで普通のゲームでの感覚だ。ここまで現実的なデンドロでは、そんなゲームのように、無限にポップしたり、モンスターがダンジョンから動かなかったり、宝箱が配置されたりしている方がおかしいのだろう。
名前からして
「そして、それらの宝箱の中から入手できるアイテムには他では手に入らないものも多くあって、その一つがあのガチャです」
あ、やっぱりガチャなんだ……。
「あのガチャは、リルを投入すると投入額の数十倍から数十分の一の価値のアイテムを手に入れられます。……ああ、ちなみにあのガチャはリルをコストとして捧げることでアイテムをどこかから召喚するシステムらしく、解体しても中は空っぽだったらしいですよ」
……つまり、リルを入れずにアイテムを手に入れようとした強欲者がいたってことか。
「そのシステム上、投入されたリルも回収することが出来ないので、直接の利益にはならないのですが……集客効果を狙って店頭に置かれることも多いようですね。商品を買うごとに一回分回せる、みたいな決まりを作って」
とすると、あの行列はガチャ待ちなのか。
視点を変えて行列の先頭を見てみると、肩を落として落胆したり、叫び声を上げて喜んだり、出てきたアイテムに一喜一憂する姿があった。
……楽しそうだな。
「……一回やっていきますか?」
「え?」
「いや、あの、すごくやりたそうだったので……」
……茜ちゃんに言われるほど、やりたそうな顔してたのか、俺。
まあ、興味あるのはそうだし……。
「じゃあ、寄っていってもいいですか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
ガチャを置いているのは、桐生雑貨店という、鍋やら皿やらの名前通りの雑貨から、甲冑に刀などの武器防具、ポーションなどの回復アイテム、特殊効果を持ったアクセサリー、見事な花が植えられた植木鉢に机やタンスなどの家具まで、様々な物が置かれている、混沌とした店だった。
……いや、こんな世界だから雑貨屋で武器防具、ポーション、アクセサリーまでなら置いていてもまだ分かるが、植木鉢と家具はなんなの?むしろ何でも屋では?
しかも、それぞれが妙に質が良いせいで、混沌感がマシマシになってしまっていた。
桐生雑貨店では、ガチャ1回分回すためにチケットを買う必要があるらしい。
チケットは一枚50リルであり、5枚まとめ買いだと200リル。そして、チケットを5枚買うごとに店の商品を買わなければいけない。
チケットで儲けるだけではなく、ちゃんと店の商品も捌けるようになっている、上手いシステムである。
「……けど、何でこんな雰囲気なんでしょうか?」
お試しであるため、チケットを1枚だけ買ったのだが、俺以外にチケットを買っていく人は皆、5枚まとめ買いを複数である。
確かに、ガチャというのは楽しいものであり、ハマると抜け出せなくなるものだが……なんか、純粋に楽しくガチャをしているのは少数で、そのほとんどはこれから戦にでも出向くのか?と言いたくなるような殺伐とした気配である。
「ああ……それは、この店の店長のせいですね。いえ、店長の幸運のせい、ですかね?」
「……?それはどういう……」
「先程、ガチャの仕様を簡潔に説明しましたが、詳しく言うと、リルを最低100、最高10万投入して回し、出たレアリティによって投入された金額の何倍の価値になるかが決まります。最低のFランクで入れた金額の1/100倍、中間のCランクで1倍――等価値で、最高のSランクでは100倍以上の価値ですね。
このガチャが設置された際、記念として店長が最高額の10万リルで回したのですが……」
「……なんか、オチが読めました」
「ええ、恐らく予想通りです。……Sランクが出てしまって」
「やっぱり……」
「しかも、出てきたアイテムが、数代前の【
「……鬼気迫る様子で10万リル投入してガチャを回している人に、高レベルの武芸者やら羽振りの良さそうな商人が多いのは……」
「武芸者は装備として、商人は売り物として、そのレベルの武具が欲しくてやって来ていますね。中には、高レベルの狩場でリルを工面して、ここに通う人もいます」
……そりゃ、俺の想像しているガチャ風景と雰囲気が違って、殺伐としている訳だ。
何せ、今ガチャを回している人たちにとって、これは趣味や娯楽ではなく、自身の成功や生活がかかっているわけだからな。
「……私はどれくらい入れましょうかね?」
今の所持金は1740リル。
流石に全額近く入れる気はないが、100リル程度しか入れないのも味気ないし……1000リルくらいにしておくか。
前の人がランクC、E、Dという振るわない結果に意気消沈して去っていき、ようやく俺の番が回って来た。
事前に決めていた通り1000リルを投入。
「何が出るかな~、Sランクとか来ないかな~。それはないにしても、C以上は来て欲しいな~」くらいの緩い気持ちで回し――出てきたカプセルに困惑した。
「何でしょうか、これ……?」
カプセルの表面には、Aの文字。
上から2番目のランクであり、喜ぶべきなのだが……そのカプセルは、他の人が出していたものと、まったく違う様相だった。
カプセルの色は真っ黒、Aの文字は溶けたような書体……明らかに垂れる血を連想させるようになっている。
さらには、カプセルの表面に血管のような赤い筋が幾つも浮かび、「厳重な注意の上、お子様のいない場所でご開封ください」とまで書かれていた。
「お、嬢ちゃんはガチャ初心者か?それは呪いのカプセルだぜ」
俺が困惑しているのを見てとったのか、後ろに並んでいたおじさんが声をかけてくる。
って、呪い?
