偽盲目少女の修羅国生活   作:リーシェン

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2,3カ月前からデンドロを読みだして、読み終えたら二次創作が無性に書きたくなったので書きました。wikiに考えた〈エンブリオ〉とか〈ジョブ〉とかも上げているので、もし見たことあるものが作中に出てきたとしても、考案者なので問題はないです。


第1章 将都編・前
0・発売日


□2043年7月15日 飯沼(いいぬま)葉月(はづき)

 

「なあなあ葉月、お前、〈Infinite Dendrogram〉って知ってるか?」

「なんだよいきなり。何の話だ?」

 

 そう俺の部屋に入ってくるなり話しかけてきたのは、それなりにイケメンな顔に明るい茶髪、筋肉が付き日焼けした肌をしている、いかにもチャラ男といった風貌の青年だった。

 こいつの名前は石鏡(いじか)(たける)。俺の幼馴染であり腐れ縁であり、一応親友と呼べる間柄にある男だ。

 対して俺は、人と目を合わせるのが億劫なので目元を隠すように伸ばした黒髪に、外で運動しないが故の白い肌をしている、いかにもな陰キャである。

 こんな一見正反対の俺たちだが、マンションの隣同士で小さい頃から遊んでいれば仲も良くなる。家の近くに同じ年代の子供がほぼいなかったのも影響しているだろう。

 しかし、俺たちを繋ぎ止めているのはそれだけではない。

 

「知らねえのか?今ネットでそれなりに話題の新作VRゲームだぞ?」

 

 そう、こんなマジモンの陽キャといった容姿をしている割に、こいつは大のゲーム好きなのだ。俺は本や漫画も好きだが、ゲームも好きである。その共通の趣味があるからこそ、俺たちは高校生になってもずっとつるんでいるのだ。

 

「あいにく、この二日は買いためたラノベ読んでたからネットサーフィンは全くしてないんでね」

「そっか。うんじゃ、とりあえずこれを見ろ」

 

 そう言って健が全画面モードにしたスマホを差し出してきた。

 これは、何かの記者会見……風のネット配信か。

 なんだか分からないが、とりあえずは見てみよう。

 

□□□

 

「……おい、健。これ……本当に配信されていたのか?おふざけではなく?」

「おう、もちろん。ネットだけじゃなく、キー局でも放送されてた」

「……マジか」

 

 自分からしてもあまりにもあんまりな反応だが、今見た動画はそういう反応しかできないものだった。

 今の動画は端的に表せば、さきほど健が言っていた新作VRゲーム〈Infinite Dendrogram〉の発売発表の動画だ。

 それ自体は珍しい物ではない。2043年現在、ゲームの製作や発売の発表をネットで行うのは普通だ。VRゲームというジャンルのゲームも、多いとは言えないがある程度の数はある。

 問題は、その内容だ。

 動画内で発表されたのは、〈Infinite Dendrogram〉の売りとなる四つの要素。

 一つ、五感を完璧に再現し、完全なリアリティを保障する。

 二つ、仮に億人単位でも全プレイヤーが単一サーバーでプレイ可能。

 三つ、現実視、3DCG、2Dアニメーションの中から個別にグラフィックスを選択可能。

 四つ、ゲーム内では現実の三倍時間が進む。

 

 正直、夢物語の域だ。

 新世紀になってから、もうそろそろ半世紀。人類の文明は着実に前に進んでいて、過去には不可能と言われていた事柄を少しずつ現実のものとしているが……それでも、未だ実現しえない事柄も多数ある。

 その目に見える筆頭が、VRゲームだ。

 2030年代頃から少しずつ世に出てきたこれらは、人々の夢を叶えるかと期待されたが……それは無理だった。

 リアリティに乏しく、五感が常に違和感を覚えるほどであり、グラフィックスも従来とほぼ変わらないCG。プレイするには現実の環境に左右されて世界に没頭することも出来ず、極めつけにプレイした者をほぼ漏れなく病院送りにするような健康被害を多発させた。

 現在それらは少しずつ改善されてきているものの、それでも解決には至っていない。

 その状況で、これらは少々――いや、到底信じられるものではない。

 

「な?ネットが大騒ぎになるのも分かるだろ?」

「ああ。これは荒れるだろうな」

 

 枕元でコンセントに差しっぱなしだったスマホを手に取り、〈Infinite Dendrogram〉の評判を検索する。

 案の定、そこに写っていたのは「誇大広告にしてもいい加減過ぎだろww」「嘘付くならもっとマシな嘘を付けよな」「大体、このメーカー聞いたこともないんだけど。無名でこんな事言われてもねぇ……」という否定的なコメントの嵐だった。

 

「ま、そうだろうな」

 

 俺としても彼らと同意見だ。

 あんなこと言われても、信じられる訳がない。

 

「……けど、それなりに信じる奴もいるのか」

 

 前述したようなコメントの合間合間に「でも、もし本当だったらどうよ?」「ちょっと俺、これ買ってみようかな」「俺は信じるぞ!」みたいなコメントが垣間見える。濁流に飲まれる木の葉程度の比率だが。

 まあ、俺には関係ないな。こんな当たる確率が極小の博打に出る蛮勇も勝負心もない。というか、こんなの買ってみようと思うのは馬鹿だけ……

 

「という訳で葉月、これ一緒にやらね?」

「……馬鹿がここに居た」

「うっわ、ひでぇ」

 