え、当てたら不幸が降りかかるとか?
「つっても、別にカプセル自体に呪い――呪怨系状態異常がかかってる訳じゃないぜ。そのカプセルの中身に、呪いがかかったアイテムが入ってる。そういったモノのほとんどは装備者だけに影響があるんだが、中には周囲に呪いをまき散らす奴なんかもあってな……その対策でその注意書きがされてるわけだ」
「なるほど」
いや、そんな危険物まで入れるなよ……と思ったが、ガチャのワクワク感を出すには、こんなものも必要なのかもな。
それを初回で当てるのは、運が良いのか、悪いのか……。
「しっかし、惜しかったな……見てたけど、投入したのって1000リルだけだろ?せっかくのAランクだったのに」
ああ、そっか。
入れた金額に応じて価値変わるから、Aランクでも手放しで喜べないのか。
まあ、俺としては単なるお試しだったし、Aランクだっただけで十分に嬉しい。……呪いのアイテムだったのはちょっとあれだが。
「説明ありがとうございます。貴方もよい結果になるといいですね」
「おうよ!こんなべっぴんさんに応援されたんだから、気合入れて引くぜ!」
会釈をして、漢くさい笑みを浮べるおじさんに順番を譲る。
けど、並んでいたり何だりで、思いのほか時間がかかってしまった。
「茜ちゃん、時間は大丈夫ですか?」
「……もうそろそろ、厳しいですかね」
「じゃあ、ここでお別れしましょうか。今日は、付き合ってくれてありがとうございました」
「い、いえ、そんな……別に、お礼を言われることじゃ……」
「私が、お礼を言いたいんです。……受け取ってくれませんか?」
茜ちゃんが紹介してくれたおかげで、少し謎は残ったけど、高性能なアクセサリーを手に入れられることになった。
それに……何より、楽しかった。
友達と、和気あいあいと街を見て回るなんて、本当に久しぶりだったから。
「……そんな言い方は、ずるいです……」
「ふふ、けど、それだけ感謝してるってことです」
赤く頬を染めて恥ずかしがる茜ちゃんにほっこりしながら、それでも感謝してると伝えることは忘れない。
「わ、分かりました、受け取ります!……でも、私もすごく楽しかったので……えっと、その、あ、ありがとうございましたっ!」
「……っ!……なんか変な感じですね。……でも、嬉しいです」
まさか感謝し返されるとは思ってなかったから一瞬虚を突かれたけど、すぐに沸き上がってきた気持ちが、言葉になって零れる。
……なんというかいま、俺、めっちゃ青春してない?友達出来るだけで、これだけ変わるんだな……。
「……っ、で、では、私はこれで!お元気で!」
「は、はい。茜ちゃんも、気を付けて」
顔を抑えながら店を走り去っていく茜ちゃん。
指の隙間から見える顔は、真っ赤。どうやら恥ずかしくなったらしい。……実を言うと、俺も結構恥ずかしかった。
「……まず、このカプセルの中身を確認しましょうか」
何かあった時のため、人がいない場所の方がいいよな。フィールドにでも行くか。
目的地をフィールドに決めた俺は、「ぬわーっ!10連続Fランクーッ!!」という声を背に、桐生雑貨店を後にした。
□〈緑花草原〉
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
初日に来た時と同じ草原に来た俺は、周囲に他の人やモンスターがいないことをティレシアスで十分に確認し、カプセルを開ける。
中から出てきたのは、昏い輝きを宿した、拳大の氷。しかし、ゾッとするような冷気を纏えど溶ける様子はない。
【闇怨の砥氷】
悪逆の錬金術師によって生み出された氷塊。
強者へ届かなかった敗者の怨念が闇の魔力と共に練りこまれており、氷片が塗布されし凶器はいかなる守護も無に帰す。
しかしその代償として、与えた傷は敵の怨嗟を糧に報復に舞い戻る。
・装備スキル
《闇怨の呪飾》
・呪い
【反傷】
《闇怨の呪飾》:
【闇怨の砥氷】で磨いた箇所に『防御力・防御スキル無視』の効果を与える。
塗布された氷片がなくなった時、効果が消える。
【反傷】:
呪怨系状態異常。
他者に与えたのと同値のダメージを、自身のランダムな部位に与える。
……スキルはめっちゃ有用なのに、材料と代償が怖すぎる。
特に代償の方、【反傷】がヤバい。
《闇怨の呪飾》は相手の防御関係なくダメージを与えられるスキルだが、そうして与えたダメージは、【反傷】で全て自分へ返ってくる。
しかも、ダメージを受ける部位はランダム。
最悪、相手の腕に付けた小さな切り傷が、自分の脳や脊髄に返ってきて、即死する可能性もある。
それを考えると、迂闊に試しも出来やしない。
「……まあ、いつか使い時は来るかもしれませんし、処分はしないでおきましょう」
それこそ、俺が手も足も出ないような奴と戦う時――とかな。
――んじゃ、せっかくフィールドまで来たんだ。レベル上げと金集め、やっておきますか!