 そんなこと言いながらも、健の笑みは崩れない。

 ヤバい。こいつのこの表情は悪巧みしている顔だ。この顔をしたこいつに今まで何度振り回されてきたことか。

 

「俺は絶対にやらないからな」

 

 こういうのは先手必勝。健が何か言う前にきっぱりと断っておく。

 

「いいじゃねえか、やろうぜデンドロ。絶対面白いと思うぞ?」

「嫌だよ。そんな超大穴の博打やろうとするのは馬鹿だけだ」

「けど、お前も知っているだろ?俺のゲームに関する直感が、外れたことないってことは」

「うっ、それはそうだけど……」

 

 そうなのだ。こいつのゲームに対する直感は超能力かと思えるほど鋭い。

 こいつが面白そうと言ったゲームは悉く面白く、逆に面白くなさそうと言ったゲームの悉くがつまらない。

 それは俺が知るかぎり百発百中で、俺の趣味である数十年前の中古のゲームソフトを買いに行く時は必ず付いてきて貰っている。情報も何もないゲームであろうと、こいつの直感に従っていればはずれはないので、選ぶのがとても楽なのだ。

 まあ、パッケージを見ながら自力で選んだり、健が絶対に面白くないとクソゲー予想されたものを買って、プレイし終わった後に「やっぱりクソゲーだった……」とゲンナリするのも楽しいものなのだが。

 

「いいのか?俺が絶対に面白そうだと思うゲーム……やらなかったら損だろ?」

「うぐぐ、だ、だけど、お前やネットの評判見てからでも買えるだろ!そっちの方が安全だし、俺が今日からやる必要はない!」

「いや、もしかしたら明日には大人気になり過ぎて、全部完売するかもよ?」

「お前がそこまで言うほどなのか……!?」

 

 そんなことあり得ない……と断じたいのだが、そうとも言いきれない。

 こいつがそこまで言うのであれば、これはものすごく面白いのだろう。それこそ、噂が広まれば即完売するほどに。

 

「……分かったよ。一緒にやってやる」

 

 こいつにここまで言われたら、もうやるしかないだろう。

 それに、〈Infinite Dendrogram〉はハード・ソフト合わせて1万円という、もはや暴挙としか言いようがない値段設定だ。

 もし万が一、ここにきて健の直感が外れたとしても、お金を貯めて計画的に使っている俺ならその程度は大丈夫だ。

 まあ、最悪の場合は俺も健も病院送りになるのだから、お金の問題など些細だろうけど。

 

「うんじゃ買いに行くか」

「いや、もう買ってある」

「は?」

 

 健は部屋に来た時から持ってきていた紙袋を手に取ると、ガサゴソと中から何かを取り出す。

 そこから現れたのは、箱のようなものが二つ。上部には〈Infinite Dendrogram〉の文字が。

 

「葉月なら一緒にやってくれるってわかってたからな。先にお前の分も買ってきといたぞ」

「…………」

 

 なんか掌の上で踊らされた感がする。

 

「それじゃ、まず俺がプレイするわ。健康被害がないかもわからないし。どんなに遅くても30分後までには戻ってきて感想言うわ。もし起きなかったりおかしな素振りしていたら救助と病院への電話よろしくー」

「お、おう」

 

 実験台にするようで少し気分が悪いが、まあ、誘ってきたのは健の方だし、それぐらいはして貰おう。

 

「うんじゃ行ってくる」

 

 箱から取り出したヘッドギア型のハードを取り付けた健は、ベッドに寝るとすぐに起動させ、体を弛緩させた。

 

「いや、そこ俺のベッド……まあいいか」

 

 とりあえず、30分間は暇な訳だが……さっき検索した時に見つけた〈Infinite Dendrogram〉のホームページでも見て時間潰すか。

 

 

□□□

 

 

 ホームページの膨大な背景設定を読み込んでいると、弛緩していた健の身体に力が入り、ヘッドセットを外して起き上がる。

 というか、設定がほんとに膨大過ぎる。平均よりもだいぶ速読な俺が30分読んでも、まだ半分しか行ってない。それだけ作りこまれているということなのだが、こんなに多いと多分普通の人は全部読まないぞ。

 

「んで、どうだった?」

 

 それはそれとして、戻ってきた健に感想を聞く。

 傍から見た限りはおかしな様子はなかったけど、もしかしたらプレイした人にしか分からない形で被害が出てるかもしれないし。

 

「葉月、マジで凄いぞこれ!予想よりも数段階上だった!」

「おいおい、そんな興奮するなよ。体調とかはどうだ?」

「まったく問題なし。頭も痛くないし、体にもおかしな感じはしない」

「そうか」

 

 健康被害が出てないというだけで、このVRゲームは超大当たりと言えるだろう。今までのがひどかったからな。

 

「とりあえずお前もやってみろよ。そうすりゃ俺の言っていることが分かるから」

「ああ、分かった」

 

 箱からハードを取り出し付属の説明書を読むが、ホームページに書いてあったこと以上のことは書いていなかったので放り出し、ハードを頭に被る。

 

「じゃあ始めるぞ」

「せいぜい驚きすぎて腰を抜かさないようにな。俺ももう一度入るから、3時間後には戻ってこいよ」

「了解」

 

 ベッドに寝転がってスイッチを入れる。

 その瞬間、視界が暗転した。

 

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